東芝の監査意見、異なる開示 総会「無限定適正」、有報「限定付き」 根拠法が別々 投資家惑わす - 念のため二重責任の原則を踏まえて

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■ 一般の投資家にも分かりやすい監査意見表明の仕方について

経営管理会計トピック

監査意見は、会計監査人が、企業の財務諸表や内部統制報告書について、妥当性・適法性の観点から監査した結果を表明するものです。「二重責任の原則」は留意しつつも、プロ投資家(機関投資家など)以外の個人投資家にも分かりやすい監査意見表明の仕方が問われていると思います。だって、企業も東証も個人投資家の構成比率をもっと上げたいと思っているのですから。だったらやるべきことをやったらいいと思うのですがね。

2018/7/6付 |日本経済新聞|朝刊 東芝の監査意見、異なる開示 総会「無限定適正」、有報「限定付き」 根拠法が別々 投資家惑わす

「2018年3月期の東芝の監査報告書をみて戸惑った投資家も多かっただろう。株主総会の招集通知に添付する計算書類では監査意見が「(すべての重要な部分が適切な)無限定適正」だった一方、有価証券報告書は「(一部の不備を除いて適切な)限定付き適正」となっていたからだ。いずれも法定の開示書類なのに違いがあるのはなぜか。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「東芝の監査意見」を引用)

20180706_東芝の監査意見_日本経済新聞朝刊

記事によりますと、個人投資家には分かりにくい監査意見の表明の形が具体的な事例で顕著になった東芝の件が取り上げられていました。まずは、ファクトファイニングから致しましょう。

まず2017年3月期にPwCあらた監査法人と東芝の間で米原発事業の損失を巡る意見が対立し、PwCあらた監査法人が米原発事業の損失問題を除けば決算は適切という「限定付き適正」を出したことが発端になります。

東芝における決算表示に関する一連の会計問題は2017年度中にあらかた片付いたとして、2018年3月期の株主総会(2018/6/27)の招集通知に添付している計算書類(決算)には「すべての重要な点が適正に表示している(=無限定適正)」と記載しました。

第179期報告書 [PDF 1.35MB/48ページ]|投資家情報|東芝トップページ

20180706_東芝_第179期 報告書_監査報告

にもかかわらず、2018年3月期の有価証券報告書(2018/6/29公表)に付された監査意見は引き続き「限定付き適正」に先祖返りしているのです。その理由は、有価証券報告書が2017年3月期と2018年3月期の2年間の比較表になっているため、2017年3月期データが「限定付き適正」として引っかかったため、総じて2018年3月期の有価証券報告書全体にも「限定付き適正」というラベルを貼らざるを得ない、という状況になっているのです。

有価証券報告書(2017年4月1日~2018年3月31日)|投資家情報|東芝トップページ

20180706_東芝_有価証券報告書_監査意見

 

■ こうした監査意見の表示の違いの根本的な問題の所在は?

同記事では、定番の

制度会計あるある論争から引かれた理由付け・批判が記述され、

「どちらも大事な法定開示なのに形式が異なるのは、有報は金融庁所管の金融商品取引法、計算書類は法務省所管の会社法とそれぞれ別の法律に基づいているからだ。金融庁と法務省は文書の文言などの共通化に着手しているが、監査意見の違いについては大きなテーマとはなっていないとみられる。投資家や企業の先行きを左右しかねない問題なのに金商法と会社法の盲点と言えそうだ。」

と解説がなされています。しかし、それが本質的・根源的な問題なのでしょうか?

筆者は、昨年度の財務諸表に対する「監査意見」、一昨年度の財務諸表に対する「監査意見」というふうに、分かりやすく表現がなされていない書式・形式の問題であって、拠って立つ根拠法の違いの問題ではない、と理解しています。

「監査報告書の透明化」について|金融庁

現在、監査報告書の透明化(その実は長文化、詳細記述化になっています)が全世界的に進められています。拠って立つ法規が何であれ、監査基準がKAM(Key Audit Matters:監査上の主要な事項)をキチンと記述する方向で改正されていき、個人投資家も通常の国語力があれば読解できる平易な説明文になれば、より財務諸表への理解も進むものと考えます。

 

■ (おまけ)監査意見の種類の整理

まず、監査報告、監査意見を議論する前に、「二重責任の原則」という大前提があることを確認させてください。

「財務諸表を作る責任は経営者(企業側)にあり、公認会計士にはそれを監査する責任がある。たとえば、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)の注記は公認会計士が書くものではなく、会社が自ら情報を開示するものであり、公認会計士はその有無や内容の十分性に対して適正か否かを表明する。
ここでの公認会計士の責任は、会社の事業継続能力を判定したり、会社の存続を保証することではなく、当該注記が正しく開示されているかどうかを表明することにある。」

● 引用:二重責任の原則|日本公認会計士協会

監査意見は、企業が作成した財務諸表が適正に「作成」されているかについて意見表明されるもので、企業そのものの経営の質(倒産確率やビジネス運営の巧拙など)について意見するものではありません。その前提で、監査意見には次の種類が存在します。

・無限定適正意見(Unqualified Opinion)
「経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示している。」

企業が提出した財務諸表は作成方法と表示方法についての瑕疵が無くて“OK”とするお墨付きをだすものです。

・限定付適正意見(Qualified Opinion)
「経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が無限定適正意見を表明することができない程度に重要ではあるものの、財務諸表を全体として虚偽の表示に当たるとするほどではないと判断したときには、除外事項を付した限定付適正意見を表明しなければならない。」

企業が提出した財務諸表について、作成方法または表示方法について“ここが問題あるよ”という意見を表明するものです。一部おかしい所はあるけれど、“概ねOK“と解釈してもいいものです。コップの中の水が半分ある時に、、、(^^;)

・不適正意見(Adverse Opinion)
「経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が財務諸表全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合には、財務諸表が不適正である旨の意見を表明しなければならない。」

企業が提出した財務諸表について、作成方法または表示方法についておかしい所が存在し、全体として“この決算書は間違いだよ”という意見を表明するものです。

・意見不表明(Disclaimer of Opinion)
「監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができなかったときには、意見を表明してはならない。」

企業が提出した財務諸表について、“●●である“という意見を出すための、証拠に触ることが監査手続上できなかった、企業が民事再生法を申請し企業の存続が不確実となっているため、どう監査意見を出そうか困り果てている時に、”この決算書に対して何の意見も出すことができません“という意見を表明するものです。

筆者も、コンサルテーションの現場で、一度でいいから、十分な資料と調査時間が与えられなかったから、「コンサルタントとしてのアドバイスをすることができません」と胸を張って言いたいものです。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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小林 友昭
小林 友昭
現役の経営コンサルタントです。経営管理の仕組み構築や経営戦略の立案、BIシステムを中心としたIT導入まで手掛けております。
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