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企業会計原則(13)発生主義の原則

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 損益計算の基本的考え方となる「収益」と「費用」を発生主義の考え方で認識する

会計(基礎編)

損益計算の基本は、収益と費用(コスト、原価という用語も含む)を対応させて、差額概念の「利益」を求めるところにあります。収益と費用が「いつ」の決算書に乗せるのが適切なのかを判断する会計的考え方を「発生主義」といいます。これを日本の会計的な基本概念(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)を表している『企業会計原則』の該当箇所を読み込んでいきましょう。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして『損益計算書原則』の構成を下図に図示します。

財務会計(入門編)_損益計算書原則の体系

A 発生主義の原則
すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。 前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。(注5)

まず、超基本的な会計的お作法として、用語の使い分けです。売上高とか人件費など、勘定科目で表される金額を、会計帳簿に記録する所作を「計上」といいます。「計上」は、「いつ」のタイミングにその記録を会計帳簿に載せるべきかを考える「認識」という行為と、「いくら」の金額として会計帳簿に載せるべきかを考える「測定」という行為の2つに分解することができます。「発生主義」という考え方は、「いつ」の会計記録としてその対象となる会計取引を帳簿に載せるべきかという「認識」における基本的な考え方なのです。

 

■ 「費用」の発生は、価値費消に求めるの意味とは?

収益や費用といった損益計算のもとになる項目(勘定科目)をいつのタイミングで認識すべきかの判断基準を一番広い原則論で説明したものが「発生主義」で、会計取引(損益取引)としてみなされる「価値」の増加や減少のもととなる事実が発生したと認識されたタイミングで記帳する考え方です。

「収益」と「費用」のいずれにも「発生主義」は適用されているのですが、「収益」の方は、もっと慎重な判断で記帳すべきという考え方から、「発生主義」に加えてもう一段厳しい基準、「実現主義」を用いて認識することになります。それゆえ、ここでは主に「費用」の認識にフォーカスして説明を続けたいと思います。

何をもって費用が発生したかを判断するポイントは2つあります。

① 価値費消事実の発生
② 費消原因事実の発生

財務会計(入門編)発生主義で費用を考える

一般には、「消費」は「お金などを使って無くすこと、使い尽くす」という意味で広く用いられますが、「費消」は会計用語として、「金銭や物品、サービスなどを使い尽くす」意味で普通に用いられる言葉です。そもそもの「価値」とは何ぞや、については、下記投稿を参考にしてください。

⇒「原価計算基準(7)原価の本質① ものづくり経済を前提とした原価の本質的要件は4つ

① 価値費消事実の発生
収益を上げることを目的として、有形物やサービスなどの用役に対価として支払った(または支払う予定の)経済的価値の犠牲のことで、簡単に言うなら、対価としてお金を支払った(または支払う予定が確実になっている)ことを指しています。

② 費消原因事実の発生
価値費消はまだ行われていないのですが、将来的にかなりの確度で価値費消が行われる原因が発生しており、前回説明した費用収益対応の原則に基づき、当期の収益との因果関係が相当レベル以上認められれば、それも費用として認めようというものです。

 

■ 「費用」の認識は現金の支払いから始まった

費用の認識とは、「いつの費用か」を決める基準となり、前期・当期・来期のどの期間に所属する費用かを決める大きな手掛かりとなります。それは、経済モデルの進化と共に変遷しているのです。

それを時代順に並べると、次のようになります。

① 現金主義
② 権利義務確定主義(半発生主義)
③ 発生主義
④ 実現主義

④の実現主義は費用と収益のうち、収益にのみ当てはめるものなので、ここでは①から③までを説明することにします。

① 現金主義
現金の収支事実に基づく損益計算を意味し、実際にお金のやり取りがあったタイミングで費用と収益を認識しようというものです。例えば、コンビニなどでお財布から硬貨を取り出して、レジで買い物が入ったビニール袋と交換でお金を支払った時、そのタイミングを費用が発生したと考えるものです。

② 権利義務確定主義(半発生主義)
民法176条「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」という条文に則り、例えば売買取引の当事者である買主と売主の間で、「買った」「売った」という意思表示がなされたときに費用を認識するという考え方です。これは、実際に対価として現金の受け渡しがなくても、意思表示がなされるだけで費用を認識する点が現金主義との大きな差異となります。

③ 発生主義
現代ビジネスにおいては、高度な信用経済で成り立っているので、手元に現金がなくても、クレジットカードを用いたり、つけ払いでものを購入することができます。つまり、実際に現金が動いていなくとも、信用取引によって債権債務が確定していれば、前倒しで費用の発生を認識しても実務的に問題はないと考えます。

その事実だけだと、②の「権利義務確定主義」と何ら変わらないのですが、もうひとつの要件が発生主義には加わります。それは「経済的価値」の費消という前章で説明したポイントです。例えば、機械設備や建物など有形固定資産については、売買時に権利義務発生したのだから、売買が行われた会計期に全額費用としてしまうと、購入時の費用負担だけがかさばり、毎期の損益計算が大きく歪む恐れがあります。それを回避するために、その有形固定資産が収益を生み出す期間に渡って購入価額を期間案分することで正常的な(経常的な)損益計算の姿を明らかにしようという費用の発生のさせ方があります。そうですね、これを耐用年数に渡って定期的に費用を計上するための「減価償却費」と呼ぶのでした。

また、売掛金や受取手形という売上債権に対して、ある一定水準でとりっぱぐれる貸し倒れというコストがどれくらいになるか合理的に見積もれる場合も出てきます。こういう時は、貸倒引当金繰入額という勘定科目で引当金を積むのが適正な期間損益計算には必要なのでした。

このように、現金の授受や、権利義務の確定のタイミングだけではなくて、経常的で安定的な損益計算、言い換えると、費用収益対応の原則に従って、真っ当な期間損益を計算すために、費用を適正な期間配分でカウントするために、経済的価値の費消または費消の原因事実が認められる場合は、その会計期の費用として認めようとする考え方が「発生主義」として一般的になったわけです。

 

■ 現金収支と費用計上の違いを再確認する

このように、「発生主義」は会計期ごとの利益を適正に計算するために、経済的価値の費消という事実について、各期に所属する費用の名目と金額を決めるものでした。それは、高度な信用経済の上に成り立つ会計的コンセンサスなので、実際に目立つ現金の収支とのタイミングのズレが、この発生主義の本質的な理解のためには重要なカギとなります。

財務会計(入門編)現金収支と発生主義の違い

既に現金を支出しているのですが、今期の費用としては認めないものに、「前払費用」があります。例えば、5年分の家賃を一括で現金でもって支払いましたが、このうち、今年分以外の5分の4の金額までも今年度の費用にしてしまっては、今年度の期間費用が歪んでしまいます。この5分の4相当の金額は、「前払費用」として、貸借対照表(B/S)に資産としていったん計上しておき、その期間が到来した時に、1年分ずつ期間費用として損益計算書(P/L)の方に移していきます。

まだ、現金支出していないのですが、今期の費用として認めなければならないものに、「未払費用」があります。現在雇用している従業員の将来の退職に備えて積み立てておく(引き当てておく)退職給付引当金の当期負担分は、まだ退職給付の現金を手渡していないのですが、該当する従業員の在籍期間に渡って、期間案分して費用計上しておく必要があるのです。なぜなら、その従業員が提供する労働力を使って今期の収益を上げているのならば、その従業員に今期支払った給与のほかに、退職時に支払う退職給付金の額もその従業員という労働力を使って今期の売上を上げるのに使用した(犠牲にした)経済的価値に加えるのが妥当だからです。

このように、「発生主義」は費用(または収益)の認識基準として、期間損益計算が要請する毎期の費用収益を対応させるべきという会計的考え方を強く反映させたものであるということができるのです。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(12)損益計算書原則 - 費用収益対応の原則とは
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)企業会計原則(13)発生主義の原則

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