1.「インダストリー4.0」 スイスのABBで大歓迎の理由とは
ドイツ発の「インダストリー4.0」。お隣の国スイスでもその取り組みは進んでおります。というか、汎欧州の動きです。当たり前ですよね、次世代の産業規格を米国系企業と争っているわけですから。
まあ、詳しくお知りになりたい方は、「インダストリー4.0」については、
⇒「(ビジネスTODAY)「製造業革命」日本に焦り IoT活用、企業間連携で出遅れ ドイツ、国挙げ規格作り(1)」
⇒「(ビジネスTODAY)「製造業革命」日本に焦り IoT活用、企業間連携で出遅れ ドイツ、国挙げ規格作り(2)」
⇒「(ビジネスTODAY)「製造業革命」日本に焦り IoT活用、企業間連携で出遅れ ドイツ、国挙げ規格作り(3)」
米国発の「インダストリアル・インターネット」や日本の「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ」との違いをお知りになりたい方は、
⇒「ものづくり技術標準化 工場や設備、相互に接続しやすく 30社がコンソーシアム(1)」
⇒「文系にも分かる! インダストリー4.0、インダストリアル・インターネット、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブの違い(1)」
⇒「文系にも分かる! インダストリー4.0、インダストリアル・インターネット、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブの違い(2)」
もご覧ください。いやあ、前置きが相当長くなってすみませんでした。
だからといって罪滅ぼしと言ってはなんですが、日経電子版のABB:ウルリッヒ・シュピースホーファー最高経営責任者(CEO)のインタビュー記事も合わせてご紹介したいと思います。
2016/2/23付 |日本経済新聞|朝刊 (GLOBAL EYE)スイスにみる「第4次産業革命」 高度な教育、変革支える
「5年前に提唱されたドイツ発の製造業の革新運動「インダストリー4.0」が、語呂の良さもあり「第4次産業革命」として広く知れ渡ってきた。ただ、情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)などを駆使した革命と言っても、社会や企業活動がどう変わるかの見方は十人十色。とらえどころがないのも事実だ。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
1891年、英国人のブラウンとドイツ人のボベリがスイスに移住してきて設立したのがABBの前進となるブラウン・ボベリ。その創業当時から汎欧州の色が濃い、当時流に言うと、多国籍企業としてそもそも出発しています。創業は産業機械メーカー。当時は鉄道車両も作っていましたが、選択と集中を繰り返し、現在では、高付加価値の機器を供給するだけ。2000年代に事業構造改革を終え、現在は、「高圧直流送電(HVDC)に代表される電力、ロボットなど自動化の2分野に絞ってきた。」
ここからがABB流の「インダストリー4.0」。
「今のABBを象徴するのが、昨年発表した産業用の双腕ロボット「YuMi(ユミ)」だ。ヒトと並んで生産ラインに入り、電子部品のような微細な組み立て作業をこなす。ヒトにぶつかれば自動停止し、作業を再開するのもソフトを動かすように簡単にできる。」
(下記は、同記事添付の「YuMi」の写真を転載)
「スイス金融大手UBSが1月に公表した第4次産業革命に関する白書は雇用形態の柔軟性、教育制度、知的財産権保護や司法の独立などの法制度といった項目で国・地域の「革命」の競争力を評価した。スイスが最上位で上位20位には北欧を含め欧州12カ国が入った。ABBのウルリッヒ・シュピースホーファー最高経営責任者(CEO)は「スイスは対外的に開かれた経済システムを有し、企業は機敏に変化し活動してきた。世界最高水準の教育システムがこれを支えている」と説く。」
スイスが知財権保護や高度な教育制度を充実しているのは周知の事実。ドイツがつながる工場という発想から、中小のものづくり企業の復権を目指しているように、スイスにもお国事情が透けて見えてきます。
「スイスや北欧はもともと人口が少なく、世界で最も物価水準が高い。一方で1人あたり国内総生産(GDP)や教育投資の額はトップレベル。教育水準に支えられた質の高い人材が多く、解雇する際の再就職支援の充実ぶりでも知られる。在独日系企業の技術者は「これらの国は日本では信じられないほど自動化が進み、労使が高い人件費を前提に、ロボットと調和した新しい働き方を議論している」と感心する。」
これでは、汎欧州とドイツとスイスを同一視することはできなくなりました。スイスが直面している産業・社会問題は、日本にもそのまま当てはまるじゃありませんか。
「汎用品を除き人件費の安い国を求め工場を転々とする時代はいずれ終わる。「革命」はいわば欧州がアジアから再び主導権を取り戻そうという取り組みだ。その中でスイスが「本家」ドイツを出し抜く可能性すらある。」
汎用品、ボリュームゾーン、BOP市場と、かまびすしいですが、先進工業国が生きていく道はそこではないのだと、改めて確認した筆者なのでした。
2.ウルリッヒ・シュピースホーファー最高経営責任者(CEO)へのインタビュー
それでは、前章を受けて、現ABBのCEOシュピースホーファー氏のインタビュー記事をまとめてみたいと思います。
2016/2/23付 |日本経済新聞|電子版 第4次産業革命「スイスだからこそ」 ABBのCEO
「情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)などを駆使して生産や物流の効率を飛躍的に高めようとする「第4次産業革命」。そのリーダーだと公言するのが欧州を代表するエンジニアリング大手、ABB(スイス)だ。電力とオートメーション(自動化)を柱に据え、ライバルの米ゼネラル・エレクトリック(GE)のような派手なM&A(合併・買収)とは一線を画した、柔軟な提携戦略が特長だ。ウルリッヒ・シュピースホーファー最高経営責任者(CEO)に戦略を聞いた。」
(下記は、同記事添付のシュピースホーファー氏の写真を転載)
Q:スイス金融大手UBSが1月に発表した第4次産業革命に関する白書では、国の競争力分析でスイスを最も高く評価しました。
「第4次産業革命の背景にあるのは、データが入手しやすく、どこでも機械とヒトがつながり、データ処理能力が飛躍的に成長したこと。そこでABBの産業用ロボット『YuMi(ユミ)』のような、微細部品の組み立てなどでヒトとロボットが協働する時代が可能になった。こうした『革命』は大幅な生産性の向上につながり、気候変動問題の解決や、まだ電気を使えない何億人の人々の生活改善に必要だ」
こちらは、本家インダストリー4.0や、IoTと同じ文脈のお話し。しかし、
「スイスは技術の変化には常に開かれてた高度な経済システムがある。機敏に活動できる中規模の企業が非常に多く、世界最高の教育システムを持つ国の1つだ。高コストの国であるため、企業は自動化の技術の採用には常に熱心だ」
高い教育水準を誇る国なのに、AIやロボットによる雇用問題をそもそも問題視していない。高い人件費だから、AI・ロボットを積極的にラインに投入し、コスト採算性の問題を解決する。じゃあ高い教育を受けた生身の人間たちは? 暗にそれにふさわしい仕事をしてもらうことが大前提となっているご様子。スイスはここまで日本と教育水準が違うのかと、ちょっと愕然。
Q:自動化でヒトの職が奪われるとの懸念があります。
「むしろヒトの役割は高まる。第1次産業革命以来、常に仕事のシフトがあった。自動車が登場し馬車の運転手が職を失い、ロボットが自動車工場に現れると溶接工の仕事は姿を消した。しかし自動車産業は、これまで以上に雇用を増やしている。自動化が最も進んでいる日本と韓国、ドイツは世界で最も低い失業率の国でもある。工業化と自動化は雇用を破壊するのではなく、国の富を増やし競争力を高める」
はい、でました。ロボットが人間の職を奪うのではないか質問。微妙に、自動化は国富を増やし、競争力を高めるとは言っているが、訓練されていない人の失業には触れていない。これでは、企業と国の財政が豊かになれば、非訓練の労働力の失業手当はそこそこ出せますよ、と聞こえてしまう。この辺は、2016年2月末時点で、米国大統領選挙(まだ各党の予備選段階ですが)に、若者と高度教育を受けていない失業者及びその予備軍が、共和トランプ氏、民主サンダース氏への支持が予想外に高いこととも全く無縁のことではないと思います。欧州も現在、主に中東・アフリカなどからの移民受け入れに政治が揺れ動いているわけだし。
結論は、ハイ、お勉強しましょう。ハイ、職業訓練しましょう。という紋切型の回答で一応締めておきます。
Q:ABBにとって第4次産業革命における競合相手は。米国のGE、あるいはグーグル、シスコシステムズですか。
「競合には3つのカテゴリーがある。(1)GEや独シーメンス、当社のような伝統的な企業群、(2)新興国から勃興してきた非常に手ごわい新たな競合、(3)全く異なる考え方を持つ『破壊的(ディスラプティブ)』な新規参入者。彼らは物理的な資産を持たず、制御やデータ分析が武器になる」
「こうした環境ではいかに適切に競争するかが重要だ。例えば当社は米マイクロソフトとはクラウド分野で協力した。ABBの専門知識と、マイクロソフトのクラウドを使った分析やデータ保管を水平的に結びつければ、強力な組み合わせだ。ABBは第4次産業革命のリーダーであり続けるために有機的な成長を続けてきた。そのための提携戦略があり、企業買収もあるかもしれない」
競争相手を3つのグループに分けていますが、主に、産業機器メーカーとIT企業に大別されるでしょう。産業機器メーカーとは、「スマート製品:ネットとつながり、センサー情報を発信し、制御コマンドを受信できるデバイス」の開発・販促の競争になります。IT企業とは、ビッグデータ保有の主導権の争いになります。結局のところ、AIが人間の脳をマネして、一部領域で人間以上の能力を発揮するためには、膨大なデジタルデータ(いわゆるビッグデータ)にアクセスして、それらを解析し、自己学習機能で内部アルゴリズムをもっと賢くするのに利用できるようにしなければならないので。
『ビッグデータの多様性とその物量の確保』と、『スマート製品の性能』、これが次の産業での競争優位のポイントではないかと、足りない頭で必死に考え付いた一つの結論になります。
Q:買収対象は「破壊的」な企業ですか。
「可能性は大いにある。だが我々自身も破壊的でなくてはならない。そして当社のベンチャーキャピタル(VC)は総額15億ドル(約1700億円)を投資してきた。例えば、AIによるアルゴリズムの先駆的な企業である米ビカリアス。ここには(米テスラ・モーターズCEOの)イーロン・マスク氏や(米フェイスブックCEOの)マーク・ザッカーバーグ氏、他の著名な投資家も加わった」
「革命の次の段階は、機械学習のようなAIの進歩で大幅に加速する。機械がヒトとつながるだけでなく、ヒトの介入無しで相互に協力する分野が広がる。ABBはこの新しい経済圏を、『IoTSP(モノ、サービス、ヒトのインターネット)』と呼ぶ。当社の商機だ」
さあ、また覚える用語が一つ増えました。「IoTSP:Internet of Things, Services and People」。2016/2/29時点でグーグル先生に問いかけると、11,300件がヒット。当然、ABBのサイトがトップに来ています。こういうバズワード(おっと失礼)、こういうキーコンセプトを繰り出せる力が企業になるかないか、それが企業の魅力度を高める一つの要素かもしれません。
やっと、「M2M」とか「IoT」の違いとかがぼんやりと分かり始めたというのに、、、
参考になるサイトを下記にご紹介
● IoTとは M2Mとは | 株式会社シナノ電子技研
コメント