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「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(6) HBR 2015年4月号より

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 接続機能を持つスマート製品がもたらす戦略への意味合いとは?

経営管理会計トピック

今回は、Harvard Business Review 2015年4月号「IoTの衝撃」で掲載された、

「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略」著:マイケル E. ポーターハーバード・ビジネス・スクール ユニバーシティ・プロフェッサー、ジェームズ E. ヘプルマンPTC 社長兼CEO

の解説の第6回目となります。「接続機能を持つスマート製品が企業戦略にどう影響しているのか」の解説の後半部分(これで最終回)をお伝えします。

(過去関連記事)
⇒「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(1) HBR 2015年4月号より
⇒「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(2) HBR 2015年4月号より
⇒「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(3) HBR 2015年4月号より
⇒「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(4) HBR 2015年4月号より
⇒「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(5) HBR 2015年4月号より

ポーター氏によると、接続機能を持つスマート製品が普及した現況下では、企業は10の新しい戦略の選択肢に直面するのだそうです。前回に引き続き、(6)から説明していきます。

その前に、接続機能を持つスマート製品を展開する事業において、「避けるべき失敗」と題して、戦略的リスクを4つ紹介しておきます。

① 「対価を払おう」と思ってもらえない機能性を追加してしまう
② 新たな競争の脅威を予測し損なう
③ タイミングを計りすぎて遅きに失する
④ 社内のケイパビリティを過大評価する

これらを踏まえて、もう一度、10つの新しい戦略的選択肢を確認します。

● 新しい戦略的選択肢
(1)接続機能を持つスマート製品の機能や特性のうち、どれを追求するか
(2)製品とクラウドにそれぞれどれくらいの機能性を持たせるべきか
(3)開放的なシステムと閉鎖的なシステム、どちらを追求すべきか
(4)接続機能を持つスマート製品とインフラすべてを内製すべきか、それともベンダーや事業パートナーに外注すべきか
(5)製品やサービスの価値を最大化するには、どういったデータを確保、分析する必要があるか
(6)製品データの使用権とアクセス権をどう管理するか
(7)流通チャネルやサービス網の一部または全部を中抜きすべきだろうか
(8)ビジネスモデルを手直しすべきだろうか
(9)製品データを第三者に販売して利益を得るタイプの新規事業に乗り出すべきだろうか
(10)事業の範囲を拡大すべきだろうか

 

(6)製品データの使用権とアクセス権をどう管理するか

先述の(5)で、どのデータの収集・分析するかが固まったら、データを使う権利、アクセス権の管理方法を決める必要があります。カギを握るのはデータの帰属先です。例えば、航空機エンジンから送信されてくる稼働状況データをめぐっては、エンジンの製造元、機体(航空機本体)の製造元、あるいは機体を保有・運航する航空会社の、いずれが正当なデータ帰属先とするか、という問題です。

製品データは、完全な帰属先を決める場合もあれば、共有することを取り決めておくこともできます。また、データの利用権についても、NDA(機密保持契約)で定める権利、共有権、販売権など、様々な形態が考えられます。

ここでは、2つの例示で実際の運用時の留意点に注意を喚起しておきます。

① 製品データ使用許可
今日では、接続機能を持つスマート製品の初回使用時に、製品データの収集について幅広い同意を得る、「クリック・スルー」形式の規約承認が一般的になっています。ユーザとしては、きちんと文章を読んで内容を確認すると共に、提供側としては、ユーザにデータ利用の範囲や目的など、できるだけバリエーションを与えるような形式を準備するとよいでしょう。

② セキュリティの確保
すでに、医療機器のような規制の厳しい分野では、データへのアクセス権やセキュリティに関する法令が整備されていたりします。各製品から、使用者の健康状態を示すデータ(不整脈の有無などのバイタル情報)を、特定の主治医とだけやり取り・共有できるような、高いセキュリティを施したシステム環境を整備する工夫が求められます。

 

(7)流通チャネルやサービス網の一部または全部を中抜きすべきだろうか

接続機能を持つスマート製品を活用し始めると、顧客と直につながるため、流通チャネルの事業パートナーが介在する余地、サービス分野でのパートナーへの依存度が小さくなります。

中間業者を中抜きすれば、その分コストが節約できるので、供給側にとっては、利益率を向上させるか、その分低コストで提供して価格競争力を高めるか、選択の余地が生じます。また、エンドユーザも、アップデートや修理の受付処理手続きの簡素化、また修理完了までの期間短縮など、顧客満足度も向上することが見込まれます。

ただし、中間に位置する流通業者が、単に流通機能だけを担っているのか、それとも顧客に対して教育や設置サービスなど、付加価値を提供していないかを確認して、どれだけ、どこの部分を中抜きできるかは慎重に吟味する必要があります。

 

(8)ビジネスモデルを手直しすべきだろうか

製造業(メーカー)は、従来、モノを生産・販売して所有権を買い手に移転し、利益を得ることに重点を置いてきました。対称的に、買い手は、製品の所有に伴うサービスコストや使用コストの負担責任を負い、保証対象外の不稼働時間、故障、欠陥のリスクを引き受けてきました。この関係性をどう変えていくかが問題になります。

① 従来通り、スマート製品を販売することでいったん利益を得て、顧客は製品の所有を通じて、クラウドアプリケーションから格段に上質のサービスを得る形態

② 製品のサービス化によって、メーカーが製品の所有権を保持しながら顧客から定期的に使用料金を徴収し、運用とサービスのコストは全て引き受ける形態

③ ひとつの製品を複数のユーザで共有することで、ユーザにとっての製品の効率的利用を重視した形態。レンタカーのようなビジネスモデルが、タクシーのような移動サービスから、住居まで、その適用範囲がより広範になっていきます。

④ 製品の売り切りモデルですが、製品の稼働条件の保証契約込み(経済的保証、サービスメンテナンスの実行保証つき)という形態

「所有」から「利用」へ。その間には様々なバリエーションが考えられます。

 

(9)製品データを第三者に販売して利益を得るタイプの新規事業に乗り出すべきだろうか

接続機能を持つスマート製品から得られるデータは、製品の提供者側と顧客(ユーザ)側とで共有や活用するだけでなく、それ以外の第三者へ販売することで利益を出せないか、考えどころであります。例えば、自動車を考えます。部品の性能データは、パーツサプライヤーにとっても貴重かもしれませんし、多数の車両の走行条件や遅延に関するデータは、他の運転者、物流システムの運用者、道路補修チームにとっても有益かもしれません。運転状況のデータは、運送業者やタクシー業者、自動車保険業者(既にこの分野は「テレマティクス保険」として運用が開始されていますが)も利用価値大といえます。

ここで注意すべきなのは、顧客(ユーザ)の法的許可や積極的なデータ提供のメリットについての情報共有をしておく必要があります。さらに、データ利用の目的によっては、プライバシーの保護の観点から、個人情報が判明しないようなデータ提供を行う必要も出てくるでしょう。

 

(10)事業の範囲を拡大すべきだろうか

接続機能を持つスマート製品が、既存の市場をより広く定義することを促すことがあり得ます。製品単品の売り切り商売だったものが、まず製品同士がつながって最適化をはかる、最適化をはかるためのシステム環境全体の整備、そのシステムと他の業務領域のシステムをさらに複合化させる、、、というふうに、市場定義が飛躍的に大きくとらえていく必要が生じる可能性がとても高いように思えます。

その際に、企業が採り得る戦略的選択の代表例が2つあります。

① 関連製品を提供したり、システムの複合体のほか領域に進出したりする
② 関連製品と情報をつなぐプラットフォームの提供を行う

いやはや、ポジショニング学派であるはずのポーター氏のこの論文で、奇異に映ったのは、「ケイパビリティ」という文言を目にした時。上記の①か②か、どちらが最適化は、その企業のケイパビリティによるそうで、、、

①を選択する際、連製品群の共同設計によってシステムの最適化を図り、性能を大幅に高める機会があるなら、製品範囲拡大は極めて魅力的な選択肢とのこと。

②を選択する際、個々の製品設計に依存せずに最適化が図れる場合は、自社の製品構成を変えずに、他社の関連製品と自由に接続できるようにするのが良いとのこと。

要は、「最適化」が何によってもたらされるかが問題なのです。製品間の連携がうまくいくように個々の製品設計の整合性をとることによる「製品の最適化」か、製品と外部の情報とをつなぐアルゴリズムを活用した「製品以外の最適化」か?

前者の場合、周辺の製品分野に事業を拡大して、独自プラットフォームを構築するのが合理的。後者の場合は、オープン・プラットフォームが適しており、時には、製品を一切持たない企業がプラットフォームを提供することすらあり得ます。

ここまで、6回にわたって、ポーター氏のIoTに関する論文を見てきました。
・IT化の波といったマクロの産業構造の変容から認識する必要性がある
・5つの競争要因といったポジショニング学派のフレームワークは色褪せていない
・むしろ、クローズドシステムか、オープン・プラットフォームかは、企業のケイパビリティが決定する
という感じでしょうか?

筆者だけでしょうか?ポジショニング学派のポーター氏の口から「ケイパビリティ」という言葉が出てきて、思わずのけぞったのは?(> <)/

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