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(ビジネスTODAY)トヨタ総会、議論の場に 過去最長の3時間、新型株の賛成率は75%

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ トヨタ、種類株式発行が株主総会で可決

経営管理会計トピック

発表から約1か月半、マスコミや市場で取りざたされていたトヨタ「AA型種類株式」の発行がようやく定時株主総会で可決されて、賛否両論、喧々諤々の議論に終止符が打たれました。残念ながら、新聞報道にも「敵対的買収防衛策である」とか、著名な大学院教授のコメントだったとしても誤解(だってTOBに対しては売却できる、という条件が付いていますから!)がさも専門家の意見として掲載れていたりして、玉石混交の議論を眺めているだけでも楽しくなる1か月半でした。

2015/6/17|日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)トヨタ総会、議論の場に 過去最長の3時間、新型株の賛成率は75%

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「主要な3月期決算企業の株主総会が本格化してきた。トヨタ自動車が16日に開いた総会では、新型株式(種類株)の発行に必要な定款変更など7議案を可決。事実上の元本保証ながら議決権を持つ異例ずくめの新型株には株主から質問が相次ぎ、開催時間は3時間2分とトヨタとして過去最長を更新した。企業統治への関心が高まるなか、株主総会が議論の場として機能するか、今年は一段と問われそうだ。
新型株式については、海外投資家などから「売れない株式は安易な安定株主を増やし、経営の規律が緩む」と反対の意見が出ていた。総会での賛成の割合は75%(速報値)だった。可決に必要な3分の2以上の賛成は上回ったが、トヨタの通常の会社側提案への賛成の割合は9割前後が多く、これと比べると低かったといえる。」

(下図は掲載記事からの転載)

第1回AA型種類株式の特徴_日本経済新聞朝刊2015年6月17日

トヨタ(発行主)側の意図に対して普通株式所有者たちは賛意を示したわけで、自らがAA型種類株式の株主に名乗りを上げたわけではありません。ここが実はポイントなのです。

(これまでの筆者のコメントは下記の過去投稿記事から)
⇒「トヨタ、個人向け新型株最大5000億円発行 元本保証、議決権あり 長期投資家取り込む
⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点
⇒「トヨタ、新型株の評価二分  株主助言のグラスルイス賛意、ISSの反対受け補足資料
⇒「トヨタの新型株 米公的年金2位は反対海外での賛否分かれる

 

■ トヨタ、種類株式発行に対する意図をなぞった新聞報道のスタンス

ここ2日間での日経新聞での報道のされ方をざっくりまとめさせていただきます。

2015/6/16|日本経済新聞|夕刊 トヨタ株主総会で新型株承認 元本保証、個人安定株主増やす

「3月期決算の主要企業の先陣を切って、トヨタ自動車が16日、愛知県豊田市の本社で定時株主総会を開いた。5年間の譲渡制限がついた新型の株式を発行するための定款変更議案を含む7つの会社提案すべてが可決された。トヨタは新株を発行して長期保有の個人株主の拡大を目指す。」

トヨタのAA型種類株式の発行目的は、シンプルに長期保有の個人株主を増やすこと、と捉えられています。ということは、逆説的に、トヨタは、短期保有の機関投資家の保有を嫌っている、ということになります。では、なぜ「短期保有の機関投資家」の保有をトヨタは嫌うのか? その説明まで日刊紙に求めるのは酷というものでしょうか?
(実は同日の別記事にはちゃんと説明があります。新聞は一日分を通してお読みになられることをお勧めします!)

「注目されていたのは種類株という新株式発行のために定款を変更する第7号議案。取得した株主は5年間は売買できないが、その後は取得額でトヨタに買い戻しを請求できる株式だ。トヨタは長期保有してくれる個人株主を増やし、時間がかかる自動車開発を支援してもらう狙いがあると説明してきた。
これに対し海外投資家の一部から「安易な安定株主の増加につながり、経営の規律が緩む」などと反対する声が出ていたが、総会では定款変更に必要な3分の2の賛同を得て可決された。
新型株式の質疑応答では新株発行を疑問視する声もあった。豊田社長は「株主に選択肢を広げ、資本市場を活性化する取り組みを半歩進める」と発言。「種類株で株主とともに未来のモビリティに挑戦する」と述べ、「一緒にやりましょうよ」と株主に呼びかけた。総会では取締役の選任などの6議案も承認された。決議を踏まえ、トヨタは「AA型種類株」と名付けた新株を発行する見通し。」

トヨタは現在、新たな設計ルール「TNGA(Toyota New Global Architecture)」に取り組んでおり、中長期の技術開発投資が丁度、中期的な資金需要が高まっているところです。こういう取組みをすすめるにあたり、毎期毎期の業績を気にしていては、決算期(四半期でも1年でもどちらでも)をまたがる先行投資は、利益として努力が結実するまでには、途中決算期での業績(ここでは単純に利益)を犠牲にする覚悟が不可避です。しかし、その説得を、機関投資家にいちいち説明していては疲れます。彼らもまた、決算期ごとの投信・運用の成績で、評価されていますから。

 

■ トヨタ、種類株式発行に対する真意を汲み取った新聞報道のスタンス

そこで、17日の社説に次の記事が掲載されています。

2015/6/17|日本経済新聞|朝刊 (社説)企業は株の長期保有をいかに促すべきか

「上場企業は好業績や利益還元を求める株主の声に、できるだけ応えなければならない。そうかといって、設備投資や研究開発をおろそかにすれば成長は続かない。経営を長い目で見守り、支援してくれる株主を増やすには、どうしたら良いのだろう。」

ふむふむ、トヨタのケースを汎化した導入部です。

「トヨタは新型株の発行で調達する資金を、車の自動運転や環境などに関する技術の研究開発に用いる方針だ。5年間は売却しない株主が増えるため、短期の研究成果や株価変動を気にしすぎることなく、開発にじっくり取り組みやすくなるとみられる。」

ここで、トヨタのAA型種類株の発行の意図を説明しています。

「そもそも長期保有の株主づくりは、企業が経営理念や事業戦略を説明し、投資家の賛同を募ることから始めるべきだ。その結果として企業を長期にわたって支援する株主が増え、経営や株価が安定するというのが本筋だ。株式市場に対して強い経営のメッセージを発信する力を、企業はさらに磨いていく必要がある。」

結論は、社説のセオリー通り、常識論・抽象論・理想論になっていますが、内容はその通りだと思います。

つまり、筆者流の言い方で行間を読解すると、資金を調達したい企業(金融商品の発行体)は、5年サイクルのビジネスには5年有期限の調達資金、100年サイクルのビジネスには100年(事実上ほぼ無期限)の調達資金を欲しています。今回は、TNGA関連の技術投資の回収までに5年程度かかると考え、それに期間対応する資金を調達したかった。その手段がたまたま「種類株(議決権あり、転売不可、元本保証)」だったわけです。

 

■ 企業が資金調達手段を決めるとき

5年で成果が出るビジネスの投資収益率が5%だった時、必要な資金を2%で調達すれば、その企業には3%のマージンが手元に残ります。そうした、企業があまたに保有している大小ビジネスの塊の数の分だけ、ここに資金調達手続きを始めれば、大変な事務手数となり、大変なことになります。でも考えてみてください。大きなプラント工事の場合、参加する企業がコンソーシアムを組んで、JV企業体に出資し、工事が終われば会社(SPEなど)を清算して、儲けを出資比率で山分けする、という有期限で有限額の資金調達でビジネスは普通に行われています。映画やTV番組などの制作方法も既にその手法が主流となっています。

思い出してほしいのは、2006年に、ソフトバンクが日本ボーダフォンを買収した時に活用した資金調達方法。一般的にはLBO(Leveraged Buyout)手法と呼ばれていますが、小難しい用語に惑わされること無く、経済原理からすれば、ソフトバンクは買収総額1兆7千億円のうち半分強に当たる1兆円をLBOにより調達しました。そのLBOは、「ノンリコースローン(nonrecourse loan、非遡及型融資)といって、「借り手は債務全額の返済責任を負わない。責任財産からのキャッシュフローのみを返済原資とすること、その範囲を超えての返済義務を負わない」という類の金融債務となります。

ソフトバンクは、日本ボーダフォン買収資金の過半をノンリコースローンで調達し、見事、i-Phoneの独占販売権も獲得(当時)、順調に事業を成長させ、押しも押されぬ日本を代表する携帯電話会社(事業)のひとつとなりました。

これも一種の「プロジェクトファイナンス」手法。企業がある事業・ビジネスをやりたいから、その事業が必要とする期間に必要な資金を出してください、と資金の出し手と交渉するやり方。こういうのは、JVやLBOなど超大規模なものに限らず、昨今では「クラウドファイナンス」という名で有名になりましたが、小口でのやり取りでも十分に採算に合うようになってきています。

従来の、会社全体に株主として、無期限で出資してください。出資してもらったお金を使ってどう事業を展開するかは、一旦経営者にお任せ下さい、事前事後の各事業の成績の良否は株主総会で判断してもらいます。という資金調達方法は時代遅れになるかもしれません。まあ、ある程度、企業体の基礎を支える資金(運転資金など)の手当てとしては延命されてるでしょうが。。。

やれ「スチュワードシップ・コード」だ、「コーポレートガバナンス・コード」だと色いろいろ言っていますが、要は、投資したお金に利がついて大きくなって戻ってくるか、とうこと。テクニックとして、普通株式なのか、金融債権なのか、種類株なのか、ハイブリッド債(この前の三菱商事のケースが直近では有名)なのかは、資金需要の圧力と、ビジネスリスクとのバランスで決まるだけです。

「経営」と「所有」が分離している現在の株式会社の構造により、株式が持つ「支配証券(経営者の指名権)」の意味、「物的証券(残余財産請求権)」の意味も、もはや「利潤証券(儲けの分配請求権)」の付帯条件に過ぎない時代となっています。

皆さんは、現代の株式会社の原型が、東インド会社にあることをお忘れのようで。一回の航海に投資し、手に入れた胡椒を欧州で売りさばいて、儲けを出資者で山分けした。。。

それが企業活動がゴーイング・コンサーンになってから、資金と事業の結びつきが弱くなって、その辺のシビアな感覚(この出資金はどの事業に投下され、いつ回収されるのか)が弱っている感じがします。まあ、「クラウドファンディング」全盛の時代になったら、そういう感度の低い資金の出し手は金融市場から駆逐されてしまうことでしょう。

半分脅し文句で今日の投稿を終わりにしたいと思います。(^^;)

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