■ 女性人気NO.1雑誌! 大ヒット連発の編集長
『妻の本音ここにあり』
30,40代の女性に大人気の雑誌「VERY」。思わず手にしたくなる大胆なキャッチコピーで新しい時代を作りだしてきた。売上No.1のファッション誌、発行30万部以上。
表紙を飾る井川遥さんから見た今尾編集長の魅力とは?
「今尾さんの魅力って、底知れない情熱と、人とのかかわりの中ではすごく吸収して受け身な部分と、」一人の女性の中であるって、なかなかいらっしゃらないと思うんですよね。」
雑誌の世界に新風を吹き込む、スゴ腕編集長:今尾朝子(44歳)。
主婦が消費のカギを握る時代。あらゆる企業が今尾の力を求めて殺到する。主婦に圧倒的に支持される雑誌はどうやって生まれるのか? 今尾の下で働くのは13名の編集者と記事を書くライターたち。幼い子を持つ母親も多い。今尾は編集者が提案した企画のどれを採用するか判断し、すべての原稿と写真をチェックする総責任者だ。中でも腕の見せ所は“特集”と“タイトル”。その良し悪しが雑誌の売り上げを決める。
今尾は思わず主婦が目を止める斬新な企画でヒットを飛ばしてきた。例えば、スーパーマーケットで浮かないファッションの特集:「スーパーで浮かない、秋のオシャレ」。ファッション誌で王道のよそ行きの服ではなく、身近な日常でのオシャレに目を付けた。すぐにまねできる手軽なファッションから、少し背伸びをした憧れの姿までを具体的に紹介。これこそ知りたい情報だと反響を呼び、昨年No.1の売上を記録した。
編集長として今尾が大切にしていることがある。
『リアルの半歩先を見せる』
「単なる実用だったらつまんないじゃないですか。主婦の方の日常って基本ルーティンだし、毎日同じこと繰り返しているけど、その中に幸せを感じる瞬間があったり、というのをできるだけ我々はドラマティックにビジュアル化してお届けしたい。」
物静かで穏やかな今尾だが、決断は素早く、決して妥協しない。頭の中で考えているだけの企画では読者の心に響かない。常に心に置く信念がある。
『分かったつもりが一番危ない』
「分かっているつもりになることが一番危険だなっていう。(雑誌を)作っている人たちが決めつけてしまうのが一番危険なので。それは毎日のように進化させなくちゃいけないというか、更新していかなくちゃいけないので、情報が更新されていないと、自分から出すプランも必然的に面白くない。」
■ プロフェッショナルのこだわり 読者を知る
斬新な企画を次々と繰り出し、売上No.1雑誌を作った今尾さん。その企画の源は「読者調査」と呼ばれる地道な主婦への取材である。通常はアンケートや座談会など、大勢の人を前提に調査を行う。しかし、今尾さんたちは街で素敵な人をスカウトし、少人数で聞き込むことにこだわる。生い立ちや夫婦関係まで掘り下げて本音に迫るためだ。
「読者の方、毎日いろんなことに刺激を受けて進化されているので、部員たちが自分の想像力を最大限に発揮して、すてきなページをつくって見せるって意気込んで頑張っちゃうと思うんですけど。でもそんな、なんかあなたの個人的な想像力なんて誰も必要としていないっていうか、相手を知って必要とされていることに応えるということが全てというか、相手を知るっていうことからスタートしないと何も始まらないかなっていう。」
登場するモデルも主婦を多く起用している。読者から絶大な支持を受けている専属モデルの滝沢眞規子さん。元々は編集部員が街でスカウトした専業主婦だ。実際に三人の子どもを育てていることが魅力だと抜擢した。
(今尾さん)
「「自分も努力すれば」とか「考えを進めていけばああいうふうになれるのかな」みたいな、あこがれる対象って、やっぱり自分と同じ環境とか状況だったりする人に、女性は共感するんじゃないかなと思うので。」
(滝沢さん)
「私本当に素人からきて、上からこう何か言うんじゃなくて、いつも私と同じような目線に立ってやってくださるので、それで何とかやってこられたっていう感じなんですけど。今尾さんのおかげです。」
主婦のリアルに徹底的にこだわることで、作りものではない説得力を生み出す。これが毎号30万部を発行する大ヒットの秘密だ。
■ 子供の成長と共に変わる母親のファッションを提案する特集作りに密着
子供の成長と共に、徐々にオシャレの幅が広がっていく楽しみを伝えていく企画。担当編集者が、子供の成長に合わせて、ヒールの高さやバッグの種類の変化を伝える企画書を持ってきた。最後ページは成長した母子の関係を記述する内容。写真にはイメージとして仮の親子モデルを使う提案。今尾は、イメージ写真を使う場合は、記事本文に圧倒的な面白さが無いとダメと指摘した。
「作られたもので面白いのかなというか。これは単なるイメージだから。文章だけじゃん、見るところは。よっぽどこの話が面白くないと、このページの存在価値がすごく薄まるというか。」
「ぼんやりしちゃうと、一番つまんないかなというか。平らで当たり障りないのが。ぼんやり「ママってこうだよね」と言っちゃっていて、ママってどこにいるの? 誰? みたいな。勝手な妄想でそんな人いないじゃん。こんな服着るの誰?みたいな。なので、ぼんやりするより具体的ではっきりする方が、役に立つんじゃないかという確信がある。」
実際の親子を探し出してきて撮影に入った。編集担当が母子の写真を2枚にまで絞って、今尾のもとに提示した。しかし、今尾は何も言わない。
『私が答えじゃない だから、新しい』
「編集長とはいえ、私の考え一つで作ったら、何にも面白くないと思っていて、しっかり面白いと思うものを捕まえて、「これが私の意見である」って言ってもらわないと判断できないし、そこの情熱がないと。伝えたい気持ちがあふれていなかったら、人の役に立たないと思うので。私の考えや意思の全てが雑誌ではないっていうことが、すごい大事なことだと思っているんです。」
どちらの写真を使うか、あえて担当編集者に任せる。
■ 人気NO.1雑誌編集長 ヒットを導いた下積み
この日、今尾さんはとある飲料メーカに出向いていた。炭酸水をどう主婦層に買ってもうらか、アドバイスをしてほしいと頼まれたのだ。こうした依頼が引きも切らない今尾さんの雑誌。広告収入は5億円(単月)と、ファッション誌の中で群を抜く。今や売上No.1の雑誌の編集長を務める今尾さん。しかし当初は孤独な戦いを強いられていた。
「主婦くさい」といわれて
幼稚園から大学までずっと女子高で育ってきた今尾さん。好きだったファッションに関わりたいとフリーのライターを経て25歳の時、編集者になった。当時、編集部にいたのはほとんどが男性社員。女性の方が読者の気持ちが分かるはず。そう意気込んだが、いきなり言われた。
「スカートをはいているからって、女の気持ちが分かると思うなよ」
実際、当時のヒット企画であった「シロガネーゼ」は、男性社員からの提案だった。自分もヒットを生み出したい。今尾さんは朝から晩まで仕事に打ち込んだ。徐々に頭角を現し、読者アンケートで上位にランクインする実力を蓄えていく。そして35歳の時に、今尾さんに大きな転機が訪れる。当時、最年少でしかも女性初の編集長に抜擢されたのだ。しかし、雑誌の状況は厳しいものだった。創刊して12年。立ち上げからのコンセプトである優雅でハイクラスな主婦層を引きずっている。売り上げも伸び悩んでいた。
■ 人気NO.1雑誌編集長 四面楚歌だった過去
「ヴェリィっぽい人はこういう服着ているよねとか、こういうのが好きだよねっていうところに合う企画ばかりを、一度決めた“ヴェリィっぽい”から離れていない感じが私は気になりました。」
実際の主婦と雑誌がかけ離れているのではないか。今尾さんは記事の作り方を一から見直そうと決めた。しかし、その編集方針の転換に部下たちが猛反発。今尾さんと一切口をきかない者までいた。さらに、掲載する洋服も一新しようと考えたが、そこでも壁にぶつかる。新しいブランドに洋服を紹介させてほしいと頼み込んだが何度も断られた。
主婦やお母さんのイメージがつくのでやめてほしい
「タイトルで主婦とかママとか使うんだったら貸せませんとか、うちの服に主婦のイメージがつくと、ほかのお客さんが嫌がるんでとか。それはまあ、単純に悔しいなと思って。紹介してほしいって言っていただけるような雑誌にしてやろうって。」
どうすればこの現状を変えられるか? 頼るものはひとつしかなかった。読者である主婦に正面から向き合おう。今尾さんは保育園を回っては母親たちに話を聞いた。そして街に出かけ、女性に声をかけた。主婦は今、どんな暮らしをしているのか? 話を聞くうちに浮かび上がったのは、仕事や趣味を生き生きと楽しむ主婦たちの姿。今尾さんは最初のタイトルを決めた。
カッコイイ“お母さん”は止まらない!
これまでの雑誌で描いてきたかわいらしい主婦像からの大転換だった。さらに半年後、思いきった勝負に出た。企業から否定された“主婦”という言葉をあえて前面に出した。
「世の中の主婦の方々は、主婦ということに誇りを持っているし、肯定されたいというか、世の中に認めてもらいたいっていう感じを受けたんですよね。主婦らしいというのが褒め言葉になって、主婦くさいとかっていう言葉が聞こえなくなるように、世の中に対しても伝えていきたいなっていうふうには感じました。」
■ 人気NO.1雑誌編集長 主婦を全力で応援する
この特集が大ヒット。すると、周りの反応も変わり始めた。バラバラだった編集部員にいつしかまとまりが生まれてきた。そして主婦のイメージがつくのを嫌がっていたブランドも雑誌の方針に賛同するようになった。
「売れたっていうことは、読者の方たちには受け入れてもらったっていうことなので、読者が世の中を変えていくというか、私たちではなくって、その反響が世の中を変えていってくれたんだなと思います。」
読者の姿をまっすぐに見つめ、読者を信じて勝負する。その姿勢が新しい時代を作りだした。
■ 女性人気NO.1雑誌! 大ヒット連発の編集長
夕方6時前。女性編集者で唯一、子育てをしている今尾。この時間には仕事を切り上げ、保育園に娘を向えに行く。仕事の量も責任も、出産前と全く変わっていない。帰る道すがら、打ち合わせを続けることも度々だ。働く母親となった今、一筋縄ではいかない現実に直面していた。
『働くママのリアル』
VERY2月号の特集は「働くママのマイルール」。担当の副編集長がこのテーマで取り上げたいと思っていたのは、子育てのために働き方を変えた女性たち。タイトルは「働き方をゆるくして、幸せになったママ」。この“ゆるく”という表現がどうか? 今尾さんの意見を聞きたかった。今尾にとっても“タイトル”や“見出し”簡単に答えを出せるものではない。編集者にとって“タイトル”は命。妥協すれば雑誌全体を台無しにしかねない。
「企画=タイトルだし、それがバシッと決まっていたら、伝えることもバシッと全て決まると思うので、短くて伝えられたら最高ですよね。」
この企画のテーマは今尾の働き方そのものでもある。今尾もまた出産を機に働き方を変えた一人だ。どんなに忙しくても夕方には会社に出る。そのルールを自ら決めた。しかし、家に持ち帰った仕事に深夜まで追われることも少なくはない。決してきれいごとだけではない毎日を、今尾は編集部員にさらけ出している。
「子供が風邪ひいて、きょう病院に行かせてもらってから行きますとか、みんなに迷惑かけた「手足口病」意外と3日で治っちゃったからとか、ほんと自分のことは包み隠さず伝えていて、この先、私みたいな立場になっていく部員たちがたくさんいるので、あのとき今尾さんの子供はこうだって言っていたよなとか、まあ、あんな感じだったらできるんだなとか、諦めなくてもいいんだなとか、かすかな記憶に残っているといいなと思います。」
『働くママのリアル』
今尾のように、働き方を模索している母親たちをどう表現するか?
(藤田副編集長)
「言葉は慎重に選びたいなと思っているんですけど、今回の企画で言えば(今尾は)ゆるやかに入ります。でも決してゆるい時間、一瞬もないじゃないですか、5時半まで。あれを何て言うかですよね。今尾さんを。」
取材した人に共通していたのは、皆、確固たる意志を持っていること。それをタイトルにすることはできないか?
タイトルが決まった。
「働く時間・時間帯は自分で決めたい」
そんなママたちが増えています
取材してきた人たちにはどうしても「ゆるやか」という言葉ははまらない。企画の立ち上げからこだわっていた言葉を思い切って削った。そしてさらにギリギリまで推敲する。
「いいね!その働き方」
「働く時間は自分で決める」
「そんなママたちって潔いい!」
ひとつ雑誌が完成しても、次の号が待っている。
プロフェッショナルとは
絶えない情熱。私たちの仕事は締め切りがあるんですが。
でもこれでいいやって思っちゃったら終わりだし。
きれいに作ろうと思っちゃっても終わりなので。
情熱を絶やさないことが一番大事かなと。
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番組ホームページはこちら
(http://www.nhk.or.jp/professional/2016/0118/index.html)
VERY|光文社のホームページはこちら
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→再放送 1月23日(土)午前2時55分~午前3時43分(金曜深夜)総合
(筆者注:妻がこの雑誌、大好きなんですよね!)
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