アクティビストが使うゴールデンリース(金のひも)の正当な理由を取締役の法的責任から考えてみる

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■ 取締役は株主総会で全株主の総意(多数決)で選任されることにばかりに目がいっていました

経営管理会計トピック

取締役は、プリンシパル・エージェント理論に基づき、株主から経営の負託を受けて、資本主である株主に成り代わって経営(執行役の監視と、自らの大きな経営判断)を行うことになっています。株主総会で株主の総意で選出されるので、株主全体(全員)に対して責任を負い、忠実に職務を全うするものだという思い込みがありました。今回、一体誰に忠実を誓っているのか、という問題を取り上げます。

2018/6/5付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)アクティビストが使う「金のひも」

「「ゴールデン・リース(ひも)」と呼ばれる手法が米国やカナダで論議になっているという。投資先の企業に変革を求めるアクティビスト(物言う株主)が、自分たちの息のかかった取締役を送り込む。狙い通りうまくいって株価が上がれば、アクティビストが、その取締役だけに特別ボーナスを出す。それがゴールデン・リースだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

取締役は会社から役員報酬をもらう立場にありますが、それとは別に、第三者であるアクティビストから、「第三者からの報酬契約」ともいわれる取り決めで、報酬をもらうケースが増えているそうです。アクティビストが儲けた収益の一部を受け取る契約になっているケースが多く、株価次第で巨額な報酬になることもあるそうです。

 

■ 取締役が特定の第三者からの影響で業務指示内容を変えることの是非について

同コラムでは、株主、顧客、従業員ら広くステークホルダーを意識して、意見対立がある緊張感のある取締役会での議論はそれはそれで意義があるとしながらも、次のような課題に言及しています。

「アクティビストと金銭的な「ひも」で結ばれた取締役が、個人的な利益に走ることに対する懸念は消えない。米国は、少なくともそうした約束を秘密裏に交わしていることはおかしいとし、第三者からの特別ボーナスを契約している取締役は、きちんと開示するよう求める制度に改めた。おもてで立場を明らかにしたうえで、すべての株主が判断できるようにせよという考えだ。投資家向けに議決権行使を助言する会社は、賛否についてはケース・バイ・ケースだとしている。」

取締役が個人的な利益に走ること自体が問題のように語られていますが、日本の会社法では、取締役には様々な法的義務が課せられているので、そんな単純に個人的利益だけを追求できないような縛りがあります(詳細は次章で)。

その問題を語る前に、もうひとつの問題、「何でも開示すれば問題解決」とする風潮に一石を。

日本でも、2018年6月1日付で「コーポレートガバナンス・コード(CGC)」の改訂版が公表されました。持ち合い株式(政策保有株式)の保有理由や、役員報酬の決定方法、CEOの指名理由など、公開すべし、とする内容が増えました。ガラス張りにすれば、取締役の不正が予防できるという期待が込められているのでしょう。

具体的な言及はここでは避けますが、上記を含め、企業内ではさまざまな思惑を持って同業他社と(健全な)競争を行っています。それらをいちいち杓子定規に公開するリスク、または公開するために各種施策をドレッシングする手間暇の方が結構気になります。競争相手にいらぬ情報を与えないかと冷や冷やしています。

 

■ (基本のおさらい)取締役の法的責任と第三者の定義について

会社法に基づく、取締役の責任を整理してみます。

●善管注意義務
・善良な管理者としての注意義務
●忠実義務
・利益相反取引(取締役が自身や第三者の利益のために自身が取締役を努める会社と行う取引)の制限
・競業避止義務:取締役が会社と競合となる業務を行うことを避止する義務
●損害賠償責任
・会社
・第三者
●その他の義務
・特定の株主への利益供与の禁止(株主総会の票をお金で買ってはならない)
・剰余金の配当規制(過度の社外流出を招く分配可能利益を超える配当を禁止)

取締役の法的責任は、法令やその他の規定違反などがあった場合を除き、原則として過失責任となります。その責任は会社に対してのみならず、第三者にも及びます。

●取締役が第三者に損害を与える可能性
・直接損害
例)実際には製造されていない製品の購入を第三者に持ち掛け、代金だけを支払わせて製品は納品しない

この場合、取締役がその肩書・地位を利用して第三者に対して直接的に損害を与えることになります。

・間接損害
例)取締役の業務執行があまりに場当たり的だったために、経営が行き詰まって会社が倒産してしまい、債権者が債権を回収できない状況に陥る

上記のように、取引先や債権者だと話もスッキリなのですが、「会社」ではなくて、自社の「株主」個人も第三者に該当する場合が考えられるのでしょうか?

・株主は会社の出資者であることから、第三者ではない
・株主は会社の機関ではないため、株主は第三者である

株主は会社が利益を出すと配当や時価総額の上昇を通じて自動的に利益が入る存在であり、かつハイリスクハイリターンを承知で会社に出資をしていると考えられるため、完全な第三者とは言えないという立場と、株主が第三者ではないとすると、株主は取締役に対して直接責任を負わせることができなくなることは不当であるという考え方が対立して、いまだ、統一見解はありません。

(株主が第三者ではないとすると、株主は過失のある取締役に対して「何もできない」ということになるため、株主には株主代表訴訟を提起することが認められています)

件のアクティビストが現株主かどうかは厳密には問題ではありません。株主かどうか、株主が第三者に含まれるかどうかが問題視されるのではなく、特定のアクティビストの利益のために行動すること自体が問題視されるのでもありません。

その行動が、「善管注意義務」「忠実義務」に違反していないかどうか、過失責任として、対会社、対第三者に損害賠償責任を負うかどうかが法的に問題なのです。ゴールデン・リース自体が違法なのではなく、その行為の結果が会社に損害を与えたり、第三者に対する過失責任があったりした場合は、罪に問われるのです。

まあ、ゴールデン・リースで特定の現株主(アクティビスト)の利益に忠実に行動した場合、厳しく会社全体に損害を与えていないか、監視の目はきつくする必要があるかもしれません。

火の無いところに煙は立たず

君子危うきに近寄らず

そういう意味では、「何でも公開」は実効性のある予防策になるかもしれませんね。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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