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働く日本人はAIを克服することができるか?(後編)モジュール化 対 要素技術・匠の技から考える

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 「モジュール化」より「インテグラル化」を極めてきた日本の製造業

経営管理会計トピック

ダイレクトにAIを取り上げていない日本経済新聞記事を題材に、AIを克服する日本人の働き方について考察する投稿の第3弾です。

<第1弾のまとめ>
・経済のデジタル化の進展により、情報処理の中心がビックデータをAIなどのテクノロジーを使って効率的に最適解を求めることに移ってきた。
・デジタル財が、相互接続のプロトコルさえきちっと守れば、製品やサービスとして個別に製作しても顧客に提供できる「モジュール化」思想で成り立っている。
・「限定合理性」を持つ人間の脳はビッグデータの処理には向かないが、離散値で表現できないデータを扱ったり、過去データの統計処理では導くことのできないイベンチャルな判断処理をしたりなど、まだまだAIより人間の脳が一日の長がある分野がある。

本編は、2つ目の論点、「モジュール化」について掘り下げていきたいと思います。

「インテグラル型」とは、工業製品やシステムの構造・設計の分類の一つで、構成要素が相互に密接に関連していて、一部分の変更が他の箇所に与える影響が大きいものを指します。いわゆる「すり合わせ型」ともいい、日本を代表する自動車産業が典型例です。ガソリンエンジン車のエンジン機構そのものが、多くの要素技術の調整に次ぐ調整で動くように設計されており、そうした濃密な各部署のコミュニケーションを日本文化に浴している日本人が得意とするものづくりの作法だと、日本の製造業の強みとして一般的に、説明されます。

それに比して、「モジュール型」とは、標準化された要素を組み合わせて最終製品を製造できるような構造・設計から成り立ち、「組み合わせ型」とも呼ばれています。前編で触れた、IT製品(パソコンやWeb技術を用いた各種ITサービスなど含む)がその代表例で、シリコンバレー型の欧米企業が現下の産業の成長の軸となっていることから、ものづくりの競争優位が再び欧米企業に戻ったとも一般的に説明されます。同義語で「オープン化」と呼ばれたりもします。

(参考)
⇒「(経済教室)分断危機を超えて(5)企業と現場、相互信頼カギ 調整・設計、強み一段と 藤本隆宏 東京大学教授
⇒「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(1) HBR 2015年4月号より

 

■ 「モジュール化」がビジネスの地平線を変貌させる

「モジュール化」は、産業の水平分業を推進させます。そういった事例をいくつかご紹介。

2017/9/1付 |日本経済新聞|朝刊 ソニーもAIスピーカー 頭脳はグーグル製 手ぶりでも操作、10月発売

「【ベルリン=吉野次郎、飯山順】ソニーとパナソニックは会話型の人工知能(AI)を搭載した家庭用スピーカーを、今秋から冬にかけてそれぞれ発売する。中核技術となるAIには米グーグルの技術を採用。AIスピーカーの世界的な需要拡大をにらみ、AIを自社で開発するコストを省いて市場参入を急ぐ。一方で、競争力の源泉となるAI技術をグーグルに依存することで、商品戦略に制約を受けるリスクもありそうだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「ソニーのAIスピーカー「LF―S50G」」を引用)

20170901_ソニーのAIスピーカー「LF―S50G」_日本経済新聞朝刊

ただし、ソニーは子会社にて独自開発の会話型AIを搭載するスピーカーの発売も計画していましたが、米国勢の性能に追いつくには時間とコストがかかると判断し、今回のグーグル製AI搭載のスピーカー発売に至りました。BtoB(企業向け)会話型AIを開発しているパナソニックも、個人向けではグーグルに頼る形となりました。

(下記は同記事添付の「AIスピーカー市場に参入する企業が増えている」を引用)

20170901_AIスピーカー市場に参入する企業が増えている_日本経済新聞朝刊

冒頭の新聞記事では、AI技術をグーグルに依存することで自社製品の開発戦略に制約がかかるリスクに言及していますが、それは、水平分業を根底にする「モジュール化」経済圏での棲み分け戦略を十分に理解していない記述のように見受けられます。

2017/9/6付 |日本経済新聞|朝刊 音声操作家電、白物にも新顔 アマゾンやグーグルのAI活用、毛布や掃除機に広がる裾野

「【ベルリン=吉野次郎】米アマゾン・ドット・コムや米グーグルなどの会話型人工知能(AI)に対応した白物家電が新たな主流になりつつある。ベルリンで開催中の家電見本市「IFA2017」で、メーカー各社は音声で操作できる電気毛布やロボット掃除機などを発表した。アマゾンやグーグルなど米国勢の影響力がAIを通じて白物家電にも広がり始めた。」

(下記は同記事添付の「IFAに展示された主な音声入力対応の家電」を引用)

20170906_IFAに展示された主な音声入力対応の家電_日本経済新聞朝刊

会話型AIに対応することで、ヒューマンインターフェースは、AIスピーカーのみならず、スマートフォンでも家電が直接的に操作指示を受け付けることができるようになります。

ユーザビリティの問題だけに限らず、モジュール化は製品開発戦略にも大きく影響を及ぼします。

「アマゾンのAIスピーカーに対応するオーブンレンジやコーヒーマシンを展示した独ボッシュの担当者は、「まだどの技術が主流になるかわからない。グーグルやアップルの会話型AIにも対応したい」と話す。」

(下記は同記事添付の「米アマゾン・ドット・コムのAIスピーカーから音声で操作できる独ボッシュの洗濯機」を引用)

20170906_米アマゾン・ドット・コムのAIスピーカーから音声で操作できる独ボッシュの洗濯機_日本経済新聞朝刊

ボッシュの開発者は、対ユーザインターフェースとなるガジェットやツールがどの社製の会話型AIが覇権を握ろうとも、オールレンジで自社家電を開発することが可能になります。それは、会話型AIとの接続性・通信規格が汎用であるからこそです。

2017/8/31付 |日本経済新聞|夕刊 アマゾンとマイクロソフト、会話型AIで提携 相互の端末から接続

「【シリコンバレー=中西豊紀】米アマゾン・ドット・コムと米マイクロソフトは30日、人工知能(AI)を使った音声認識事業で提携すると発表した。年内に会話型AIであるアマゾンの「アレクサ」とマイクロソフトの「コルタナ」を相互に連携させて使えるようにする。音声認識市場でシェア争いが激しくなるなか、ライバルどうしが手を組む異例の戦略をとる。」

極めつけはこれ。会話型AIをリリースするアマゾンとマイクロソフトが技術の相互乗り入れで提携し、ネットの世界で双方の会話型AIを連結し、一大エコシステムを形成しようという動き。従来のシステム、オールインワンで顧客囲い込みのIT販売戦略をセコセコとやっている時代は遠い過去のお話となったのです。はてさて、こういうオープン化、モジュール化が進展した中で、日本企業はどこで競争優位を維持すればよいのでしょうか?

 

■ 「匠の技」「要素技術」に強みのある日本の製造業がモジュール化の時代に生き残るために

はてさて、日本企業はどうすれば過去の遺産である既存製造業の強みを生かし、モジュール化とオープン化が進展する米IT企業が覇権を握る世界で戦っていけるのか?

2017/9/7付 |日本経済新聞|朝刊 (経済教室)第4次産業革命とものづくり(上)システム技術の強化急げ 「現場力」妄信は時代遅れ 木村英紀・早稲田大学招聘研究教授

「システムを作るための技術を総称して「システム技術」と呼ぶとすれば、部品の品質を高めるのが「要素技術」である。両者は互いに手を取り合って技術を進歩させてきた。要素の進歩が新しいシステムの誕生を促し、新システムの発想がそれを実現する要素技術の進歩を促す。」

(下記は同記事添付の「木村英紀・早稲田大学招聘研究教授」の写真を引用)

20170907_木村英紀・早稲田大学招聘研究教授_日本経済新聞朝刊

例えば、要素技術である微細加工が進歩して半導体(トランジスタ)の集積度が上がるたびに、システム技術である設計手法はより速いCPUを生み出すなど、要素技術とシステム技術はイノベーションの両輪でした。

しかし近年、数十~数百のCPUを搭載する自動車、コピーやプリント、ファクスなどを兼ね備えた複合機、多機能なスマートフォン、私鉄とJRの相互乗り入れなど、独自の機能を持つシステムが連携して作られた高次のシステムは「システム・オブ・システムズ」と呼ばれ、こうした新しい生産、サービス、経営の各ビジョンからものづくりの考え方を再構成しようというのがドイツで推進されている「インダストリー4.0」「第4次産業革命」となっているのです。どうする、日本の製造業!?

木村教授によりますと、モジュール化の進展により、

「再構成可能な生産システム」:規模の伸縮が可能なモジュールを自由に組み合わせられれば、どんな製品でも、顧客の好みに応じた注文生産が迅速にできるようになる。
そうなれば産業構造だけでなく、人々の生活も大きく変わる。そのためにはモジュールが標準化され、モジュール相互をつなぐインターフェースの使い勝手がよくなければならない。

一方で、

「匠の技」に高い価値をおく日本は、要素技術大国である。狭い分野に特化して「とがった技術」を磨く要素技術者が、広い視野から技術を評価し全体思考を重んじるシステム技術者よりも尊敬を受ける。システムが付加価値の柱になってきた現在、システム技術の弱さは日本の技術の足腰を弱めている。

(下記は同記事添付の「システム科学技術の概念図」を引用)

20170907_システム科学技術の概念図_日本経済新聞朝刊

教授の処方箋は次の3つ。

(1)再構成可能な生産システムの構築などを目標に、定量的な手法に基づくものと定性的なものの研究者のコミュニティー間の交流を活発にする

(2)日本が強い要素技術をシステム化に結び付け、「要素の強さが生きるシステム」を作り出す(設計から消費までライフサイクル全体を一貫して考えなければならなくなったシステムの時代において、主に生産現場における現場力だけに頼らない! → コンカレント・エンジニアリングを強化する!)

(3)暗黙知に基づく現場力を妄信せずに、全体のマネジメントの視点で自分のポジションや守備範囲を理解・評価し、必要な時には他の分野へ越境できるような広い視野を持つ人間の組織で現場を構成する

この論点整理の投稿が貴社の参考になれば幸いです。m(_ _)m

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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