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■ 経済紙お得意の手のひら返し 「株主還元」は大歓迎だったのでは?

経営管理会計トピック

2015年5月に、2年間の限定期間ながら、「100%株主還元」を発表したアマダHD(当時はアマダ)に対する、衝撃と称賛があり、その後、1年かけて、「ROE」改善には「分母」政策(自己資本減らし)より、「分子」政策(利益増大)の方が、本道である、という極めて当たり前の論調に軌道修正してきました。そして、今度は、貸借対照表の反対側(借方)を攻撃の的にロックインしたようです。

2015/11/25|日本経済新聞|朝刊 (会社研究)大還元の先へ(1) アマダホールディングス M&Aで稼ぐ力底上げへ

「1年間で稼いだ利益を配当や自社株買いで株主に全て配分する――。2014年5月に「100%還元」を発表し、大還元ブームの先駆けとなったアマダホールディングスが今、成長と還元のはざまで揺れる。成長投資に使うべきだったとの指摘を跳ね返そうと、収益力の底上げに懸命だ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

まず、記事では、100%還元の賞味期限が切れ、PBRが1倍近くまで下がっていることを、さも経営悪化、もしくは経営手腕のまずさかのように指摘しています。

「アマダの「全額還元宣言」は市場に衝撃を与え株価は急騰した。しかし1カ月もすると平穏に戻る。今の株価は発表前より5割高いが、PBR(株価純資産倍率)は「解散価値」とされる1倍近くまで下落している。」

そもそも、業績変化を伴わない、株価維持(株価上昇)策自体が、邪道であり、市場が落ち着いて、アマダHD株を評価している証左だと思います。

「昨年と比べ経営環境は厳しくなっている。16年3月期は連結純利益が4割増える見通しだが、政府の補助金など政策効果が需要を底上げしている。肝心の中国市場は需要が頭打ちだ。市場予想(QUICKコンセンサス)では、来期の純利益は4%減になる。
 利益の減少は還元額の減少を意味する。業績が踊り場に差し掛かったとみた市場からは「好調時こそ成長に向けた投資にカネを使うべきだった」(外資系証券)との声が出始めた。「100%還元は失敗だったのでは」との指摘すらある。」

そして、100%還元に現金を使うくらいだったら、業績向上のための将来投資(ここでもなぜか、M&Aが取り上げられていますが)に資金を振り向けるべきだったのでは? としたり顔で批評しています。利益が減ると、還元額も減る、何ともさもしい指摘ではありませんか?

「次の10年を見据えた中期計画で、「3」は売上高3割増、「2」は経常利益率2割、そして「1」は自己資本利益率(ROE)1割を示す。成長と資本効率の両立を目標に掲げた。
 最も高いハードルが「2」の経常利益率になる。今期予想は13%だ。好採算のレーザー加工機の出荷を増やすが、それだけでは達成は難しい。そこで狙うのがM&A(合併・買収)だ。予算はざっと400億円。そのために社内に眠っている資産を掘り起こす。」

M&Aが必ず将来業績の拡大と、収益性(ここでは利益率を指す)の改善につながる保証もないのに、還元より成長投資(つまりM&A)と、今度は「資本政策」礼賛から、「投資政策」への大非難へと、矛先が変わってきています。

ブレない筆者の見識をここで誇示するために、過去の関連投稿をご紹介しておきます。(^^;)
⇒(サブカテゴリ)「とことんROE

生産財マーケティング戦略―アマダに学ぶ売れる仕組みづくりと実践マニュアル

■ 経済紙お得意の手のひら返し 今度はB/Sの左側を攻める!

貸借対照表(B/S)の右側(貸方)の純資産(自己資本)の積み上がりを攻撃し、100%還元で対応したら、今度は、B/Sの左側(借方)を攻撃する。無責任な批判は一向にやむ気配はありません。

(下図は上記新聞記事添付のアマダの財務分析表を転載)

20151125_アマダHD_経常利益率20%が目標_日本経済新聞朝刊

「アマダは未回収の代金である売掛金を1400億円持つ。資金回収にかかる期間を示す「売掛債権回転日数」は前期で188日だ。代金回収に半年以上かかっている計算になる。安川電機(110日)やDMG森精機(68日)などと比べても突出して長い。」

「資金回収を早めれば運転資金を圧縮できる。取引先への低利融資制度「アマダローン」の運用を厳格化するなど効率改善に動き始めた。保有する有価証券も数百億円規模で売却を検討する。」

グラフからは、「売上高経常利益率」「売掛債権回転日数」は共に改善しているのに、この辛口批評はいったいどこから来るのか? その根拠を示してもらいたいと思います。その改善度が弱いというなら、その根拠は? 例に挙げられている上記の競合企業とは、客先と納めている製品がそもそも違うのですが、、、会社になり代わって、板金加工機械のあるべき、債権回収期間をズバコンで示して頂きたいと思います。

精密板金加工の手引き 中巻―技能検定受検用教材

■ 経済紙お得意の手のひら返し 本質は語られていない!

それでは、日本を代表する経済紙の揚げ足取りを続けていても、たんなるその辺のコメンテイターと同じなので、いろいろと数字を出して、財務分析の視点を整理してみたいと思います。

下図は、100%還元を発表した際と、今回の中間決算のアマダHDの貸借対照表の推移になります。

経営管理会計トピック_アマダHDのBS推移

新聞記事が説く、会社成長のための原資として必要!?とされている400億円は、現預金(729億円)と有価証券および投資有価証券(886億円)の合計額:1615億円の4分の1を使えば、簡単に捻出できます。つまり、上図の、資本構成も、営業活動への投下資産構成(売掛債権+棚卸+固定資産)も変えること無く、実現することができます。

アマダが、過去営々と日々の努力で積み上げてきた自己資本(4241億円)のうち、約半分を占める利益剰余金:2175億円は、何にも使われていない余剰資金ではなく、貸借対照表(B/S)の左側の投下資産として当てがわれていますので、この利益の積み上げが罪というのなら(韻を踏んでみました。(^^;))、貸借対照表の左側での、資金の使われ方に対して、根本的な瑕疵があるかを指摘して頂きたいと思います。

むしろ、ただただ、近視眼的に株主への報い方を評価するならば、「TSR:Total Shareholder Return(株主総利回り)、せめて百歩譲って「配当性向」等を指標にして頂きたい。ROEは、その会社が過去から営々と築き上げてきた、財務健全性の努力をダメ、と判定する指標になってしまいます。少なくとも、アマダの件に関しては。

「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書 (PHPビジネス新書)

筆者がここで、アマダの財務担当者に、この問題(B/Sの右側)に限ってアドバイスするなら、ビジネスの固さを評価したうえで、「リキャップCB」による「自己資本」の「有利子負債」への転換を助言します。ただ、アマダのビジネスモデルというか、貸借対照表の左側の問題が全くないわけではありません。

ここは過去投稿をご参照ください。
⇒「今年度の予想ROE改善幅、ブラザーやカシオ上位に 自社株買いで押し上げ

この記事の最後に、アマダの財務分析結果を載せています。ここで指摘したのは、アマダの「売上総資産回転率(STN)」が経常的に「0.5」以下であるということ。つまり、持っている資産に比較して、売上(収益)を上げる力が少々弱いということなのです。したがって、この新聞記事による手のひら返しの貸借対照表の左側の弱さの指摘というのは、貸借対照表の右側から来る資金調達視点の問題から迫るのではなく、そもそも損益計算書(P/L)と貸借対照表の左側の関係で、「収益力」そのもの、を問題視すべきなのです。

① 資金調達問題 (貸借対照表の貸方(右側))
② 資金活用問題 (貸借対照表の借方(左側))
③ 期間収益力問題 (損益計算書)

の問題は、投資家から見れば、①→②→③ の順で語られるべきなのでしょうが、経営者ならば、③→②→① の順で経営戦略を立てるものなのですよ。昨今の、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードなど、①→②→③ 的な思考順序や説明順序を経営者に強いるものですが、それは、経営者の本当の思考純とは真逆ですよ! その負担をどこまで会社側にかけさせて、投資家は本当に元が取れると真剣に考えているのでしょうか。

ROEが奪う競争力 ―「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す

この新聞記事は、次のような言葉で締められています。
「経営目標に株主還元を加えると企業は変わる。成長戦略も資産のスリム化も、背中を押したのは市場からの厳しい視線だ。「投資家の期待に応えると経営が安定する」と磯部社長は話す。今年春には持ち株会社に移行し会社の形も変わった。」

でも筆者は、最近、仕方なくIR方針変更したファナックの某名誉会長が言っていたセリフを思い出します。

「アナリスト達と会って、話をしても1銭も儲かりゃしない」と。

No.1アナリストがいつも使っている 投資指標の本当の見方



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(会社研究)大還元の先へ(1) アマダホールディングス M&Aで稼ぐ力底上げへhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭とことんROEROE,TSR,PBR,株主還元,配当性向,アマダ,リキャップCB■ 経済紙お得意の手のひら返し 「株主還元」は大歓迎だったのでは? 2015年5月に、2年間の限定期間ながら、「100%株主還元」を発表したアマダHD(当時はアマダ)に対する、衝撃と称賛があり、その後、1年かけて、「ROE」改善には「分母」政策(自己資本減らし)より、「分子」政策(利益増大)の方が、本道である、という極めて当たり前の論調に軌道修正してきました。そして、今度は、貸借対照表の反対側(借方)を攻撃の的にロックインしたようです。 2015/11/25|日本経済新聞|朝刊 (会社研究)大還元の先へ(1) アマダホールディングス M&Aで稼ぐ力底上げへ 「1年間で稼いだ利益を配当や自社株買いで株主に全て配分する――。2014年5月に「100%還元」を発表し、大還元ブームの先駆けとなったアマダホールディングスが今、成長と還元のはざまで揺れる。成長投資に使うべきだったとの指摘を跳ね返そうと、収益力の底上げに懸命だ。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます まず、記事では、100%還元の賞味期限が切れ、PBRが1倍近くまで下がっていることを、さも経営悪化、もしくは経営手腕のまずさかのように指摘しています。 「アマダの「全額還元宣言」は市場に衝撃を与え株価は急騰した。しかし1カ月もすると平穏に戻る。今の株価は発表前より5割高いが、PBR(株価純資産倍率)は「解散価値」とされる1倍近くまで下落している。」 そもそも、業績変化を伴わない、株価維持(株価上昇)策自体が、邪道であり、市場が落ち着いて、アマダHD株を評価している証左だと思います。 「昨年と比べ経営環境は厳しくなっている。16年3月期は連結純利益が4割増える見通しだが、政府の補助金など政策効果が需要を底上げしている。肝心の中国市場は需要が頭打ちだ。市場予想(QUICKコンセンサス)では、来期の純利益は4%減になる。  利益の減少は還元額の減少を意味する。業績が踊り場に差し掛かったとみた市場からは「好調時こそ成長に向けた投資にカネを使うべきだった」(外資系証券)との声が出始めた。「100%還元は失敗だったのでは」との指摘すらある。」 そして、100%還元に現金を使うくらいだったら、業績向上のための将来投資(ここでもなぜか、M&Aが取り上げられていますが)に資金を振り向けるべきだったのでは? としたり顔で批評しています。利益が減ると、還元額も減る、何ともさもしい指摘ではありませんか? 「次の10年を見据えた中期計画で、「3」は売上高3割増、「2」は経常利益率2割、そして「1」は自己資本利益率(ROE)1割を示す。成長と資本効率の両立を目標に掲げた。  最も高いハードルが「2」の経常利益率になる。今期予想は13%だ。好採算のレーザー加工機の出荷を増やすが、それだけでは達成は難しい。そこで狙うのがM&A(合併・買収)だ。予算はざっと400億円。そのために社内に眠っている資産を掘り起こす。」 M&Aが必ず将来業績の拡大と、収益性(ここでは利益率を指す)の改善につながる保証もないのに、還元より成長投資(つまりM&A)と、今度は「資本政策」礼賛から、「投資政策」への大非難へと、矛先が変わってきています。 ブレない筆者の見識をここで誇示するために、過去の関連投稿をご紹介しておきます。(^^;) ⇒(サブカテゴリ)「とことんROE」 生産財マーケティング戦略―アマダに学ぶ売れる仕組みづくりと実践マニュアル ■ 経済紙お得意の手のひら返し 今度はB/Sの左側を攻める! 貸借対照表(B/S)の右側(貸方)の純資産(自己資本)の積み上がりを攻撃し、100%還元で対応したら、今度は、B/Sの左側(借方)を攻撃する。無責任な批判は一向にやむ気配はありません。 (下図は上記新聞記事添付のアマダの財務分析表を転載) 「アマダは未回収の代金である売掛金を1400億円持つ。資金回収にかかる期間を示す「売掛債権回転日数」は前期で188日だ。代金回収に半年以上かかっている計算になる。安川電機(110日)やDMG森精機(68日)などと比べても突出して長い。」 「資金回収を早めれば運転資金を圧縮できる。取引先への低利融資制度「アマダローン」の運用を厳格化するなど効率改善に動き始めた。保有する有価証券も数百億円規模で売却を検討する。」 グラフからは、「売上高経常利益率」「売掛債権回転日数」は共に改善しているのに、この辛口批評はいったいどこから来るのか? その根拠を示してもらいたいと思います。その改善度が弱いというなら、その根拠は? 例に挙げられている上記の競合企業とは、客先と納めている製品がそもそも違うのですが、、、会社になり代わって、板金加工機械のあるべき、債権回収期間をズバコンで示して頂きたいと思います。 精密板金加工の手引き 中巻―技能検定受検用教材 ■ 経済紙お得意の手のひら返し 本質は語られていない! それでは、日本を代表する経済紙の揚げ足取りを続けていても、たんなるその辺のコメンテイターと同じなので、いろいろと数字を出して、財務分析の視点を整理してみたいと思います。 下図は、100%還元を発表した際と、今回の中間決算のアマダHDの貸借対照表の推移になります。 新聞記事が説く、会社成長のための原資として必要!?とされている400億円は、現預金(729億円)と有価証券および投資有価証券(886億円)の合計額:1615億円の4分の1を使えば、簡単に捻出できます。つまり、上図の、資本構成も、営業活動への投下資産構成(売掛債権+棚卸+固定資産)も変えること無く、実現することができます。 アマダが、過去営々と日々の努力で積み上げてきた自己資本(4241億円)のうち、約半分を占める利益剰余金:2175億円は、何にも使われていない余剰資金ではなく、貸借対照表(B/S)の左側の投下資産として当てがわれていますので、この利益の積み上げが罪というのなら(韻を踏んでみました。(^^;))、貸借対照表の左側での、資金の使われ方に対して、根本的な瑕疵があるかを指摘して頂きたいと思います。 むしろ、ただただ、近視眼的に株主への報い方を評価するならば、「TSR:Total Shareholder Return(株主総利回り)、せめて百歩譲って「配当性向」等を指標にして頂きたい。ROEは、その会社が過去から営々と築き上げてきた、財務健全性の努力をダメ、と判定する指標になってしまいます。少なくとも、アマダの件に関しては。 「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書 (PHPビジネス新書) 筆者がここで、アマダの財務担当者に、この問題(B/Sの右側)に限ってアドバイスするなら、ビジネスの固さを評価したうえで、「リキャップCB」による「自己資本」の「有利子負債」への転換を助言します。ただ、アマダのビジネスモデルというか、貸借対照表の左側の問題が全くないわけではありません。 ここは過去投稿をご参照ください。 ⇒「今年度の予想ROE改善幅、ブラザーやカシオ上位に 自社株買いで押し上げ」 この記事の最後に、アマダの財務分析結果を載せています。ここで指摘したのは、アマダの「売上総資産回転率(STN)」が経常的に「0.5」以下であるということ。つまり、持っている資産に比較して、売上(収益)を上げる力が少々弱いということなのです。したがって、この新聞記事による手のひら返しの貸借対照表の左側の弱さの指摘というのは、貸借対照表の右側から来る資金調達視点の問題から迫るのではなく、そもそも損益計算書(P/L)と貸借対照表の左側の関係で、「収益力」そのもの、を問題視すべきなのです。 ① 資金調達問題 (貸借対照表の貸方(右側)) ② 資金活用問題 (貸借対照表の借方(左側)) ③ 期間収益力問題 (損益計算書) の問題は、投資家から見れば、①→②→③ の順で語られるべきなのでしょうが、経営者ならば、③→②→① の順で経営戦略を立てるものなのですよ。昨今の、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードなど、①→②→③ 的な思考順序や説明順序を経営者に強いるものですが、それは、経営者の本当の思考純とは真逆ですよ! その負担をどこまで会社側にかけさせて、投資家は本当に元が取れると真剣に考えているのでしょうか。 ROEが奪う競争力 ―「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す この新聞記事は、次のような言葉で締められています。 「経営目標に株主還元を加えると企業は変わる。成長戦略も資産のスリム化も、背中を押したのは市場からの厳しい視線だ。「投資家の期待に応えると経営が安定する」と磯部社長は話す。今年春には持ち株会社に移行し会社の形も変わった。」 でも筆者は、最近、仕方なくIR方針変更したファナックの某名誉会長が言っていたセリフを思い出します。 「アナリスト達と会って、話をしても1銭も儲かりゃしない」と。 No.1アナリストがいつも使っている 投資指標の本当の見方現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します