本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

(大機小機)転職・復職400万人時代 - 同一労働同一賃金への違和感とAIの脅威について

経営管理会計トピック 経済動向を会計で読む
この記事は約8分で読めます。

■ 就活経験が無い自分が今になって考える日本の労働市場

経営管理会計トピック

本ブログのプロフィールでも書きましたが、筆者は学部卒業時の就活経験がありません。在学中の塾講師アルバイトの延長線上で自活を始め、数回の転職と転社を繰り返して、今、コンサルタントとして生計を立てています。今回は、日本経済新聞の有名コラムで取り上げられた「日本での働き方の変容」についてです。

2016/4/9付 |日本経済新聞|朝刊 (大機小機)転職・復職400万人時代

「新卒の就職戦線は大変な売り手市場。採用担当者は、さぞ大変だろう。その就職戦線で最近は、大学新卒40万人に対して転職や復職がその10倍の400万人とのこと。この数字は、終身雇用といった慣行が、我が国で過去のものになったことを示している。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

これまでの日本の労働市場における雇用慣行は、かつての日本の高度成長の原動力でした。それは西欧の「ジョブ型」に対して「メンバーシップ型」と呼ばれ、従業員が新たな技術革新に積極的に取り組み、労使一体で企業の成長に貢献しました。かつて、トヨタ自動車など、日本経済を今なお牽引している製造業の現場で行われていた「TQC(Total Quality Control)」は、「QCサークル」を中心に推進された「カイゼン」活動が好例でしょう。つまり、長期雇用の前提の下、個々人の明確なタスクの定義も曖昧にしたまま、職場の全員参加で現場の問題解決に取り組んだのです。そこには、現在の常識では許されない「サービス残業」や、「非公式組織」「徒弟関係」「暗黙知」からなる日本企業の競争力の源泉そのものでした。到底、契約上の「ジョブ」しかしない従業員を抱える西欧の企業にはマネのできない芸当だったのです。

「ところが、IT(情報技術)化の進展によって製造工程がモジュール化し、それを生かした海外企業が経営資源を得意分野に集中してくるようになると、競争に敗れた多くの日本企業は不採算部門を抱え、社内失業者を抱えるようになってしまった。そのようになった日本企業の対応は、正社員を絞り込み非正規社員を活用することだった。かつて2割程度だった非正規社員が4割にもなっている。それが転職、復職400万人の背景である。」

(注)筆者は、「非正規雇用者」という用語自体が差別的表現と誤解され得る心配をしています。「有期雇用契約者」という言い方がいいのではと思っています。但し、本投稿ではソース記事が「非正規雇用」の語を使用しているため、そのまま使用することにします。

日本の製造業が提供する製品の構造が、エレクトロニクス業界を中心に、モジュール化したため、社内で製品を構成する各部品を濃密な社内人脈を活用してすり合わせる必要があった「すり合わせ型」のものづくりプロセスの競争優位が失われました。コラムの表現にいたずらに噛みつきたいわけではありませんが、製造工程が「モジュール化」したのではなく、提供製品が「モジュール化」したのが先です。

しかも、日本の産業全体がモジュール化したわけではなく、日本の貿易収支の黒字の約4割を占めていたエレクトロニクス産業でその影響が顕著に表出し、その波がガソリンエンジンを中心とした自動車産業にも押し寄せているのが現状です。製品のモジュール化だけで、非正規雇用が増えたとするのは少々説明がつらかろうかと。サービス産業では元々、非正規雇用者比率が高いわけですし。

 

■ 一部分を見て全体を分かった気になっていないか? 悲観的すぎになっていないか?

エレキの製造業に勤めていた経験もある筆者としては、誤解を恐れずに言うなら、誰でもできる仕事、すなわち、長期雇用によるスキルの習熟を前提としない仕事から非正規雇用者へ徐々に転換されていったのを目の当たりにしています。プロダクト・イノベーションで新奇で消費者が欲しくなる製品は、米国IT系企業などに根こそぎ持っていかれ、プロセス・イノベーションによる高機能・高品質な製品は、コスト面からもはや高付加価値ではなくなり、低賃率国へ生産シフトし、国内工場の空洞化が促進されました。

もはや、長期雇用を前提とした技術の習熟度で勝負できる高品質・高機能製品は、「ガラパゴス製品」と揶揄され、少子高齢化でシュリンクする国内市場でしか通用しなくなり、グローバルで需要が急成長している「BOP市場」における消費者が望む付加価値品(機能÷代価の商が大きいという意味で)の供給にはそぐわなくなりました。しかし、高機能素材や電子部品など、日本の技術者の力が世界に通用する領域はまだまだあります。

つまり、日本人の働き方もファインチューニングする必要も一部にはあると思いますが、中長期的な技術の蓄積をベースにした「高機能」「高品質」「高道具性」を有するものづくりを可能にするこれまでの組織作りは、あながち間違っていない、というか、日本人気質の特徴・得意分野をさらに伸ばすものづくりを進めていけばよいのだと思います。計画的に、種をまいて、雑草を抜いて、収穫をする。農耕民族ならではのチーム力が生かせるものづくりは、全世界に誇れる日本の企業文化だと思います。「モジュール化」「製品単体よりエコシステムを構築する」「デファクトスタンダードを取りに行く」は、アングロサクソン的、狩猟民族的な、個々人の自由と能力、個性を最大限生かすために、まず環境、勝負する土俵を我が方に有利にすることから始める、風土・文化の違いに根差したビジネスモデルとの違いです。一朝一夕に物まねして何とかなるものではないでしょう。

孫子の兵法を引くなら、この辺りでしょうか。

「勝ち易きに勝つ」
⇒「孫子 第4章 形篇 14 先ず勝つ可(べ)からざるを為して

「人に致すも人に致されず」
⇒「孫子 第6章 虚実篇 24 善く戦う者は、人を致すも人に致されず

「算多きは勝ち、算少なきは負ける」
⇒「孫子 第1章 計篇 4 算(さん)多きは勝ち、算少なきは敗る

 

■ AIが人間の職を奪うとの警鐘について

「人工知能が囲碁の名人を破る時代だ。ITの進化には想像を絶するものがある。野村総研は10~20年後に国内労働人口の49%にあたる職業が人工知能やロボットで代替される可能性が高いと予測する。キャシー・デビッドソンという米国の学者は、今の小学校1年生が大学を卒業する頃に就く仕事の65%は、現在存在しない仕事だとしている。」

(参考)
⇒「(経済教室)人工知能は職を奪うか(上)日本、生産性向上の好機に 労働者の再教育カギ オックスフォード大学准教授 M・オズボーン、オックスフォード大学フェロー C・フレイ」
⇒「(経済教室)人工知能は職を奪うか(下)意思疎通能力、一層重要に 労働市場の整備カギ 柳川範之 東京大学教授

「日常的に新しい仕事が生まれ、それまでの仕事が無くなっていく。そんな時代になると、転職や復職を生かすことが企業や社会の成長のカギになる。転職の際には学び直しが当たり前。転職や復職でそれまでよりも給料が上がるのは当たり前。再チャレンジが当たり前。元気のいい中小企業がどんどん伸びていく。これらが当たり前になることによって日本全体の成長率も高まっていく。」

人工知能(AI)がこれまで以上に我々の日常に入り込み、IoTで現場がネットでつながる世界。これまで、「勘」と「度胸」と「経験」、いわゆる3Kと呼ばれていた現場の親父の判断が、有効な領域はどんどん狭くなっていくことは揺るぎない事実でしょう。しかし、「さあ、これがFactです。こう対処するのが95%の確率で最もリスクが軽減されます」とAIに提案されたとき、最終判断するのに頼りにするのは、やっぱりその人間の「勘」「度胸」「経験」かもしれません。ただし、それはAIが提示するデータ分析結果を全て理解した上でのことです。残念ながら、第5世代(ものの本では第4世代ともいう)の現在のAIは、どうしてその解答が最適なのかまでは、人間側に示すことができません。

データサイエンティストという新しい仕事も増えることですし、仕事の内容が少しずつ変容していきながら、生身の人間の雇用機会は、新たに少しずつ生まれていくはずです。そしてAIができない最終判断業務と、どうしてそのAIがその解答をだしたかをリアル世界での経験知から裏付けする仕事も新たに生まれる種類の仕事となり得ます。

年金制度をはじめとした社会保障制度、転社を前提とした流動性の高い労働市場改革、そして、AIを逆に使いこなすスキルを身に着けるための職業訓練機会を設ける教育改革。政官財が協力してやる施策は少なくありません。しかし、全ての根源は、労働者一人一人の自覚です。自身の労働価値の維持のための訓練・自己研鑽は、どんな職に就いても必要に違いありません。

———————————————–
日々是精進!
作詞:三浦誠司/作曲:藤末樹/編曲:梅堀淳/歌:孫権(櫻井浩美)

「負けたくない」「曲げたくない」とリキみがちに叫んでいるけど
知らん顔で押し寄せてくる “現実(いま)”でせいいっぱい
もどかしいよ 子供すぎる自分 悔しさをバネにしながら
(セイチョウカテイデス コウゴキタイ!)
もっと精進! 器用じゃないわたしだけど 回り道繰り返しても
信じることあきらめたくないよ 一歩前進!
先を走るあの背中に追いつき 追い越せるように
・・・

———————————————–

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

コメント