本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

文系にも分かる! インダストリー4.0、インダストリアル・インターネット、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブの違い(1)

経営管理会計トピック テクノロジー
この記事は約11分で読めます。

■ 「IoT」に対する日米独における三者三様の取り組みの違い

経営管理会計トピック

「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)」、すべてがネットの世界でつながる世界を作り、産業のあり方を変えようとする動きが、ドイツ、米国、日本、いわゆる先進工業国の代表国(TOP3というと怒られます?)それぞれで、盛んになっています。最近では、ウェアラブル端末を人間にも装着し、「ヒト」のバイタルデータまで、クラウド環境にため込み、ヒトの生産性までITパワーでどうにか向上させようとしています。もう、「Things」には、「Humans」が含まれているとお考えください。

こうした、あらゆる産業機器にセンサーを取り付け、その稼働状況・使用状況をビックデータとして扱い、飛躍的な生産性向上に活かそうとする動きは、3か国で次のように呼称されています。

ドイツ:インダストリー4.0(Industry 4.0)
米国:インダストリアル・インターネット(Industrial Internet)
日本:インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI:Industrial Valuechain Initiative)

それぞれ、コンセプトだったり、活動だったり、後から出てくるコンソーシアムを意味する言葉だったりするので、厳密には対比語としては正確ではないのですが、一番通っている言葉としてこの3つを並べました。

「文系にも分かる」という標題は、
① 筆者自身がバリバリの文系人間である
② テクノロジーをビジネス視点から分析する
③ IoTを推進しようとする企業の競争戦略に着目する
という含意からです。

ではいつもの通り、日経新聞、日経新聞電子版(に転載された日経ものづくり)から引用して、できるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。

■ GEの取り組みから、Industrial Internet(米)と、Industry 4.0(独)の違いを明確にする

インダストリアル・インターネットは、米産業界の巨人、GEが提唱しており、「多様な産業機器をインターネットに接続し、膨大なデータをソフトウェアで分析することで生産性を高め、新たな産業革命を起こす」ことを標榜しています。

2015/12/15|日本経済新聞|電子版 ドイツ企業も続々参加 GE流「新・産業革命」
インダストリアル・インターネット、次の一手(上)

「GEが提唱するIndustrial Internetは、Industry 4.0と何が違うのか。多数のセンサーを搭載するさまざまな産業機器からインターネット経由で膨大なデータを集め、ソフトウェアなどIT(情報技術)を用いて解析し、生産性を高めるという発想には共通点が多い。いわゆる「IoT(モノのインターネット)」を産業界で実現するという意味で、両者は重なり合う。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

同記事では、次のように、ドイツの「インダストリー4.0」とGEの「インダストリアル・インターネット」の違いを整理しています。

<インダストリー4.0>
「ITを使って、現実の製造現場とデジタルのデータを一致させて、柔軟性が高く、効率的な製造システムを実現する「Cyber Physical System」に象徴される「工場のスマート化」」を進めること。「Cyber Physical System(CPS)」とは、「デジタルの仮想空間と物理的な現実世界を結びつけ、高度なコミュニケーションと相互作用を実現する、ネットワークで構築された仕組み」を意味します。

<インダストリアル・インターネット>
工場における生産性をIoTで高度化させることも含んでいますが、どちらかというと、重点を置いているのは、「航空機エンジン、発電タービン、医療機器などの産業機器に多数のセンサーを取り付けて、集まってくる大量のデータをソフトウェアによって分析し、生産性を高める「産業機器のスマート化」」を狙っています。

(同記事添付の産業機器に付されたセンサーとデータの関係図を転載)

20151215_計測機器を搭載した産業機器_日本経済新聞電子版

(Industrial Internetにおけるデータの流れ。産業機器のデータをセンサーで収集しソフトウェアで分析して効率を高める)

GEは標榜する「産業機器のスマート化」に向けて、多様な産業機器が生み出す膨大なデータを解析する共通のソフトウエア・プラットフォームとなる「Predix」を開発しました。「Predix」は、スマートフォンにおけるOS(基本ソフト)である「Android(アンドロイド)」や「iOS」みたいなものです。したがって、「Predix」に対応する数百種類の産業別・機器別のアプリケーションを、外部のソフトウェア会社の協力も得て開発している現状は、スマホゲームのアプリ開発会社が、多数存在している日本のゲーム業界をイメージしてもらえれば、GEがやろうとしていることも理解しやすいと思います。

■ GEの競争優位はどこにあるのか? やっていることと目指していることを確認してみる

いわずもながで、GEは、産業機器メーカー(重電メーカーともいう)で、決して、ITやソフトウェア企業というわけではありません。一時は、金融会社の一面もありましたが、リーマンショックにおける金融危機から、金融事業のリスクの大きさを再確認し、産業分野に回帰しようとしています。その産業回帰にこの「インダストリアル・インターネット」が一役買っているのは間違いありません。

足下のGEの動きをまとめてみます。

・2015年までの4年間に10億米ドル(約1200億円)以上を投資し、米国、欧州、中国にソフトウエアセンターを開設
・数千人規模で新たに技術者を雇用するのと同時に、同年10月1日には、GE社内の複数の事業に分散していたソフトウェア関連部門を統合し、3万人のスタッフを抱えるGE Digitalという新組織を設立
・2020年までに、ソフトウェアの売上高を2015年見込みの3倍に当たる150億米ドル(約1兆8000億円)に引き上げる目標を公表

従来の得意な分野である産業機器にセンサーを取り付け、センサーで集めたデータをソフトウェアで分析し、最適な産業機器の稼働自体をサービスとして提供する。単なるハードウェアの売り切りビジネスモデルではないところへの進化を目指しています。その一例を航空機の運用ビジネスで見てみましょう。

米United Airlines(以下、United)、マレーシアのAirAsia、イタリアのAlitalia、オーストラリアのQuantas Airwaysなど25社以上が既にGEのソフトウェアを導入しています。そのソフトがやっていることは、

① 航空機エンジンのデータを収集して異常を事前に検知
② 多数の航空機の飛行ルートを分析して、燃料を節約できるルートを提示
③ 大雪や台風などの天候不順の際にフライトスケジュールを効率的に組み替え

(下図は、同記事添付の航空機運用ソフトウェアビジネスの模式図を転載)

20151215_GEの航空機産業向けIndustrial Internetのイメージ_日本経済新聞電子版

(GEの航空機産業向けIndustrial Internetのイメージ。航空機エンジン関連のデータに加えて、航空会社の持つ飛行機の運行情報など多様なデータを収集して、GEのソフトウェアで分析する)

United社のFlight Operations担当によると、「航空会社には高度な運航ノウハウがあるが、高性能なソフトウェアを使えば、これまでにないレベルの効率化が実現できる」とのこと。一般的にソフトウェアに関し、IT企業の方がメーカーよりもノウハウが豊富なはずだから、産業機器のインターネット対応もIT企業に任せた方が上手くいくと思うのが自然な発想かもしれません。しかし、GEの考えはそれと異なり、さまざまな産業機器を製造し、アフターサービスも提供して顧客企業の利用状況を深く知るメーカーにこそ、むしろ優位性があると考えているのです。

では、そうした取組みはGE単独で展開しきれるものでしょうか? 前章にてスマホアプリで例えた「Predix」によるビジネスモデルをご紹介しましたが、GEは様々な企業との連携で包括的かつ(技術的に)高度なビジネスに発展させようと、企業間連携の環境を整えています。2014年3月、GEは「Industrial Internet Consortium(IIC)」を、米国のCisco Systems、IBM、Intelなどと共同で設立。わずか1年半で200もの企業や団体が参加するまでになりました。さらに、2015年9月30日、GEはインドのIT大手Infosysと組み、製造業向けのIoTソリューションを提供すると発表しました。その目論みはこうです。

「Infosys社は(人工知能による)『機械学習』などITを得意とする一方、GEは航空機メーカーにエンジンを供給するなど産業機器に強い。両社が力を合わせることで、さまざまな産業機器の生産性をドラマチックに改善できる」(Infosys CEOのVishal Sikka氏)

具体的には、
① 資産効率テストベッド
さまざまな産業機器を統合的に監視、分析して改善に結び付けるための新たなソフトウェアを開発する。第一弾として航空機の着陸装置の予防保全に適用する

② 製造デジタルスレッド・テストベッド(IDT)
製造業における設計、生産、フィールドテスト・サービスという3つの部門の相互連携にフォーカスしたもの。産業機器のセンサー情報や履歴データを分析することで、フィールドエンジニアやサービスチームが、故障の原因を速やかに特定し、修理することを支援するソフトウェアを開発する

すなわち、GEがやろうとしている「Industrial Internet」とは、ITによるあるネットワーク技術の進化だけというより、通信機能を備えたセンサーを積んだハードウェアからデータをクラウドに収集して、高度な解析用ソフトウェアで、最適なハードウェアの運用をサービス化して、マネタイズするということになります。

こうした動きは、GE単独でやれるものではなく、Industry 4.0を推進するドイツ企業も日本企業も続々とIICに参加しています。

<ドイツ>
・工場のFA機器に強いSiemens
・産業用ロボットのKUKA
・IT大手のSAP
・自動車部品大手のBosch

<日本>
・日立製作所
・三菱電機
・富士通
・東芝
・富士電機
・富士フイルム
・ソフトバンク
(ソフトバンクテレコムをG社のソフトウェア部門と提携させ、予測分析ソフトウェアと通信機器をベースにした産業機器の効率化に取り組む)
・コマツ
(世界各地の鉱山の生産設備の稼働データを収集。GEのソフトウェアで分析することで、建機の燃費効率を高めるなどして、生産性を改善する。鉱山の運営コスト削減につなげるサービスの展開を視野に入れている)

「Industrial Internet」と「Industry 4.0」は対立する陣営のように思われている場合もありますが、「Industrial Internet」と「Industry 4.0」の考え方は本質的には同じ。「IICはオープンなコンソーシアムで誰でも加盟できる。仲間が増えることで、さまざまな産業に恩恵が広がり、生産性を向上できる」(GEのChief Economist:Marco Annunziata氏)。

■ まとめ

「工場のスマート化」を目指す「Industry 4.0」に対し、「産業機器のスマート化」を目指す「Industrial Internet」。そして、「Industrial Internet」を推進していくうえでの企業連合体としての、「Industrial Internet Consortium(IIC)」。IICには、「Industry 4.0」に取り組んでいるドイツ企業も日本企業も参加しています。そして、同じく日本産業界の中で、同様の取り組みとして、「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI:Industrial Valuechain Initiative)」という企業連合体による活動を意識しています。

「Industry 4.0」は、コンセプトであり、かつドイツの政産学協同の取り組み名でもあります。そしてコンソーシアム(取り組み)としては、米国の「IIC」と日本の「IVI」があるというわけ。「Industry 4.0」は、新興国の勃興にドイツ産業の地盤沈下を恐れた政府がSAP元社長のカガーマン氏(ドイツ技術科学アカデミー(通称アカテック・Achatech)」の現会長)に、「マスカスタマイゼーション」への対応、ITで情報がつながる製造現場をつくることで「コストダウン」「ドイツ中小企業の生き残り」を託した「ものづくり革命」の推進運動です。デジタル情報/ネットで、企業の垣根を超えたものづくり情報をつなげて、中小企業の競争力を高める、という趣旨は、日本の「IVI」も掲げていること。一方で、GEは、自社開発ソフト「Predix」を用いたエコシステムを構築することで、ソフトウェアによる賢い産業機器を使ったサービスを展開しようとしており、そのための企業連合体が「IIC」。

ここまでくれば、

ドイツ:Industry 4.0 → デジタル化されたものづくりの革新活動の総称
米国:Industrial Internet → GE製「Predix」を使った「IoT」サービスの概念
   IIC → 「Predix」を元にしたエコシステムに参加する企業群(コンソーシアム)
日本:IVI → 「Industry 4.0」を標榜した日本企業が参加するコンソーシム

という整理になります。

次回は、GEの向上におけるスマート化と、日本のIVIの取り組みを、事例紹介の形で取り上げたいと思います。



コメント