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包括利益計算書を斬る(2)

会計(基礎編) 会計(基礎)
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■ もしかしたら大物かもしれない「C/I」の2回目の説明

会計(基礎編)
前回」は、「包括利益計算書(C/I)」が、P/LとB/Sの間を取り持ち、自分自身の中にはどういうものが含まれているかについて説明しました。
新参者は、どの世界でも軽視されがちです。もしかすると、C/Iも大変重要な財務諸表なのかもしれません。ただ、当初は、人によってその評価・位置付けがバラバラであることが常です。今回も、C/Iは、世界各国の会計ルールにとって、ちょっと違う扱いをされています。それは、C/Iだけでなく、C/IとP/Lの人間関係をどう理解するか、実は、根底に「連結」に対する認識の差異が存在していることに起因しています。

■ 「連結」と「単体」

このシリーズは、「会計(基礎編)」なので、ざっくりとだけ説明させて頂きます。会社が「決算書(財務諸表とも呼ぶ)」を作る単位は、なんだと思いますか? 基本形は、法務局で法人登記をした「法律上の会社」単位です。しかし、「法律上の会社」が他の「法律上の会社」に出資をして、いわゆる「子会社」を設立して、「企業グループ」を形成することがあります。
トヨタ自動車の場合は、日野自動車、ダイハツ工業、Toyota Motor Manufacturing, Kentucky, Inc.(TMMK)等を子会社としています。
ちなみに、トヨタ自動車の「法律上の会社」としての財務諸表と、「企業グループ」としての財務諸表の違いは、下表の通りです。
会計(基礎編)_トヨタ連単倍率
「法律上の会社」を「単体」、「企業グループ」を「連結」と呼び、「連結」単位で作成した財務諸表を「連結財務諸表」と呼びます。
「連結」数値が「単体」数値の何倍になっているかを「連単倍率」といいます。
トヨタ自動車の「連単倍率」を見てみると、

  • 売上高:2.3倍
  • 総資産:3.0倍
  • 従業員数:5.0倍

になっています。
企業グループ全体で見た方が、トヨタグループ全体の経済活動が分かるとは思いませんか?
ちなみに、今回のトヨタ自動車の連単比較は正常でしたが、不況になったり、企業全体の業績が思わしくなくなると、「親会社が赤字で、グループ全体が黒字」、または、「親会社だけが黒字で、グループ全体は赤字」になったりすることがあります。それは、税金の問題だったり、配当金支払の問題だったり、従業員への業績比例のボーナス払いの関係だったりで、いろいろな会計的操作(おっと失礼、絶妙な調整)が行われるせいです。

■ 資本関係と持分

上記の連単倍率を示した表にある「当期純利益」は、厳密には「当社株主に帰属する当期純利益」といいます。次は、このネーミングの意味を考えます。
下記は、例に挙げたトヨタ自動車の資本関係(一部)を図示したものです。
会計(基礎編)_トヨタグループ出資関係
TMKKは、完全子会社(100%出資子会社)で、トヨタ自動車以外に株主は存在しませんが、日野自動車とダイハツ工業は、東証に株式を上場しており、トヨタ自動車以外にも株主が存在します。株主には、会社に対する配当金の請求や会社財産の処分、取締役の選任など、一人一票ではなく、一株一票の権利(請求権)があります。この持ち株比率に応じて、相応の権利を有しているこの権利を「持分」といいます。株主は「持分」の比率に応じて、配当金の支払いを受けたり、株主総会で様々な決議を行ったりします(ここでは、多数議決権株式の話は横においておきます)。みなさんも、マンションにお住みの方なら「区分所有」の仕組みをよくご存知だとおもいます。株式会社も同じです。
つまり、トヨタ自動車の財務諸表(連結P/L)を眺めると、日野自動車の当期純利益の50.4%、ダイハツ工業の当期純利益の51.5%だけを合わせた利益が、トヨタ自動車としての「当社株主に帰属する当期純利益」という定義になります。

■ 国(会計ルール)によって「連結」の考え方が異なる

日本は、「親会社説」といって、上述の通り、親会社であるトヨタ自動車の「持分」で比例按分した分の利益だけを集計したものを「当期純利益」とみなします。
一方、米国基準や、最近世界中で流行っているIFRSは、「経済的単一体説」といって、トヨタ自動車という自動車の開発・製造・販売・付属金融サービスをしている企業グループ全体の経営活動から生み出された利益を「当期純利益」とみなします。
この考え方の違いが、連結P/Lの下の部分の科目表示の差異となって表れてきます。
会計(基礎編)_連結概念_親会社説_経済的単一体説
連結P/Lの終わり方に2パターンあるということは、連結包括利益計算書の始まり方にも2パターンあるということです。こちらは、科目名称だけの問題ですが。なぜなら、連結包括利益の計算は、別段「持分」の違いを意識して行うのではなく、連結包括利益を一度計算した後、また親会社と少数株主(または非支配持分)に分解するだけですから。
ちなみに、多勢に無勢で世界では「経済的単一体説」が優勢になっています。興味のある方は、日本の会計基準の変更予定も調べてみてください。「長い物には巻かれよ」になっているハズです。。。
次回は、短編になりそうですが、「実際の(連結)包括利益計算書を眺めてみる」をテーマにする予定です。
ここまで、「包括利益計算書を斬る(2)」の説明をしました。
会計(基礎編)_包括利益計算書を斬る(2)

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