トランプ減税で税金が減るのになぜ減益決算になるのか?(2)日系企業への波及効果と税効果会計の目的を再考する

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■ トランプ減税は日本企業にも税効果会計を通じて影響を及ぼす

経営管理会計トピック

昨年末に決まったトランプ減税。主に法人税率が35%から21%にさがることで、各社の税金負担が減り、普通なら企業利益が増えるので増益決算を発表する企業が増えると思いきや、税率が下がることで、税公会計の処理を通じて減益となる会社も登場することは、前回解説しました。

⇒「トランプ減税で税金が減るのになぜ減益決算になるのか?(1) 税効果会計と繰延税金資産の基本を知る

今回は、日系企業が同じく税効果会計によって、減益or増益決算になる影響度と、そもそも、どうして税効果会計による決算を行うのか、その背景を考えてみたいと思います。

2018/1/20付 |日本経済新聞|朝刊 米減税、日本企業も影響 車3社、今期純利益8000億円増 アナリスト試算

「トランプ米大統領の主導で1月に発効した税制改革法は、日本企業の収益や事業戦略に大きな影響を及ぼしそうだ。アナリストの試算では、税制改革がトヨタ自動車など自動車3社の2018年3月期の純利益を計8000億円程度押し上げる効果がある。一方、インキ大手のDICのように業績予想を下方修正する日本企業も出てきた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「減税で一時的に純利益が影響を受ける企業」を引用)

20180120_減税で一時的に純利益が影響を受ける企業_日本経済新聞朝刊

トヨタ自動車で約2900億円、ホンダで約3200億円、日産自動車で約2000億円という増益影響額は、ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹アナリストが各社の金融事業の開示資料をもとに試算した結果。この金融事業というのがミソで、自動車各社は完成車の製造販売セグメントと、自動車の販売金融セグメントを別々にして外部開示しています。そのセグメント業績の数字を利用した分析になります。

 

■ トランプ減税が自動車の販売金融事業にプラスに働くメカニズムとは?

どうして、自動車の販売金融事業がトランプ減税の影響で業績が上振れるのか? トランプ減税で所得税については、最高税率を36.9%から37%に引き下げるぐらいで、本命は法人税率が35%から21%に引き下げられることと、海外子会社からの配当課税の廃止という法人税改正が目玉なのです。よって、減税によって個人消費が上向き、、、という経路ではありません。

その秘密は、税務会計に基づく課税所得計算と企業会計に基づく期間損益計算のズレを調整する「税効果会計」にあるのです。減税により、将来の税負担の増加につながる「繰り延べ税金負債」が減少することによるのです。

(下記は同記事添付の「米税制改革は目先の利益にも影響」を引用)

20180120_米税制改革は目先の利益にも影響_日本経済新聞朝刊

米国の法人税制では、固定資産を取得した初年度に50%まで減価償却費として税務会計上の損金算入が認められています。一方で、企業会計ルールでは、よく耳にする定率法や定額法では、固定資産の取得の初年度に取得額の50%もの金額を到底償却費とすることはできません。その差額の分だけ、会計の費用計上額より税務上の損金の方が先に多額計上できるので、実質的に「税金の後払い」が可能となり、投資資金の回収を早められる利点となるのです。これが、米国の投資促進策のひとつとして認められているのがポイント。

「米国では法人でも個人でもリース契約での自動車購入が一般的。日本の自動車各社は米国市場で販売台数を伸ばす一方、投資促進策を活用してリース車両など固定資産の減価償却を前倒しで実施してきた。」

そのお陰で、トヨタの米金融子会社であるトヨタモータークレジット社(TMCC)の17年6月末の繰り延べ税金負債は81億ドル(約9000億円)にも上っています。この繰り延べ税金負債は、税務上は損金を想起に多額計上することで現在の支払税金を少なくし、将来の支払い是金が増える分のいってこいの分から計算されます。

なぜなら、会計ルール上、定額法で減価償却するならば、償却期間の減価償却費は一定額、それに基づく利益額も一定額となり、会計ルール上の支払い税率をなるべく毎期一定額になるように平準化する税効果会計の下、税務と会計の差額は、足元のキャッシュアウトの裏付けのある支払税額が減る分、将来の支払い義務のある税金として負債計上されることで、P/LからB/Sへ金額が移るからです。

 

■ 税効果会計のメカニズムの説明

税効果会計は、会計上の資産・負債の計上額と、課税所得計算上の資産・負債の計上額を合わせることで、税引前当期純利益と法人税等とを期間対応させることで、適正な業績を表示するために、1999年度から適用されました。

おそらく、こうした文言で説明してもピンとこないと思われますので、会計初学者向けにかなり強引にシンプル説明をこれから行います。下記はとある企業のFY18とFY19のP/LとB/Sの一部を並べました。

経営管理会計トピック_税効果会計による当期純利益への影響

税引前利益までは、2年間同額の1000とします。ビジネスの実態は、FY18とFY19とでは全く同じなので税引前利益が同額なのです。しかし、税法の影響で、実際に企業が現金で支払うべき支払法人税が、FY18とFY19とで異なるのですが、2年間トータルで行って来いの状態であると仮定します。

従来は一番右の税効果会計の適用がない、即ち、支払法人税については、「現金主義」をもって支払法人税額を認識していました。それゆえ、各期の法人税率はビジネスの状態が一定でもバラバラになります。

仮に、FY18の支払税金が払いすぎで、FY19に還付を受けることが分かっている場合は、費用の平準化の論理、即ち、「発生主義」または「費用収益対応の原則」に基づき、払い過ぎの分をいったんB/Sに「繰り延べ税金資産」として逃がして、期間利益計算の平準化を図り、毎期安定した利益報告ができるようにします。逆に、FY18の支払税金が会計ルールと比較して過少で、FY19に支払うべき税金の発生根拠がFY18にあることが事前に判明している場合、B/Sに「繰り延べ税金負債」を積んででも、適正にP/L上の税金費用を認識すべきであると考えるのです。

 

■ どうして税効果会計が導入されたのかの目的・背景を再確認する

日本の会計基準として1999年3月期から適用になったということは、あの会計ビックバンのはしりということです。税金費用も現金主義ではなく、発生主義で考えないと、期間比較可能なP/Lが開示できないという国際的な強い主張に合わせるために導入されました。

しかし、当時の日本企業が税効果会計を苦労して導入する1999年以前、P/Lが表示する当期純利益が現金主義に基づく法人税で計算されていてはP/Lの期間比較可能性がない使えないP/Lだと誰が文句をつけていたのでしょうか? 当時、税金費用が大きく会計期間ごとに凸凹して、P/Lのボトムライン(当期純利益)の期間比較可能性を喪失していた理由は、欧米企業の旺盛なM&A戦略による企業合併による企業規模拡大や事業買収によるコングロマリット化の嵐が吹き荒れていたからです。

当時の日本企業は、まだ自前主義が主流で、ちまちまとオーガニックグロースを目指して企業運営していました。むしろ、税金費用以前の営業利益や経常利益の期間比較可能性が担保されていれば、会計管理ができていたのです。

同じく、M&Aに伴う多額の「のれん」の発生にも、欧米企業は頭を悩ませました。このブログを書いている時点ではまだ日本基準および修正国際会計基準はのれんは定期償却のままです。製商品を市場に提供することを主眼とするプロダクト型企業と、事業買収を前提としているファイナンス型企業では、取得原価主義で期間比較可能性を担保するか、時価主義(公正価格主義)で企業や事業買収のための時価評価額の表示を担保するか、会計に求める情報価値が異なるのですが、その潮目が丁度、変わったのが、この会計ビックバンの2000年を境にした時点だったのです。

筆者の筆が税効果会計に批判的に読めるのは、一時差異と永久差異の違いは少々ありますが、理屈の上では、継続企業(ゴーイングコンサーン)の前提に立てば、企業が稼得するキャッシュフローや創出する企業価値に対し、税効果会計を考慮しようがしまいが、中立的であるということです。つまり、分かっている投資家は、税効果会計考慮後と考慮前のP/Lは使い分けるし、そもそもの企業価値評価では別の指標を使います。それゆえ、税効果会計のマジックで当期純利益が一時的に変動することで、投資スタンスを変える人はそれまでの人ということになります。本件、必死になって決算数字が変わる、と大騒ぎするほどのことでもない、ということです。

現在の若い会計人は、のれんや税効果会計が最初から存在していたので、あって当たり前、そういうものだという思い込みがあると思いますが、会計基準はその時々の経済・経営情勢を反映したものにすぎません。税効果会計の複雑な計算を施した財務諸表を欲している一部のファンドマネージャーや機関投資家の使用目的を果たすために、経理実務家が苦労して税効果会計の細かい処理をしていると思うと、頭が下がりますが、どこか恨めしい気もしてくるのです。それは私だけでしょうか?(^^;)

(参考)
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(1)
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(2)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営管理会計トピック_トランプ減税で税金が減るのになぜ減益決算になるのか?(2)日系企業への波及効果と税効果会計の目的を再考する

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