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スピンオフ税制 コシダカHDが初適用 - スピンアウト、カーブアウト、スプリットオフと何が違う?

経営管理会計トピック_アイキャッチ 実務で会計ルールをおさらい
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スピンオフ税制の本質は簿価取引にあり

2017年度税制改正にて、一定の要件を満たすスピンオフを適格組織再編成として位置付けるスピンオフ税制の導入後、初めての適用事例になるという報道がありました。

ここでは、「スピンオフ」に代表される法人格を使った組織再編・会社分割の経営戦略の各種法を簡単に整理しておきたいと思います。読者の中には、「『スピンオフ』が『スピンアウト』『カーブアウト』、挙句の果てには『スプリットオフ』って何が違うの?」と混乱されていらっしゃると思いますので。

東京証券取引所第1部に上場するコシダカホールディングス(HD)は10日、子会社を本体と資本関係のない独立した会社にする「スピンオフ」という仕組みを使って事業を分離すると発表した。子会社や事業の分離に税金がかからないようにした「スピンオフ税制」を利用する。2017年度に制度が整備され、適用は初めてとなる。

2019/10/11 |日本経済新聞|朝刊 スピンオフ税制 コシダカHDが初適用 傘下事業、独立会社として分離
株主は分離した会社でも株主になれる

同記事添付の「株主は分離した会社でも株主になれる」を引用

この図にしたがい、コシダカHDの再編の本質をかいつまんで説明してみます。

  1. 100%子会社である「カーブスHD」の株式を、「コシダカHD」の既存株主に現物配当として交付する
  2.  従来は、次の3つの課税対象があった
    1. コシダカHDにはカーブスHD株式の譲渡益に対する課税
    2. コシダカHD株主に対するみなし配当課税
    3. コシダカHD株主に対するコシダカHDが得た譲渡益に対する相応分の課税
  3. ただし、2017年度税制改正により、一定の要件(税制適格要件)を満たす場合、完全子会社株の親会社株主への全部の分配は、完全子会社の資産・負債が簿価で引き継がれたと考えて、譲渡損益の計上は無し

上記2.3は、2.1でコシダカHDが得た譲渡益を認識すれば、コシダカHDの株主も相応の譲渡益の経済的効果を得ているとみなして課税されるセット物と考えればスッキリするでしょう(かも)。

2017年度税制改正におけるスピンオフ税制のあらまし

税務目線での「スピンオフ」とは、株主に対して、会社の事業を切り出して設立した子会社の株式又は既存の子会社の株式を交付することにより、事業又は子会社を切り離す行為をいいます。

2017年度(平成29年度)の税制改正では、「新設分割型分割によるスピンオフ」と「株式分配によるスピンオフ」の2つを組織再編成の一類型として位置づけ、適格要件に該当するものについては親会社(現物分配法人)における完全子会社株式の譲渡損益について課税しないこととするとともに、株主へのみなし配当課税も生じないこととなりました。

「新設分割型分割によるスピンオフ」は、コシダカHD内の一事業に新たに法人格を与えて、現物出資により新法人(カーブスHD)を新設する場合になります。

「株式分配によるスピンオフ」は、コシダカHDが既に抱えている100%子会社(カーブスHD)の株式をコシダカHDの株主に分配する場合になります。本件は後者に該当します。

(以下、「平成29年度税制改正の概要」の抜粋)

平成29年度税制改正の概要(抜粋)

外部リンク 平成29年度税制改正の概要(PDF)(財務省HP)

では、税制適格要件の内容が次に気になるところ。「新設分割型分割によるスピンオフ」と「株式分配によるスピンオフ」それぞれの要件を以下に記載します。

新設分割型分割によるスピンオフ(法法2十二の十一ニ、法令4の3⑨)

  1. 分割型分割に該当する分割で単独新設分割である
  2. 分割に伴って親会社の株主の持株数に応じて分割承継法人の株式のみが交付される
  3. 親会社が分割直前に他者による支配関係がなく、分割承継法人が分割後に他者による支配関係がない見込である
  4. 親会社の分割前の役員又は重要な使用人(分割事業の業務従事者)が分割承継法人の特定役員となる見込である
  5. 親会社の分割事業の主要な資産及び負債が分割承継法人に移転している
  6. 親会社の分割直前の分割事業の従業者のおおむね80%以上が分割承継法人の業務に従事する見込である
  7. 親会社の分割事業が分割承継法人において引き続き行われる見込である

株式分配によるスピンオフ(法2十二の十五の三、法令4の3⑯)

  1. 現物分配により親会社の株主の持株数に応じて完全子法人株式のみが交付される
  2. 親会社が現物分配直前に他者による支配関係がなく、完全子法人が現物分配後に他者による支配関係にないことが見込まれている
  3. 完全子法人の株式分配前の特定役員の全てがその現物分配に伴って退任をしない
  4. 完全子法人の株式分配直前の従業者のおおむね80%以上が完全子法人の業務に引き続き従事する見込がある
  5. 完全子法人の主要な事業が引き続き行われる見込である

外部リンク スピンオフ税制(Spin-off)|KPMG
外部リンク スピンオフ税制について~平成29年度税制改正~|Deloitte

企業再編(組織再編)会計のあらまし

会計側も企業再編(組織再編)については、「企業結合に係る会計基準」とともに、「企業会計基準第7号 事業分離等に関する会計基準」として整備されています。簡単にこの会計基準の基本的考え方を整理しておきます。

外部リンク 事業分離等に関する会計基準(PDF)(企業会計基準委員会)

事業分離:
会社分割や事業譲渡、現物出資等の形式をとり、分離元企業が、その事業を分離先企業に移転し対価を受け取ること

分社型の会社分割(物的分割):
分割の対価として承継会社の株式(その他の資産)を分割会社自身に割り当てる形式

分割型の会社分割(人的分割):
分割の対価として承継会社の株式(その他の資産)を分割会社の株主に割り当てる形式

経営管理会計トピック_会社分割の4類型

関連記事 事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる (前編)事業分離会計処理を概観する!

なお、会社法(平成18年)では従来の「分割型分割(人的分割)」の規定は廃止され、分割型分割は「分社型分割+剰余金の配当」と位置づけられています(会社法763条12号)。

よって、会計基準としては会社法によりそい、分割型分割(人的分割)は、分社型分割(物的分割)とこれにより受け取った承継会社又は新設会社の株式の分配という2つの取引と考えます。

それゆえ、会計基準では、分割型分割の場合、分離元企業(分割会社)の会計処理については、特段の定めをしていません。

カタカナが乱れ飛ぶときは要注意!

税務はもとより、会社法にも会計基準にも「スピンアウト」「スピンオフ」「カーブアウト」「スプリットオフ」といったM&A用語は登場しません。拠って立つ根拠条文が無いせいで、これらの用語は使用者による定義が曖昧になっています。ここではできるだけわかりやすく、また多数決の論理でできるだけクリアに言葉の確認をしておきたいと思います。

スピンオフ(spin-off):
広義には、企業の組織再編戦略の1つで、企業内の事業を独立させて、新組織・新会社を作ることをいう。スピンアウトとは同義となる。
狭義では、親会社(分離元企業・分割会社)と関係が切れずに、親会社のブランドや販売チャネル、管理組織などの資産を活用できる場合をさす。企業が経営戦略として行う分社化の意味合いが強い。
特に、新会社の株式を親会社の株主に割り当てる方式(無償交付)をさすこともある。

スピンアウト(spin-out):
広義には、企業の組織再編戦略の1つで、企業内の事業を独立させて、新組織・新会社を作ることをいう。スピンオフとは同義となる。
狭義では、既存事業の継続や新規の事業化が困難である場合、撤退を避けてその事業を分離・独立して存続させる方法をいう。企業から一部の人材が飛び出し、別会社(ベンチャー企業)として分離・独立する意味合いを強く持つ。

カーブアウト(carve-out):
親会社が戦略的に子会社や自社事業や技術の一部を切り出し、外部資本や経営参画を受け入れる形でベンチャー企業を設立する経営戦略のことをいう。単純な分社化とは違い、外部パートナー企業の協力を仰いで事業成長の加速を目指す形態をさす。
親会社にとっては、現状ではコア事業と位置付けられない新規事業を外部資本によって推進し、将来の株式公開などによる利益獲得が目的となる。

スプリットオフ(split-off):
特定の事業や部門を切り離して新設した新設子会社の株式を親会社の株主へ償還対価として交付し、当該子会社又は事業を切り離す組織再編のことをいう。多くのケースでは、親会社(元会社)の株式と新会社の株式交換の形でなされ、交換後に親会社が減資をするところまでを含む。
新設分割または現物出資による新会社の設立と、全部取得条項付種類株式などを使った自社株買いで実行されることが多い。

ニュアンスの違いは嗅ぎ分けているつもりですが、分割か分社か、目的か手段(株式交換や現物出資など)か、重点の置きどころの違いを汲み取って頂ければ幸いです。

以下は、定義文を作成するのに参考にしたサイトです。

外部リンク 情報システム用語事典:スピンオフ| ITmedia エンタープライズ
外部リンク 証券用語解説集:スピンアウト|野村證券
外部リンク 情報システム用語事典:カーブアウト| ITmedia エンタープライズ
外部リンク M&A事業承継 用語集:スプリットオフ|山田コンサルティンググループ

(まとめ)最後にコシダカHDの取引に戻ってみる

いろいろと、雑学を身に着けたうえでもう一回、冒頭の取引を見てみます。

税制面の優遇措置がある「スピンオフ制度」を使ってフィットネス事業子会社を分離すると10日に発表したコシダカホールディングス(HD)の株価が、11日急落した。同制度が2017年に整備されてから初の案件で、分離上場にあたっての新株発行と業績の伸び悩みが嫌気された。ただ海外投資家が警戒する親子上場問題の解決につながる大きな意義がある。

2019/10/12 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)「スピンオフ」 試練の船出 第1号コシダカ 試金石に
コシダカHDの「スピンオフ」後の株価イメージ

同記事添付の「コシダカHDの「スピンオフ」後の株価イメージ」を引用

記事によりますと、10/10に発表された19年8月期決算のセグメント別業績では、コシダカHDに残るカラオケ事業の営業利益は前の期比43%増の45億円、分離されるカーブスHDが手掛けるフィットネス事業は6%増の56億円。各々の現在の収益性と将来の成長予測の違いが分かるのだから、企業価値の再評価による適正株価は代替把握できるはず。

既存株主はこのスピンオフに伴い、コシダカHD株と新しいカーブスHD株を現物で受け取るので、理論的には大幅な減価は生じないはずですが、分離するカーブスHDは20年3月に予定する上場にあわせ公募増資も予定しているとのこと。希薄化懸念等、いろいろあって、市場は値踏みの最中なのでしょう。

ちなみに、コシダカHDの過去記事ログが手元にあったのでこちらもご参考まで。

コシダカホールディングス(HD)は17日、「カーブス」ブランドでフィットネスクラブを展開する米カーブスインターナショナルホールディングスなど2社を買収すると発表した。取得額は約185億円。これまで米社にロイヤルティーを支払い、国内でカーブスを店舗展開していたが、本家を傘下に収めて海外へも事業を広げる。

2018/2/18 |日本経済新聞|朝刊 コシダカHD、米フィットネス「カーブス」買収発表

企業価値(株主価値)最大化を目指し、企業経営者とは本当に大変な職業です。^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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