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■ 企業統治には、経営層自身のスキルアップと統治構造のトランスフォーメーションが鍵!

経営管理会計トピック

「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」の具体的な運用方法について、大杉教授の説明が分かりやすく、興味深かったので、概要をサマリしたものを下記にお伝えします。

<ポイント>
① 現場に比べ経営層の法令順守意識不十分
② 従業員による経営者の監視が働きにくく
③ 社外取締役は助言に加え監督機能果たせ

2015/9/3|日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治何が必要か(上) 経営層の相互けん制カギ 金融・会計知識共有を 大杉謙一 中央大学教授

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「企業統治の目的は「費用対効果の範囲内で、企業経営の適法性と収益性を図ること」である。企業の収益力を高めることは、企業に関わる人々(利害関係者)の幸福度を高める。同時に、営利活動は社会の正義や安定と両立するものでなければならない。企業経営の適法性が求められるゆえんである。もっとも、小さな不正をすべて未然に防止することは不可能であるから、不祥事の芽を早期に発見、摘むことが現実的な解である。」

「コーポレートガバナンス・コード」の概要_日本経済新聞朝刊_20150903

(上記の表は新聞記事からの抜粋)

 

■ 日本企業が置かれた状況とは?

そもそも企業統治で最重要なのは、組織最上部にどのように牽制をかけるかです。その具体的な方法として、下記の3つが挙げられます。

① 組織内の不適切な行為や不規則な状況を探知するためのルールと文化が共有される
② それが末端の従業員だけでなく社長にも等しく適用される
③ そのことを外部者が信頼できる

バブル経済崩壊後の日本の大企業においては、

① 独占禁止法の厳格運用により、課徴金の減免を受けるために違反事実を当局へ報告
② 上場企業が作成し投資家に開示する書類が詳細・大部になり、信頼性・有用性が向上
③ 財務諸表に対しる監査法人のチェックも厳格化
④ 取締役・監査役の関与の下に内部統制システムが整備

されており、日本企業のガバナンスが向上したにもかかわらず、現在でも自社の商品の性能や経営成績を偽る事例は繰り返し起きています。これは、コンプライアンス(法令順守)意識が現場・従業員の階層で高まっているのに、経営者・役員の階層では不十分であることを示しています。

日本の役員レベルでのコンプライアンスの弱さは、国家・社会単位の「正典」の欠如や、人材育成における企業の役割の大きさと関係があります。

欧米では、事実の分析に役立つ知識(教養)や問題解決の道具は標準化されており、エリート教育の中で共有されています。それゆえ、社内の経営者と社外取締役の間でも、経営者と機関投資家の間でも、意見交換が可能です。

しかし、日本では、大学に代表される高等教育の現場において、人文・社会科学は欧米のように標準化されておらず、企業人の能力は、実践的なものも人格・教養に関わるものも、多くは職場内訓練(OJT)を通じて獲得されます。さらに、企業の壁を超えた労働市場は未発達で、技能が企業特殊的に形成される傾向が強いため、日本企業では、社内外の間で、知識・言語・問題解決のための道具立ては、まったく別になることが多くあります。

コーポレートガバナンス・コード (日経文庫)

■ 日本企業の特質に適した企業統治論の姿とは?

上記のような日本企業が置かれた状況下で、日本企業は、授業員による経営者の監視、換言すれば、「下からのガバナンス」が機能していました。企業価値の最大化と(終身雇用・年功序列を前提にする)従業員の利益・やりがいがおおむね一致するため、部長以上の役員層でも相互チェックが働いていたのです。

しかし現在、この仕組みの有効性は減衰していると言わざるを得ません。その理由は、

① 企業が多角化し、「企業価値」と「部門利益」の対立が一般化している
② 従業員の従業形態や価値観が多様化したため、従業員の利益・やりがいをひとつの方向にまとめられない
③ 経営者や従業員に求められる知識・技能が高度化し、知的労働が分業化した

ことによります。

その結果、現状の日本企業に広くみられる現象は、

① 同じ会社に勤める人々が同じ言語を話さなくなり、「下からのガバナンス」が機能しない
② 人事権を持つ経営トップは以前より強大な力を組織内に行使できるため、中間管理職の経営者に対する信頼感が低下している

それゆえ、社長の権力基盤が従業員にあるとすれば、その基盤が液状化しつつあるといえます。

では処方箋は?

(1)経営層が知識・道具を共有する
(2)取締役会が権力を分立する

(1)について
社外の常識を社内でも通用する・共有する・活用するということで、
・ファイナンス
・マーケティング
・会計
といったリテラシーを全役員(その前準備として全管理職)が習得することが必要になります。そうすれば、社外取締役・社外監査役と、共通言語で会社の戦略や中計を論じることができるようになります。

(2)について
社長は絶対的存在ではないと認識し、取締役会を、社長(CEO)の言動・判断を『助言』するにとどまらず、『監督』するメカニズムとすることです。委員会設置会社では、特に、各委員会での決議が、優先される方向に持っていくことになります。

いやあ、「経営トップ層の相互牽制」はある程度一般的でしたが、ガバナンス問題で、率直に、「経営トップ層の一般知識の勉強不足」が指摘されるのは、新鮮な驚きでした。「資質」ではなく「知識」です。「知識」だけなら後天的にも身につきやすいのですが。。。

経営者に勉強しろ、とか、相互牽制しろ、とか言いにくいし、実効性が上がらない恐れもありますね。その場合には、次のようなコンサルティングサービスを用意している所もありますよ。

2015/9/5|日本経済新聞|夕刊 取締役会の機能診断 KPMGなど、改善策助言

「企業の取締役会が適切に機能しているかをチェックするサービスが広がっている。国際会計事務所のKPMGが日本で事業を始めたほか、投資家向け広報(IR)の支援会社も相次ぎ参入している。取締役会の外部評価は欧米では一般的で、日本でも6月に適用された企業統治指針が取締役会評価を求めている。企業統治(ガバナンス)の改善にこうしたサービスを活用する企業も増えてきそうだ。」

取締役会の評価項目と判断基準の例_日本経済新聞夕刊_20150905

(上記の表は記事添付のものを転載)

このトレンドは、(あえて皮肉的に言うと)できの悪い日本企業向けかというと、そうでもないようです。

「取締役会の評価は海外では一般的で、英国ではFTSE350採用銘柄には外部機関からの取締役会評価が求められている。ニューヨーク証券取引所の上場企業は毎年の評価が義務だ。日本でも採用する企業が増えており、大和総研によると約40社が企業統治報告書で取締役会評価を実施したと開示している。」

こういう二重三重の牽制やチェックは品質担保にはいいんですが、株主から見れば、会社の統治機構の維持コストとしては、割高になりますよね。そこまで資質や能力をチェックするのに外部機関に頼らなければならない、というのは、株主一人一人の眼力が無い、出資する能力に欠ける、という見方もできるかもしれません。資金の大量調達のために、小口にして、ほぼ匿名性が保証されている「株式」投資のやり口が発明されたのですが、ここまで来ると、どこまで株主コストが増大するやら。

こういう心配をしているのはですね、さらに投資が小口化され、「マイクロファイナンス」の波が株式投資の領域にもおよび、会社や産業のことを知らない若者が、欲しいと思った商品を提供してくれる、と思って小口投資した際の、投資家の「自己責任」をどこまで認めるのか、という問題がこの先、発生することが予想されるからです。

全く、テクノロジーとコンセプトの新規性に法制度はいつも、遅れてキャッチアップされるものです。本件もどれくらいでタイムラグが埋められていくものやら。。。予想もつきません。

 

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(経済教室)企業統治何が必要か(上) 経営層の相互けん制カギ 金融・会計知識共有を 大杉謙一 中央大学教授http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むコーポレートガバナンスコード,企業統治指針,大杉謙一■ 企業統治には、経営層自身のスキルアップと統治構造のトランスフォーメーションが鍵! 「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」の具体的な運用方法について、大杉教授の説明が分かりやすく、興味深かったので、概要をサマリしたものを下記にお伝えします。 <ポイント> ① 現場に比べ経営層の法令順守意識不十分 ② 従業員による経営者の監視が働きにくく ③ 社外取締役は助言に加え監督機能果たせ 2015/9/3|日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治何が必要か(上) 経営層の相互けん制カギ 金融・会計知識共有を 大杉謙一 中央大学教授 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「企業統治の目的は「費用対効果の範囲内で、企業経営の適法性と収益性を図ること」である。企業の収益力を高めることは、企業に関わる人々(利害関係者)の幸福度を高める。同時に、営利活動は社会の正義や安定と両立するものでなければならない。企業経営の適法性が求められるゆえんである。もっとも、小さな不正をすべて未然に防止することは不可能であるから、不祥事の芽を早期に発見、摘むことが現実的な解である。」 (上記の表は新聞記事からの抜粋)   ■ 日本企業が置かれた状況とは? そもそも企業統治で最重要なのは、組織最上部にどのように牽制をかけるかです。その具体的な方法として、下記の3つが挙げられます。 ① 組織内の不適切な行為や不規則な状況を探知するためのルールと文化が共有される ② それが末端の従業員だけでなく社長にも等しく適用される ③ そのことを外部者が信頼できる バブル経済崩壊後の日本の大企業においては、 ① 独占禁止法の厳格運用により、課徴金の減免を受けるために違反事実を当局へ報告 ② 上場企業が作成し投資家に開示する書類が詳細・大部になり、信頼性・有用性が向上 ③ 財務諸表に対しる監査法人のチェックも厳格化 ④ 取締役・監査役の関与の下に内部統制システムが整備 されており、日本企業のガバナンスが向上したにもかかわらず、現在でも自社の商品の性能や経営成績を偽る事例は繰り返し起きています。これは、コンプライアンス(法令順守)意識が現場・従業員の階層で高まっているのに、経営者・役員の階層では不十分であることを示しています。 日本の役員レベルでのコンプライアンスの弱さは、国家・社会単位の「正典」の欠如や、人材育成における企業の役割の大きさと関係があります。 欧米では、事実の分析に役立つ知識(教養)や問題解決の道具は標準化されており、エリート教育の中で共有されています。それゆえ、社内の経営者と社外取締役の間でも、経営者と機関投資家の間でも、意見交換が可能です。 しかし、日本では、大学に代表される高等教育の現場において、人文・社会科学は欧米のように標準化されておらず、企業人の能力は、実践的なものも人格・教養に関わるものも、多くは職場内訓練(OJT)を通じて獲得されます。さらに、企業の壁を超えた労働市場は未発達で、技能が企業特殊的に形成される傾向が強いため、日本企業では、社内外の間で、知識・言語・問題解決のための道具立ては、まったく別になることが多くあります。 コーポレートガバナンス・コード (日経文庫) ■ 日本企業の特質に適した企業統治論の姿とは? 上記のような日本企業が置かれた状況下で、日本企業は、授業員による経営者の監視、換言すれば、「下からのガバナンス」が機能していました。企業価値の最大化と(終身雇用・年功序列を前提にする)従業員の利益・やりがいがおおむね一致するため、部長以上の役員層でも相互チェックが働いていたのです。 しかし現在、この仕組みの有効性は減衰していると言わざるを得ません。その理由は、 ① 企業が多角化し、「企業価値」と「部門利益」の対立が一般化している ② 従業員の従業形態や価値観が多様化したため、従業員の利益・やりがいをひとつの方向にまとめられない ③ 経営者や従業員に求められる知識・技能が高度化し、知的労働が分業化した ことによります。 その結果、現状の日本企業に広くみられる現象は、 ① 同じ会社に勤める人々が同じ言語を話さなくなり、「下からのガバナンス」が機能しない ② 人事権を持つ経営トップは以前より強大な力を組織内に行使できるため、中間管理職の経営者に対する信頼感が低下している それゆえ、社長の権力基盤が従業員にあるとすれば、その基盤が液状化しつつあるといえます。 では処方箋は? (1)経営層が知識・道具を共有する (2)取締役会が権力を分立する (1)について 社外の常識を社内でも通用する・共有する・活用するということで、 ・ファイナンス ・マーケティング ・会計 といったリテラシーを全役員(その前準備として全管理職)が習得することが必要になります。そうすれば、社外取締役・社外監査役と、共通言語で会社の戦略や中計を論じることができるようになります。 (2)について 社長は絶対的存在ではないと認識し、取締役会を、社長(CEO)の言動・判断を『助言』するにとどまらず、『監督』するメカニズムとすることです。委員会設置会社では、特に、各委員会での決議が、優先される方向に持っていくことになります。 いやあ、「経営トップ層の相互牽制」はある程度一般的でしたが、ガバナンス問題で、率直に、「経営トップ層の一般知識の勉強不足」が指摘されるのは、新鮮な驚きでした。「資質」ではなく「知識」です。「知識」だけなら後天的にも身につきやすいのですが。。。 経営者に勉強しろ、とか、相互牽制しろ、とか言いにくいし、実効性が上がらない恐れもありますね。その場合には、次のようなコンサルティングサービスを用意している所もありますよ。 2015/9/5|日本経済新聞|夕刊 取締役会の機能診断 KPMGなど、改善策助言 「企業の取締役会が適切に機能しているかをチェックするサービスが広がっている。国際会計事務所のKPMGが日本で事業を始めたほか、投資家向け広報(IR)の支援会社も相次ぎ参入している。取締役会の外部評価は欧米では一般的で、日本でも6月に適用された企業統治指針が取締役会評価を求めている。企業統治(ガバナンス)の改善にこうしたサービスを活用する企業も増えてきそうだ。」 (上記の表は記事添付のものを転載) このトレンドは、(あえて皮肉的に言うと)できの悪い日本企業向けかというと、そうでもないようです。 「取締役会の評価は海外では一般的で、英国ではFTSE350採用銘柄には外部機関からの取締役会評価が求められている。ニューヨーク証券取引所の上場企業は毎年の評価が義務だ。日本でも採用する企業が増えており、大和総研によると約40社が企業統治報告書で取締役会評価を実施したと開示している。」 こういう二重三重の牽制やチェックは品質担保にはいいんですが、株主から見れば、会社の統治機構の維持コストとしては、割高になりますよね。そこまで資質や能力をチェックするのに外部機関に頼らなければならない、というのは、株主一人一人の眼力が無い、出資する能力に欠ける、という見方もできるかもしれません。資金の大量調達のために、小口にして、ほぼ匿名性が保証されている「株式」投資のやり口が発明されたのですが、ここまで来ると、どこまで株主コストが増大するやら。 こういう心配をしているのはですね、さらに投資が小口化され、「マイクロファイナンス」の波が株式投資の領域にもおよび、会社や産業のことを知らない若者が、欲しいと思った商品を提供してくれる、と思って小口投資した際の、投資家の「自己責任」をどこまで認めるのか、という問題がこの先、発生することが予想されるからです。 全く、テクノロジーとコンセプトの新規性に法制度はいつも、遅れてキャッチアップされるものです。本件もどれくらいでタイムラグが埋められていくものやら。。。予想もつきません。  現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します