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キャッシュフロー経営(2)カネ余り 日本企業を解く(1)現金「使う力」追い付かず 「稼ぐ力」は10年で33%増

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ キャッシュフロー経営に新造語:「稼ぐ力」に「使う力」が加わった!

経営管理会計トピック

「異次元緩和」とも呼ばれる、量的・質的金融緩和を日本銀行が2013年4月の政策委員会・金融政策決定会合において導入された以降、円がじゃぶじゃぶに市場に溢れるのは当たり前のこと。マクロ経済学では一般知であっても、ミクロの財務分析を行ったとたんに、マクロ経済環境を忘れた物言いをするのはいかがなものかと。。。(^^;)

2017/12/8付 |日本経済新聞|朝刊 カネ余り 日本企業を解く(1)現金「使う力」追い付かず 「稼ぐ力」は10年で33%増

「上場企業(全決算期、金融と日本郵政除く)の現預金は過去10年で7割近く増え、約100兆円まで積み上がった。最高益が続くなかでも、資産効率が低いままなのはニッポン株式会社に残された大きな課題だ。現金の流れを分析すると、投資採算の厳格化や金融危機時の恐怖などを理由に、「使う力」が「稼ぐ力」に追い付かない様子が浮かび上がってくる。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「上場企業の現預金と営業CF・投資CF」を引用)

20171208_上場企業の現預金と営業CF・投資CF_日本経済新聞朝刊

「稼ぐ力」は営業キャッシュフロー(営業CF)、「使う力」は投資キャッシュフロー(投資CF)を意味しています。

本記事による個別企業と日本企業全体の現況解説を下記にまとめます。

● SUBARU
・グローバル展開などに絡んで積極投資を続けているため、投資CFは大幅なマイナス(現金の流出)
・工場などの固定資産投資に費やした現金は過去10年で累積約1兆900億円
・経営規模の拡大もあって、営業活動で稼いだ現金を示す「営業CF」が過去10年の累積で約2兆2000億円に達した
・営業CFのあがりの一部を有利子負債の圧縮などに回してもなお現預金が手元に積み上がった(現預金は2016年度末で6600億円と10年前の約12.6倍に増加)

● 上場企業全体
・営業CF(稼ぐ力)
「16年度の営業CFは59.4兆円のプラス。10年前比で33%増え、「現金を稼ぐ力」の高まりを裏付ける。海外展開や事業の選択と集中のほか、「新技術や新業態創出などの経営努力を積み重ねた」(野村証券金融経済研究所の海津政信氏)

・投資CF(使う力)
投資CFは48.4兆円のマイナス。上場企業は50兆円近くを設備投資やM&Aに回している

営業CFと投資CFの差し引き(合計)は、フリーキャッシュフロー(FCF)と呼びます。FCFからさらに、借入資金の返済や株主還元としての資金の社外流出を考慮しても、現預金が2016年度末に99.7兆円「使い残した」と断じられています。いやあ、そもそも金融緩和のせいで、通貨発行量はそれ以上に増えているのですか、、、(^^;)

 

■ フリーキャッシュフローを上手に使うとキャッシュフロー経営が可能になる?

キャッシュフロー計算書(C/S、C/F)で示される現金同等物の期首期末増減は、下式で表されます。

キャッシュフロー = 営業CF + 投資CF + 財務CF

会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_3分類の取引内容

その内、経営者が次の事業への再投資に回すか、株主還元として社外流出させるか、経営者の自由裁量に任すことができる、という意味の「フリー」を頭文字にとって、

フリーキャッシュフロー(FCF) = 営業CF + 投資CF

という風に示します。

経営管理会計トピック_キャッシュフロー経営

冒頭で引用した営業CFと投資CFの推移グラフにて、両者の差が開いているのは、FCFがどんどんプラスの値で増加していることを意味しています。厳密には、そこから財務CFによる増減があって、企業の手元に残る現預金残高となるのですが、財務CFの影響はこのグラフでは捨象されています。

通常、企業業績は会計的利益の増殖として把握します。それは、損益計算書(P/L)で決算期ごと(四半期、年度)で明らかにされます。しかしながら、経過勘定の使用や見込計算にともない、計算される期間損益が現金の裏付けのないものであるため、保守的に企業業績を見ようとする立場の人からは、現金の出入り(収支)に着目したキャッシュフローで企業業績を見ようとする意見があります。

と同時に、現金の裏付けのある業績表示は、資金繰り政策にも有用と一般的には言われており、資金ショート等を原因とする企業倒産リスクを軽減する計数管理としても有用であるとされています。これら2点を含めて、「キャッシュフロー経営」の要諦とすることが一般的です。

 

■ フリーキャッシュフロー情報でどういう経営意思決定を行うのか?

前章提示のチャート下部に、ケース1:FCFがプラス、ケース2:FCFがマイナス、だった場合の財務戦略の策定方針を図示しています。

フリーキャッシュフロー(FCF)は、まさに「稼ぐ力」で得た営業CFと、「使う力」により使途を表した投資CFの差額で、取り扱いを経営者に留保された金額であると解釈します。

FCFがプラスの場合、企業内では単年度ベースで資金超過状態になっているので、その余資を、借入金の返済、株主還元(自己株取得、現金配当)に充て、企業の資金効率改善に使うのも良し、次の事業成長のための投資に充てるのも良し。守りの経営か攻めの経営か、経営者の資金の使い方が問われるところです。

FCFがマイナスの場合、企業内では単年度ベースで資金不足状態になっています。社内に留保されている現預金残高と、来期(来月)からの資金繰り計画次第では、資金ショート(金融機関やサプライヤーへの支払いが滞ること)を招きかねません。保有する固定遺産や投融資を売却してキャッシュに変えるか、新規に社外から資金調達を計画しなければなりません。

冒頭の記事にあるように、現下の日本企業が置かれたマクロ経済環境では、カネ余り状態。FCFも大いにプラスとなっています。それゆえ、そこで問われる経営者の腕は、次の魅力ある事業投資の機会をどれくらい見つけ出してくるかという事業の目利き力、融資元や投資元から見た、金融商品としての自社のリターン向上策の選択眼。その間接的な評価指標になるのが、ROEとかROIC。

(下記は本記事添付の「ROE・ROICを中期経営計画に盛り込む企業の比率」を引用)

20171208_ROE・ROICを中期経営計画に盛り込む企業の比率_日本経済新聞朝刊

残念ながら、上図の解説は記事本文中で一言も触れられていない。。。おそらく、筆者が指摘したような評価指標としての使用を想定して図示したかったと思われますが、一切の言及がないと、どうしてキャッシュフローの話をしているのに、ROEやROICのグラフが図示されているのか、唐突感ありあり。読者の方は、たまーにこういう記事があることも了解の上で、慎重に本文と添付のチャートを見比べてみてくださいませ。(^^;)

⇒「キャッシュフロー経営(1)(決算番付)(2)自動車4社で5兆円増 手元資金残高 景気拡大、5年間で厚み 還元圧力強まる可能性
⇒「 キャッシュフロー経営(3)カネ余り 日本企業を解く(2)危機の記憶、守りを優先 負債で還元 潮目変化も - ペッキングオーダー理論による財務戦略まで見てみよう!
⇒「キャッシュフロー計算書を斬る
⇒「第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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