本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

将棋電王戦 人間が初勝利で人工知能(AI)との付き合い方を考える

経営管理会計トピック テクノロジー
この記事は約8分で読めます。

■ 将棋電王戦、最初で最後のプロ棋士軍団(人間)の団体戦初勝利

経営管理会計トピック

人間が人工知能(AI)とその知恵を将棋で競っていることをご存知でしたか? 単純に人間と人工知能(AI)の間で勝った・負けたと一喜一憂しているだけでは済まない世の中になりそうです。

2015/4/12|日本経済新聞|朝刊 将棋電王戦 プロ、団体戦初勝利 ソフトの弱点突く

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「プロ棋士5人とコンピューター将棋ソフト5種が戦う団体戦「将棋電王戦FINAL」の第5局が11日、東京・渋谷の将棋会館で指され、阿久津主税八段がソフト「AWAKE」を破った。対戦成績は3勝2敗となり、プロ棋士側が電王戦において初の勝ち越しを決めた。電王戦は2013年から5対5の団体戦となり、過去2年はプロ棋士が負け越していた。」

これまでの電王戦の経緯は次の通り。
⇒「公益社団法人 日本将棋連盟」より

第1回 2012年1月
米長邦雄永世棋聖 ● - ○ ボンクラーズ/ 伊藤英紀

第2回 2013年3-4月
阿部光瑠四段 ○ - ● 習甦/竹内章
佐藤慎一四段 ● - ○ ponanza/山本一成
船江恒平五段 ● - ○ ツツカナ/一丸貴則
塚田泰明九段 持 - 持 Puella α/ 伊藤英紀
三浦弘行八段 ● - ○ GPS将棋/田中哲朗・森脇大悟 他

第3回 2014年3-4月
菅井竜也五段 ● - ○ 習甦/竹内章
佐藤紳哉六段 ● - ○ やねうら王/磯崎元洋
豊島将之七段 ○ - ● YSS/山下宏
森下 卓九段 ● - ○ ツツカナ/一丸貴則章
屋敷伸之九段 ● - ○ ponanza/山本一成

第4回(FINAL) 2015年3-4月
斎藤慎太郎五段 ○ - ● Apery/平岡拓也
永瀬 拓矢六段 ○ - ● Selene/西海枝昌彦
稲葉 陽 七段 ● - ○ やねうら王/磯崎元洋、岩本慎
村山 慈明七段 ● - ○ ponanza/山本一成、下山晃
阿久津主税八段 ○ - ● AWAKE/巨瀬亮一

記事では、今回の団体戦を振り返って、
「日本将棋連盟の谷川浩司会長は「初めてのプロ棋士の勝ち越しにまずほっとしています。対局者それぞれがソフトの特性を詳細に研究し、調べつくした成果だと思います」とコメントした。」

さらに、次の解説記事が掲載され、そこでは人間同士の戦いとは異質の勝負所があったことが紹介されています。そこにはコンピュータ(人工知能)への徹底した「傾向と対策」が練られていました。

2015/4/14|日本経済新聞|夕刊 勝負の価値観 揺さぶる 将棋電王戦、人間が初の勝ち越し

「「アマチュアの指したハメ形を使うというのは、(観戦者を魅了するという)プロの存在意義を脅かすことになるのではないか」。第5局、わずか21手で敗れたソフト「AWAKE」の開発者、巨瀬亮一氏は対戦した阿久津主税八段に対し記者会見の場で疑問を呈した。」

「「だってこれは電王戦だから」
相手はコンピューターだから、人間同士の勝負における美意識や礼儀を求めても仕方ない。「入玉」のような、コンピューターが苦手とする展開に誘導するのも戦術の一つとして当たり前――。」

「過去2年の団体戦で敗れ追い詰められた棋士たちは、勝つしかなかった。将棋連盟は今年の出場者5人を選ぶ際、「強いこと」だけでなく「若いこと」を基準にした。コンピューターになじみがあり、ソフトを十分に研究できると見込んだのが今回の5人だった。
5人の棋士は定期的に勉強会を開き、ソフトの特性について情報を共有してきた。ソフトに詳しい西尾明六段や千田翔太五段、阿部光瑠五段らからアドバイス、情報提供を受けるなど、チーム戦としての色合いもかつてないほど濃くなっていた。」

 

■ 人間と人工知能が争う意味とは

「将棋電王戦」は今回限りで、「人間」対「コンピュータ(人工知能)」の戦いの形式としては終了し、来年からは、棋士(人間)と将棋ソフト(コンピュータ)がペアになって戦うタッグマッチ形式と切り替わります。電王戦は、「人間」と「人工知能」の知恵比べの舞台ではなくなります。なぜこうした機会を無くすのでしょうか。

14日の夕刊記事には、
「電王戦の規定では、棋士が対戦ソフトを事前に借り受け、練習を積んだ上で本番に臨む。その意味で電王戦とは「ソフトと人のどちらが強いかを決める舞台」ではなく、「強大なソフトに人が知恵と工夫で対抗できるかを示す場」だったといえる。」

「第2局で勝った永瀬六段は終局後、「練習対局での勝率は1割程度」だったと明かした。第4局の村山慈明七段も練習対局の勝率は「1割あったかどうか」。第3、4局は準備段階の予想を外された棋士側の完敗だった。」

「若手精鋭たちを9割圧倒するほどに成長した将棋ソフト。予想勝率1割でも「本番でその1割を引くことは可能だと思っていた」(永瀬六段)という恐るべき勝負強さを見せたプロ棋士たち。」

とあり、棋士(プロ)達が、用意周到に準備したうえで、さらにソフトのくせを読み切って団体戦に勝ち越した、ということが分かります。ということは、現時点では将棋の世界では人間の方に軍配があがるといえます。問題は、人間の優位性がいつまで持続するのか、ということです。

すでに、チェスでは、1997年に当時の世界チャンピオンのガルリ・カスパロフ氏がIBMの「ディープ・ブルー」に敗れ、米国の人気クイズ番組「ジェパディ!」でこれまたIBMの「Watson」が2011年に人間との対戦に勝利しています。

つまり、人工知能(AI)は早晩、将棋の世界でも人間を抜くことは確からしいことと思われます。そして、チェスやクイズで人間が敗れた際に、米国で(極論だと思いますが)「人間そのものの存在価値」が厳しく問われました。そうした社会問題化を避けるために、「将棋電王戦」は、「人間と人工知能は手を携えて、お互いの短所を補いながら共存していく」というメッセージを世間に発信したいがためにタッグマッチ制への移行を企図したと思われます。

事実、チェスの世界チャンピオンが「ディープ・ブルー」に敗れる前までは、「チェスこそ至高の競技で、人間知性の表れだ」ともてはやされていたのが、一夜にして、「純粋に数学的な観点から見ると、チェスはつまらないゲームである」と評価が逆転しています。
(小林雅一著「AIの衝撃」より)

いたずらに、「人間」対「人工知能」の対立構造や比較優位にばかり意識を向けるよりは、どう「人工知能」を使いこなす社会と新しい人間性(人間観)を形成していくか、を考えていった方がよほど建設的であると思われます。

筆者がいいたいことは、上述の通りなのですが、読者の方々には、ここに至るまでの論理の道筋に納得感が無い恐れがありますので、補足として次章で、将棋ソフトの進化の様子をご紹介して、もはや人工知能が、これまで人間にしかできないと思われていた領域で人間を凌駕していく様を実感して頂きたいと思います。

 

■ 「人工知能(AI)」を積んだ将棋ソフトが強くなっていくメカニズムとは

将棋ソフトは、人工知能が得意とする「機械学習」の能力によって強くなります。
(以下の説明は、先述の、小林雅一著「AIの衝撃」4章の内容を中心に)

「機械学習」とは、「コンピュータが実社会やウェブ上にある大量のデータを自ら解析し、そこから物事の解決に役立つ何らかのパターンを抽出する」という技術です。解析のために使用するアルゴリズムは、「線形回帰分析」や「ロジスティクス回帰分析」という手法で、ビッグデータから「音声認識」「画像認識」「自然言語処理」などで、次に来る何かを「予測」します。

この「予測」手法が、従来は「事前に人間に与えられたもの」どまりだったものが、「ベイズ定理(確率)」という統計・確率的な考え方、「事前に自分で適当に主観確率を決めておいて、そこに実験や測定の結果をどんどん反映していって、徐々に確率を高めていく」というアルゴリズムが実装されることになりました。

将棋ソフトでは、この「機械学習」が「ゲーム木の探索能力」と「局面の評価関数」の2つの機能で構成されます。

「ゲーム木の探索能力」とは、「自分が差した手に対して、相手はこう指してくるだろうから、次は自分の手としてはこう指して、、、」と延々「先手」「後手」の先読みをするロジックです。

「局面の評価関数」とは、「その時点の盤面を見渡し、自陣・敵陣にある各駒の価値(能力)、位置関係、相手の駒に対する効きを評価し、自分が相手に対して相対的にどれくらい有利か判断を下す」計算ロジックです。

この「評価関数」に「機械学習」を取り入れ、過去のプロ棋士たちが残した大量の棋譜を相手に解析を自動で行います。現存する棋譜をいくら読み込んでも強くならないほど、「評価関数」が鍛えらえてしまうと、今度は、ソフト同士を競わせ、その棋譜から「強い新手」を自分のものとします。

つまり、もはや「将棋ソフト」は人間の手を借りないで、勝手に自分たちで成長していってしまうのです。しかも、生身の人間では到底追い付けないスピードで大量データを次から次への飲みこんで。。。「将棋電王戦FINAL」ではプロ棋士が、人間相手ではない特別の事前対策を施して何とか勝ち越しましたが、その工夫もいつまでもつのでしょうか? 自らを強くするための学習スピードの差は歴然としています。人間はチェスでは負けたが将棋では決して負けない、と誰が言えるのでしょうか。

最新の「人工知能(AI)」の研究では、この「機械学習」におけるデータフローを人間の脳内のニューロン(神経細胞)とシナプスからなるニューラルネットワークを模して行わせることまで実現しています。「ニューロモーフィック・チップ」「スパイキング・ニューラルネット」というカタカナ用語を合わせて紹介していきます。

(現時点で、少なくとも筆者のMS-Wordでは、これらの用語が一発置換で出てきませんでした。これが一発置換される日が2つの理由から、遠からず来るであろうことは間違いありません。ひとつは人口に膾炙して。ふたつには、やがてWordにも機械学習機能が搭載されるだろうから)

さあ、筆者も含めて、我々生身の人間は、人工知能(AI)ができないことをできるようにならないと、仕事も奪われますし、人生そのものの意味を失います。

あなたは、明日から何を目標に人生を生きますか?

コメント