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10年で世の中は変えられる!素材に革命を起こす若きサムライたち スパイバー代表執行役・関山和秀 TBM社長・山﨑敦義 2016年8月4日 TX カンブリア宮殿

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■ クモの糸 量産化成功 “夢の繊維”に世界注目

コンサルタントのつぶやき_アイキャッチ

ゴールドウィンから去年12月、世界初、人工的に作られた“クモ糸”ウェアが発表された。軽くて伸縮性があり、驚くほど丈夫なため、極寒の地のハードな使用にも耐えられるという。クモの糸は、NASAをはじめとする世界中の専門家が長年研究し続けてきた繊維素材。一見細くて弱そうに見えるが、クモの糸は驚くほどの特性を持っている。クモの糸はひとたび獲物を捉えれば、簡単に切れない驚くほどの伸縮性を持っている。軽くて、衝撃吸収力が良く、切れない。これが人工的に作り出せれば、あの映画「スパイダーマン」でお馴染みの強くて柔らかい夢の新素材が誕生する。しかし、これまでは誰も実現することはできなかった。

ところが、山形の田舎町にその困難な新素材の量産化に成功した会社があるという。その名も「スパイバー(Spiber)」。率いるのは、クモの糸で生活を変える! 代表執行役・関山和秀(33歳)。

20160804_関山和秀・山﨑敦義_カンブリア宮殿

番組公式ホームページより)

2007年24歳で起業。その後「人工クモ糸」の生産に成功。特殊な溶剤の中で固まった糸状のものが人工クモ糸だ。

(関山)
「原料に石油を使わずに作れる。この糸を使うことによって、今までできなかった画期的な製品が、いくつもできるようになるのは間違いない。」

関山は研究開始から9年後の2013年、人工クモ糸の量産化技術を確立。養蚕のようにクモを大量に飼育しているのかと思いきや、ガラス管の水の中にいる微生物が人工クモ糸の原料を作っている。その作り方とは、天然のクモから採った糸を遺伝子レベルで解析。その遺伝子配列と同じような配列をコンピュータを使って人工的に作り出し、微生物向けに遺伝子配列に改良を加えた。

(関山)
「微生物がクモの糸のタンパク質を作りやすいように独自の配列をデザインしている。」

そんな遺伝子操作で作り上げた人工のクモの糸のDNAを微生物に入れると、微生物がクモの糸と同じ成分を作り出せるようになる。この微生物が作り出した人口のクモの糸の成分を粉末として取り出す。それに特殊な加工を加え、ある特別な溶剤の中に細い注射針から押し出し、クモの糸と同じ素材の細い繊維を作り出す。

実際に人工のクモの糸の伸縮性を確かめてみると、1.5倍の長さにまで伸びても切れなかった。そうした柔らかくて伸縮性に優れた特性に、いろんな業種の企業が注目する。トヨタ系の小島プレス工業と共同で開発するのは、衝撃を吸収する車体。用途はドア部品など。

 

■ 水も木もいらない 石で作る“魔法の紙”

とあるイベント会場で紙でない名刺が配られていた。表面はツルツルで丈夫。その名刺はライメックスという新素材で作られている。このライメックス。今までの神とは全く違う作り方で製造されている。通常、製紙工場で紙を作る時に必要なのが大量の木材。紙10トン作るのに、樹木200本を必要とする。そしてさらに、木から採れたパルプを漂白するために、大量の水が必要。紙10トンを作るのに、キレイな水1000トンを必要とする。しかし、ライメックスは木も水もいらない。

では一体何が原料なのか? 北は北海道、南は沖縄まで、日本のどこでも採れる石灰石が原料。巨大なピラミッドも石灰石で作られている程、世界のどこでも豊富に採れる石、それが石灰石。ライメックスは石灰石を原料にした環境にやさしい素材なのだ。

魔法の紙で暮らしを変える、TMB社長・山﨑敦義(42歳)。

(山﨑)
「その場所に豊富にある石灰石を使って、“石の革命”を、僕らで世界中に起こして、ライメックスを使って、いろいろな製品を作るのはすごく意義のあること。紙との違いは耐久性があって耐水性がある。」

驚くほど破れにくく、水をかけても全く染み込まない。その上から普通に字を書くことができるほど。ライメックスは木も水も使わずに、驚きの強さを持つまさに魔法の紙なのだ。

TMBの社員がこの日訪れたのは大手印刷会社の凸版印刷。大量の紙を使う印刷会社として、ライメックスの性能評価が行われていた。

(凸版印刷:新井専務)
「水とパルプを使わないのはすごく革命的。印刷会社も生産に関わりたいくらい、これから先のエコ社会を考えると確実に広がる想像を絶する素材。」

総工費20億円をかけたライメックス初の製造プラント。原料の8割は粉末にした石灰石。それに合成樹脂(ポリオレフィン樹脂)を溶かして混ぜ合わせる。石灰石とポリオレフィン樹脂を熱していって、シートを伸ばしていく感じ。紙のような柔らかさを実現するために、空気を含ませながらミクロン単位の薄さに伸ばしていく技術は山﨑が開発した世界初の特許技術。

(山﨑)
「この工場で出来上がったレシピとかノウハウとか技術を生かして、世界中に、これの何倍もの規模の工場を造っていくことを、近い未来に絶対やっていきたい。」

そんな話が中東、バーレーンで進んでいる。木も水も使わずに紙を作る技術に、木も水も不足している中東各国が期待を寄せている。バーレーンは木や水が不足しており、紙は全て輸入に頼っている。TBMはここにライメックスのプラントを建設するパートナーを探しに来た。

(山﨑)
「地球規模でいろいろな人に応援してもらって、みんなでこの素材を育てていくのは、本当に醍醐味があって興奮する。」

 

■ 放送500回スペシャル 暮らしを変えるサムライたち スタジオインタビュー

ライメックスで作った名刺は、100枚で1500円(税別)で作成することができる。

(山﨑)
「1箱の名刺で10リットルの水を削減というメッセージを添える。」

クモの糸で作った繊維のさわり心地はシルクに似てざらっとしているそうだ。

(関山)
「強度に関しては、炭素繊維や防弾チョッキに使用されるアラミドの方が強いが、引っ張った時の衝撃とエネルギーを吸収できる力が圧倒的に高い。クモは地球上に4万9000種いる。1匹のクモが7種類の糸を用途で使い分ける。獲物をぐるぐる巻きにする糸もあれば、命綱に使うのもある。それぞれの糸は物性が違う。伸縮性や強度が違う。これは何が違うのかというと、アミノ酸の並び方が違う。」

小池さんが素朴な質問。
「大量にクモを飼えば糸を採取できるのでは?」

(関山)
「クモは共喰いするので家畜化できない。蚕とは違う。クモに糸をたくさん作らせることは結構難しい。用途によって7種類の糸を使い分ける。「この糸が欲しい」という時に、クモの機嫌によって何を出すか分からない。」

 

■ 始まりは大工見習い “魔法の紙”誕生物語

山﨑は中学卒業後、大工の見習いに。更に20歳で中古車販売業を始めるなど、様々な職を経験した。

(山﨑)
「中古車屋さんを始めた時から、世の中の役に立つとか、グローバルで勝負できるとか、いつか大きなことに挑戦したいということが最初からあった。」

そして35歳の時に台湾で、地元の企業がつくった石灰石から作られた紙(ストーンペーパー)を知る。しかし、それは重く品質も悪かった。

(山﨑)
「重い紙はなかなか受け入れられず、比重と品質の不安定さを解決できれば世界中に絶対に爆発できる。」

山﨑はその企業に重さと品質の改善を申し出るが断られる。ならばと、自力で石灰石の紙を作ることにチャレンジした。

(山﨑)
「こんなチャンスに巡り会えることは一生の中で幾度もない。とにかくやってみようと。」

何の技術も経験もない山﨑が人伝てでたどり着いたのが、現TBM会長の角祐一郎(元日本製紙専務)。“紙の神様”がいると山﨑が紹介を受けたのが7年前。山﨑の情熱に引き込まれて御年87歳の角はTBMに参画。角の経験を生かし、ライメックスの製造プラントを完成させた。そんな山﨑の会社は角だけでなく、各部署で凄腕ベテラン社員が活躍している。例えば、シニアアドバイザー:八田賢一(元丸紅常務)、技術顧問:今村哲也(元花王取締役)。元大手の経験と若手からなるベンチャー精神をうまく融合させて、素材革命を進めてきた。

 

■ 学生起業で140億円調達 “人工クモ糸”誕生物語

一方、スパイバーは2007年設立のベンチャーで既に社員148人。しかしそのトップの関山の歩んできた道も平坦ではなかった。1983年東京生まれ。小学校から大学まで慶応と恵まれた環境で育った。大学でバイオについて研究していたが、クモの糸に注目したのは当時の仲間との会話。「クモの糸はほんとうにすごいよね、何で実用化されていないのか、じゃあやってみよう」。

大学発ベンチャーとして出発。しかし創業当初は資金難に苦しんだ。その当時を偲ばせるものが製造現場に。古ぼけたコーヒーミルのハンドルを使って糸を巻いていたり、昭和50年ぐらい製造の旧式の使わなくなった紡績機があったり。創業から2年後、人工のクモの糸を作り出すことができた。そこに朗報が。日本で有名やベンチャー投資会社のジャフコが2009年に2億5000万円の出資を決めた。これを皮切りに出資総額140億円が集まった。そしてサバイバーにはオーストラリアやサウジアラビアなど世界中から技術者が集まってきている。

村上氏が2人の意外な共通点を発見。山﨑は中卒で関山は幼稚舎から慶応だが、二人とも受験勉強を経験していないのだ。

(関山)
「受験勉強をしてこなかったので、時間がありすぎて小・中学校で「何のために生きるか」まで考えた。深堀りせざるを得なくなってしまう。しかも勉強もしない。本当に必要とされない人間になってしまう危機感だけはあったが、勉強にはつながらなかった。」

(山﨑)
「大工の現場で10年20年後を考えた時、「このままだったら」というのがすごくあった。残りの人生について深く考える時間がすごくあった。」

村上氏の質問。
「お二人ともチャレンジをしているが、素材産業は装置産業の一面もあり、規模の大きな生産設備を必要とするが、工場建設で資金調達の苦労はあったのか? IT産業でアプリ作りましたとは違うと思うんで。」

(山﨑)
「「会社の存続もダメ」と思ったり、支払先に「分割にしてほしい」と頼んだり、夢はものすごく大きくて、いろいろな人が期待はしてくれるが、現実は、毎月何億円の資金が必要で、それも集めきらないと。走り回って、走り回って、考え抜いて、考え抜いて。売り上げもなく、何の実績もない我々に、銀行は見向きもしない。」

(関山)
「来月会社は無いかもしれない、ということは何回もあった。いかに潰れないようにするか、死なないようにするか、生き延びるために、「あと何かやってないことはあった?」と。妻からは(寝言でぶつぶつ仕事の話をしているものだから)「寝ながら会議をしている」と言われた。」

村上氏。
「お二人の下には、いろんな人材が集まってきている」

(山﨑)
「課題があれば、いろいろな人に必死になって、プライドも何もなく聞きに行くと。そうすると「何か力になってやろう」ということで、僕らと同じ気持ちで、世の中のためになる世界を変えられる素材だと。そこに残りの人生で自分がしてきた経験が役に立つのだったら、とことんやりたい、と熱く言われる。60代の人が20代の若い子に、高度成長の日本が技術立国として世界に貢献した話をものすごく熱くされる。もう一度ライメックスという素材で世界にチャレンジしたいとみんなで言っている。」

 

■ 石から作る“魔法の紙” リサイクルで容器に!

普通、古紙は回収され、トイレットペーパーや段ボール用紙として再利用されている。では、石灰石から作られるライメックスのリサイクルは? 使われなくなったライメックスを回収して溶かし、ペレット状にして再加工して、プラスチックの代用品として様々なものに成形し、再利用することができる。

現在、アメリカ、特にカルフォルニア州は環境保護に力を入れており、サンフランシスコ市では、2017年から発砲スチレン容器の販売禁止が決まっている。ライメックスのリサイクル樹脂の可能性を市場調査している。2次利用3次利用が可能で、プラスチック同様、成形技術でどのような形にも加工することができる。圧倒的なエコロジーとエコノミーを両立し提供することができると踏んでいる。

2人の起業家としての原点のお話し。

(山﨑)
「自分が元大工だったということも関係しているのかもしれないが、欧州旅行でバチカンを見た時に、何百年も前に、何百年もかけて造った建物を見て感動した。そこに当たり前に暮らしがあることにすごく感動した。起業家としてやっていく以上、何百年も挑戦し残り続ける会社をつくりたい。」

『時代を超えて、何百年も必要とされる会社に』

 

■ 編集後記

関山さんは幼稚舎からずっと慶応義塾、山﨑さんは中学卒だ。だが共通点は少なくない。まず二人とも、機械など物理的特性ではなく、コピーされにくい化学的特性を持つ製品を成功させた。また、結果的にだが、受験勉強をしていない。そして、決して「異端児」ではない。チャンスをうかがい、つかんだら、成功の糸口にたどり着くまで、どんな困難に遭ってもあきらめなかった。「成功するまでやり続ければ絶対に成功する」カンブリア宮殿の精神だ。このお二人を、500回を記念するゲストとして紹介できたことを、誇りに思いたい。

カンブリア・スピリット
村上龍

(筆者の軽い感想)
番組編集および企画について、気になったことが3点。
①山﨑さんが「アプリ」といった言葉をテロップで「製品」に言い換えていること。
②山崎さんが大事なこととして言及した「レシピ」「ノウハウ」「技術」のうち、「レシピ」をテロップ表示で無視したこと。
③ITは開発投資がかからず、装置産業の設備投資が多大になると言及していること。
いずれも、本当にものづくりにこだわっている起業家の言葉を真摯に受け止めるなら、報道する側にも真剣にものづくりの現場をこだわりを考えてもらいたい。

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