(スクランブル)2つの利益 眼力必要 独自指標、会計基準と格差(1)利益とは単年度業績指標か価値増殖指標か?

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■ 2つの利益指標が開示される理由とは?

経営管理会計トピック

「利益は意見、キャッシュは事実」という格言めいた言い回しが会計の世界には存在します。その経営者による意見表明が投資家に会社の実力値を示す真実として受け入れられるといいのですが、事はそれほど単純ではないようで。

2018/5/15付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)2つの利益 眼力必要 独自指標、会計基準と格差

「決算発表で企業が「2つの利益」を開示する例が増えてきた。会計基準に基づく利益に加えて、同基準に基づかない独自の社内利益指標を開示し、利益の傾向をわかりやすくする狙いがある。一方、米国では経営者が都合の良い数字を選ぶことに批判が根強い。どちらの利益を重視すべきなのか、開示情報から企業価値を探る投資家を悩ませている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「製薬大手の「純利益」には差」を引用)

20180515_製薬大手の「純利益」には差_日本経済新聞朝刊

IFRSでは、医薬品やソフトウエアなど無形資産は特許期間などに応じて減価償却が必要となります。これらをM&A時に発生する「のれん」相当の概念と解することで、製薬大手は、償却前の社内指標ベースの損益を開示して会社の実力を示そうと試みます。

(下記は同記事添付の「社内指標を開示する主な企業」を引用)

20180515_社内指標を開示する主な企業_日本経済新聞朝刊

ルネサスエレクトロニクスは制度会計ルール上では営業減益でしたが、買収で発生したのれん代を償却しない調整後の営業利益では増益でした。GCAは決算短信の冒頭で、純利益は前年同期と比べ2.7倍という開示をしました。ただし、この数字はのれんの償却などを除く社内指標で、実際の制度会計ルールにおいて最終損益は赤字になっていました。

これらの措置が全て、制度会計上の赤字決算を糊塗するために、社内基準利益で黒字決算を強調して投資家を惑わすことを目的としていたとしたら大問題です。その一方で、投資家も決算発表をしっかりと見極める眼力を備えておく必要がますます強まったともいえます。

従来も、石油会社は、大量に保有する原油という在庫の棚卸評価損益が単年度業績(ここでは粗利、営業総利益)を大きくぶれさせることになるので、制度会計ルールと併用で、棚卸評価損益が無かったとしたらという粗利を長年開示してきたという慣行は以前からありました。

⇒「JX、1800億円の最終黒字 今期 原油安の在庫評価損が解消 減損損失も大幅減
⇒「会計初心者にでもわかる原油安による在庫評価損のカラクリ
⇒「JX、経常益3割減 今期 原油安で在庫評価損

この事例では、在庫評価損益が当期業績に与える影響額を試算して、両方を開示しているので、一方的に営業赤字を糊塗する目的ではないと肯定的に捉えています。他社もそういう意図なら、2つの利益を開示することは歓迎されるべきではないかとも考えます。
(そこで発生すると思われる問題点は次章で)

 

■ ここでも欧米追従をする義理は無いのですが。。。

そもそも、決算発表の形式の自由度が高かったSEC基準の米国では、経営者による試算数値による業績発表も多用されており、昨年から日本基準(東証ルール)でも決算短信のフォーム自由化の許容範囲が広がり、多様的な決算開示が多くみられるようになりました。

「米国の主要企業ではこうした社内指標ベースの売上高や損益を開示する企業が9割にのぼる。投資家やアナリストも「本業の傾向が伝わりやすい」として会計上の損益より重視する傾向が強まっていた。」

一般に、経営者による試算利益は、欧米では次のように呼称されることが多いようです。

●プロフォーマ利益、調整後利益、非GAAP利益
一体、このネーミングセンスはと疑ってしまうものばかりですが、全て実在します。

・プロフォーマ(exBuzzwords用語解説 より)
プロフォーマとは、「試算」のこと。投資評価などの際に対象事業や対象企業の財務諸表などを見積もって作成した場合に、[Pro Forma Financial Statements]などという。
「見積もり」や「予測」財務諸表と読み替えればわかりやすい。

⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(4)経営成績を過大表示する指標の提示 - 利益とキャッシュフローの代替指標によるごまかし
⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(3)経営成績を過大表示する指標の提示 - 会計的利益とEBITDA

これについては、欧米でも批判の声は小さくありません。

「米国では一般に社内基準の利益は会計上の利益を1~2割上回る傾向があるという。企業が独自に開示する損益について米証券取引委員会(SEC)は「補足であるべきだ」との立場から監視を強めている。米フェイスブックが社内指標の開示をやめるなど揺り戻しも起きている。」

また、かのウォーレン・バフェット氏は、経営者が自身にとって都合がよい業績数字を好んで開示することに対して、

『白いキャンバスに矢を射た後に、刺さった矢のまわりに標的を描くようなものだ』

という言葉を残していることにも留意しておくべきでしょう。

 

■ 利益情報をどのように受け止めるかで、プロフォーマ利益の解釈が違ってくる

会計基準に依らない利益指標を決算開示することの賛否は分かれるでしょうが、そもそもその前に、利益指標が持つ意味について、私たちは十分な理解を持っている必要があります。

会計の初歩的教科書には、利益が持つ意味は2つあるとされています。

(1)業績評価利益
(2)分配可能利益

⇒「利益情報の意味

(1)業績評価利益
経営者が1年間の経営の負託を受けた中で、企業業績がどれくらい増進したかを示す指標。得てして、経営者報酬算定の基礎数字となることが多い。

(2)分配可能利益
十分なキャッシュの裏付けや会社財産の担保が認められる中で、株主に配当できる金額の上限枠を示す値。

これに加えて、昨今の会計観の揺れも大きく影響することになります。日本基準は「当期業績主義」で、今期の当期純利益がどれくらいになったか、一年間の経営者と会社の頑張りがどれくらいだったかを知りたいとする願望を利益指標に求めます。これを、「当期業績指標」と呼称しておきましょう。

一方、IFRSは、「資産負債アプローチ」を採っているので、B/Sの公正価値(時価)にまず着目します。P/L上の利益は、前期から今期へのB/S上の公正価値の増殖分を示すにすぎません。これを、「価値増殖指標」と呼称しておきましょう。

この様に利益指標を見る観点が大別されると、冒頭の新聞記事にあるように安易にどっちが企業業績を把握しやすいか、という議論に終止符を打つことはできないでしょう。当期業績を重視する立場からすれば、償却前利益が目安となりがちですし、価値増殖を重視する立場からすれば、償却後利益のほうがしっくりとくるはずです。

ちなみに筆者ののれん償却に対する見解は、「償却すべし」ですが。。。(^^;)

⇒「減損損失と減価償却費の本質的違いとは? - 固定資産の資産性評価の考え方、時価主義と費用収益対応の原則の違い
⇒「国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」 - IFRSにみられるように、のれんを定期償却しないのは無謬性のあるグローバル・スダンダードだと思い込んでいる人へ
⇒「(経済教室)国際会計基準の展望(下) 「のれん」処理、日本型は妥当 西川郁生 慶応義塾大学教授
⇒「国際会計基準 200社迫る IFRS トヨタ・ソニー導入検討 - 会計基準は企業活動の写し鏡であるべきだ!

閑話休題

最後に大事なことを3つ。企業決算数字を見るにあたって、自分が当期業績を重視するのか、価値増殖を重視するのか、財務分析のスタンスを明確に持つことが大事。それ次第で、制度会計ルールに準拠した利益指標を重視するか、はたまた経営者のプロフォーマ利益指標を重視するのかが分かれるので。

そしてこれが最重要視されないといけないと考えているものが「継続性の原則」。当期業績指標でも、価値増殖指標でも、毎年、同じ指標の比較可能性が担保されていないと、分析対象の企業業績の成長性と収益性を確認できないので。

⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために

ラストは比較可能性の担保。各企業が独自の業績指標を開示して、他社との比較可能性を失っていたら、投資家として、どちらの企業により投資魅力があるのか判別することが難しい。これは、経理自由の原則とか、相対的真実という概念もあるので、制度会計に準拠したからと言って、完全比較できるわけではないけれど、程度の差っていうのはありますよね。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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