■ 情報戦を制する者が勝利者となる近道である!
組織の中において、君主や将軍との親密さでは間諜(スパイ)と最も親しく、恩賞では間諜を最も厚遇し、様々な軍務では間諜の扱う情報を秘密裏に進められなければなりません。
君主や将軍が俊敏な思考力の持主でないと、軍事に間諜を役立てることはできません。部下への思いやりが深くないと、官庁を期待通りに忠実に働かせることはできません。微細なことを察知する洞察力を備えていないと、間諜がもたらす情報から真実を選び取ることはできません。
諜報活動とは、何とも測りがたく、奥深いものなのです。およそ、軍事の裏側で、間諜を活用していない分野など存在しないのです。
君主や将軍が間諜と進めていた諜報・謀略活動が、まだ外部に発覚するはずのない段階で、他の経路から君主や将軍の耳に入った場合、その任務を担当していて秘密を洩らした間諜と、その極秘情報を入手して通報してきた者は、機密保持のため、共に死罪としなければなりません。
(出典:浅野裕一著『孫子』講談社学術文庫)
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現代ビジネスにおいて、最後の死罪というくだりは極論ですが、それほど機密情報の取り扱いには何重にもセーフティーネットをかけておく必要性があるという風に理解しておくべきでしょう。そういう視点から、この孫子の諜報活動・謀略活動に従事する者、間諜(スパイ)の使い方についての留意点は次の通り。
(1)情報をもたらす者への厚遇
全組織の中で、間諜に対して最大の価値を認め、最高の待遇を与える体制になっていないと、戦争(組織目的)は惨敗で終わることを覚悟すべきです。
桶狭間の戦いにおいて、織田信長は、今川義元の首を獲った兵より、桶狭間で今川軍が休憩している情報をもたらした間諜の方への褒美を多く出したことは有名です。
(2)もたらされた情報の最大限の活用
国際政治や軍事について、卓抜な構想力を持って、最も効率よく敵国(コンペチター)を屈服させる秘策を練り上げ、そのために、間諜をどう活用すべきか適切な策を練り上げる力を君主や将軍(組織のリーダー)は備えておく必要があります。
(3)間諜を消耗品扱いしない
祖国を裏切り、敵地に潜入し、生命と引き換えに謀略を成就させようとする間諜たちの切迫した心情と身の上に対し、深い思いやりをかけるのでなければ、常に死が待ち受ける状況の中で、間諜に使命を果たさせることはできません。間諜の忠誠をどう引き出すか、それはリーダーの心がけ次第です。
(4)情報活用者の嗅覚を研ぎ澄ます
間諜が身を賭して収集してきた情報をどのように戦略・戦術に活かすかも大事なことです。敵方の諜報組織による手の込んだ謀略や防諜活動によって、玉石混交、真偽が入り混じった情報の中から、真実だけを抽出する、厄介な仕事を情報の受け手がこなさないと、せっかく入手してきた情報が死んでしまいます。
戦争を軍隊と軍隊との戦闘としてしか理解できず、諜報戦を卑劣な手段のように蔑視し、間諜を内心では侮蔑するような子供じみた倫理観や、武骨一辺倒な価値観では、陰謀や裏切り、虚偽や冷酷が渦巻く戦いで生き残ることはできないでしょう。戦場での自軍の消耗を最小に抑えるために、やらないですむ戦闘は回避する、やむを得ず実力行使せざるを得ない場合は、味方の損耗を最小限に抑える戦法を採る。そのために、間諜がもたらした情報を120%活用する。リーダーにはそういう情報分析能力が必要とされているのです。
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