■ 「ビッグデータ」「IoT」のどこに金鉱があるのか?
「前回」は、コマツ、GE、IBMを引き合いに出し、「ビッグデータ」「IoT」という領域でどのような事業展開があるのかをご紹介しました。今回は、引き続き、日立、ノキア、NTTコミュニケーションズを題材に、このテーマにおける事業化について各社の取り組みを2回に分けて見ていきたいと思います。
下図は、「ビッグデータ」「IoT」周辺の事業領域をごく簡単にまとめたものの再掲です。
それでは、今回取り上げる3社はそれぞれどのようなスタンスで「ビッグデータ」「IoT」市場に挑もうとしているのでしょうか。
■ 日立:「単品」から「インフラ」へ。しかし、モノ売りの姿勢は変わらない!?
2015/4/15|日本経済新聞|朝刊 日立、ビッグデータで街を分析 鉄道などの新事業支援 ソフトで収益すぐ試算
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「日立製作所は、ビッグデータを利用し、街づくりに伴う投資効果や環境への影響などを可視化できるシミュレーションソフトを開発する。鉄道や病院などを建設する際、利用人数や人の流れを予測、必要な投資規模などを瞬時に算出できる。国内外の企業や政府向けに提供する。インフラをパッケージで提案することで、製品を販売するだけの事業モデルから脱却する。」
(2015年4月15日:日本経済新聞朝刊より下図転載)
この事業モデルは、ハードウェア単品の販売が有利(受注拡大と収益率増大の両方)に働くように、鉱山機械(建機)や発電設備に「ビッグデータ解析」の付加価値をつけるコマツ・GEと同じ着想によります。日立の場合は、「都市鉄道」における乗客数や投資額、収益などをビッグデータ解析により、様々な条件でシミュレーションするソフトウェアサービスを無償(本当はハード売りの方で投資回収がなされるので真の意味で「タダ」ではないのですが)で提供し、自社製品の売り込みに有効活用します。
この場合、「タンジブル(tangible)」な「単品」単位ではなく、「インフラ設備一式」が売物であるところが少々異なります。「単品」より「インフラ設備一式」の方が、受注規模が大きくなり、ソフトウェア開発初期投資や営業コスト等の固定費の回収に有利であること、インフラ全体という複雑性が増すものの方が顧客の認知価値が高くなり、その分割高で買ってくれること、などがハード屋としてのこの種のビジネスの旨味となります。
日立では、第1弾として、「都市交通」のシミュレーションソフトを開発しましたが、この後、米国のビッグデータ解析チーム、インドのソフト開発チームと連携して、「エネルギー(風力発電所)」「ヘルスケア(糖尿病疾患者などの減少効果)」「都市開発」「水・環境」「製造業」「物流」の7つの分野への投入を予定しているそうです。
■ 「製造業」の「サービス業化」。ICTが加速する動き
記事では、
「日立は14年度に2年連続の過去最高益を実現したもようで、15年度の経営目標である売上高10兆円と営業利益率7%超の達成が視野に入る。ただ、中西宏明会長は「欧米大手に対抗するには10%の営業利益率が必要」としており、製品販売中心から脱することで米ゼネラル・エレクトリック(GE)などを追う。」
とあり、同業の欧米重電メーカへの対抗心を露わにしていますが、それだけに終わらない日立の強かさの一部を記事から垣間見ています。
「ソフト開発にあわせて、5月に顧客との窓口となる拠点「顧客協創環境」を東京・赤坂、9月に米カリフォルニア州サンタクララに開設し、2016年に中国と欧州に広げる。顧客の新規ビジネスに立案時点から入り込むことで、鉄道などのインフラシステムの受注につなげるほか、日立も一部資産を保有し、顧客と共同事業を進めるビジネスを拡大する。」
という動きの中で、「一部資産を保有し」、自社が納品して構築されたインフラ自体の運営に乗り出そうというメーカの範疇から拡大し、サービス業としての領域を強化しようというものです。
BtoBの製造業ならば、この「サービスメーカー」の動きというのは、既に80年代から徐々にシフトが始まっていたのですが、ここにきて、「サービス」の質を「ビッグデータ」「IoT」により飛躍的に向上させようという目論みがあることが分かります。その要点を次のようにチャートにまとめました。
従来のハードウェアメーカーは自社製品が売れれば良しとしていました。その後、80年代から、販売後の維持・メンテナンス(校正、保守、修理、点検など)まで、製品ライフサイクルを長く見てビジネスを展開しようとしてきました。そして、あわよくば次の買い替え需要まで取り込もうとする「ベンダー・ロックイン戦略」がその目線の先にはあるのです。
その典型例が、ジレットの剃刀の替え刃モデルであり、レーザープリンターのインク/トナーなどの消耗品販売、エレベーターの保守点検サービスなどです。
この動きを加速させるように、「ビッグデータ解析」により得られる「付加価値データ」をつけることで、「製品仕様確定への助言」「施工における適切な工程への助言」、従来の「アフターサービス」の強化(コマツのKOMTRAXなど)が可能になってきました。
さらに、今回の新聞記事からは、日立がインフラの稼働後の運営代行ビジネスに注力する姿勢が見て取られます。本気になれば、「代行」などではなく、それも含めて「本業」となる勢いです。「ビッグデータ」「IoT」関連のテクノロジーがさらに進化すると、インフラを設計するところから運営するところまで、インフラのライフサイクル丸抱えビジネスが可能となり、かつ高い収益をもたらしてくれるからです。
その要点は、上図の「EPC」から「BOO」への「引き継ぎ」にも表れています。従来は、「EPC」業者はインフラを構築したら、運営会社(公共団体のこともある)に引き継ぎします。その際に、上手に情報をトランスファーできなかったりするため、通常EPC業者は、安定操業まで「試行運転サービス」を提供することも多々あります。「設計」から「運用・維持」までのデータをリサイクルして有効活用するには、稼働後のデータも手中にあった方が有利です。
つまり、A市の都市交通インフラの運営に参加することで、膨大な量の交通情報が手に入り(これがビッグデータ)、自前の解析技術で、新製品を開発したり、別のB市の都市交通インフラの受注見積り金額低減に役立てたりすることができるのです。
「資本主義」は、「資本(お金)」を持っている人が勝者でした。お金がお金を生む世界。これからは、「ビッグデータ」を握る人に富が集まる世の中になりそうです。これからの覇権を握るために、GoogleやAmazon、Appleといった企業が何をしているのか、注意深く観察しておく必要がありそうです。
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