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■ 「自社株買い」の神通力は2か月

経営管理会計トピック
株式市場の重要なテーマとなっている企業の資本効率。今回は高ROEの演出が投資家に「株を買わせる」行動を促すには、限定的なアナウンス効果しか認められないと、企業の財務戦略を逆手に立った投資手法の紹介記事がありました。

2014/10/10付 |日本経済新聞|朝刊
スクランブル 自社株買いに賞味期限?  高ROE、持続力で選別

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、「ソシエテジェネラル証券香港拠点のフランク・ベンジムラ氏が、自社株買いを発表したばかりの15~25銘柄を選んで株価を指数化し、2か月ごとに入れ替えていく投資手法で、年明けのリターンがプラス11%と、5%安の日経平均を上回った」とあります。
つまり、自社株買いにより、自己資本が減ることで、高いROEをせっかく演出しても、効果は一時的で、すぐに株価は反応しなくなるということです。
また、記事では、「財務の技術に頼ったROEの向上ではなく、「将来への戦略的な事業投資を怠らず、高いROEを持続できる企業」(シティグループ証券のアレックス・ミラー氏)が選ばれる」とも記述されています。

■ もう飽きました? ROEの計算式の確認

さんざん繰り返していますが、ROEの計算式を下記に記述します。
ROE = 当期純利益 ÷ 純資産(自己資本)
     = (当期純利益 ÷ 売上高) × (売上高 ÷ 総資産) × (総資産 ÷ 純資産)
     = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
右辺の第3項の「財務レバレッジ」を「自社株買い」で上げることによって、ROEは一時的に向上することは確かですが、会社の営んでいる事業への再投資に振り向ける投下資本額を減らすことになります。現時点の株主への還元か、将来時点の会社利益の増大か、異時点間の投資意思決定、それが「自社株買い」です。
経営の本質は、「売上高当期純利益率」の向上(高マージンの事業創出)、「総資産回転率」の向上(投下資本の効率性の維持)を目指すものでしょう。ROE計算式の因数分解的には。

■ 自社株買いが推奨されるケース

「自社株買い」が推奨されるケースは、下記の2つと筆者は考えています。

  1. 事業が成熟し、資金需要が弱まったので、煩わしい手間(株主総会での特別決議)をかけて減資することなく、簡便な方法で株主へ資金を返還したいとき
  2. 経営者の判断で、新規または既存事業への投資収益率より、安値で放置されている自社株を買った方が投資収益率が高くなると看做されるとき

2つ目は少々わかりにくいかもしれませんが、現在の株価を前提にした場合、
株式益回り = 予想純利益 ÷ 時価総額
            = 予想純利益 ÷ (株価 × 発行済み株式数)
なので、
株価が経営者が思っているより安値ということは、時価総額が予想より小さいということ。すなわち、分母が予想より小さいということは、左辺の株式益回りが予想より大きいということ。
実際に仮の数字で表すと、
株式益回り = 1,000円 ÷ (100円 × 100株)
            = 10%
新規投資の利益率 = 利益 ÷ 投資額
                    = 1,000円 ÷ 20,000円
                    = 5%
この2つの投資案件しか存在していない場合、経営者の立場からすれば、新規投資の利益率(ここでは期待値は考慮せず)が5%しか見込めないのなら、利益率(株式益回り)が10%の自社株を買った方がまし、ということになり、自社株買いが正当化されます。

  • 物言う株主「○○氏」の要求に従い、自社株買いを決断し、株主還元を強化
  • ROE向上による株式市場での高い評価(高株価)を狙った自社株買いの実施

というのは、どちらも「自社株買い」の投資意思決定の経済合理的な判断基準には、到底なり得ないのであります。

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小林 友昭とことんROE■ 「自社株買い」の神通力は2か月 株式市場の重要なテーマとなっている企業の資本効率。今回は高ROEの演出が投資家に「株を買わせる」行動を促すには、限定的なアナウンス効果しか認められないと、企業の財務戦略を逆手に立った投資手法の紹介記事がありました。 2014/10/10付 |日本経済新聞|朝刊 スクランブル 自社株買いに賞味期限?  高ROE、持続力で選別(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事では、「ソシエテジェネラル証券香港拠点のフランク・ベンジムラ氏が、自社株買いを発表したばかりの15~25銘柄を選んで株価を指数化し、2か月ごとに入れ替えていく投資手法で、年明けのリターンがプラス11%と、5%安の日経平均を上回った」とあります。 つまり、自社株買いにより、自己資本が減ることで、高いROEをせっかく演出しても、効果は一時的で、すぐに株価は反応しなくなるということです。 また、記事では、「財務の技術に頼ったROEの向上ではなく、「将来への戦略的な事業投資を怠らず、高いROEを持続できる企業」(シティグループ証券のアレックス・ミラー氏)が選ばれる」とも記述されています。 ■ もう飽きました? ROEの計算式の確認さんざん繰り返していますが、ROEの計算式を下記に記述します。 ROE = 当期純利益 ÷ 純資産(自己資本)      = (当期純利益 ÷ 売上高) × (売上高 ÷ 総資産) × (総資産 ÷ 純資産)      = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ 右辺の第3項の「財務レバレッジ」を「自社株買い」で上げることによって、ROEは一時的に向上することは確かですが、会社の営んでいる事業への再投資に振り向ける投下資本額を減らすことになります。現時点の株主への還元か、将来時点の会社利益の増大か、異時点間の投資意思決定、それが「自社株買い」です。 経営の本質は、「売上高当期純利益率」の向上(高マージンの事業創出)、「総資産回転率」の向上(投下資本の効率性の維持)を目指すものでしょう。ROE計算式の因数分解的には。 ■ 自社株買いが推奨されるケース「自社株買い」が推奨されるケースは、下記の2つと筆者は考えています。事業が成熟し、資金需要が弱まったので、煩わしい手間(株主総会での特別決議)をかけて減資することなく、簡便な方法で株主へ資金を返還したいとき経営者の判断で、新規または既存事業への投資収益率より、安値で放置されている自社株を買った方が投資収益率が高くなると看做されるとき2つ目は少々わかりにくいかもしれませんが、現在の株価を前提にした場合、 株式益回り = 予想純利益 ÷ 時価総額             = 予想純利益 ÷ (株価 × 発行済み株式数) なので、 株価が経営者が思っているより安値ということは、時価総額が予想より小さいということ。すなわち、分母が予想より小さいということは、左辺の株式益回りが予想より大きいということ。 実際に仮の数字で表すと、 株式益回り = 1,000円 ÷ (100円 × 100株)             = 10% 新規投資の利益率 = 利益 ÷ 投資額                     = 1,000円 ÷ 20,000円                     = 5% この2つの投資案件しか存在していない場合、経営者の立場からすれば、新規投資の利益率(ここでは期待値は考慮せず)が5%しか見込めないのなら、利益率(株式益回り)が10%の自社株を買った方がまし、ということになり、自社株買いが正当化されます。物言う株主「○○氏」の要求に従い、自社株買いを決断し、株主還元を強化ROE向上による株式市場での高い評価(高株価)を狙った自社株買いの実施というのは、どちらも「自社株買い」の投資意思決定の経済合理的な判断基準には、到底なり得ないのであります。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します