■ 人工知能(AI)は脅威か?
2045年、シンギュラリティー(技術的特異点)が起こり、我々人類の生活は良くも悪くも一変すると、論者が様々な自説を展開して、世の中的には大変盛り上がっております。そして、経営・管理会計を主に取り扱っている本サイトでも、何回かこの「人工知能」を取り上げています。
(ちょっと悲観的にAIを解説している最近のベストセラー)
人工知能を取り上げる理由を、極めてシンプルに上げるとすれば、「会計、簿記を含む経営管理における『統制』『予測』『最適解の探索』といったこれまで人間の頭脳でしか行われていなかった頭脳労働のどの部分から、人工知能に置き換わっていくかに大変興味があるから」です。
⇒「働き方 Next 技術革新で生き残るには 「機械とともに働く能力を」」
最近は、日経新聞でも人工知能が取り上げられない日は無いのですが、「日曜に考える」で1面使って議論されていたので、その主旨をお伝えすると共に、筆者の簡単な見解・コメントを付したいと思います。
2015/8/2|日本経済新聞|朝刊 (創論)ロボット普及が変える世界
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「人間の能力に迫る人工知能(AI)技術や、営業トークもこなすロボットが身の回りに登場し始めた。人の代わりに働いてくれる一方、将来の雇用への影響や、AIの進化に伴うリスクを懸念する声も聞かれる。ヒト型ロボットの一般販売を始めたソフトバンクロボティクスの冨澤文秀社長と、AI研究の第一人者である松尾豊・東京大学准教授に聞いた。」
■ 人間の仕事代替は必然 ソフトバンクロボティクス社長 冨澤文秀氏
――個人向け販売も始まったヒト型ロボット「Pepper(ペッパー)」の売り物は何ですか。
① 頭脳となる高性能コンピューターとインターネットでつながったクラウド型のロボットであること
② 使い方に応じてアプリを開発して機能を追加できること
③ 人間の感情を読み取ったり、自らの感情を表現したりできるので、人間との心理的な距離を近づけることができること
①は、最先端の人工知能の流行そのもので、「ビッグデータ」を「ベイズ定理」を使って解析し、しかもそれがAI自身(おっと擬人化してしまいました。「自体」が適切か?)が自律的に行う「機械学習」となって、自らをより賢くする、というものです。
②は、一つの筐体(きょうたい)で、中に詰めるアルゴリズムを入れ換えれば、様々な用途に使える汎用性を意味しています。これは、ハードウェアの生産性とコストに関連するものです。
これは、AIの頭脳の方にばかり目が行きがちですが、実は、その頭脳を乗せる「筐体」の制限や可能性も考慮すべき点であることを思い出させてくれます。
③は、こういう乱暴な2分法は影をひそめましたが、人間の脳の活動領域を「論理」と「感性(感情)」に分けて、従来のコンピューターは「論理」を扱うのは得意でしたが、「感性」は生身の人間の専売特許である、という思い込みがすでに崩れたことを意味しています。
「感性」、言い換えると「芸術」なんかも含まれるのでしょうが、既に、アート(美術や音楽)といった分野でも、そん色ない作品を生み出しているAIは多数存在します。
(下記の書籍に関連記述あります)
――サービス分野でも定型的な仕事はだんだんとロボットが担うことになりますか。
「当然あり得る。仕事の種類によっては、人間がやるものが先細っていく分野があると思う」
――それが過度に進まないように、ロボットや機械の導入をコントロールすべきだとの考えもあります。
「それには反対だ。ロボットによって人間の仕事が置き換わっていくのは必然的な趨勢だ。この動きはグローバルで進む。この流れに日本だけ逆らったところで、生産性を上げることができず、日本の競争力や国力にとってマイナスになる」
このやり取りは、主に日本人の典型的なAIに対する認識パターンを示していて大変興味深かったです。というのは、「AIがホワイトカラーの仕事、サービスの仕事を代替する」→「仕事が奪われる」→「何か我慢ならない」→「AI(およびAIに制御されるロボット)を何らかのルールで縛るべき」、という文脈でAIが語られている所です。
というのは、日本人は、「“仕事”=“アイデンティティ”」というメンタリティが強いので、「AIに仕事が代替されてしまう」は、「AIに自分のアイデンティティを否定されてしまう」と解釈してしまうからです。
こういう情緒的な反応に対する心療的ケアも大事なのですが、AIと仕事に関する経済的な観点からは、2つの論点が大切だと思います。
それは、
① テクノロジーの進展によって、必要とされる労働の種類が変化すること
② 富の源泉は、「自然物の採取(天然資源採掘や狩猟など)」か、「労働の提供」か、「資本(経営リソース)の投下」のいずれかということ
です。
①については、すでにこの世から「電話交換手」という職業が無くなっていることからもお分かりの通り、その時点の技術水準が職業選択の幅を決めるのは道理であることを強く意識すべきです。そして、それに対する処置は唯一しかありません。それは、「教育(≒職業訓練)」ということです。
仮想敵(ここではAI)の殲滅を図るのではなく、自分が変化するのです。ダーウィンの名言をご紹介しておきます。
『最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き延びるでもない。
唯一生き残るのは、変化できる者である』
②については、急速に少子高齢化していく劣化する日本社会において、富の源泉である「労働」量が減れば、残りの2つ、「天然資源」「資本(経営リソース)」を使って、日本社会全体が生み出す富を増やしていく(維持していく)必要があるということです。
つまり、AIおよびAIが搭載されたロボットを使って、経済的余剰を生み出そうというのは、天然資源もない、労働者も減少する、日本経済にとって、最後に残された手段なのです。①で触れた、「アイデンティティ」問題へのケアをしっかりやって、AIへの拒否反応はなるべく少なくする必要があると思います。
ただし、経済学的にはこれでもまだ問題が残りますが。それは、「分配」の問題です。おそらく、AIまたはAIに関連する機能・サービスを提供する側の人たちに富が偏在することになります。これをどうやって日本社会全体に再分配していくのか? まだ誰も経験していないことは、恐れて回避するのではなく、積極的に考えて、対処法を実行していくべきです。
■ AI、自らの判断で行動 東京大学大学院工学系研究科准教授 松尾豊氏
――どのような技術で、なぜ注目されているのですか。
「これまでのAI技術が行き詰まっていた理由は突き詰めれば1つ。AIの仕組みを作る際に、最初に人間が対象をよく観察し、重要と思われる知識を見つけなければならなかったことだ。この作業をデータを基に自動でやってくれるのがディープラーニングだ。AIの仕組みを作る全工程が自動化できるようになり、AIを使える対象が格段に広がる」
この「ディープラーニング」が、人間の制御、管理下を離れてAIが勝手に(AIを擬人化して言うと)自分を賢くして、その内に人間を超えて、超えるだけでなくて、やがて人類の敵になる、という文脈で語られることが、さっきは日本でしたが、こちらは欧米によくあるコンテキストです。
これは、ターミネータとか、アベンジャーズとか、ハリウッド映画でもよく使われるモチーフですよね。
――でも人間並みのAIを搭載したロボットなら人間と同じような行動がとれるような気もします。
「ロボットに例えばおもちゃの組み立て作業を命じて、目的となる完成形を教えて報酬を与えるようにすると、ロボットは試行錯誤を経て組み立て方を学んでいく。でも目的を教えず放っておけば、ロボットはおもちゃの組み立てをしたいと考えたりせず、そのための行動も起こさない」
これは、いわゆる「フレームワーク問題」というやつ。筆者としては、どこかで人類の英知を超えたAIは、やがて「目的」「自己存在理由」を持ち始めると思いますが。それが、人類にとってフレンドリーなのか、アンフレンドリーなのか、はたまたそれは技術的には、自然発生的なのか、それともあらかじめ用意されたアルゴリズムが無いと自我は絶対に生まれないのか、この辺を話し始めると長くなってしまいますが、現時点の「ディープラーニング」が既に人類の統制から離れている以上、つまり、今現在でも、なぜAIがその答えを導き出したのか、既に開発者たちにも分かりかねている状態なのに、将来のAIの自我発生を人類が都合よくコントロールできるようには思えません。
自我が芽生えたAIはどう行動するのか? 筆者の好きなアニメSF映画をご紹介しておきます。
「それより本当に怖いのは、悪意を持った人間がAIを使うことだろう。モノを壊せとか人を殺せとかいう目的と報酬を与えると、AIはそれに向けて試行錯誤を始める。原子力や生命科学など他の科学技術と同様に今後、AIが悪用されないよう備える必要がある」
これは、AIが自我を誕生させるまでの間に、人類側がAIを悪用できる可能性があるということを示唆しています。これは、あくまで人類社会の中でのルール、決め事の問題なので、社会工学的に解決が図られる問題です。これは、ちゃちゃっと解決しておきましょう。
(この辺の国家(研究機関)とIT超大企業の動きは次の書籍を読むと、、、)
「会計」を考えることは「経営」を考えること。
「経営」を考えることは、「社会」を考えること。
「社会」を考えることは、「人間」の営みを考えること。
よって、「人間」を深く知ろうとすればするほど、AIへの知的好奇心が抑えられない今日この頃の筆者なのでありました。(><)/
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