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■ インターネットではなく、「モノ」の本質が変化している!

経営管理会計トピック

これから数回、Harvard Business Review 2015年4月号「IoTの衝撃」で掲載された、

「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略」著:マイケル E. ポーターハーバード・ビジネス・スクール ユニバーシティ・プロフェッサー、ジェームズ E. ヘプルマンPTC 社長兼CEO

の解説を試みます。ものの見事に、ポーター氏の「競争優位の戦略論」と昨今のテクロノジーの中心のひとつである「IoT」が融合された論文になっています。まあ、一世を風靡した経営戦略論は、新しいテクロノロジーが登場して廃れるどころか、新しいテクロノジーが社会と経営に与える影響を取り入れて、新しい知見として我々に提示される、そのすばらしさというか、戦略論の大家の懐の深さに脱帽、といった感じです。第1回目は、全体の論調の本の先走りの「スマート製品」のIT革命へのインパクトとは何か、までを説明したいと思います。

ダイヤモンドHarvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 04 月号 [雑誌]

 

■ 接続機能を有するスマート製品の登場がIT第3次の変革を呼び起こした

まず、「接続機能を有するスマート製品」(smart, connected products)とは何か、を共通認識として持っておかないと以下の説明が十分に理解できないと思います。簡単に、ここでは「搭載されているソフトウェアによる多機能サービスが提供されつつ、製品外のネットワークと接続され、ネットワーク上のサービスをも享受できるもの」と簡単に理解しておいてください。

では、ITを起点とする競争の波を順を追って振り返ります。

● IT化以前(~1660年代)
「製品は機械部品で成り立ち、バリューチェーン上の諸活動は書類に基づく手作業と口頭でのコミュニケーションによって行われていた」

● 第1の波(1660~70年代)
「注文処理、経費の支払い、CAD(コンピュータ支援設計)、MRP(製造資源計画)などバリューチェーン上の個々の活動を自動化した」

こうした自動化を裏で支えたのが、ERP(Enterprise Resource Planning):統合基幹業務システム、統合業務パッケージとよばれるもの。企業の垣根を超えて業務プロセスの標準化を促進しました。そのメリットは、
① 他社のベストプラクティスで構成されているERPを導入すれば、自社でも容易に活用可能になる
② 他社ベストプラクティス込みのERPライセンスを購入するだけで、自社によるスクラッチ開発で業務システムを構築するより安価に上記ベストプラクティスの知見が手に入る 

このことは、ERP提供各社が、導入先の業務分析を行い、各領域の業務活動における膨大な新規データの分析・収集できたからこそ、実現できたことです。

逆説的に、どの企業も業態も超えて業務が標準化される、ということは、業務プロセス自体が内包する優位性や、独自戦略は否定されることになります。いわゆる「オペレーショナル・エクセレンス」が競争優位の源泉であると信じて、現場の生産性向上などを追究していた当時の日本の製造業各社は、相当この「標準化・低コスト」⇔「独自性・高付加価値」というジレンマに悩まされた(今でも悩んでいる)と推察しています。

● 第2の波(1680~90年代)
「インターネットが誕生してからどこからでも低コストで接続できるようになったため、」「社外の納入業者、販売チャネル、顧客を巻き込み、地理的制約をも乗り越えて、多数の業務活動間の調整と統合が行えるようになった」

これは、業務の標準化と、やり取りする情報における「プロトコル」の統一化が、企業の垣根を超えて、推進されたことを意味しています。「ベストプラクティスを標準化業務プロセスとして提供」することでバリューチェーンの強化を図った、その影響範囲を、取引先や顧客にまで拡大させたという、直線的な延伸イメージで、第1次の波から第2次の波までの動きは理解することができます。

このことは、本論文にも以下の記述があることからも確認することができます。
「これら二次に及ぶ変革により、経済全体として大幅な生産性向上と成長が実現した。ただし、バリューチェーンの変革は起きても、製品自体はおおむね従来のままだった」

● 第3の波(1680~90年代)
「製品にセンサー、プロセッサー、ソフトウェア、接続機器を組み込み、つまり、事実上コンピュータを内蔵し、しかもクラウド上で製品データを収集、分析してアプリケーション・ソフトウェアを稼働させることで、製品の機能性と性能が目覚ましく向上」

ここから理解できることは、これまでの1次、2次のIT変革の波は、もっぱらバリューチェーン上の業務プロセスの標準化、自動化による生産性向上と、企業間業務連携による効率化が果実としてもたらされた、ということになります。

しかし、第3の波は、「製品」自体が「スマート化」「接続機能保持」となるため、「製品」の変容から業務プロセスの変化が求められるという変化の起点が違う点が特徴になります。時系列データの収集と送信を各製品が行い、クラウド上などで送られてきた製品データの解析と制御や最適化の指示出し(人間系がいちいち指示を出すこともあれば、データ解析用アルゴリズムが演算結果を示し、人間がそれを承認するという形もある)をする、という業務プロセスに変わる(すでに変わっている)はずです。

スマート製品から業務の有り様を大きく変革することを要求されがちな既存業務は、
① 製品設計
② マーケティング
③ 製造
④ アフターサービス
といったところでしょうか。

① 製品設計
メカトロ機構部のハードウェアの設計が1度行われている間に、組み込みソフトェアのバージョンアップはマイナーも含めて数十回は行われているでしょう。その整合性担保はこれまでに無い「すり合わせ調整」もしくは、「モジュール結合方式」による接続性の担保のいずれかが、設計業務にビルトインされている必要があります。

② マーケティング
誰が、どのシーンで、どれくらい使用しているのか、個客(あえて「個」)のユーザエクスペリエンス情報を企業側は知り得ることになるので、より市場を細分化したセグメンテーションで製品企画から、販促キャンペーン、値付けをすることができます。というより、やらないと競合他社にやられてしまいます。極論を言うと、全てが個客向けの「カスタマイズ製品」ということになる可能性を秘めています。

③ 製造
上記、究極の「カスタマイズ製品」供給のための、生産の構え構築は、これまでの常識では対応不能でしょう。筐体だけ先に大量かつ先行生産しておく。中身のソフト部分は、受注後、インストールするだけ。中には、お客様の方で好きな機能を選択してインストールして頂く。ハードメーカーとしての生産事前準備の仕方が大きく変わることでしょう。

④ アフターサービス
これまでは、故障したら連絡を受けて、現場に駆け付けて修理・部品交換する。これは現在進行形の動きですが、既に、コマツやGE(それ以外の企業の対応済みですが)に代表されるように、センサーが組み込まれている製品が使用情報から、消耗品や補用品の交換時期、修理・メンテナンスタイミングのアラート情報を得て、何かある前に、何も起こらないようなサービスの提供、という形がかなり具体化してきています。

これらの様相に対するポーター氏の洞察を要約すると、

モノのインターネット(IoT:Internet of Things)」との呼称は、さほど意味がない。インターネットは、「ヒト」でも「モノ」でも、「つなぐ = 単に情報を伝達」するということ。接続機能を有するスマート製品という「モノ」の本質変化の方が重要

さらに、こう続けられています。
「接続機能を持つスマート製品の機能や性能の増大とそれが生み出すデータこそが、競争の新時代の到来を告げているのだ。企業はテクノロジー自体だけでなく、現に起きつつある競争状況に変化に目を向けなくてはいけない」

一方で、最新のテクノロジーが登場したとしても、競争のルールや競争優位に対する考え方は従来と変わらないと主張されています。そして、論文は、「5 forces 分析」へと流れていくのです。

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「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(1) HBR 2015年4月号よりhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭テクノロジーGE,HBR,IOT,コマツ,ポーター■ インターネットではなく、「モノ」の本質が変化している! これから数回、Harvard Business Review 2015年4月号「IoTの衝撃」で掲載された、 「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略」著:マイケル E. ポーターハーバード・ビジネス・スクール ユニバーシティ・プロフェッサー、ジェームズ E. ヘプルマンPTC 社長兼CEO の解説を試みます。ものの見事に、ポーター氏の「競争優位の戦略論」と昨今のテクロノジーの中心のひとつである「IoT」が融合された論文になっています。まあ、一世を風靡した経営戦略論は、新しいテクロノロジーが登場して廃れるどころか、新しいテクロノジーが社会と経営に与える影響を取り入れて、新しい知見として我々に提示される、そのすばらしさというか、戦略論の大家の懐の深さに脱帽、といった感じです。第1回目は、全体の論調の本の先走りの「スマート製品」のIT革命へのインパクトとは何か、までを説明したいと思います。 ダイヤモンドHarvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 04 月号   ■ 接続機能を有するスマート製品の登場がIT第3次の変革を呼び起こした まず、「接続機能を有するスマート製品」(smart, connected products)とは何か、を共通認識として持っておかないと以下の説明が十分に理解できないと思います。簡単に、ここでは「搭載されているソフトウェアによる多機能サービスが提供されつつ、製品外のネットワークと接続され、ネットワーク上のサービスをも享受できるもの」と簡単に理解しておいてください。 では、ITを起点とする競争の波を順を追って振り返ります。 ● IT化以前(~1660年代) 「製品は機械部品で成り立ち、バリューチェーン上の諸活動は書類に基づく手作業と口頭でのコミュニケーションによって行われていた」 ● 第1の波(1660~70年代) 「注文処理、経費の支払い、CAD(コンピュータ支援設計)、MRP(製造資源計画)などバリューチェーン上の個々の活動を自動化した」 こうした自動化を裏で支えたのが、ERP(Enterprise Resource Planning):統合基幹業務システム、統合業務パッケージとよばれるもの。企業の垣根を超えて業務プロセスの標準化を促進しました。そのメリットは、 ① 他社のベストプラクティスで構成されているERPを導入すれば、自社でも容易に活用可能になる ② 他社ベストプラクティス込みのERPライセンスを購入するだけで、自社によるスクラッチ開発で業務システムを構築するより安価に上記ベストプラクティスの知見が手に入る  このことは、ERP提供各社が、導入先の業務分析を行い、各領域の業務活動における膨大な新規データの分析・収集できたからこそ、実現できたことです。 逆説的に、どの企業も業態も超えて業務が標準化される、ということは、業務プロセス自体が内包する優位性や、独自戦略は否定されることになります。いわゆる「オペレーショナル・エクセレンス」が競争優位の源泉であると信じて、現場の生産性向上などを追究していた当時の日本の製造業各社は、相当この「標準化・低コスト」⇔「独自性・高付加価値」というジレンマに悩まされた(今でも悩んでいる)と推察しています。 ● 第2の波(1680~90年代) 「インターネットが誕生してからどこからでも低コストで接続できるようになったため、」「社外の納入業者、販売チャネル、顧客を巻き込み、地理的制約をも乗り越えて、多数の業務活動間の調整と統合が行えるようになった」 これは、業務の標準化と、やり取りする情報における「プロトコル」の統一化が、企業の垣根を超えて、推進されたことを意味しています。「ベストプラクティスを標準化業務プロセスとして提供」することでバリューチェーンの強化を図った、その影響範囲を、取引先や顧客にまで拡大させたという、直線的な延伸イメージで、第1次の波から第2次の波までの動きは理解することができます。 このことは、本論文にも以下の記述があることからも確認することができます。 「これら二次に及ぶ変革により、経済全体として大幅な生産性向上と成長が実現した。ただし、バリューチェーンの変革は起きても、製品自体はおおむね従来のままだった」 ● 第3の波(1680~90年代) 「製品にセンサー、プロセッサー、ソフトウェア、接続機器を組み込み、つまり、事実上コンピュータを内蔵し、しかもクラウド上で製品データを収集、分析してアプリケーション・ソフトウェアを稼働させることで、製品の機能性と性能が目覚ましく向上」 ここから理解できることは、これまでの1次、2次のIT変革の波は、もっぱらバリューチェーン上の業務プロセスの標準化、自動化による生産性向上と、企業間業務連携による効率化が果実としてもたらされた、ということになります。 しかし、第3の波は、「製品」自体が「スマート化」「接続機能保持」となるため、「製品」の変容から業務プロセスの変化が求められるという変化の起点が違う点が特徴になります。時系列データの収集と送信を各製品が行い、クラウド上などで送られてきた製品データの解析と制御や最適化の指示出し(人間系がいちいち指示を出すこともあれば、データ解析用アルゴリズムが演算結果を示し、人間がそれを承認するという形もある)をする、という業務プロセスに変わる(すでに変わっている)はずです。 スマート製品から業務の有り様を大きく変革することを要求されがちな既存業務は、 ① 製品設計 ② マーケティング ③ 製造 ④ アフターサービス といったところでしょうか。 ① 製品設計 メカトロ機構部のハードウェアの設計が1度行われている間に、組み込みソフトェアのバージョンアップはマイナーも含めて数十回は行われているでしょう。その整合性担保はこれまでに無い「すり合わせ調整」もしくは、「モジュール結合方式」による接続性の担保のいずれかが、設計業務にビルトインされている必要があります。 ② マーケティング 誰が、どのシーンで、どれくらい使用しているのか、個客(あえて「個」)のユーザエクスペリエンス情報を企業側は知り得ることになるので、より市場を細分化したセグメンテーションで製品企画から、販促キャンペーン、値付けをすることができます。というより、やらないと競合他社にやられてしまいます。極論を言うと、全てが個客向けの「カスタマイズ製品」ということになる可能性を秘めています。 ③ 製造 上記、究極の「カスタマイズ製品」供給のための、生産の構え構築は、これまでの常識では対応不能でしょう。筐体だけ先に大量かつ先行生産しておく。中身のソフト部分は、受注後、インストールするだけ。中には、お客様の方で好きな機能を選択してインストールして頂く。ハードメーカーとしての生産事前準備の仕方が大きく変わることでしょう。 ④ アフターサービス これまでは、故障したら連絡を受けて、現場に駆け付けて修理・部品交換する。これは現在進行形の動きですが、既に、コマツやGE(それ以外の企業の対応済みですが)に代表されるように、センサーが組み込まれている製品が使用情報から、消耗品や補用品の交換時期、修理・メンテナンスタイミングのアラート情報を得て、何かある前に、何も起こらないようなサービスの提供、という形がかなり具体化してきています。 これらの様相に対するポーター氏の洞察を要約すると、 モノのインターネット(IoT:Internet of Things)」との呼称は、さほど意味がない。インターネットは、「ヒト」でも「モノ」でも、「つなぐ = 単に情報を伝達」するということ。接続機能を有するスマート製品という「モノ」の本質変化の方が重要 さらに、こう続けられています。 「接続機能を持つスマート製品の機能や性能の増大とそれが生み出すデータこそが、競争の新時代の到来を告げているのだ。企業はテクノロジー自体だけでなく、現に起きつつある競争状況に変化に目を向けなくてはいけない」 一方で、最新のテクノロジーが登場したとしても、競争のルールや競争優位に対する考え方は従来と変わらないと主張されています。そして、論文は、「5 forces 分析」へと流れていくのです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します