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星のイベントは年200超!感動で市場を創る天体望遠鏡メーカー ビクセン社長・新妻和重 2015年12月10日 TX カンブリア宮殿

TV番組レビュー
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■ 夜空を見上げたくなる 星のプロ集団“感動戦略”

コンサルタントのつぶやき

最近は、星好きの女性を「宙(そら)ガール」という。宙ガールの定番アイテムが双眼鏡。天体観測の入門機としてかわいい双眼鏡が人気となっている。この双眼鏡を作ったのはビクセン(Vixen)というメーカー。家電量販店の天体望遠鏡売場を覗いてみると、半分以上をビクセンの商品が占めている。一番人気のタイプは、「ボルタⅡ A80Mf 5万9400円」。ネジを締めなくても見たい位置にピタリと止められ、正確に星を捉えられると人気になっている。ビクセンは、天体望遠鏡の国内シェア第1位で約6割を誇る。本社は埼玉県の所沢にある。創業1949年、社員84人。天体望遠鏡の他にも顕微鏡などを作っている光学機器メーカーだ。

工場のスタッフは総勢16人。ビクセンでは、天体望遠鏡を年間3万7000台、手作業で組み立てている。天体望遠鏡の要となるのがレンズ。組立の最終工程がレンズの調整。防寒具を着込んで向かったのはレンズの調整室。エアコンを入れてしまうと、空気の揺らぎが拡大されて、正しい像の判定ができないという。レンズを止めているネジを手作業で調整することで、レンズを通る光が真っ直ぐになるように焦点を合わせていく。担当者が言うには、かなり熟練した人がやっても1時間かかるとのこと。初めてだと、1日どころか1ヶ月かかってもできないだとか。

自室に40本もの天体望遠鏡を置いていたり、オリンパス製のカメラのパンフレットに使われる天体写真を撮った社員など、指折りの天体マニアの集団だ。社が主催する星の観望会が毎週末のように企画され、社有の大型キャンピングカーで会場まで向かう。その運転を担当しているのが、社長の新妻和重さん。

20151210_新妻和重_カンブリア宮殿

番組公式ホームページより

年間200件近く、星のイベントを行っている。環境省が2006年に日本一の星空と認定した長野県・阿智村に、ビクセンは40台の天体望遠鏡を納入し、イベントにはスタッフを派遣し、美しい星空の案内役を買って出ていた。ビクセンのスタッフは望遠鏡のセールストークは一切せず、ひたすら星の美しさを体験してもらう。

スタッフの言
「使って、実感してもらうのが一番いい」

また、スカイツリーの近くで、天体望遠鏡ののぞき窓にスマホをくっつけて天体写真を気軽に撮れるイベントも開催。感動体験のお持ち帰りを提案したのだ。天体望遠鏡はいいものを作っても、放っておいたら売れない。お客は自分の目で見て実際に感動して初めて欲しくなるのだ。

「望遠鏡メーカーが星を見せるというのは当たり前だが、星が見えるということを日常の生活の中ですら、気づいていない人たちが多いと思う。それを気付いてもらうためには、我々が出ていくことが必要。」

どんな営業よりも、一回の心揺さぶる体験を。今夜は空を見上げよう! 星のプロ集団の感動戦略に迫る!

「都会だと光が多いが、真上を見ればたくさんの星が見える。(星を探すのは)最初は難しいと思うが、星座を覚えると簡単に見つけられます。「あれが土星とか木星」ということを自分で分かるようになると、さらに星空がどんどん色づいてくる。」

村上氏が尋ねる。
「映像と望遠鏡で見る星の違いは?」

「天体望遠鏡で星を見ることは、自分で望遠鏡を地面に置いて、自分で星を探して覗くという一連の作業がある。その体験そのものが自分だけのものとして味わえる。これは誰のものでもない自分だけの体験。天体望遠鏡は1人でしか見られない。季節が巡ってきて1年ぶりに出会う星があると、「久しぶり」みたいな感じになる。」

小池さんが聞く。
「宣伝はあまりやらないんですか?」

「いきなり天体望遠鏡を買うのは消費者にとって難しいこと。まず星空に興味を持ってもらって、星を見ることに価値があると気が付いてもらえれば、見るものに価値があれば、我々の商品にも価値が生まれる。レンズを通して星を見ると、肉眼で見たものと全く違う世界がレンズの中にある。その中に想像と違うものが見えるのは感動につながる。それに気付いてもらうのが我々のセールストークかもしれません。地道な活動だと思います。」

 

■ 双眼鏡で星が身近に “星好き女子”急増!

「自然科学の入り口は見ること、観察すること。そこから「なんでだろう」と思うこと。」

趣味の登山も星空観察も、根っこにあるのは未知の世界を知る楽しさ。そう語る新妻の原点はレンズを覗くことだった。1966年、埼玉県生まれ。小さな頃、天体望遠鏡で土星の輪を眺め、本気であそこまで行けると思ったという。星が見えない昼間は顕微鏡が友達。ミドリムシを必死に観察した。父親はビクセンに勤め、のちに社長になる貞二。だから家にはビクセンの望遠鏡や顕微鏡がたくさんあったのだ。

「自分でピントを合わせて、そこで初めて星を見ることができた。誰の助けも借りずに。その感動が今に続いている、星空が楽しい、星は楽しいことの揺るぎない原点になっている」

大学を卒業後は会計事務所で働いていたが、社長だった父に請われ、38歳でビクセンの社外取締役に。2年後には社長に就任。しかし、この時、強い危機感を抱いたという。

「すごく閉鎖的、閉塞的。今までの流れの中だけで市場が回っているような感じ。」

日常的に星を見る天文ファンは年齢層の高い男性ばかり。だから購買層も限られていた。業界が活気づくのは、1986年:ハレー彗星の接近、2001年:しし座流星群など、天文ショーが話題になった時だけだった。大手企業(ニコン、ペンタックスなど)も望遠鏡を作っていたが、この市場に見切りをつけ、次第に撤退。そんな厳しい状態で新妻は社長に就任したのだ。

(筆者注:こういうのを残存者利益といいます。頑張って残った企業にもいいことがある!)

「長い目で見ると市場を伸ばす余地が無い。これは変えていかないといけないと思った。」

新妻は新しい購買層の開拓に乗り出す。狙ったのは女性層。しかも天体望遠鏡に興味を示さなかった若い女性たちだ。そこで新妻は意外なものにスポットを当てる。それがスポーツやコンサートを見る道具として販売していた双眼鏡だった。実は天体観測の専門家は、星を探すのに普通に双眼鏡を使う。これなら天体望遠鏡よりハードルが低い。手軽に使ってもらえるかもしれないと考えた。そこで乗り込んだのが野外音楽イベント。双眼鏡で昼はライブ、夜は星を見てもらう作戦。

双眼鏡を若い女性たちに貸し出して星を見てもらった。ライブを観に来ていた女性たちが星にも夢中になってくれた。

「星を見てくれたお客がすごく感動するシーンが多かった。特化したもの作って「なんだろう」と興味を持ってもらい上を見上げてもらう。」

女性が欲しくなる双眼鏡を作れば売れる! 新妻は確信した。そして出来上がったのが、この「宙ガールシリーズ ソラプティLite 8640円(倍率8倍)」。1万円を切る価格で提供し、女性が好むカラフルな5色で展開。手のひらに乗るコンパクトなボディーは2か所で折れ、さらに小さくなる。付属品に星の位置が分かるかわいいクロスやボディーとおそろいのカラーのストラップやポーチを用意。

これが若い女性たちの心を掴んだ。今年2月に発売したこのシリーズは年間販売目標を4割上回る大ヒット。女性の天文ファンは着実に増えている。9月に京都で行われた「宙フェス」。会場に3000人が集まり、その7割が女性だった。

新たな客層の開拓にも乗り出している。この日スタッフが訪れたのは、オートキャンプ場。ターゲットはズバリ、キャンプが好きな人たちだ。

ビクセンのスタッフいわく、
「夜になると下を向いてたき火をして、お酒を飲んであまり上を見なかった。星空は必ずあるから、それを一緒に見てもらう」

夜になり、キャンプに来ていた人たちに、テントをスクリーン代わりに映像で星空の解説をし、その後で双眼鏡を貸し出し、実物の星を見てもらう。

村上氏が質問。
「なぜ、閉鎖的な市場環境の中で、社長として外部の視点を持てたのか?」

「やはり、会計事務所にいたというのは大きい。会計事務所の時には、たくさんの顧客がいて、自分がそれに対して、外からのアドバイスを自分なりの考えで一生懸命やってきた。それが、ビクセンという会社に絞られて、自分の得意な考え方やアプローチでこの会社をどうすべきか考えた。女性客が増えている。興味を持たれている女性は多いと思う。」

「星を趣味にされている人は、男性も女性も好奇心はすごく活発。ただやはり、今はどちらかというと、女性の方が我々の提案に対して反応がいい。いろいろな準備をしないですぐ入ってくる。女性が増えてくると、男性もやりやすい。どうしても夜に写真を撮りに行ったりとか、家から出かける必要があるので、家族を置いて写真を撮りに行ったり、趣味に没頭する男性もいるので、家族の理解が一番大事。そうすると、女性も星に興味を持ってもらえれば男性が今よりもやりやすくなる。」

■ 頑張れ! 高校天文部 校舎屋上で星空合宿

全国の中学・高校にある天文部にボランティアとして出向き、機材の使い方や天文知識などを草の根的に広めて、応援している。

「中学校や高校の天文部が少なくなっていると感じている。天文部の楽しさや星を見ることの楽しさを学校でも提案したいと応援している。分からないことを一生懸命に考えるところに好奇心が生まれる。星っていうのは宇宙ですけど、宇宙のことをほとんどの人は分からない。どこに果てがあるのか、天体望遠鏡で眺めていると不思議でしょうがない。だけど事実そこにある。そういったことを体験していると、我々が向かう社会や人の生き方を星空が導き出してくれると思う。星を見なくなっている時代で、窓を開けて星が出ているか、確認するだけでも気分が違うと思う。」

『未知なるものへの好奇心が人生を豊かにする』

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番組ホームページはこちら
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20151210.html

ビクセンのホームページはこちら
http://www.vixen.co.jp/



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