トランプ減税で税金が減るのになぜ減益決算になるのか?(1) 税効果会計と繰延税金資産の基本を知る

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■ トランプ減税で沸き立っている陰で、税率変更の影響で減益決算の会社が

経営管理会計トピック

昨年末に決まったトランプ減税。主に法人税率が35%から21%にさがることで、各社の税金負担が減り、普通なら企業利益が増えるので増益決算を発表する企業が増えると思いきや、税率が下がって減益となる会社が続出。そのカラクリとは?

2018/1/19付 |日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)トランプ減税 10年で1.5兆ドル規模

「米連邦法人税率を35%から21%に引き下げることを柱とする大型減税で、2017年12月に成立した。レーガン政権による1986年の減税以来の抜本的な税制改革で、減税の規模は10年間で1兆5千億ドル(約166兆円)と、過去最大となった。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「トランプ減税の主な内容」を引用)

20180119_トランプ減税の主な内容_日本経済新聞朝刊

税負担が減れば、その分、経営者が自由に使えるキャッシュが企業内に留保されるということで、あの手この手で減税分のお金を有効に活用しようと投資や雇用に振り向ける企業も多いようです。

2018/1/19付 |日本経済新聞|朝刊 トランプ減税、100社動く 雇用・投資増 アップルは3兆円 景気過熱感リスクに

「【ワシントン=河浪武史、ニューヨーク=平野麻理子】2017年末に決まったトランプ米政権の大型税制改革を受け、米企業が国内投資と雇用増に一気に動き始めた。アップルは17日、300億ドル(約3兆3千億円)を米国内で投資すると表明。「トランプ減税」を契機に雇用増や賃上げを決めた企業は100社を超える。」

(下記は同記事添付の「幅広い業種で減税に伴う対応が明らかに」を引用)

20180119_幅広い業種で減税に伴う対応が明らかに_日本経済新聞朝刊

むしろ、減税と聞いて、こういう反応をする方が素直で普通です。しかし、大企業の決算に携わる会計人はむしろ、足元の業績が数年前から好調であればある程、これで短期的には今期は減益発表せざるを得ないことに腹をくくることになります。

 

■ 米大手金融機関の減益決算を取り上げた新聞記事をご紹介

とはいえ、日本経済新聞ではトランプ減税の短期的効果で減益決算になってしまう日米企業の状況もきちんと報道しています。まずは米大手金融機関の記事から。貸倒引当金と繰り延べ税金資産がポイントになります。

2018/1/19付 |日本経済新聞|朝刊 米金融、税制改革で収益減 大手6社10~12月、会計調整響く 純損益3.3兆円押し下げ

「【ニューヨーク=大塚節雄、山下晃】米税制の大幅な変更が米大手金融の収益を揺るがしている。18日出そろった大手6社の2017年10~12月期決算は、税制変更に伴う一時的な調整費用が収益を押し下げた。シティグループは金融危機以来の巨額赤字を計上。だが18年は一転、減税効果で収益に追い風が吹く。自己資本比率への影響も軽く、各社とも資本の目標や配当の計画は変更しない見通しだ。」

この「税制変更に伴う一時的な調整費用が収益を押し下げた」の一文がミソなのです。

(下記は同記事添付の「米大手金融機関の17年決算」を引用)

20180119_米大手金融機関の17年決算_日本経済新聞朝刊

税制改革に伴う純損益への影響額はその企業が置かれたこれまでの業績推移で明暗が分かれました。軒並み、米大手金融機関は今回の減税政策で純利益を減らすことになり、押し下げ額はシティの220億ドル(2.4兆円)を筆頭に6社合計で300億ドル(3.3兆円)近くにまで及びます。中でもシティの純損益は183億ドルの赤字と、四半期決算としては金融危機時の08年10~12月期以来の多額の赤字となりました。

一方で、もともと金融危機の傷が浅かったウェルズ・ファーゴは税制改革に伴う調整が逆に利益を押し上げた。シティとウェルズ・ファーゴのトランプ減税効果がマイナス効果となったかプラス効果となったかは、繰り延べ税金資産の存在が大きく影響しているのです。

ここで用語の整理。上記の新聞記事に添付で用語説明部分を下記に引用します。

「▼繰り延べ税金資産 会計上と税法上の利益にずれが生じたときに発生する。例えば、貸し倒れの恐れがある債権を損失としたり引当金を積んだりする会計処理をしたとする。会計上は費用が増えて利益が減るが、税法上は実際に回収不能になるまでは損金として扱えない。会計上の利益よりも税法上の利益である「課税所得」が大きくなり税金の支払いも減らない。
将来、この債権が本当に回収不能になれば損金として認められ、税金も減る。しかしそれまでの間、会計上は税金を払いすぎた状態にあり、その差額を会計上は資産(繰り延べ税金資産)として計上しておく。
繰り延べ税金資産は法人実効税率に基づいて算出するため、実効税率が下がれば取り崩しが必要になり、利益を押し下げる要因になる。」

 

■ 米大手金融機関の減益決算を引き起こす繰り延べ税金資産のカラクリとは

金融機関は、融資の焦げつきリスクに備えた貸倒引当金をB/Sの負債の部に積みます。融資リスクをきちんとした与信管理と審査機構を使って経営として妥当な貸倒率で引当金を計算し、会計上の損失(=費用)として利益を計算します。しかし、税法ではその引当金繰入額のベースとなった貸倒率は企業に有利すぎて一部だけ認めることとし、残りの部分は損金としては否認され、課税所得から差し引くことを許しません。その否認された差額に税率を掛けた金額は、将来、その融資が実際に焦げ付いた時に貸倒引当金から補填された場合に、初めて税法上も損金として初めて認めてもらうことになります。

会計上は費用扱いするけれど、税法的には損金として認めない引当金にかかる将来支払う予定の税金分を会計上は「繰り延べ税金資産」としてB/Sに計上し、P/Lの期間損益に影響しないようにするのです。こうした一連の会計処理を税効果会計と言います。シティは、金融危機時に深手を負った米銀の一つ。そして、米国ほど不良債権の流動化が進んでいない国を含めグローバルに融資業務を手がけることから、ダブルで貸倒引当金の計上額も大きく、貸倒引当金への繰入率も大きかったのです。

「シティなどは従来の35%を前提に、繰り延べ税金資産を計上していた。これが21%に下がったため、将来に税負担が軽くなる金額が大幅に目減りしてしまい、一気に資産の取り崩しを迫られたわけだ。」

この一文をチャートにしたのが下記です。

経営管理会計トピック_繰り延べ税金資産と会計的利益

企業会計としては、期間損益を企業の経営実態から、貸倒引当金繰入額に伴う税金費用を70と計算しました。一方で、税法に照らすと、35だけが損金として認められることになりました。その差額は、今期の税金費用としては認められませんが、将来、実際に融資が焦げ付いた時に、貸倒損失として実現し、その期の税金費用となることがかなりの程度、確実に現時点で分かっています。

それゆえ、税金費用を70のままP/Lで表記し、差額35を「法人税等調整額差額」としてP/Lから控除し、同額の35を「繰り延べ税金資産」としてB/Sに資産計上することで、貸借バランスを保つことにしました。

しかし、将来払うべき税金35をいったん資産計上したものの、将来の税率が35%から21%に税率が下がることになりました。上記でいったんB/Sに計上した「繰り延べ税金資産」は、35%で見込んだ額だったので、これを21%で引き直した差額は、将来にわたって支払うことのない税金なので、一度繰り延べた税金を無かったことにするために、P/Lに逆流させなければならないのです。そうすると、減税分が今期の当期純利益を減らすことになるのです。

実は、同様の事態は、日本でも最近あった出来事でした。2015年の日本の法人実効税率は32.11 %でしたが、日本政府として企業の国際競争力を高めるために2016年度には29.97 %に引き下げた時に、同じような議論をした覚えがあります。

⇒「(エコノフォーカス)法人税改革、ばらつく影響 高収益企業に恩恵、目先は減益要因も 配当課税、銀行に打撃

当時も、金融機関が標的になっていたのは記憶に新しいと思います。

つまり、いいたいこと。
① 減税が同時に増益とは限らない
② 税効果会計に伴う繰り延べ税金資産の取り崩しの影響で減益になる企業がある
③ 減税が増益になるか減益になるかは、その企業の税効果会計の実態次第である

では、「繰り延べ税金資産」の取り崩しで減益になる企業があるということは、「繰り延べ税金負債」の取り崩しで増益になる企業があるということ。次回は、日系自動車企業を中心に、トランプ減税から思わぬ税効果(?)が表出し、増益になる企業のお話を致しましょう。(^^)

(参考)
⇒「トランプ減税で税金が減るのになぜ減益決算になるのか?(2)日系企業への波及効果と税効果会計の目的を再考する
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(1)
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(2)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営管理会計トピック_トランプ減税で税金が減るのになぜ減益決算になるのか?(1) 税効果会計と繰延税金資産の基本を知る

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