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■ 大物でないのに3回に分けて説明します

会計(基礎編)
前回」まで、登場順に、P/L、B/S、C/F(C/S)と財務諸表(F/S)における大物3者を一回ずつの読み切りで説明してきました。ここにきて、「○○を斬る」シリーズは、3回にかけて「包括利益計算書(C/I)」を説明することにします。前3者に比べて、新参者のC/I、内容そのものの理解というより、表示のされ方の前提条件の説明からお話しなければならないので、追加で2回を要します。実は、P/Lの所で説明を省いた影響もあります。そこで、今回は、損益計算書(P/L)との関係からお話を始めます。

■ 「包括利益計算書」は「損益計算書」の続編

会計ルールでは、「損益計算書」と「包括利益計算書」を合体させても、分離させても、どっちでもよいことになっています。筆者は、分離させたものの方をよく目にします。
損益計算書の弟誕生の秘密」の回で、「包括利益計算書」登場の理由を簡単に説明しましたが、今度は、貸借対照表との関係性の中で、3者の立ち位置を説明します。
古き良き時代は、下図のような人間関係(?)がP/LとB/Sの間に成立していました。
会計(基礎編)_古き良き時代のPLとBSの関係
P/Lの計算結果の「利益」は、B/Sの「資本」の増減をぴたっと表していました。2人は親密な関係を長い間保っていました。
しかし、M&Aが活発になってくると、B/Sがその瞬間瞬間の公正な買収価値(公正な財産価値)を表していないとの批判の声が大きくなり、P/Lに断りもせず、B/Sの側で勝手に、「資産」と「負債」の時価評価を始めて、P/Lに頼らずに、「資本」の金額の増減を計算し始めました。「資本」の額が、株主の正味の所有財産の価値を表しており、M&Aは、この株主の所有財産価値を売買するものだからです。
会計(基礎編)_仲違いを始めたPLとBS
P/Lにも譲ることができない事情がありました。P/Lの「収益」と「費用」には、それぞれ計算するルールが厳格に決められており、勝手に「時価評価」の結果を「利益」に算入することは、長い間、厳禁とされていたのです。簡単に言うと、現在および将来、確実に「現金(同等物)」が増えることが保証されていない「利益」は「未実現利益」と呼んで、特に忌み嫌い、P/Lから排除する、というのが、従来のP/L世界の一番大事な掟(おきて)だったのです。
「利益」=「儲け」を計算する目的にまで、遡って考えてみてください。P/Lの計算する「利益」は、「業績評価利益」として、例えば1年間の経営者の努力を証明するものでもあります。そこに、まだ売買取引を行ってもいないモノの、もしかしたら、いくらで売れるかもしれないから、その利益を足す(低い評価額が出たら損失になる)ということを許してしまうと、経営者の本当の実力を示す「利益」にならないと(多くの日本の会計学者は)考えるからです。
そこで、仲違いを始めてしまったP/LとB/Sを仲直りさせ、間を取り持つために、「包括利益計算書(C/I)」が誕生しました。C/Iは、P/Lから「当期純利益」を受け取って、自分の中で時価評価に関する利益を足し込んであげて、「包括利益」という新しい名前を付けて、B/Sに受け渡してあげることにしました。
会計(基礎編)_PLとBSの仲を取り持ったCI
こうすることで、間にC/Iに仲介を頼む形になりましたが、P/LとB/Sの喧嘩は一旦おさまった形になっています。

■ その他の包括利益の中身

それでは、当期純利益に足し込まれる「その他の包括利益」の代表選手をご紹介します。
会計(基礎編)_包括利益の中身
《その他有価証券評価差額金》
いわゆる「持ち合い株式」を、もし売却したらいくら儲かるかを計算した金額。
実際には、売却していないところが特徴。もし、売却したら、「損益取引」として、P/Lの仲間になります。
《繰延ヘッジ損益》
「為替予約」とか「金利スワップ取引」とか、小難しい金融派生商品を使って、デリバティブ取引を行った際に、決算時点で確実性の高い評価損益は、P/Lに算入するものの、将来に発生する可能性のある損益は、あくまで評価上の仮損益として、ここで包括利益に入れておきます。
《為替換算調整勘定》
ドルとか、ユーロで作成された海外子会社の財務諸表を、日本の親会社の財務諸表とがっちゃんこして、企業グループ全体の成績を示す「連結財務諸表」を作成する際、ドルやユーロを日本円に換算する時に発生する調整額を意味しています。
例えば、1ドル=100円で出資して米国の子会社を設立した数年後、変動相場制により、円安になって、1ドル=110円で連結財務諸表を作成しようとした場合、10円だけ、米国子会社の価値が上がっていることになります。でも、米国子会社の株式を誰かに売却したわけではないので、「損益取引」にはなりません。したがって、P/Lにこの10円を利益として算入するわけにはいきません。そこで、C/Iの方で面倒を見ることにしました。
《退職給付に係る調整額》
将来会社からもらえる(ハズ)の退職金は、現時点で様々な金融資産で資金運用した結果の利益で賄われています。予定している運用利率と、これまでの実際の運用利率に差額が発生しているケースが多いです。また、退職年金制度を途中で変更した時に、当初考えていなかった将来の支払予定額の増分があるかもしれません。こうした、将来発生する退職年金の運用資産や支払額の変動で、現時点で分かっている分は、「損益取引」には入れられないが、金額は分かっている。その分をC/Iで面倒を見ることにしました。
《土地再評価差額金》
これは、制度が変わりそうなので、簡単にだけ触れておきます。その昔、土地を時価評価して、売却していなくても、買った時の値段から現在の価値まで地価が上がった分だけ会社の価値(資本額)を増やしてもいいよ、という時限立法があったものに対応する分です。
次回は、「P/LとC/Iのこじれた関係」、「持分と連結の考え方」をテーマに、引き続き「包括利益計算書」の説明をする予定です。
ここまで、「包括利益計算書を斬る(1)」の説明をしました。
会計(基礎編)_包括利益計算書を斬る(1)

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291-150x150.jpg小林 友昭会計(基礎編)■ 大物でないのに3回に分けて説明します 「前回」まで、登場順に、P/L、B/S、C/F(C/S)と財務諸表(F/S)における大物3者を一回ずつの読み切りで説明してきました。ここにきて、「○○を斬る」シリーズは、3回にかけて「包括利益計算書(C/I)」を説明することにします。前3者に比べて、新参者のC/I、内容そのものの理解というより、表示のされ方の前提条件の説明からお話しなければならないので、追加で2回を要します。実は、P/Lの所で説明を省いた影響もあります。そこで、今回は、損益計算書(P/L)との関係からお話を始めます。 ■ 「包括利益計算書」は「損益計算書」の続編 会計ルールでは、「損益計算書」と「包括利益計算書」を合体させても、分離させても、どっちでもよいことになっています。筆者は、分離させたものの方をよく目にします。 「損益計算書の弟誕生の秘密」の回で、「包括利益計算書」登場の理由を簡単に説明しましたが、今度は、貸借対照表との関係性の中で、3者の立ち位置を説明します。 古き良き時代は、下図のような人間関係(?)がP/LとB/Sの間に成立していました。 P/Lの計算結果の「利益」は、B/Sの「資本」の増減をぴたっと表していました。2人は親密な関係を長い間保っていました。 しかし、M&Aが活発になってくると、B/Sがその瞬間瞬間の公正な買収価値(公正な財産価値)を表していないとの批判の声が大きくなり、P/Lに断りもせず、B/Sの側で勝手に、「資産」と「負債」の時価評価を始めて、P/Lに頼らずに、「資本」の金額の増減を計算し始めました。「資本」の額が、株主の正味の所有財産の価値を表しており、M&Aは、この株主の所有財産価値を売買するものだからです。 P/Lにも譲ることができない事情がありました。P/Lの「収益」と「費用」には、それぞれ計算するルールが厳格に決められており、勝手に「時価評価」の結果を「利益」に算入することは、長い間、厳禁とされていたのです。簡単に言うと、現在および将来、確実に「現金(同等物)」が増えることが保証されていない「利益」は「未実現利益」と呼んで、特に忌み嫌い、P/Lから排除する、というのが、従来のP/L世界の一番大事な掟(おきて)だったのです。 「利益」=「儲け」を計算する目的にまで、遡って考えてみてください。P/Lの計算する「利益」は、「業績評価利益」として、例えば1年間の経営者の努力を証明するものでもあります。そこに、まだ売買取引を行ってもいないモノの、もしかしたら、いくらで売れるかもしれないから、その利益を足す(低い評価額が出たら損失になる)ということを許してしまうと、経営者の本当の実力を示す「利益」にならないと(多くの日本の会計学者は)考えるからです。 そこで、仲違いを始めてしまったP/LとB/Sを仲直りさせ、間を取り持つために、「包括利益計算書(C/I)」が誕生しました。C/Iは、P/Lから「当期純利益」を受け取って、自分の中で時価評価に関する利益を足し込んであげて、「包括利益」という新しい名前を付けて、B/Sに受け渡してあげることにしました。 こうすることで、間にC/Iに仲介を頼む形になりましたが、P/LとB/Sの喧嘩は一旦おさまった形になっています。 ■ その他の包括利益の中身 それでは、当期純利益に足し込まれる「その他の包括利益」の代表選手をご紹介します。 《その他有価証券評価差額金》 いわゆる「持ち合い株式」を、もし売却したらいくら儲かるかを計算した金額。 実際には、売却していないところが特徴。もし、売却したら、「損益取引」として、P/Lの仲間になります。 《繰延ヘッジ損益》 「為替予約」とか「金利スワップ取引」とか、小難しい金融派生商品を使って、デリバティブ取引を行った際に、決算時点で確実性の高い評価損益は、P/Lに算入するものの、将来に発生する可能性のある損益は、あくまで評価上の仮損益として、ここで包括利益に入れておきます。 《為替換算調整勘定》 ドルとか、ユーロで作成された海外子会社の財務諸表を、日本の親会社の財務諸表とがっちゃんこして、企業グループ全体の成績を示す「連結財務諸表」を作成する際、ドルやユーロを日本円に換算する時に発生する調整額を意味しています。 例えば、1ドル=100円で出資して米国の子会社を設立した数年後、変動相場制により、円安になって、1ドル=110円で連結財務諸表を作成しようとした場合、10円だけ、米国子会社の価値が上がっていることになります。でも、米国子会社の株式を誰かに売却したわけではないので、「損益取引」にはなりません。したがって、P/Lにこの10円を利益として算入するわけにはいきません。そこで、C/Iの方で面倒を見ることにしました。 《退職給付に係る調整額》 将来会社からもらえる(ハズ)の退職金は、現時点で様々な金融資産で資金運用した結果の利益で賄われています。予定している運用利率と、これまでの実際の運用利率に差額が発生しているケースが多いです。また、退職年金制度を途中で変更した時に、当初考えていなかった将来の支払予定額の増分があるかもしれません。こうした、将来発生する退職年金の運用資産や支払額の変動で、現時点で分かっている分は、「損益取引」には入れられないが、金額は分かっている。その分をC/Iで面倒を見ることにしました。 《土地再評価差額金》 これは、制度が変わりそうなので、簡単にだけ触れておきます。その昔、土地を時価評価して、売却していなくても、買った時の値段から現在の価値まで地価が上がった分だけ会社の価値(資本額)を増やしてもいいよ、という時限立法があったものに対応する分です。 次回は、「P/LとC/Iのこじれた関係」、「持分と連結の考え方」をテーマに、引き続き「包括利益計算書」の説明をする予定です。 ここまで、「包括利益計算書を斬る(1)」の説明をしました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します