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「監査等委」割れる評価 導入1年、400社超が設置 「改革が中途半端」/「迅速に意思決定」

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ それでも監査等委員会設置会社が400社を超えました!

経営管理会計トピック

「監査等委員会設置会社」制度への賛否が分かれているという記事が定番の月曜朝刊の法務欄にありました。大企業にとってはほぼ3択の機関設置パターンの1つで最新の制度なのですが、そもそも新設の動機から不純(制度立法者の関係者の皆様、無礼な物言いをお許しください)なこと、そしてどの制度を選択するかは企業側に任せられているので、どの制度を選ぶかは企業側の自由であること、等から、意見が分かれるのは当然のことです。

2016/7/25付 |日本経済新聞|朝刊 「監査等委」割れる評価 導入1年、400社超が設置 「改革が中途半端」/「迅速に意思決定」

「昨年施行の改正会社法で導入された「監査等委員会設置会社」制度の評価が割れている。従来の監査役に代わり、社外取締役を主体とする監査等委員会を置いて経営の監視を強化する狙いで、1年間で400社超が移行した。だが外国投資家や専門家からは「中途半端で統治改革を後退させかねない」との批判も出ている。実態はどうか。(編集委員 渋谷高弘)」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

米シカゴに本拠を置く運用会社RMBキャピタルは今年3月、インターネット広告大手、オプトホールディング(HD)の株主総会にて、「監査等委設置会社への移行は現状からの改悪にすらなり得る」とし、監査役会設置会社からの移行に反対の意を表明しました。結局のところ、移行議案は可決されたものの反対票は2割近くに達し、RMBの株式保有割合の5%超を上回る結果に。RMBの細水政和日本株式投資部長は「一石を投じ、少数株主から賛同を得た」「企業統治の核心は、社外取締役が経営陣の選任・解任の主導権を握り、株主価値向上に努める仕組みを担保することだ」と語ったとのことです。

細水氏によりますと、

「指名、報酬、監査の3委員会を設け、それぞれ社外取締役が過半を占めると会社法で規定され、監督と業務執行を厳格に分離する指名委員会等設置会社が「最も望ましい」と強調。「法的効力のない任意の指名委員会の設置も次善の策として認めるが、指名委を置かない監査等委設置会社は極めて不十分」とのこと。

ここで、現在の会社法で選択が許されている3択の機関設置方法について、同記事添付の比較表を下記に掲載します。

20160725_日本の上場企業の統治形態は3種類_日本経済新聞朝刊

なお、3制度の相違についてさらに詳細に解説した筆者の過去投稿は次の通り。
⇒「「監査等委」設置広がる 上場600社、企業統治強化 - 監査等委員会設置会社への移行メリットとは?

ここでも触れているのですが、従来の「監査役会設置会社」で既に社外監査役を2名以上選任している企業は、そのまま「監査等委員会設置会社」に移行した場合、その2名を社外取締役にスライドさせるだけで、新たに社外役員を外から招聘する負担が減るので、一気に「指名委員会等設置会社」に移行できない、でも外見から制度移行をした実績を作りたい、と考える企業への救済措置であることは明らかです。

本記事ではこれについて、次のように記載しています。

「監査等委設置会社の制度は昨年施行された改正会社法で盛り込まれた。法改正にかかわった法曹関係者は「改正の経緯を振り返れば批判は予測されたことだ」と認める。
安倍政権は企業の「稼ぐ力」を高めるため、統治改革を成長戦略として推進。上場企業には改正会社法だけでなく、東京証券取引所などが制定したコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が昨年6月から適用されることになった。
指針は上場企業に、新たに2人以上の社外取締役の選任を事実上義務付けた。しかし大半の上場企業は監査役会設置会社のため、既に複数の社外監査役を置いていた。さらに社外取締役を2人以上探し出すのは大変だ――。経済界は慌てた。
指名委等設置会社に移行すれば監査役は廃止できるが、3つの委員会を置く厳格な仕組みを採用した上場企業は2%に満たない。そこで、経営チェックだけでも社外取締役を中心にしてはどうかとの判断から「第3の道」として監査等委設置会社が登場したのだ。
この結果、従来の社外監査役2人をそのまま社外取締役に横滑りさせることが可能になった。企業側の受けはよく、この1年間で東証上場企業の1割以上が移行した。」

(下記は、記事添付の3制度の採用状況の推移グラフを転載)

20160725_指名委員会等設置会社は不人気_日本経済新聞朝刊

なお、社外取締役(社外役員)の適任者を探すのに企業が四苦八苦している模様をお伝えした過去投稿は次の通り。
⇒「社外取締役 出席率97% 昨年度 主要100社の取締役会 半数は複数社兼務
⇒「企業統治、株主目線で磨く 指針導入1年 社外取締役6000人超す 全体の2割、監視強化 - 株式持ち合いや買収防衛策についても説明
⇒「社外取締役の有力供給源 大手法律事務所、就任にためらい 利益相反を懸念/本業に不利益も
⇒「社外役員の兼務制限 日立、4社まで 外部の知見、自社に集中

 

■ それでも監査等委員会設置会社がいいとする会社の意見を聞きました!

本記事によりますと、監査等委員会設置会社に移行した会社の感想が紹介されています。

●三菱重工業
「重要案件の決定の一部を執行側の会議に移管でき、「取締役会は大きなテーマに集中できるようになった」(船戸崇常務執行役員)と効用を強調する。中途半端との批判には「昨年12月に任意の指名委、報酬委を設け、透明性は担保した」と反論する。」

●サントリー食品インターナショナル
「この1、2年で国内外で大型の企業買収をしたが、迅速な意思決定に役立った」(福田哲之総務部部長)とする。同社も監査等委設置会社への移行に併せて、指名・報酬を討議する任意の「人事委員会」を設けたという。」

しかし残念ながら、セブン&アイ・ホールディングスや、セコムの例がある通り、任意機関にしか過ぎない指名委員会・報酬委員会での決議事項に法的強制力が無いこと、構成する委員の選任が非公開でも許されて密室政治のそしりを免れないこと、等から、これを積極的に指示する理由には到底なり得ません。

「監査等委設置会社が任意の指名委と報酬委も設ければ、指名委等設置会社に似る。ただ指名委等設置会社は法律によって3委員会とも過半数を社外取締役としなければならず、指名委が役員人事の決定権を握る。構成が自由で決定権もない任意委員会とは重みが違う。」

(参考)
⇒「「指名委」設置4倍 475社 企業統治意識高まり14年比で 人事透明に、運用カギ

 

■ それでも監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社を選んだ理由を聞きました!

●「監査等委」に移行 セイコーエプソン社長 碓井稔氏 競争力の源泉考慮

20160725_日本の上場企業の統治形態は3種類_日本経済新聞朝刊

セイコーエプソン社長 碓井稔氏(同記事より)

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Q1:監査等委設置会社を選んだ理由は?

1年間にわたって3つの統治形態を比較したが、(外国投資家らが求める)外部から見た透明性や経営の迅速性と、(技術を基礎とする)当社の競争力を踏まえ、最適と判断したから。当社には任意の指名委員会と報酬委員会があるので、透明性も担保できている

Q2:透明性を重視するなら、いっそ指名委等設置会社になるべきでは?

社外取締役に次期トップの決定を委ねることは、少なくとも当社のように技術で生きている会社には適切とは思えない。ソニーや米ヒューレット・パッカードは(技術を知らない)社外取締役が無責任にトップをすげ替え、ガタガタになったように見える。統治の設計は自社の競争力の源泉を考慮して決めるべきだ

(筆者注:英米のファンドからの資金調達を考えると、少しでも彼らの流儀の機関設置をしている努力をアピールしたい。でも、後継指名は日本流を貫きたい。苦渋の折衷案のように見受けられました)

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●「指名委等」に移行 ブリヂストンCEO 津谷正明氏 トップけん制に必要

20160725_津谷正明_日本経済新聞朝刊

ブリヂストンCEO 津谷正明氏(同記事より)

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Q1:指名委等設置会社に移行した経緯は?

さかのぼれば1980年代末の米ファイアストン買収が大失敗したことだ。プライドの高い米国人最高経営責任者(CEO)の管理にてこずり、同社の訴訟問題などの収拾に時間を費やした。
この問題を通じて統治の重要性を理解し、トップをけん制する仕組みとして(役員指名の決定権を社外取締役に委ねる)指名委等設置会社しかないと判断した。

Q2:社外取締役に委ねて不安はありませんか?

それはない。上場会社は公器だ。社外取締役は功なり名を遂げた人で、何が株主の利益なのか公正に判断する。様々な業務執行について彼らに説明し、理解を得ることこそ経営トップの責任と考える
他社とは比較しない。当社には指名委等設置会社が最適だ

(筆者注:その会社の内実や歴史がそうさせていることは何とか理解したいのですが、社外の第三者に、納得をさせる答弁というのはもっと本質的で説得力があるのでないと。社内事情が分かる人にしか理解できない言説になっていますよ。)

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■ それでも監査役会設置会社じゃ悪いのか、と思えること

それでは、監査役会設置会社は、何の努力もしていない、アベノミクスにも非協力的なダメ会社なのでしょうか?

2016/7/4付 |日本経済新聞|朝刊 社外取締役と 連携の強化を 監査役協会、手引き改定

「日本監査役協会(東京・千代田)は、監査役の実務の手引きとなる「監査役監査実施要領」を5年ぶりに改定した。昨年5月の改正会社法施行を受け、会計監査人の選任や解任の手続きを盛り込んだ。経営を監督する社外取締役との連携の重要性も指摘した。
改正会社法は株主総会に提案する会計監査人の選任議案を、監査役会設置会社では、従来の取締役会に代わって監査役会が決めると定めた。同協会は昨年8月、行動指針となる「監査役監査基準」を改定。これを踏まえ、より具体的なマニュアルとなる実施要領の見直し作業を進めていた。」

●日本監査役協会
ここから、「監査役監査基準」を参照・DLすることができます。

 

2016/6/22付 |日本経済新聞|朝刊 セーレン会長、社外取締役への期待「社内常識打破へ知見」

「(社外取締役が監査を担う)監査等委員会設置会社など、統治形態を変える考えはありますか。
「ない。取締役会と監査役会は分けて、チェックをしてもらった方がいい。監査役会は財務や金融に通じた人を中心に据えており、21日から細溝清史前金融庁長官も加わった。(社外取締役と監査役会の存在で)透明性が高まれば、経営はそう間違わないと思う」」

監査役には、事業や業務執行の専門知識のほかに、財務や法制についての専門的知見から、適正・適法に取締役(執行役員含む)が業務執行しているかを、4年という長い任期で監視するミッションは相当に重いもので、会社統治にも有効ではないかと思います。国会でも、衆議院と参議院の2院制であることが、立法府の独走を制約するスタビライザーの役目を一定割合で果たしていると思われるのですが如何でしょう?

 

2016/4/4付 |日本経済新聞|朝刊 監査役会、自前で法律顧問 存在感高める動き、徐々に

「監査役会の機能を強化するために、自前の法律顧問を抱える動きが出てきた。欧米流の社外取締役の起用が脚光を浴びる企業統治(コーポレートガバナンス)論議のなかで、日本独自の監査役制度は脇に追いやられた印象だ。だが地道に統治の質を高めようとしている監査役会もある。産業界でもまだ珍しい実践例を探った。」

監査役会設置会社で、監査役会も頑張っています。

●横河電機
監査役会は2014年秋、企業統治などに詳しい太田洋弁護士と顧問契約を締結。改正会社法施行や企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)導入が続いた15年は計10回の助言を受けた。法律顧問の起用をガバナンス報告書に記載し、投資家にもアピールしている。
監査役は経営者の職務執行の適法性を監視するのが主な役割。不祥事に対する取締役の責任を追及する訴訟を起こすよう株主から求められた際に、是非を決めるのも仕事だ。自前の顧問はこうした非常時に真価を発揮する。「会社の顧問弁護士に頼らず、独立性の高い意思決定を下せる」(横河電機の牧野清・常勤監査役)ためだ。

●京王電鉄
監査役会は、06年の会社法施行をにらみ、04年に法律顧問を迎えた。現在は2代目。「株主代表訴訟の対応は会社の法律顧問には相談できない。法的リスクに監査役会が独自に対応するため導入した」と黒岩法夫・常勤監査役は説明する。法改正の動向などに関し、月1、2回は意見交換する。
同社監査役会は法律顧問に先行して00年から監査法人と会計顧問契約を結び、グループ企業に本社から派遣する常勤監査役の育成に役立ててきた。法律と会計の両輪で、企業統治の一翼を担う監査役の活動を支えている。

監査すべき取締役会の構成員になってしまう「監査等委員会設置会社」と「指名委員会等設置会社」。その矛盾点や課題については、

「改正会社法は施行規則でも、監査役が監査に要した費用を会社に請求できる権利を明示したが「遠慮があり言い出しにくい」と、ある中堅メーカーの監査役は明かす。」

「だが新しい動きもある。ヤフーは15年6月に監査等委員会設置会社に移行したのを機に、監査等委付きの法律顧問を設けた。同モデルは取締役会の一組織である監査等委員会が監査を行う。監査役と違い監査等委員は取締役として経営判断も下す。「期待される役割が監査役よりも広く、難しい判断を迫られる場面も出てくる。専門家を配置しておくのは重要」と別所直哉執行役員は説明する。」

「監督機能の強化という触れ込みで制度化された監査等委設置会社。だが監査等委員は定款変更などで個別の業務執行権限を執行役に委任しておかないと、自らの経営判断を自分で監査する「自己監査」の問題にぶつかり、監査の実効性に疑義が生じるおそれがある。法律顧問はこうした制度的弱点を補う工夫でもある。」

どうです、監査役会設置会社も悪くはないでしょう?

 

■ まだまだ企業統治発展途上国、日本の現状

2016/7/18付 |日本経済新聞|朝刊 統治改革へ取締役教育 団体や企業が相次ぎ講座 法令・財務の基礎知識/不祥事の他社事例

「新任の取締役に会社法をはじめとする企業法制や財務などを学んでもらう取り組みが、企業の間で広がっている。昨年6月導入のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)で求められた内容で、研修を手掛ける団体なども増えている。社外取締役の複数導入など統治の形式が整いつつある中、企業は中身の充実に目を向け始めている。」

(下記は、同記事添付の取締役への教育風景写真を転載)

20160718_会社役員育成機構の取締役教育では実例を交えて会社法や経営の基礎を学ぶ_日本経済新聞朝刊

その教育の一幕は下記の通り。

「「コーヒーチェーンのスターバックスとドトール、どちらが利益率が高いと思いますか?」
5月下旬、東京都内の会議室で野間幹晴・一橋大学大学院准教授が切り出した。講義を受けるのは、複数の企業から参加した、現役の取締役や将来の取締役候補である執行役員ら7人。「スターバックスの方が高い家具を使っているから、減価償却費の負担が重いのでは」「ドトールコーヒーは低単価だから利益率も低いはず」など活発な意見が飛び交った」

(下記は、同記事添付の教育メニュー抜粋を転載)

20160718_取締役教育の1日のスケジュール_日本経済新聞朝刊

●取締役に必要な知識とは
「公益法人の会社役員育成機構(BDTI)(東京・世田谷)が主催する「国際ガバナンス塾」の一場面だ。実例に沿って法令や財務の基礎知識を丸1日かけて教える。講師の野間准教授は「どのような経営戦略をとっているか、数字から直感的に判断できるセンスが必要だ」と説いた。」

●取締役教育はグローバルスタンダード!?
「取締役教育は欧米では既に一般的だ。コンサルタント会社などの合宿形式の講座などが多数開かれている。BDTIは2011年から取締役教育を手掛ける。これまで日本ではあまり浸透していなかったが、ニコラス・ベネシュ代表理事は「遅ればせながら広がり始めた。今年は大きく需要が伸びている」と話す。」

●コーポレートガバナンス・コードの影響がここにも
「背景にあるのが、東京証券取引所などによる企業統治指針の適用開始だ。同指針は「新任者をはじめとする取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすため、必要な知識の習得や適切な更新等の研さんに努めるべきだ」として、取締役教育の重要性を説いた。
QUICK ESG研究所によると、東証上場の3月期決算企業のうちコーポレートガバナンス報告書で取締役への教育を行っていると答えたのは全体の98%に達した。企業統治の実効性を高める上で、その基盤となる取締役の質の向上は欠かせないと判断する企業が多いことがうかがえる。」

上記の取締役への教育メニューを見ての感想。『自分にも取締役が務まるじゃん!』
すみません、世迷言でした。m(_ _)m

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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