■ 生産現場が変わる! 働き方が変わる!
「前回」は、生産現場(工場や建築・土木現場)におけるワーカーの働き方の変化についてのお話でした。紙面の都合上、建築・土木現場のパートで尻切れトンボになっていたので、今回は、ちゃんと「工場」のお話をします。
まず、グローバル製造業の現場で、特にIoT、ビッグデータに依拠せず、純粋に「ものづくり」における変化の潮流から。
2015/6/24|日本経済新聞|朝刊 デンソー社長「部品生産、世界で分業」 高効率急ぐ
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「19日に就任したデンソーの有馬浩二新社長は、難度の高い部品を特定の地域で集中生産し世界に供給する体制に再編する考えを明らかにした。デンソーはこれまで取引先の自動車メーカーの海外進出に対応し、現地での部品調達による生産を増やしてきた。各国工場の技術力が高まっており世界規模で分業を進め、生産の効率化を目指す。」
つまり、大口の完成車メーカーの国内外工場の近くに立地させ、特に海外工場においては、使用部品の現地調達比率を高めることに注力してきました。それは、ユーザである完成車メーカーが、JIT生産により、小口で即時で頻繁な納品を求めてくることに対応するためでした。その生産方式を転換して、
「有馬社長は「これまで現地調達率100%を目指してきたが、生産拠点が増え、類似の製品が増えてきた」と指摘。「現地調達を高める動きは全体では変わらないが、生産最適化の中で地域間で再検証していく」と話した。例えば高い技術力が必要な部品を日本で一括生産して海外に送ったり、日本で使う部品をタイなど海外拠点から輸入することなどを目指す。
個別部品の一括生産に加え、欧州や北米、アジアなどの地域ごとにも工場の生産品目を再検証し、効率的な生産ができるようにする考えだ。」
という風に、デンソーグループ内で、世界中に散らばる工場のサプライチェーンをより緊密につなげる必要が出てきたということです。「ものづくり」と「コスト」の関係には大別すると、次の2つの特徴があります。
1.まとめ生産(大ロットでかつ連続生産)した方が、固定費回収、設備稼働率の点からコストダウンが図れる
2.下流工程(時にはユーザからのオーダー)のニーズに最適なものをつくる(提供)することによって、在庫(要するに、モノとカネの滞留)をギリギリまで削減することができる
この2大命題をどうするか?
記事によりますと、
「デンソーは製造設備の小型化で小ロットでも効率的に生産できるような設備導入を軸とした「ダントツ工場」づくりを進めている。個別工場の生産性を高める取り組みと地域ごとの生産再編も進め収益性を向上する。」
とあり、個別工場の生産性を最大限あげる試みがある、との言及ですが、あいにく、先述の2大命題にはダイレクトに回答が出されていません。
■ 生産現場の2大命題をビッグデータとIoTが解決する!?
まず、地理的に分散する工場をどうやって緊密に連携させ、あたかも一つの工場として機能させるか? サプライチェーン上のデータの一元管理がそのキーとなりそうです。
2015/6/25|日本経済新聞|朝刊 世界の工場、一元管理 日本IBM、クラウドで支援
「日本IBMは世界中の工場の稼働状況を常時監視できるクラウドサービスを今秋にも始める。顧客企業が持つ各国の工場から稼働状況を一斉に集め、データ分析する。例えば米国の工場に異変が起きた場合、欧州で生産計画をすぐ修正できるようになる。各拠点を比べて、効率の劣る工場や作業工程の改善を支援する。」
この記事を読んだだけで、至極当然ですが、昨今のトレンドとなっているキーコンテンツがちりばめられていることが手に取るようにわかります。
① ビッグデータ解析
世界中の向上に点在する設備稼働状況に関する情報を収集して、アルゴリズムで最適生産計画を提案する
② クラウド/データセンター
世界各地の工場から集められた情報は、IBMグループが欧米やアジアなどに約20カ所持つデータセンターに、セキュリティーを確保した専用線や携帯電話の通信網で集められます。
③ IoT
生産設備にセンサーや監視カメラを取り付けて、詳細な稼働情報の入手を行います。さらに、どういうデータを集めると、①で言及した最適生産のアルゴリズムに有益なデータが得られるのか、
「工場内の温度や設備のモーター回転数など、どんな情報を集めるか指南するコンサルティングサービスも同時に提供する。」までやっていただけるのだそうです。
■ ここでも熟練工不足を解消する手立てを考えている!
当然、建設現場だけでなく、工場においても熟練工不足は頭が痛い難題であります。
2015/6/26|日本経済新聞|朝刊 三菱重工、航空機用の自動化ライン 人工知能を活用、ボーイング向け
「三菱重工業は米ボーイングの次期主力大型機の胴体生産で自動化ラインを新設する。最新鋭ロボットの大量導入や人工知能の活用で、ボーイングが求める従来機に比べ15%程度のコスト削減と品質管理を両立させる。投資額は250億~300億円弱を見込む。」
この自動化ラインのどこが、熟練工いらずかと申しますと、
「胴体パネルの穴開けや鋲(びょう)止めなど、これまで人手を介することの多かった工程にロボットや自動化設備を活用する。ロボットを使った加工ノウハウではファナックと協業する。穴開けなどでは人工知能を使い、精密で高速加工できる最適な条件を割り出すことなどにつなげる。」
ということで、熟練工のスキルを人工知能で制御されたロボットに置き換えることを企図しています。まあ、どの分野でも最高の生産技術を暗黙知として脳内にため込んでいる熟練工の大量退職の問題(昔は、2007年問題と呼んでいたものでしたが、2015年の現在でも進行中なのでしょうか?)は、経営者にとって頭の痛い課題のようです。
さらに、熟練工の暗黙知だけではできないプラスアルファの実現まで、三菱重工は考えています。どうせやるなら「毒を食らわば皿まで」!? すみません。この比喩は悪いことをする際のレトリックでしたね、失礼しました。
「ロボットや機械に取り付けたセンサーが稼働データを吸い上げ、制御機器などの故障時期を事前に解析、予測することも始める。部品を取り換えて生産ラインが止まるのを避けるといったことが可能になる。」
どこかで聞いたような取組みですが、
①「MTTR(Mean Time To Repair):平均修理時間」とか「MTTR(Mean Time to Recovery):平均修復時間」を最短化すること
②生産設備の稼働状況を表わす「MTBF(Mean Time Between Failures):平均故障間隔」をできるだけ長くすること
をIoTによってデータ収集し、(人工知能を使って)ビッグデータ解析することで最適解を求めるということです。
■ 「とり」としてまたコマツにご登場いただきます!
いやはや、この種のお話は、コマツを差し置いてできますまい。
2015/6/23|日本経済新聞|朝刊 コマツ、IT活用し製造原価150億円減 建機稼働、工場で把握
「コマツは22日、IT(情報技術)を活用した生産工程の改善策を発表した。顧客に納入した建設機械の稼働状況を通信網を通じリアルタイムでコマツの工場と共有。補修部品の受注から納品までの期間や在庫を圧縮する。また、自社工場や協力工場の工作機械や溶接ロボットの稼働状況をインターネット上のデータベースに集約して稼働率を高める。一連の改善に約100億円を投じ、2017年度までに製造原価を年間約150億円圧縮する。」
(新聞記事より)
ざっと読むと、これだけでは先述したIBMや三菱重工と同じような取り組みではないか、とおっしゃる向きもあろうかと思います。
「コマツはこれまでに稼働状況を把握する管理システムを搭載した建機を全世界に約38万台出荷した。従来は販売代理店や現地法人が稼働状況をとりまとめたうえで、摩耗などの状況を予測して補修部品を工場や倉庫に発注していた。
工場が直接、情報を把握することで4~5カ月かかっていた発注から納品までのリード・タイムを3~5割短縮。部品在庫を15年度中に前年度比1割減の約1700億円にする。一方、自社の生産体制では、生産協力工場を含めて工作機械と溶接ロボットの稼働状況を共有できる体制を整える。」
コマツの先進的なところは、サプライチェーンを自社工場内だけに留めていないところです。エンドユーザが建設現場で建機を使っている、その稼働状況から自社工場での生産ライン組立から稼働率調整、補用品などの製造指図を最適化・適時化しようとするところです。
この話を聞いて、「プル生産」の代表格としてのトヨタの北米ディーラーでの出来事を思い出しました。ある時、顧客がふらっと販売ディーラーの店先に立ち寄り、トヨタ車を買いたいと思い、店員と話を始めました。好みの車種があり、試乗もして満足しました。しかし、色が好みのものではなかったのです。
(ここでは、仮に顧客の好みの色が赤で、店頭品の色が緑としておきましょう)
そこで、この顧客は、ディーラーの店員に、好みの色のクルマが納品されるのはいつごろか聞いてみました。店員は、「3か月後になる」と回答。焦れた顧客は、店頭に在庫されているクルマ(色は好みではなかったが)を買い求めていきました。ディーラーの店員は、営業報告書にはしれっと「緑」が1台売れました、と記載。このデータがそのまま生産工場に伝達。工場側は、「赤」ではなくて、「緑」を作り続けたという訳です。
(関係者の方々へ。この話は数年前に聞いたものです。今では改善されていますよね?)
コマツでは、記事によると、
「自社の生産設備同士や顧客の利用状況を網羅的に把握することで生産や物流の効率が高まるとみている。例えば、消耗部品の摩耗状況をいち早く把握すれば、部品の納入経路を航空便から船便に切り替えて輸送費を節減できる。結果として納品価格を低くすることも可能とみており、鉱山企業など顧客のメリットにもつながる。」
という風に、物流コストにまで踏み込んで生産改革を進めようとしています。
ユーザと、One to One でつながる工場。
フォードがT型を大量生産していた時代とは違う、「ものづくり」の大きな変化の波が到来です。この波に乗り遅れるか、乗り切るか、それは御社の選択です!
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