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■ タックスヘイブンが抱える問題は低税率だけなのか?

経営管理会計トピック

パナマ文書の公開から、世の中を騒がしているタックスヘイブンの根源的な問題は、本来ならば相応の(企業からすれば高い!?)税率にしたがって納税を行わず、極端な低税率国に登記上の会社(いわゆるペーパーカンパニー)を置いて、課税逃れをしている点にある、というのが一般的な見方のようです。しかし、渡辺教授によると、タックスヘイブンの根源的な問題は別にあるようです。

2016/4/22付 |日本経済新聞|朝刊 (経済教室)タックスヘイブン何が問題か 課税情報、本国当局から遮断 枠組み複雑化に狙い 渡辺智之 一橋大学教授

「政治家らの資産運用の実態を明らかにした「パナマ文書」の報道をきっかけに、租税回避地(タックスヘイブン)に対する関心が一段と高まっている。本稿ではタックスヘイブンとはどのようなもので、どんな問題があるのかなど、基本的な論点を解説する。」

20160422_渡辺智之_日本経済新聞朝刊

わたなべ・さとし 57年生まれ。東京大卒、プリンストン大博士。専門は財政学、租税法

<ポイント>
○ポイント税負担の低さに加え透明性の欠如も問題
○10年代から米国やOECDが対策本格化
○多国籍企業の過度の節税にも批判高まる

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

教授の説明にはのっけから意外性があります。

「タックスヘイブンとは一般には、税金が存在しないか、あるいは極めて低い国・地域を指すとされる。しかし正確に定義することは簡単ではない。例えば、アイルランドはタックスヘイブンなのかどうか、立場によって意見が分かれるかもしれない。」

ここで筆者ならば、日本の「外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)」を例に出し、「特定外国子会社等に該当することとされる著しく低い租税負担割合の基準(いわゆるトリガー税率)を20%未満の国・地域をタックスヘイブンとやってしまうところです。

(参考)財務省 外国子会社合算税制の仕組み(図解)

20160503_財務省_外国子会社合算税制の仕組み

ちなみに、2015年4月からこのトリガー税率を、20%“以下”から“未満”への僅かな変更があったのは、英国が2015年4月より法人税率を20%に引き下げる予定であることから、英国に配慮したものであるとされています。それゆえ、現在、法人税率が12.5%であるアイルランドは、即時タックスヘイブンと思ってしまいます。

(参考)世界経済のネタ帳 世界の法定実効税率ランキング

経済協力開発機構(OECD)の「有害な租税競争」報告書(1998年)はタックスヘイブンの条件として、次の4つを挙げました。

(1)無税または名目的課税
(2)実効性ある情報交換の欠如
(3)透明性の欠如
(4)実質的な経済活動の欠如

注目されるのは、タックスヘイブンであるかどうかが、税負担の低さの観点だけでなく、情報の入手可能性や透明性の観点から規定されていることです。主権国家や自治権のある地域は、税制を含め自国の制度を自由に設計できるのは徴税権の観点から至極当然です。一方で、グローバル企業が、株主からの利益計上プレッシャーにより、税負担を軽くしようとするのも当然のことです。しかし、グローバル企業をはじめとする国境を跨いだ経済活動をしている納税者がタックスヘイブンを利用して所得隠しをすることは容認されません。それゆえ、課税情報を不透明化する仕組みとしてのタックスヘイブンが問題視されるのもまた当然と教授は説明します。

 

■ タックスヘイブンの持つ課税所得が見えなくなるスキームこそが問題

(下記は、同記事添付のタックスヘイブン(TH)の利用イメージ図を転載)

20160422_タックスヘイブン(TH)の利用イメージ_日本経済新聞朝刊

上図は、海外で資産を運用する個人(X氏)がタックスヘイブンを利用する場合の簡単な例を示したものです。A・B・Cの3カ国はいずれもタックスヘイブンで、税率はゼロとします。X氏は本国(例えば日本)の課税を逃れるため、A国(例えばシンガポール)の口座にある資金を用いて、B国(例えばケイマン諸島)にペーパーカンパニーY社を設立します。さらにY社名義の口座をC国(例えばスイス)に開設し、資金運用をします。

こうしたスキームでの取引の実態は、X氏が海外で資金運用しているにすぎませんし、X氏が稼いだ収益は基本的に本国で課税されるべきものです。またY社が法人であれば、通常はY社の所得に本国の課税はすぐには及ばないが、仮にタックスヘイブン対策税制が発動されると、Y社の所得はX氏の所得として本国で直ちに課税されることになります。

ここでタックスヘイブンの本領が発揮されます。A・B・Cの3カ国はタックスヘイブンであり、それらの国から必要な課税情報を入手できないとするならば、本国の課税当局がX氏の所得を把握して課税することは困難になります。仮にX氏が海外で得た収益を本国で正確に税務申告・納税していれば、X氏の行動に何の問題もありません。しかしX氏が海外で得た収益について税務申告せず、本国に税金を支払わない場合には、X氏はタックスヘイブンを利用して脱税をしたことになります。

ここまでが純粋にタックスヘイブンを使ったスキームの国際的経済取引に起因する課税対象の把握の問題。それ以外に、下記の問題が。

● マネーロンダリングの問題
「X氏がタックスヘイブンで運用する資金は、もともと脱税その他の犯罪から得た資金かもしれません。その場合、X氏はタックスヘイブンを利用する以前にすでに違法行為をしているし、その違法行為から得た資金を隠蔽するためにタックスヘイブンを利用することでさらなる違法行為を犯したことになる。」

上記の問題があるゆえ、タックスヘイブンを利用すること自体は違法ではない、という説明は間違ってはいませんが、違法な取引をそのまま見逃してしまう可能性が高くなるという意味で、限りなく注視していかねばならないスキームであることは間違いないのです。

教授によると、実際に組まれるスキームはもっと複雑で、当局にとって取引の全容が分かりにくくなるよう年々巧妙になっていくようです。

「X氏の資金を親族らの名義の口座に分散させるとともに、Y社の子会社・関連会社を設立して、それらを通じた資金運用をするかもしれない。複雑な枠組みの構築には手数料などの費用が余分にかかる。にもかかわらず、単純な経済活動をあえて複雑な仕組みでしようとする目的は、課税情報を不透明にして本国の当局から遮断することだろうと考えられる。」

こういうタックスヘイブンを活用する目的はひとつ。「資産に関する情報と、その資産を保有して所得を得る納税者に関する情報を分断してしまうこと」。問題解決のためには、タックスヘイブンを含めた各国の課税当局間での情報交換を推進するしかありません。

 

■ タックスヘイブンとの情報共有化の動きについて

教授によると、タックスヘイブンとの租税情報交換条約を締結する動きは2000年代初頭からあったそうですが、当初は要請ベースの情報交換を定めただけでした。それが、

● 2010年:米国が外国口座税務コンプライアンス(法令順守)法(FATCA)を制定
→金融機関の有する非居住者の口座に関する自動的情報交換への国際的な取り組みが本格化

● 2014年:OECD策定の「共通報告基準」(非居住者の金融情報の自動的情報交換の基準)が20カ国・地域(G20)により承認

● 2015年:日本でも15年度税制改正で、自動的情報交換のための報告制度が導入
→今後、17~18年にかけて、いくつかのタックスヘイブンを含む多くの国々の間で自動的情報交換が開始される(日本は18年開始)

日本でのタックスヘイブンを含む海外取引の可視化の取り組みとして、
・100万円を超える海外送金に伴う情報を金融機関が届け出る制度
・国外に5千万円超の資産を持つ者が「国外財産調書」を提出する制度導入

今後は、税と社会保障の共通番号(マイナンバー)制度の活用も含め、課税情報把握の実効性をさらに高められていくでしょう。

 

■ 多国籍企業のタックスヘイブンを活用した行き過ぎた節税について

教授によれば、大規模な多国籍企業もタックスヘイブンを利用していますが、個人の場合とはやや状況が異なり、企業がビジネス環境の良い国や税負担の低い国で経済活動をしようとすることは、株主価値(企業価値)最大化の目線からは至極当然であり、タックスヘイブンの利用自体は必ずしも問題ではありません。しかし一部の多国籍企業が各国間の税制の違いや抜け穴を利用して、行きすぎた節税行動をしてきたことに対して、国際的に批判が高まっていることも事実です。

多国籍企業のタックスヘイブン利用に伴って生じうる問題とは、

①情報の隠蔽ではなく行きすぎた節税に関するもの
②多国籍企業の節税行動に一定の経済合理性があったとしても、行きすぎると各国間の税収配分や企業間の競争条件にゆがみをもたらす可能性がある

この問題への対応については、OECDの「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」を受けて、日本を含め各国で進められています。その中には、大規模な多国籍企業グループによる国や地域ごとの経済活動や納税に関する情報の収集、課税当局間での交換も含まれています。

「個人・企業に関する課税当局間での国際的情報交換の進展には、一部の個人・企業によるタックスヘイブンの悪用を抑制する効果がある。4月中旬のG20財務相・中央銀行総裁会議声明は、すべてのタックスヘイブンに対して自動的情報交換に応じるよう強く呼びかけるとともに、「実質的所有者情報の透明性」の確保を求めた。課税情報の透明化が今後さらに進展して、タックスヘイブンの弊害が軽減されることが望まれる。」

こうした取組みの一環として、OECDがどう動いているか、次の租税センター局長のインタビュー記事が参考になります。

2016/4/16付 |日本経済新聞|朝刊 途上国と情報共有 支援 OECD租税センター局長 パスカル・サンタマン氏

「――租税回避対策を主導してきた経済協力開発機構(OECD)は、パナマ文書をどう受け止めましたか。
「何の驚きもなかった。国際社会はこれまで約8年間(租税回避対策で)かなり進展してきた。そのなかで、OECDがめざす租税ルールに唯一抵抗してきた国が(文書の流出元である)パナマだったからだ」」

――国ごとに税務ルールが異なるなかで、情報交換の枠組みをいかに機能させますか。
「いま情報網を構築している段階だが、各国が有用な情報をなるべく簡素に共有できる仕組みをめざしたい。(税務当局が未熟な)発展途上国には多くの技術的な支援を提供していく」

 ――情報共有だけで税逃れは防げますか。
「金融機関などが口座や会社の持ち主を正しく把握できるよう、各国が国内法を整える必要がある。新制度の実効性を高めるため、各国の進捗をきちんと点検する方針だ」

20160416_パスカル・サンタマン_日本経済新聞朝刊

Pascal Saint―Amans 1996年からフランス財務省で税務畑を歩んだ。2007年からOECDで租税回避対策などに携わる。12年から現職。47歳。」

徐々に、行き過ぎた国際取引を活用した節税策包囲網が築かれつつあるようです。当局と企業のイタチごっこになるのか、企業が真っ当な企業価値向上施策を打ち始めるのか、今後の展開が大層見ものです。というのも、筆者の見解としては、企業誘致や税収UPのために、一方で法人減税のチキンレースを止めることが出来ない当局はジレンマに陥って、有効な決定打を打ちたてられず、国際取引把握の完全把握は不可能ではないかと考えています。

水は高きところから低き所へ自然と流れる。お金も高税率のところから低税率の場所へ流れるのも、道理じゃないですか。税率差がある限り、その流れは誰にも止めることはできません。

⇒「(真相深層)「結局は増税?」企業警戒 国際課税新ルール、強まる懸念 主要国、はや足並み乱れ -国際税務の超入門
⇒「国際税務、秋の陣 G20で 日本政府による法人税減税策の効果やいかに
⇒「パナマ文書にもめげず米当局企業課税逃れに新規制、結果としてファイザー、アラガン買収断念 ー 日本経済新聞まとめ
⇒「国際課税新ルール、日本企業でも適用 海外子会社の情報収集 本国との二重課税リスクも

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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(経済教室)タックスヘイブン何が問題か 課税情報、本国当局から遮断 枠組み複雑化に狙い 渡辺智之 一橋大学教授http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭経済動向を会計で読むBEPS,OECD,タックスヘイブン,パナマ文書,ペーパーカンパニー,マネーロンダリング,国際税務,渡辺智之,経済教室■ タックスヘイブンが抱える問題は低税率だけなのか? パナマ文書の公開から、世の中を騒がしているタックスヘイブンの根源的な問題は、本来ならば相応の(企業からすれば高い!?)税率にしたがって納税を行わず、極端な低税率国に登記上の会社(いわゆるペーパーカンパニー)を置いて、課税逃れをしている点にある、というのが一般的な見方のようです。しかし、渡辺教授によると、タックスヘイブンの根源的な問題は別にあるようです。 2016/4/22付 |日本経済新聞|朝刊 (経済教室)タックスヘイブン何が問題か 課税情報、本国当局から遮断 枠組み複雑化に狙い 渡辺智之 一橋大学教授 「政治家らの資産運用の実態を明らかにした「パナマ文書」の報道をきっかけに、租税回避地(タックスヘイブン)に対する関心が一段と高まっている。本稿ではタックスヘイブンとはどのようなもので、どんな問題があるのかなど、基本的な論点を解説する。」 わたなべ・さとし 57年生まれ。東京大卒、プリンストン大博士。専門は財政学、租税法 <ポイント> ○ポイント税負担の低さに加え透明性の欠如も問題 ○10年代から米国やOECDが対策本格化 ○多国籍企業の過度の節税にも批判高まる (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 教授の説明にはのっけから意外性があります。 「タックスヘイブンとは一般には、税金が存在しないか、あるいは極めて低い国・地域を指すとされる。しかし正確に定義することは簡単ではない。例えば、アイルランドはタックスヘイブンなのかどうか、立場によって意見が分かれるかもしれない。」 ここで筆者ならば、日本の「外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)」を例に出し、「特定外国子会社等に該当することとされる著しく低い租税負担割合の基準(いわゆるトリガー税率)を20%未満の国・地域をタックスヘイブンとやってしまうところです。 (参考)財務省 外国子会社合算税制の仕組み(図解) ちなみに、2015年4月からこのトリガー税率を、20%“以下”から“未満”への僅かな変更があったのは、英国が2015年4月より法人税率を20%に引き下げる予定であることから、英国に配慮したものであるとされています。それゆえ、現在、法人税率が12.5%であるアイルランドは、即時タックスヘイブンと思ってしまいます。 (参考)世界経済のネタ帳 世界の法定実効税率ランキング 経済協力開発機構(OECD)の「有害な租税競争」報告書(1998年)はタックスヘイブンの条件として、次の4つを挙げました。 (1)無税または名目的課税 (2)実効性ある情報交換の欠如 (3)透明性の欠如 (4)実質的な経済活動の欠如 注目されるのは、タックスヘイブンであるかどうかが、税負担の低さの観点だけでなく、情報の入手可能性や透明性の観点から規定されていることです。主権国家や自治権のある地域は、税制を含め自国の制度を自由に設計できるのは徴税権の観点から至極当然です。一方で、グローバル企業が、株主からの利益計上プレッシャーにより、税負担を軽くしようとするのも当然のことです。しかし、グローバル企業をはじめとする国境を跨いだ経済活動をしている納税者がタックスヘイブンを利用して所得隠しをすることは容認されません。それゆえ、課税情報を不透明化する仕組みとしてのタックスヘイブンが問題視されるのもまた当然と教授は説明します。   ■ タックスヘイブンの持つ課税所得が見えなくなるスキームこそが問題 (下記は、同記事添付のタックスヘイブン(TH)の利用イメージ図を転載) 上図は、海外で資産を運用する個人(X氏)がタックスヘイブンを利用する場合の簡単な例を示したものです。A・B・Cの3カ国はいずれもタックスヘイブンで、税率はゼロとします。X氏は本国(例えば日本)の課税を逃れるため、A国(例えばシンガポール)の口座にある資金を用いて、B国(例えばケイマン諸島)にペーパーカンパニーY社を設立します。さらにY社名義の口座をC国(例えばスイス)に開設し、資金運用をします。 こうしたスキームでの取引の実態は、X氏が海外で資金運用しているにすぎませんし、X氏が稼いだ収益は基本的に本国で課税されるべきものです。またY社が法人であれば、通常はY社の所得に本国の課税はすぐには及ばないが、仮にタックスヘイブン対策税制が発動されると、Y社の所得はX氏の所得として本国で直ちに課税されることになります。 ここでタックスヘイブンの本領が発揮されます。A・B・Cの3カ国はタックスヘイブンであり、それらの国から必要な課税情報を入手できないとするならば、本国の課税当局がX氏の所得を把握して課税することは困難になります。仮にX氏が海外で得た収益を本国で正確に税務申告・納税していれば、X氏の行動に何の問題もありません。しかしX氏が海外で得た収益について税務申告せず、本国に税金を支払わない場合には、X氏はタックスヘイブンを利用して脱税をしたことになります。 ここまでが純粋にタックスヘイブンを使ったスキームの国際的経済取引に起因する課税対象の把握の問題。それ以外に、下記の問題が。 ● マネーロンダリングの問題 「X氏がタックスヘイブンで運用する資金は、もともと脱税その他の犯罪から得た資金かもしれません。その場合、X氏はタックスヘイブンを利用する以前にすでに違法行為をしているし、その違法行為から得た資金を隠蔽するためにタックスヘイブンを利用することでさらなる違法行為を犯したことになる。」 上記の問題があるゆえ、タックスヘイブンを利用すること自体は違法ではない、という説明は間違ってはいませんが、違法な取引をそのまま見逃してしまう可能性が高くなるという意味で、限りなく注視していかねばならないスキームであることは間違いないのです。 教授によると、実際に組まれるスキームはもっと複雑で、当局にとって取引の全容が分かりにくくなるよう年々巧妙になっていくようです。 「X氏の資金を親族らの名義の口座に分散させるとともに、Y社の子会社・関連会社を設立して、それらを通じた資金運用をするかもしれない。複雑な枠組みの構築には手数料などの費用が余分にかかる。にもかかわらず、単純な経済活動をあえて複雑な仕組みでしようとする目的は、課税情報を不透明にして本国の当局から遮断することだろうと考えられる。」 こういうタックスヘイブンを活用する目的はひとつ。「資産に関する情報と、その資産を保有して所得を得る納税者に関する情報を分断してしまうこと」。問題解決のためには、タックスヘイブンを含めた各国の課税当局間での情報交換を推進するしかありません。   ■ タックスヘイブンとの情報共有化の動きについて 教授によると、タックスヘイブンとの租税情報交換条約を締結する動きは2000年代初頭からあったそうですが、当初は要請ベースの情報交換を定めただけでした。それが、 ● 2010年:米国が外国口座税務コンプライアンス(法令順守)法(FATCA)を制定 →金融機関の有する非居住者の口座に関する自動的情報交換への国際的な取り組みが本格化 ● 2014年:OECD策定の「共通報告基準」(非居住者の金融情報の自動的情報交換の基準)が20カ国・地域(G20)により承認 ● 2015年:日本でも15年度税制改正で、自動的情報交換のための報告制度が導入 →今後、17~18年にかけて、いくつかのタックスヘイブンを含む多くの国々の間で自動的情報交換が開始される(日本は18年開始) 日本でのタックスヘイブンを含む海外取引の可視化の取り組みとして、 ・100万円を超える海外送金に伴う情報を金融機関が届け出る制度 ・国外に5千万円超の資産を持つ者が「国外財産調書」を提出する制度導入 今後は、税と社会保障の共通番号(マイナンバー)制度の活用も含め、課税情報把握の実効性をさらに高められていくでしょう。   ■ 多国籍企業のタックスヘイブンを活用した行き過ぎた節税について 教授によれば、大規模な多国籍企業もタックスヘイブンを利用していますが、個人の場合とはやや状況が異なり、企業がビジネス環境の良い国や税負担の低い国で経済活動をしようとすることは、株主価値(企業価値)最大化の目線からは至極当然であり、タックスヘイブンの利用自体は必ずしも問題ではありません。しかし一部の多国籍企業が各国間の税制の違いや抜け穴を利用して、行きすぎた節税行動をしてきたことに対して、国際的に批判が高まっていることも事実です。 多国籍企業のタックスヘイブン利用に伴って生じうる問題とは、 ①情報の隠蔽ではなく行きすぎた節税に関するもの ②多国籍企業の節税行動に一定の経済合理性があったとしても、行きすぎると各国間の税収配分や企業間の競争条件にゆがみをもたらす可能性がある この問題への対応については、OECDの「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」を受けて、日本を含め各国で進められています。その中には、大規模な多国籍企業グループによる国や地域ごとの経済活動や納税に関する情報の収集、課税当局間での交換も含まれています。 「個人・企業に関する課税当局間での国際的情報交換の進展には、一部の個人・企業によるタックスヘイブンの悪用を抑制する効果がある。4月中旬のG20財務相・中央銀行総裁会議声明は、すべてのタックスヘイブンに対して自動的情報交換に応じるよう強く呼びかけるとともに、「実質的所有者情報の透明性」の確保を求めた。課税情報の透明化が今後さらに進展して、タックスヘイブンの弊害が軽減されることが望まれる。」 こうした取組みの一環として、OECDがどう動いているか、次の租税センター局長のインタビュー記事が参考になります。 2016/4/16付 |日本経済新聞|朝刊 途上国と情報共有 支援 OECD租税センター局長 パスカル・サンタマン氏 「――租税回避対策を主導してきた経済協力開発機構(OECD)は、パナマ文書をどう受け止めましたか。 「何の驚きもなかった。国際社会はこれまで約8年間(租税回避対策で)かなり進展してきた。そのなかで、OECDがめざす租税ルールに唯一抵抗してきた国が(文書の流出元である)パナマだったからだ」」 ――国ごとに税務ルールが異なるなかで、情報交換の枠組みをいかに機能させますか。 「いま情報網を構築している段階だが、各国が有用な情報をなるべく簡素に共有できる仕組みをめざしたい。(税務当局が未熟な)発展途上国には多くの技術的な支援を提供していく」  ――情報共有だけで税逃れは防げますか。 「金融機関などが口座や会社の持ち主を正しく把握できるよう、各国が国内法を整える必要がある。新制度の実効性を高めるため、各国の進捗をきちんと点検する方針だ」 Pascal Saint―Amans 1996年からフランス財務省で税務畑を歩んだ。2007年からOECDで租税回避対策などに携わる。12年から現職。47歳。」 徐々に、行き過ぎた国際取引を活用した節税策包囲網が築かれつつあるようです。当局と企業のイタチごっこになるのか、企業が真っ当な企業価値向上施策を打ち始めるのか、今後の展開が大層見ものです。というのも、筆者の見解としては、企業誘致や税収UPのために、一方で法人減税のチキンレースを止めることが出来ない当局はジレンマに陥って、有効な決定打を打ちたてられず、国際取引把握の完全把握は不可能ではないかと考えています。 水は高きところから低き所へ自然と流れる。お金も高税率のところから低税率の場所へ流れるのも、道理じゃないですか。税率差がある限り、その流れは誰にも止めることはできません。 ⇒「(真相深層)「結局は増税?」企業警戒 国際課税新ルール、強まる懸念 主要国、はや足並み乱れ -国際税務の超入門」 ⇒「国際税務、秋の陣 G20で 日本政府による法人税減税策の効果やいかに」 ⇒「パナマ文書にもめげず米当局企業課税逃れに新規制、結果としてファイザー、アラガン買収断念 ー 日本経済新聞まとめ」 ⇒「国際課税新ルール、日本企業でも適用 海外子会社の情報収集 本国との二重課税リスクも」 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します