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仕切取引制度における会計責任と原価差異について - やりすぎるな、ほどほどに!

業績管理会計(入門)
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■ どうして仕切取引制度が必要とされるのか?

なぜ、企業グループは社内またはグループ内に仕切取引を発生させるのか? それは、会計責任と業務責任を明確にし、それぞれの責任者に目標を与え、モチベーション管理(動機づけ)の道具としたり、企業業績向上のための施策を考える基礎情報とするためです。

至極簡潔に「仕切取引制度」を説明すると、

モノ・サービスの取引を行う際、「仕切価格」という取引価格を先に取り決めて置き、取引量や取引のタイミングをコントロールすることで、自組織の業績向上のために、ビジネスボリュームと取引金額と契約・生産・出荷などのタイミングを調整する仕組みをいいます。

例:
長野工場で生産する製品Aを東日本営業部へ1個当たり、100円で卸します。
この時、100円が工場から営業部門への仕切価格となります。
100円×10個=1,000円が、長野工場における仕切売上高となり、同時に、東日本営業部における仕切仕入高となります。

長野工場では、製品Aの製造原価が100円未満でないと、工場としての採算が赤字になってしまいますので、100円がコスト目標もしくは採算目標として設定することができます。一方で、東日本営業部では、100円以上の売単価で最終顧客に販売しないと、営業部として製品Aの取引は赤字になってしまいます。このように、仕切取引は、その両端で、仕入(製造)原価をどうすると下げることができるか、販売金額をどうすれば高くすることができるか、仕切価格が持つ価格シグナル効果により、取引主体に対し、制度設計者(企業経営者)が望むように業績向上のための行動を関係者に促すことが期待されて、制度設計がなされるのです。

 

■ 仕切取引の両端組織は必ずプロフィットセンターでなければならないのか?

プロフィットセンターとは、「利益」に責任を持つ組織のことをいいます。コストセンターとは、「コスト」に責任を持つ組織のことをいいます。

業績管理会計(入門編)_会計責任と財務諸表

⇒「業績管理会計の基礎(4)マネジメント・コントロール・システムのための責任会計制度とは?

基本的に、仕切取引は、売った・買ったという売買取引を前提とする取引になります。会社を跨いで仕切取引が実際に行われれば、本物の商取引として、契約法の範疇の取引となります。ここで取り上げる仕切取引制度は、それを同一企業内または企業グループ内で、セグメント組織単位の会計責任を明確にする目的、それぞれの組織業績向上の努力を促す目的で、実際の商取引に擬して、商取引をバーチャルで設定するものの説明を中心とします。

業績管理会計(入門編)仕切取引とプロフィットセンターの関係

例えば、長野工場も東日本営業部も、とある製造業の中になる一組織にすぎません。その組織間で商取引に擬した売買関係を当てはめることで、工場も営業部も、それぞれが自組織の損得を考えて、製品Aを作り始めるし、製品Aの採算を考えて販売単価と数量を管理しようとするだろうという推測(期待)の下に仕切取引を設定します。それゆえ、通常は、工場も営業部も、製品Aの仕切取引をはさんで、売った・買ったを考えるので、それぞれが損得を考える組織、すなわち「プロフィットセンター」扱いすることが容易になる、というわけです。

「長野工場も利益を10円出しなさい」
「東日本営業部も利益を40円出しなさい」

と指示し、いずれも目標利益をだすように、生産活動を頑張り、営業活動を頑張れは、全社として営業利益が50円出る。そういうシナリオなのです。

しかし、ここで製品Aの長野工場から東日本営業部への仕切価格の設定が、長野工場における製品Aの標準原価だとしたらどうでしょうか?

 

■ 仕切価格が標準原価ならば、上流組織の会計責任はコストセンターでも構わない!?

ここで、標準原価とは、企業がその製品を生産するのにいくらのコストがかかるのか、統計的・客観的な分析により予め知り得るコストのことをいいます。製造部門が生産活動を行う上で、上限目標とするコストとなるので、現場によっては「目標原価」と呼ばれることもあります。厳密な説明は、下記関連記事をご参照ください。読みやすい順に並べておきます。

⇒「原価計算 超入門(2)実際原価と標準原価
⇒「原価計算基準(11)原価の諸概念② 標準原価と原価標準の違いを本当に分かっていますか?
⇒「原価計算基準(12)原価の諸概念③ 標準原価の一番簡単な求め方
⇒「原価計算基準(13)原価の諸概念④ タイトネス別に区分される4種類の標準原価の使い分け方法とは
⇒「原価計算基準(14)原価の諸概念⑤ 標準原価を使ってどうやって管理会計するんですか?

長野工場の製品Aの標準原価(目標原価)は、90円だと仮定します。この場合、企業経営者の視点からは、長野工場への2つの見方をすることができます。

(1)相変わらず、長野工場は、仕切価格90円としたプロフィットセンターとして活動すべき
(2)仕切価格が標準原価ベースになったので、長野工場はコストセンターとして活動してほしい

コストセンターの会計責任は、所期のコスト予算あるいは目標を厳守しつつ、活動目標を達成することです。この場合は、納期と品質を守って製品Aを東日本営業部に出荷することを意味します。

皆さんの感覚では、仕切価格が100円の場合と、仕切価格=標準原価:90円の場合と、長野工場のプロフィットセンターかコストセンターかの取り扱いの違いを区別す津ために、リーズナブルに見極めのための拠って立つ確固たる根拠に思い当たる節はありますか?

 

■ 仕切価格が標準原価ならば、上流組織の会計責任はコストセンターでも構わない!?

筆者は、一義的には気分の問題だと考えています。コストセンターとして@90円の標準原価(原価標準)を守りなさい、と指示されるのと、@10円の利益単価を生み出しなさい、と指示されるのは、やるべき原価低減(コストダウン)または原価維持の目標は同じだからです。

しかし、気分の問題で、人という生き物は、「コスト削減を10円やりなさい」と言われるのと、「利益創出を10円やりなさい」と言われるのでは、やる気が変わるかもしれません。そういうムード作りとか、動機づけ、モチベーション管理の視点から、金額は同じでも、みーんなプロフィットセンターとして利益評価する! というやり方で通っている会社も多々あります。

「朝三暮四」と揶揄しないように!(^^;)

ただし、原価発生責任を詳細に見ていくと、事情は変わるかもしれません。

業績管理会計(入門編)標準原価を使ったコストセンター

責任会計制度は、ギリギリと本人の会計責任がいくらと客観的な金額で表示され、厳しく目標管理が行われます。標準原価(原価標準)を設定した場合は、原価差異(原価差額)がはじき出されます。教科書的な定義では、単価差異・数量差異は生産現場の管理責任、操業度差異(広義の数量差異)は営業現場の管理責任と割り切る傾向があります。

それゆえ、仕切価格制度に基づく、仕切価格に標準原価を採用した場合、または標準原価を前提とした工場粗利を目標とした場合、その標準原価が未達だった場合、すなわち、不利差異が発生した場合、原価要素別に一体だれの責任だったか、という責任のなすりつけ合いが起きがちです。

筆者の見解としては、

(1)単価差異だって、営業部隊が大量受注を持ち込んでくれば、ボリュームディスカウントによる部材の大量発注により、仕入単価を下げることができる
(2)逆に営業の納期設定が乱れていれば、無理な短納期の仕入を実現するため、購入単価を上げざるを得ないケースもある
(3)生産ロット(バッチ)が大きすぎて、段取り替えに長いリードタイムを要し、営業が機敏にセールスミックを組み合わせた最適な受注を得ることができず、結果として生産依頼数量が下方修正されるかもしれない

などなど。

なんだって、現場の事情を詳しく掘っていけば、教科書的な定義を無視して、誰の何時の責任かをその場その場で明らかにすることも技術的にも理屈的にも可能ではあります。

しかしながら、そんな重箱の隅をつつくような会計責任、原価差異責任を追及したところで、次のビジネス機会における“カイゼン”につながる保証はあるのでしょうか?

値付けは経営(by稲盛和夫)

仕切価格設定も、その取引価格でお互いの会計責任を明々白々にする仕掛けのひとつです。仕切価格を是として、目標達成のため、額に汗し、結果は虚心坦懐に是々非々で要因分析を行う。さすれば、仕切取引の両端がプロフィットセンターかコストセンターか、原価差異の責任はどの部署にあるのか? 社内の揉め事の半分はなくせると思うのですが如何でしょうか?

業績管理会計(入門編)仕切取引制度における会計責任と原価差異について - やりすぎるな、ほどほどに!

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