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原価計算基準(14)原価の諸概念⑤ 標準原価を使ってどうやって管理会計するんですか?

原価計算(入門)
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■ 標準原価は厳格性と使用目的から4種類に区分されます

原価計算基準にて様々な原価概念を3つの対立軸でまとめたのが、今回からご紹介する「基準四 原価の諸概念」です。基準四では、

① 製品原価に使う消費量と価格の算定基準
実際原価 と 標準原価

② 財務諸表上の収益との対応関係
製品原価 と 期間原価

③ 集計される原価の範囲の違い
全部原価 と 部分原価

の3軸、6種類の原価概念を順に説明しています。前回は4種類ある標準原価の使い分けについて説明しました。今回は補論として、そういう標準原価を用いる管理会計を少し具体的に見ていきたいと思います。

では詳細な説明に入る前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の一般的基準の構成

前回のおさらいですが、原価計算基準では、「標準原価」(もしくは「原価標準」)について、

① 能率
② 操業度
③ 価格
④ 使用目的

の観点から4種類の標準原価を定義していました。それを下記に再掲します。

原価計算(入門編)4つの標準原価

 

■ 標準改訂の頻度から標準原価を再定義してみる

標準原価(原価標準)は、科学的・統計的に、価格、操業度、能率を測定して、現実的に達成可能な目標として定め、目標と実績の差分を管理することで、コストコントロールやコストダウンを実践し、儲かる経営に役立てます。これは、原価管理や予算編成に標準原価を用いることで、管理会計を実践することと同義であります。

その標準を測定して、目標値として生産管理や原価管理に使用する期間の長短から、標準原価を次のように分類・定義することもできます。

(1)基準標準原価
製品の変更、経営構造の変化がない限り、改訂されずに中長期にわたり維持される標準原価のことを意味します。この種の標準原価(原価標準)は、市場価格の変動に左右されずに、長期にわたって固定価格として維持し続けることにあります。その時々の生産能率、原価状況をできるだけ客観的に定点観測するために、簡単には変えないところに標準としての存在価値を見出すものです。原価計算基準にしたがうと、「理想標準原価」がそれに当たります。

(2)当座標準原価
原則として、利益計画や予算編成は1年という会計年度を区切りに行われます。この1年というのが、市場の需給、生産の構え等から、固定費と変動費の発生形態を便宜的に固定して期間計画を立案する時間軸として一般的に採用されています。いわゆる1年間(年度)を前提とした、「短期」において、次年度において達成可能な目標として設定される標準原価のことを意味します。原価計算基準にしたがうと、「現実的標準原価」がそれに当たります。

「基準標準原価」は、目標原価管理制度の一環として、たやすく変えない理想的な目標として、その時々に設定する標準の達成具合を第三者的な目線で相対評価するための基準点としての役割を持ちます。そういう意味で、原価管理のツールとして、管理会計では扱います。

「当座標準原価」は1年という予算編成期間としっくりくるので、単年度利益計画の立案、すなわち予算編成の基礎として、管理会計では扱います。

 

■ 目標管理とは、事前管理と事後管理の使い分けから始まる

管理会計は、①業績評価、②動機付け(モチベーション管理)、③社内コミュニケーションの円滑化、④値付けなどの経営的意思決定などに用いられます。①~③は業績管理会計、④は意思決定会計という分類もなされることがあります。標準原価は、達成すべき能率や原価を示すものなので、目標管理制度の一環として、活用されます。

原価計算(入門編)事前・事後管理プロセス

つまり、事前に目標を立て、事後にその目標達成度を評価し、次のアクションプラン策定に役立てる、いわゆるPDCAサイクルを動かす元として、標準原価は設定されるのです。その意味で、原価管理は差異管理ということもできるのです。

原価計算(入門編)原価計算基準における原価管理手続き

標準原価は、原価目標としての特徴を有しており、事前に生産活動にまつわる各種作業の「あるべき能率水準」を提示することに意味があります。そして、事後には、その達成度を評価し、過去実績の良否の原因を探り、次年度に向けて、次の目標として新たな標準を設定し、次の標準原価計算期間(≒予算年度)のために、原価改訂されることを前提にしています。この意味では、「当座標準原価(現実的標準原価)」を用いるのが最適ということになります。

原価計算(入門編)原価標準の設定の意味

とてもシンプルに解説すると、単年度の中で、目標と実績を比較するのが「事前管理」。
歴年の実績または原価差異(目標と実際の差額)を比較するのが「事後管理」。
まったくもって、管理会計とは比較なり。

(参考)
⇒「業績管理会計の基礎(1)業績管理会計のポジショニングと「分類」と「比較」の重要性
⇒「管理会計的思考 それは『比較』

 

■ どうして、標準原価の設定に操業度が絡んでくるのか?

ここで、標準原価(原価標準)設定のための計算要素の関係図を再掲します。

原価計算(入門編)標準原価の求め方

原価管理とは、畢竟、製品原価管理です。製品単位当たりの原価をコントロールして、コスト低減や儲けにつながるような値付けなどを行うものです。

標準原価  = (標準価格 × 標準消費量) × 実際生産量
標準原価  = 製品単位当たりの標準原価  × 実際生産量
標準原価  = 原価標準             × 実際生産量

上記の労務費だけを取り出した標準原価の計算方法を説明図では、標準価格と標準時間が標準原価を用いた原価管理の直接的な対象となります。なぜに、操業度まで遡って、標準原価の管理対象とするのか。逆に言うと、操業度がなぜに標準原価の計算要素となっているのか?

原価管理の最大のポイントは物量管理です。能率の尺度を示すことで、仕損・減損の程度が許容範囲を逸脱していないかをチェックするものです。すなわち、経営資源を100単位投入して、10単位の製品を産出するのが標準ならば、200単位投入して、18単位しか製品を生み出せなければ、2単位分、能率が悪かった。これが標準原価を用いた原価管理の神髄のはずなのです。

しかし、「標準価格」を計算するための前提条件の一つである「操業度」までが管理範囲に含まれています。生産現場では、「予定操業度」と「実際操業度」の差は、現場担当者ではどうしようもない管理不能な原価差異です。いわゆる「操業度差異」というやつです。これが、一般的に、標準原価制度に基づく原価管理の理解を難しくし、実務でも管理不能な原価差異情報を提供してしまうので、標準原価を用いた原価管理が忌避される原因にもつながっています。

筆者は極めて実務的な使える管理会計を目指している一人です。それゆえ、上記の操業度差異は無視して、予定操業度のまま、原価管理や予算編成をすることをお勧めしています。予定操業度をあらかじめ、どれくらいと設定しておかないと、生産能力の測定、需給調整から導かれた固定費の製品単位当たりの負担額が不明になり、そのことは、短期利益計画(予算編成)を実施不能にするからです。

しかるべき能率で、需給計画から導かれた生産量を前提にした製品単位当たりの固定費を1点に決めないと、損益予算は作りようがないのです。逆に言うと、どんなに頑張って力んで、各職場の操業度(各職場での活動予定時間)をかき集めて集計してみても、それが常に正確である保証はないからです。そこそこの時間集計をしたら、後は、事後管理に任す。それぐらいの適当さと柔軟性が無いと、標準原価を用いた管理会計は、実用的にはならないと思いますがいかがでしょうか?(^^;)

⇒「原価計算 超入門(2)実際原価と標準原価
⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算基準(10)原価の諸概念① 実際原価とは
⇒「原価計算基準(11)原価の諸概念② 標準原価と原価標準の違いを本当に分かっていますか?
⇒「原価計算基準(12)原価の諸概念③ 標準原価の一番簡単な求め方
⇒「原価計算基準(13)原価の諸概念④ タイトネス別に区分される4種類の標準原価の使い分け方法とは
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)

原価計算(入門編)原価計算基準(14)原価の諸概念⑤ 標準原価を使ってどうやって管理会計するのですか?

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