(真相深層)MRJ、消えた4000億円 三菱重、損失なしで資産を減額 - 減損損失から公正価値を求める時代背景、ダーティーサープラス関係から考察する

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■ 日本基準からIFRSに会計基準変更すると減損損失の計上を回避できるというのは全くの誤解です!

経営管理会計トピック

三菱重工業がMRJビジネスかかる資産価値を減損損失というP/Lにヒットさせずに減価したという記事を目にして、筆者の減損損失・のれんに対する会計処理への懐疑心が煽られてしまったので、早々にコメントを残すことにします。(^^)

2018/6/20付 |日本経済新聞|朝刊 (真相深層)MRJ、消えた4000億円 三菱重、損失なしで資産を減額

「三菱重工業が開発を進める国産初のジェット旅客機「MRJ」の資産約4000億円が、貸借対照表から唐突に消えた。資産の価値を引き下げる会計ルールに従えば損失を伴うはず。三菱重工が最終赤字になってもおかしくないが、損失を計上せずに懸案事項を処理できた。何が起きたのか。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「MRJは収益化のメドがたたない」を引用)

20180620_MRJは収益化のメドがたたない_日本経済新聞朝刊

同記事によりますと、
三菱重工の宮永俊一社長は5月8日に開かれた決算会見で、「将来の財務的なリスクが、きれいに消えた」とし、MRJの試験機などを資産に計上していた約4000億円の資産が、2019年3月期からキレイにほぼゼロとなり、B/S上、貸借バランスをとるために純資産も約4000億円減額しました。これにより、自己資本比率は34%と18年3月期末よりも5ポイント低下することになります。

開発の遅れで5回、納入を延期し収益貢献のメドがたたないMRJは遠からず減損損失が発表されることは公然の秘密でした。アナリストたちも拍子抜けだったのが、借対照表に計上している資産の価値(簿価)よりも評価額が小さくなる場合、すなわち企業が保有資産の価値を引き下げる場合は、減損損失をP/Lに計上するルールになっているのに、今回はP/Lでの損失処理がスルーされて行われなかった奇異さによるものです。

記事による解説では、三菱重工が日本基準からIFRSに変更した際に、MRJ資産の減損の兆候検知と、減損額の測定を行った際、するっと、減損損失の計上を免れたというのです。これは言葉が足りません。IFRSの方が資産価値認定が結果としてより厳格となり、IFRS適用初年度において、MRJの資産価値がゼロと算定されたため、会計基準移行に伴う処置の結果、異時点間のB/Sの差額を説明するP/Lにわざわざ減損損失という科目の計上を必要とせずに、資産価値ゼロにした、というだけのことなのです。これで、MRJのビジネスが健全になり、減損損失計上のリスクを免れたとか、IFRSに移行すれば、減損損失を計上する義務から解放されるとか、間違った認識が世の中に広まることのないように願ってやみません。

 

■ 日本基準とIFRSの減損損失処理の違いのポイント説明もちょっとずれている!

同記事では、日本基準もIFRSも通常は損益計算書(P/L)で減損損失が計上されるのが原則としながらも、両者で手続き(減損の判定手法)が異なるため、前章のような結果になったと後講釈しています。

「日本基準ではMRJが今後20年程度で稼ぐ金額と、資産の価値を比較する。減損の必要があると判断すれば割引率という数字を使い資産価格を算定する。MRJの場合、稼ぎ出す予定金額が資産価値よりも大きく日本基準では減損の必要はない。一方、IFRSでは最初から割引率を使う。」

「割引率は長期金利を基準に事業のリスクなどを考慮して決める。MRJはさらなる開発遅延などのリスクがある。投資回収の可能性を考慮すると割引率は10%を超えたという。仮に10%の割引率で20年後の4000億円を現在価値に換算すれば約600億円に減る。」

(下記は同記事添付の「IFRSの方が資産評価が厳しい」を引用)

https://www.nikkei.com/

まず日本基準ですが、減損損失が発生しているかの「認識」の手順として、割引前将来キャッシュフローが帳簿価額を下回る場合に、減損損失が発生したと判定します。この時、20年か対象資産の経済的耐用年数のより短い方(例:15年)を選択します。最長20年の場合は、20年後までの毎年のキャッシュフローを地道に計算し、21年以上先のものはひとまとめにしておきます。

「認識」手順ですわっ“減損損失が発生!”となって初めて、今度は「測定」手順を始めます。「回収可能額」を①正味売却価額(売却にかかるコストを引いたもの)か②使用価値(割引後の将来キャッシュフローの合計額)で割り出し、それと現在の対象資産の帳簿額との差額が減損損失額となります。

一方で、IFRSは日本基準で「認識」と「測定」、割引前キャッシュフローと割引後キャッシュフローというプロセスも判定基準も面倒くさい使い分けをせずに、割引後キャッシュフローを用いて一回で減損処理をやってしまう派なのです。ただし、ちまちまと毎年の将来キャッシュフローを計算するのは5年まで。それ以降は一定または逓減する成長率で推算する管便法で済ませます。

ここで生じる違いは、減損損失をする判定がIFRSの方が、割引後のキャッシュフローを使う点で厳しく、減損損失を早期に多額、認定する傾向があるということです。

新聞は、誌面の都合上、「20年」「割引率」について説明を割愛せざるを得なかったのでしょうが、会計学習者・実務者はこの辺の機微には敏感になっている必要があるでしょう。

 

■ 減損処理のビジネスモデルや経営管理に与える影響について

会計処理を精緻に説明するのが本ブログ(または筆者)の本意ではありません。それが経営やビジネスにどう影響しているのかを明らかにすることをミッションとして心得ています。

会計基準移行に伴う綾で、MRJの減損損失が大々的に発表されなかったので拍子抜けした、という報道より、なぜ多額の減損損失のニュースバリューがあるのか、その辺から会計に対する認識を改めて頂きたいと思います。それは、日本基準の損益アプローチ、IFRSの資産負債アプローチ、決算報告の目的、というものに帰結します。

M&AやCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)という手法が当たり前となった現在、企業/事業の現在時点の公正価値(時価)を常に把握、関係者に公開することを会計の使命として求められるようになりました。

よって、ゴーイングコンサーンとして、1年間の買って・作って・売るという正常営業循環によるビジネスの儲けがいくらだったか、という決算報告より、今の企業価値(資産価値)がいくらに増殖したのかの方に、ステークホルダーの関心の比重が傾いています。それゆえ、1年間の企業業績を損益計算で示す損益計算書(P/L)に計上される減損損失という科目の金額の多寡は、企業価値(資産価値)の目減り具合を知るためのあくまで補助的、二次的、間接的な情報に過ぎなくなっているのです。

従来は、1年間の資本増殖活動が損益活動であり、損益活動の結果の当期純利益の額が、資本の増殖、つまり企業価値や資産価値の増加を表すものであると考えられていた時期が、産業革命の頃から今まで長い間続いてきたわけです。その惰性がまだ生きているということ。

というのは、「包括利益」という利益概念が公式化され、すべての資本増殖活動が損益計算書(P/L)に漏れなく記載されなくても、「資本直投入」という会計技法で、P/Lを経ずして、直接貸借対照表(B/S)の数字を変動することが現在の日本会計基準では許容されているわけです。

これを、P/LとB/Sの「ダーティー・サープラス関係」と呼称します。

1年間の企業活動の成果の表示も大事ですが、それ以上にビジネスが、投資家が、経営者が、現在時点の企業価値(資産価値)を瞬時に求めたいとする期待を会計報告の在り方に込めています。

それゆえ、新聞が騒ぐほど、「減損損失」がP/Lに表示されないことはそれ程マグニチュードがある事とは到底思えないのです。まっとうに減損後の資産価値がB/Sに出ているのから、それでよしとすればいいじゃん。こう気楽に考えているわけです、はい。(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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小林 友昭
小林 友昭
現役の経営コンサルタントです。経営管理の仕組み構築や経営戦略の立案、BIシステムを中心としたIT導入まで手掛けております。
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