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(スクランブル)株価に効くのは売上高「利益に驚き」長続きせず  - あなたの財務分析フレームワークは本当に大丈夫?

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 増益サプライズも短期トレードには効果が薄いのは当たり前!?

経営管理会計トピック

本ブログは株式投資指南を主題とはしていないのですが、ディスクロージャー(決算)数値、とりわけ会計に対する考え方について、コメントしたくなりましたので今回取り上げてみます。

2016/8/11付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)株価に効くのは売上高「利益に驚き」長続きせず

「足かけ3週間に及んだ上場企業の4~6月期決算発表が10日、最後のヤマ場を迎えた。この日は400社あまりが決算を発表。株式市場では想定外の業績を発表した銘柄が急激に動く局地戦が至るところで繰り広げられた。一見すると見慣れた「決算トレード」だが、例年とかなり様子が異なる。株価が瞬時に大きく反応する割にサプライズが長続きしないのだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

まずは、同記事添付の「ポジティブ決算は株価上昇が短命に」と題された、決算発表日前後の8日間の株価変動を表したチャートをご覧ください。

20160811_ポジティブ決算は株価上昇が短命に_日本経済新聞朝刊

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の古川真氏の分析によりますと、
「今回の決算で経常増益率が大きかった企業の株価は、過去のポジティブ決算の反応に比べ約2倍上昇した。ただ、それが続くのもせいぜい3~4日。8日後には当初の決算サプライズは完全に消えてしまっている。逆もしかり。ネガティブ決算は直後に大きく下げるが、10日後には決算発表前の水準を取り戻している。」

2016年4~6月期決算において、経常増益率が高い上位25%の銘柄の対TOPIX相対パフォーマンスが、過去10年平均に比べて、決算発表直後は約2倍以上に大きく反応するものの、その効果は6日程しか続かず、その後は過去平均を下回るというもの。決算サプライズは、8日後にはほぼ消えている現象が観察されるというのです。

その理由として、2つ挙げられています。

①「コンピューターを使った自動売買によるスピード勝負の決算トレードの存在が高まっているから」
皆(大手証券会社から新興投資ファンドまで)が、同じようなプログラム(アルゴリズム)を乗せたシステムで、同じ増益発表データを用いて、決算トレードを手掛けるものだから、さらにオーバーシュートしすぎて、その値動きで「売り」シグナルが出て、すぐにリターンが市場で回収(実現)されてしまうというもの。

② ファンダメンタルを重視する長期投資家の参加が薄いから
「短期マネーと日銀のような公的マネーしか目立った売買主体がいないことの裏返し。長期投資家のリアルマネーが追随すればこんな短期間で決算サプライズが消えるはずがない」

市場参加者が、最初から短期決戦指向だから増益効果(決算発表後の株価上昇)を早めに刈り取って、すぐさま銘柄を乗り換えてしまうため、決算サプライズが長続きしないというもの。

 

■ 決算数字から企業の収益性と成長力をどう判断するのか?

筆者の見解の1つ目は以下の通り。
『決算数字が企業の収益性と成長力を正しく表しているかどうかと、株式市場で短期的に鞘をとって株式売買で儲けることができるかどうかということに相関はない』

公開された決算数値も、株式市場では株価形成のシグナルの1つ。それが短期的な株価変動にどう影響するかを事前に予測して、値動きを読んで売買する人たちにとって、増益サプライズも減益サプライズも、そういった反対取引(皆が上がると思って買った需給バランスがもたらす株価変動の逆手を取る)のトリガーになるだけです。そこでの決算数値はあくまでトレードの判断材料にすぎず、そもそもこの決算数値からこの株価になるのはおかしい、と思う方がおかしいのです。

2つ目の見解は次の通り。
『決算は過去の業績を表しただけのもので、将来の収益力や企業成長の動向をそのまま表したものではない』

こちらは、ファンダメンタリスト、こう書くと、なにやら宗教的な「原理主義者」の匂いがするので、「企業価値評価に基づき株式売買をする人」と言い換えると、そういう人達は、決算数値を含む情報から、自分たちの手で、投資対象企業の将来の収益性と成長力を予測して、現在、値付けされている株価と照らし合わせて、お買い時かどうかを判断するものです。こちらは、「バリュー投資家」と呼ばれることが多いみたいです。

つまり、会計とずっと付き合ってきた筆者としては、チャーチストもファンダメンタリストも、決算数字自体にそんなに重きを置いていない(それだけで投資を判断するわけではないという意味で)ということが言いたいのです。だからといって、決算数字を正確に作ることの重大性が落ちるとか、過去業績数値なんかは重要性が無い、というわけではありません。念のため。

謙虚に、経理屋として、投資家の皆様をはじめとするステークホルダーに対して、粛々と過去行業績を適正(制度会計ルールに従順にという意味)に、ディスクローズするのが使命だと考えているだけです。

 

■ もう一つの問題。「売上」か「利益」のどっちが重要かということについて

新聞報道が間違っているという意味ではなくて、あくまで真剣に会計を考える上で慎重に考えるべき点として、聞き捨てならない記述がありましたので、今度はそちらの論点に移りたいと思います。

1.第1四半期決算特有というアノマリーの存在
「これだけなら日本株市場の投資家層の薄さという毎度おなじみの話で終わってしまうが、第1四半期決算にはあまり知られてない株価反応の経験則がある。
この段階で売上高の通期予想を上げた銘柄を買い、下げた銘柄を空売りすると、その後1年にわたって高い運用成績をあげられるというのだ。一方、同じ投資戦略を利益予想の増減で手掛けてもリターンはほとんど得られない。」

2.売上高の方が、利益より裁量的ではない分、より企業業績を正しく表現するとの見解
「クレディ・スイス証券の栗田昌孝氏の分析によると第1四半期後というタイミングは、他の四半期後よりリターンが高くなるという。売上高は利益に比べ企業側が意図的に動かせる余地が少なく、「生の稼ぐ力」の変化を示すシグナルになるからだろう。栗田氏は「売上高の変化は利益ほど注目されない分、株価の反応も長続きする」と話す。」

これらの事象と理由を説明するために、同記事に添付された「売上高予想に着目した投資のリターンは高い」と題されたチャートを下記に転載します。

20160811_売上高予想に着目した投資のリターンは高い_日本経済新聞朝刊

まず、1.からコメント。
第1四半期の前年対比での増収は、他の四半期に比べて、年度末の本決算に対して、幸先の良い好スタートを切ったという印象を与え、そのまま行けば、年度末の好業績(この場合、何を持って好業績とするかも実は問題なのですが)が期待できそうだ、という投資家の判断に大きく影響するということ。これは、「ゴーイング・コンサーンの前提」に基づき、企業業績を、1年という決算期で区切って損益計算するところに遠因があります。

というのも、経営者側も投資家側も、年度末決算の業績結果というシグナルを重要視していると仮定した場合、1Qでの増収は、年間を通しての高い操業度を予測させます。高い操業度は、高レベルの固定費の存在を前提とした場合、内製品等の商材の平均原価単価の著しい下げを想起させます。実際もそう計算されるので、想起に留まらず、実際の決算数字も利益にプラスに働きます。要は、予定操業度より実際操業度が上がると、操業度差異が有利差異となる分、好決算・高配当が予想されるのです。

逆に、1Qでの増益は、必ずしも年間を通しての増益になるかどうか、財務分析のより詳細なチェックが無いと、本当にその数字だけでは読めないんですよね。四半期決算をよくするためだけの、費用収益の計上タイミングのずらしとか、連結範囲の調整とか。製造業ならば、年間操業度を読むのに、季節変動をきちんと想定しないと。

この種の問題を考えるにあたって、下記記事が大変参考になります。

2016/7/18付 |日本経済新聞|朝刊 (経営の視点)しまむらの「脱デフレ術」「売る意志」復活、現場に活気 編集委員 田中陽

「月次決算を迎える毎月20日の前後は売れ残り商品の値下げ対応や新しく入る商品の陳列で業務が煩雑となった。調べると1店舗当たり約100時間の負荷があった。値引きは利益を落とし、繁忙時には残業を伴う。いいことは何も無い。主婦のパートが多い店では定時帰宅が難しくなり不評だった。
この悪循環を断つために商品の仕入れを担当する本部のバイヤーの評価を月単位から四半期(3カ月)にし、一方で販売計画は月次から週次に変えた。現場の状況をバイヤーに正確に伝える人員も増やした。すると毎月20日前後の店舗作業が減り、本来売る力となる接客に時間を割けた。負荷は50時間まで下がり残業時間も減った。
新製品投入のタイミングが週次となってきめ細かくなると、これまでは臨時便を出して対応することもあった配送トラックの積載量も平準化された。」

つまり、経営管理でよくある過ちは、年次業績が不透明だから、四半期で。四半期が読めないから、月次で。より短サイクルで業績が可視化されれば、より良い判断ができるという常識に囚われること。しまいには、週次や日次でも飽き足らず、行きつく先は次のようになってしまいます。

2016/7/28付 |日本経済新聞|朝刊 基幹システムを17年ぶりに刷新 伊藤忠

「伊藤忠商事は会計や営業関連データを管理する基幹システムを17年ぶりに全面刷新する。投資額は数百億円とみられる。2018年度をめどに稼働する。商品の受発注や入出金などのデータ更新に現在は1日以上かかるが、これを1時間程度に短縮する計画。データをリアルタイムで把握し、素早い営業戦略の策定に役立てる。」

ザ・リアルタイム経営。んー。企業戦略や業界動向、はたまたその企業が運用しきれる組織力があるかどうかによるので、一概に言えないのです。コンサルティングの現場でクライアントのお話しを聞く分には、本当にリアルタイム運用が必要な所とそうでない所の見極めが大事かと。データも運用体制構築もタダではないので。伊藤忠商事の方策の良し悪し自体についてもノーコメントで。これ以上の言及は、有料アドバイザリー・サービスの範疇です。金取るぞ、というのは決して出し惜しみをしているわけではなく、それを言う方にも発言責任が伴いますし、機微に触れるレポートであればある程、そういう形で取り扱われなくてはいけない情報なんです。(^^;)

 

■ ここまで来ると「売上」か「利益」かの選択問題ではない。

次に、2.についてコメント。
売上高と利益のどちらが「生の稼ぐ力」の変化を示すシグナル性が強いか、という問題。利益の方が「意図的に動かせる」かどうか、決めつけることはできません。一昔前の制度会計ルールと違って、(投資)有価証券などを使った益出しがやりにくくなっていたり、減損会計の適用や低価法に則った在庫評価など、含み損があるまま資産として保有し続けることが難しくなってきていますから。

決算数字を操作(いや失礼しました、工夫)するのに、「売上高」も「利益」もどちらもやり方次第です。

詳細は、以下のシリーズをご参考ください。
⇒「不適切会計の手段 -利益操作(1)東芝、来月に新経営陣 不適切会計、歴代3社長が辞任 外部人材で刷新委 より学習開始

また、上記の2枚のチャートでは、段階利益の採用に差があります。経常利益と純利益。本気で含み益・含み損まで考慮したい場合は、「包括利益」まで見ないと。ここまで来ると、「収益力」を見たいのか、その企業の「公正価値」を評価したいのか、というレンジの話になってしまいます。財務のどんな数字でもって、その企業価値を測るのか、切実かつ卑近な例で例えれば、株価の適正価格を割り出すのか、その財務的分析のフレームワークの問題になってくるのです。

そしてここでも、そのフレームワークに対する言及は有料サービスの範疇。どんなフレームワークが適切か、その財務評価者のポジションによってファインチューニングが必要な領域ですから。安直にタダの情報から、そんな大事なことに対する知見を得ようとしてはいけません。これも出し惜しみや私自身の売り込みではなくて、あなたへの真面目な忠告として受け取って頂きたいことなのです。(^^;)

最上部で引用した元記事から。
「相場格言では「人の行く裏に道あり花の山」という。売上高こそが株価に効くという事実は、人ならぬ自動売買のコンピューターにはまだプログラムされていないようだ。」

あなたにはどんなアルゴリズムが適切なのか、それともどんなアルゴリズムを必要とするのか。他人を出し抜きたいのか、それとも企業価値評価で正鵠を得たいのか。考え方自体を考える必要があるということ。まさしく、財務分析におけるフレームワーク問題なのです。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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