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ソフトバンクのアローラ氏 600億円分の自社株買い 長期関与の意思明確に

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 報道により影響されるソフトバンクの株価
経営管理会計トピック

何かと話題に上る、高額報酬で迎えらえたソフトバンクのアローラ副社長ですが、今度は、600億円分のソフトバンク株所有の意思表明をしました。

2015/8/20|日本経済新聞|朝刊 ソフトバンクのアローラ氏 600億円分の自社株買い 長期関与の意思明確に

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「ソフトバンクグループは19日、ニケシュ・アローラ副社長=写真=が個人で約600億円分の自社株を市場から取得すると発表した。足元の株価水準で発行済み株式数の約0.7%にあたる。孫正義社長が米グーグルから昨年引き抜いたアローラ氏は今年6月に副社長に就いた。私財を投じて自社株を持ち、長期で経営に携わる意思を明確にする。」

新聞記事では、自社株所有の意思表示は、中長期的に経営に関与する意思表示としてとらえ、好意的に受け取られているようです。

ちょっとその前には、高額報酬に対して、批判的な報道も多かったのではないでしょうか?

2015/7/3|日本経済新聞|朝刊 (真相深層)165億円は高い? ソフトバンク孫氏後継者

「ソフトバンクグループが2014年9月に米グーグルから引き抜いたニケシュ・アローラ副社長(47)に対し、約165億円の報酬を支払ったことが明らかになった。」

「「グーグルでの仕事に満足しています」。アローラ氏はこの3カ月前にも孫氏の移籍の誘いを断っていた。「レッツ・トライ」と熱心に口説く孫氏に根負けし、紙ナプキンを受け取った。この瞬間アローラ氏のソフトバンク移籍は決まった。
 それから1年。ソフトバンクが6月19日に提出した有価証券報告書で紙ナプキンの数字の意味が明らかになった。一般的にイメージされる年俸とは異なり、入社に伴う契約金が大部分を占めるとはいえ、アローラ氏に支払った165億5600万円という金額が破格なことは間違いない。」

この自社株取得の報道のおかげで、せっかくの自社株買いを発表しても、株価が思ったほど上昇しなかったソフトバンク株に対して、市場が好意的に反応しました。

2015/8/21|日本経済新聞|朝刊 ソフトバンク株、一時4%高 副社長の「自社株買い」で

「20日の東京市場でソフトバンクグループ株が一時、前日比4%高い7772円まで上昇した。ニケシュ・アローラ副社長が個人で約600億円分の自社株を買うと前日に発表したことが手掛かり。金額自体の大きさに加え、同氏は「個人としても将来性に賭ける」と株購入の理由を説明しており、収益成長に自信を示した点が好感された。」

「ソフトバンクは会社としての約1200億円分の自社株買いを17日に終えたばかり。アローラ氏の株取得で需給がさらに改善するとの期待も買いを誘ったようだ。」

ソフトバンク(日足)_日本経済新聞朝刊_20150821

(上記新聞記事よりチャート抜粋)

 

■ 自社株所有に対する経営者のコミットメントの意味とは?

創業者ではない経営者が、招聘を受けた企業の株を所有するということは、招聘先企業の長期的な経営にコミットしたと受け止め、長期的視点による経営者の自社の経営へのコミットメントは、短資眼的な経営より、長期的な企業業績が実現される可能性が一般的に高い、との認識と結びつけたからこそ生じる理解でしょう。

こうした理解は、外資系企業、特に米国企業におけるCEO等の経営のプロ達が短期間で業績を上げて、高額報酬をもらっているものの、例えば長期的な開発投資の原資を小さくすることで、任期中の高収益を演出する、といったテクニックを封じる意味で、より長期的なコミットメントと理解できる自社株所有を歓迎するものなのでしょう。

ここに近代巨大ビジネスの経営の基本ルールである「所有と経営の分離」(バーリーとミーンズ)を再考する必要があるのかもしれません。あるいは「エージェント問題」とも称されるものです。自分の財布だと思えば、人は真摯に経営してくれるだろう、という「動機付け」の問題としての捉え方です。

また、CEOなどの経営者への報酬形態にも様々な考え方があります。

① 固定給(現金支払)
② 業績比例給(現金支払)
③ ストックオプション
④ 自社株支給

まず、会計的というかファイナンス的な視点から。
①は論外として、②でも、翌期のキャッシュアウトを招くので、いかに高い業績を達成したとしても、ファイナンス的には資金繰りに影響します。③は、損益計算書上は、オプション付与分は期間費用となりますが、行使した時点で資本勘定と相殺され、実際に経営者の手に入る現金は市中から供給されます。④は、キャッシュフローの動き的には③と同様の効果があります。

次に「動機付け」視点からの報酬のあり方の視点から。
経営者に対する報酬制度として、「ストックオプション」ではなく「自社株支給」の場合の方がより優れた動機付けとなる、と一般的には言われています。というのは、会社業績と株価が高い正の相関を示している場合、業績が良好な場合は、オプションを行使して利得が経営者の手に入りますが、業績が悪化して株価が下がった場合は、オプションの行使権限を放棄します。つまり、「ストックオプション」は、一か八か、業績UPが実現できそうなリスクテイクを経営者にさせやすくなります。

一方で、「自社株支給」ですと、詳細な制度設計に実務的には依拠するのですが、一般的には、「株価下落 = 業績悪化」に対しても、経営者は相応に「負の報酬 = 支給株式の減少および保有株価の下落」を受けるので、より慎重な経営判断を導くことになります。

そう考えると、一概に、経営者のノウハウ・スキル・経営判断を最大限引き出す方法として、自社株保有がオールマイティな解決策と言い切れないと思います。保有株価の下落を伴わない施策を選び、自由に売却できる期間が到来するのをひたすら待つことも可能になります。

ただし、今回のソフトバンクの件は、ひとつは、次期経営トップ含みでかつ高額報酬で迎えられたアローラ氏への風当たりを弱めること、ふたつに、自社株買いをしても市場が反応しなかったので、効果的な株価対策として、アローラ氏の自社株買いを大々的に利用する、「アナウンス効果」を得たかったのかもしれません。

 

■ 自社株所有に対する裏は本当にないのでしょうか?

今回、半年かけて、アローラ氏はソフトバンク株を取得するそうですが、その期間は、会社が600億円もの自社株買いを実施するのと同じ効果を市場に与えます。そこで、ゲスの勘繰りですが、2つの指摘をさせて頂きます。

1)その600億円もの自社株買いの原資はどこから来ているのか?
2)アローラ氏の保有株式の売却には何らかの縛りはないのか?

1)については、現時点のアローラ氏の私的資産(金融資産)の投資ポートフォリオの組み替え以上でも以下でもない意味しかないのでしょうか? これから支払われるアローラ氏への報酬がその原資になっている可能性は無いのでしょうか? または、自社株購入のための資金をアローラ氏個人名義として、どこかから貸付けている人がいたとしたら、それはいったい誰なんでしょう?

2)創業者も含めて、経営者が自社株を保有していたとしても、市中売却や何らかの経済的行為による譲渡契約が、次のどのタイミングで行われるのか、将来の行動を約束する(縛る)ものは何か明らかになっているのでしょうか? 雇われ経営者が自社株を購入したからといって、その事実だけで、しかも現時点の状態だけで、中長期のその会社への経営のコミットメントが約束されるものではないとだけ、ここでは強調しておきます。

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