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ROI: Return on Investment 投資利益率(1)

財務分析(入門)
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■ 投資利益率の迷宮(ラビリンス)へようこそ!!

管理会計(基礎編)

今回から「投資利益率」のお話をします。単に、「財務諸表のこの数字とこの数字を組み合わせると、こんな財務指標がでてきます」が知りたいのでしたら、ググってもらえれば、初心者向けから上級者向けまでの解説記事に必ずヒットすることでしょう。当然ながら、筆者の場合は、「なぜ・なに・どうやって」を説明していくつもりなので、フツーの解説以上を目指していきたいと思います。

「ROI:Return on Investment(投資利益率)」(個人的には、「投資収益率」の方がしっくりくるのですが、、、)は、何かビジネスをやるときに最初に用意した「元手(投資)」がいくらの「儲け(リターン)」を生むことができたのか、百分率で表したものです。ROIは、日本語の別名では、「投資対効果」と呼ぶこともあります。

財務分析(入門編)_世界で最もシンプルなROIの計算式

 

■ 「儲け」を考えるときには、時間軸の概念が大事

ここで最初の注意事項なのですが、ビジネスをやっていると時間って大切な概念です。あなたが、銀行に定期預金として100万円を預けるとしましょう。その預入利息が5%で、1年後の満期になったら5万円の利息が手に入る、と考えたとき、ROIはどう計算しますか?

1年定期預金のROI = 5万円 ÷ 100万円 = 5%
ですけど、満期が2年で、受取利息が10万円だったら、ROIをどういう風に計算しますか?

2年定期預金のROI = 10万円 ÷ 100万円 = 10%
このまま眺めていると、どう考えても、2年定期預金の方が、ROIが大きいので、2年定期預金の方がより儲かるビジネスチャンスである、と判断するのが人情だと思います。

でも、1年定期預金は、1年後に5万円が手に入りますが、2年定期預金は、さらに1年経たないと、利息分の10万円が手に入りません。儲けが手に入るまでにかかる期間が異なるものを、単純に並べるだけでは、どっちがより儲かる話なのか、通常は判断に困るようです。
では、この2年間は市中金利が固定されていると考えて、1年物の定期預金に2年間繰り返し預けてみるとどうなるでしょう?

1年目: 元手は100万円、儲けは5万円。1年後の終わりに手元には105万円。
2年目: 元手は105万円、儲けは、105万円 × 5% = 5.25万円。

1年定期預金を2年繰り返したときのROI = (5万円 + 5.25万円) ÷ 100万円 = 10.25万円 ÷ 100万円 = 10.25%

時間軸を2年で固定して、2つの定期預金商品を比べた場合、1年定期預金のROIの方が大きくなります。
1年定期のROI < 2年定期のROI < 1年定期を2回繰り返しのROI

5% < 10% < 10.25%

ROIを比較する時には、時間軸を意識する必要があります。

 

■ 「リターン」と「投資」を拾ってくる先

何の儲かり度合いをROIで計算するかによって、分子と分母を拾ってくる先が様々に変化するのもROIの特徴です。
下記は、通常の「財務分析入門書」にあるROI計算式の参照元の解説図になります。

財務分析(入門編)_財務分析の世界で最も基本的なROIの計算式

損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)をいきなり持ち出す前に、根本の考え方をきちんと理解する必要があります。ROIは、リターンを得るために、先行して投下された投資(元手)の回収率を示すものなので、理屈の上では、リターンが必ず会計的な「利益」で、投資が必ず会計的な「資産」「資本」となるとは限らない、ということです。

例1:「マーケティングROI」
とあるBtoC企業が、広告宣伝活動に投資した結果、商品販売からいくらの利益(粗利)をあげることができたか、広告宣伝活動に投下したコストの回収率で採算をみたい(すなわちROI評価)と考えた場合、
マーケティングROI = 粗利 ÷ (広告宣伝費 + 関連人件費) × 100
という計算式でROIが計算されます。ここには、「貸借対照表(B/S)」は出てきませんね。

例2:「新製品開発ROI」
とある製造業で、10年にわたって開発してきた新製品がようやくお客様に売れて、幾ばくかのお金が企業に戻ってきました。10年の努力がどれくらい報われたか、これまでに新製品開発に投下してきた資金がどれくらいの割合で回収されたか、新製品の粗利を使ってROI的に測定してみたいと考えた場合、
新製品開発ROI = 粗利 ÷ (10年間、P/Lに計上してきたR&D費用の合計) ×  100
という計算式になるはずです。この場合も、「貸借対照表(B/S)」は登場してきませんよ。

例3:「キャッシュフローROI」
とある投資ファンドで、今回手がけたM&A案件(赤字企業を買収してきて5年間かけて再生し、競合企業に売却)がいくらのキャッシュを生んだのか、投資収益性をROI的に結果検証してみたいと考えた場合、
キャッシュフローROI = 入手したお金 ÷ (買収資金 + 5年間の支援コスト) × 100
という計算式で、今回のディールの採算性を評価するはずです。この場合、入手したお金は、「キャッシュフロー計算書」または「貸借対照表」で確認するしかないですし、買収資金は貸借対照表で「出資金」、損益計算書から5年間の支援コストを持ってくるしかありません。

 

■ 「ROI」と「ROA」「ROE」「ROIC」の関係整理は包含関係で

前章で説明した通り、何の儲かり度合いを測定するかによって、「ROI」を構成する分子分母が様々なソースから取ってくる必要性を理解してもらったとして、「ROI」と「ROA」「ROE」「ROIC」の根本的な違いはどこにあるのでしょうか?
一番簡単な理解方法は、「包含関係」で整理することです。

財務分析(入門編)_ROIのベン図

数学的に表現すると、「ROI」が「一般解」で、「ROA」「ROE」「ROIC」などは「特殊解」。
分子は、いろいろ議論があるので別の回に説明するとして、今回は分母だけ「ROA」「ROE」「ROIC」の一般的に言われている違いを図示します。

財務分析(入門編)_ROIたちの分母 七変化

重要な点は、何の投資収益性を評価したいのか、によって「何」を意味する分母の定義が変わるということ。それは、外部の投資家が企業や投資案件の投資収益性を測るときには、概して「貸借対照表(B/S)」の右側(貸方)を使いますし、経営者が自社や競合の事業収益性をその事業に使用した(投下した)資産の回収率で測るときには、概して「貸借対照表(B/S)」の左側(借方)を使う傾向が高いことからも窺い知ることができます。
まあ、基本原則を学ぶときには、避けて通れない概念説明から入りました。理屈はどうでもよい、使い方と数字の拾い方だけ分かればよい、という読者はもうしばらくお待ちください。

⇒「ROI: Return on Investment 投資利益率(2)
財務分析(入門編)_ROI Return on Investment 投資利益率(1)

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