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減損損失と減価償却費の本質的違いとは? - 固定資産の資産性評価の考え方、時価主義と費用収益対応の原則の違い

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 固定資産をキャッシュマシーンと見るか、将来費用の仮計上と見るか、それが問題だ!

会計(基礎編)

最近やたら「減損損失」という会計用語を目にします。その計算構造を簡単に説明します。

①計算対象
固定資産

②減損の兆候があるかの判定
判定対象資産が生み出す営業キャッシュフローまたは営業損益がマイナスである

③減損損失の認識の判定
対象資産の帳簿価額(簿価)と、対象資産が生み出す将来営業キャッシュフロー総額を比較し、前者の方が小さい

④減損損失額の測定
対象資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、元々の帳簿価額との差額を減損損失とする

※回収可能価額とは
 ・使用価値:割引前将来キャッシュフロー総額の現在価値
 ・正味売却価額:今、売却した場合の売値

「割引前」とか「現在価値」とかの用語が分からない場合は、無視して頂いても本質理解を邪魔しません。

平たく言うと、企業が現在使っている固定資産、例えば、とある機械装置を想像してください。その機械装置が壊れるまで稼げるであろう予想キャッシュフロー総額が、現在の機械装置の簿価より小さい場合、その差額を今期の損失として損益計算書(P/L)に計上し、その同額分だけ機械装置の簿価を引き下げる、というものです。

会計の教科書には減損損失に関する会計処理そのものの説明は丁寧に載っているのですが、どうして減損損失を計上しなければならないのか、あるいは、減価償却費とどう違うのか、について、そもそもの本質的な説明が不十分なものが多い気がします。

それは、ズバリ、計算対象とする資産をどう見ているかの違いです。すなわち、キャッシュマシーンとして見ているか、費用の塊りとして見ているか?

⇒「「のれん」残高24兆円に拡大 7年連続最高に 今年度5%増 潜在的な減損リスクも
⇒「日本郵政が豪物流子会社巡り最大4000億円規模の減損損失の計上へ - のれんの一括償却で膿を出し切り経営が上向くと考えるのは誤解です!
⇒「国際会計基準への移行で500億円の営業利益を押し上げるリクルートと、研究開発費を投資とみなして31兆円のGDPを押し上げる内閣府について

 

■ 固定資産の時価評価の結果が減損損失の認識であるとは言い切れない理由とは?

企業が有している資産は、すべていつでも換金可能な財産であると仮定します。換金可能ならば、常にいくらで売れるかを示す「時価」を持っているはずです。今、企業が宝石を持っていて、簿価100万円で、貸借対照表(B/S)に載せているとします。将来、150万円で売れる可能性が高い場合、「時価」は150万円ですので、B/Sに150万円で計上すると、常にB/Sがその企業の時価を表すものとなり、M&A取引において企業価値評価作業がとても楽になります。

一方で、その宝石が将来、80万円でしか売れないという予想がある時、「時価」は80万円となるので、B/Sには100万円ではなく、80万円に修正しておかないと、その企業が有している財産の時価がB/S上では分からなくなります。

つまり企業財産の時価評価には、プラス方向とマイナス方向があり、いわゆる「時価評価」「時価主義会計」という言葉を用いる場合には、評価損も評価益も、両方ともアリとします。しかし、減損会計が対象としている固定資産は、評価益の計上は「未実現利益」として計上が禁止されているにもかからず、評価損の方だけは、いわゆる「保守主義の原則」にしたがって厳格に計上することになったのです。同じことが、販売目的の棚卸資産への「低価基準」「低価法」の適用にも言えます。

会計(基礎編)_中途半端な時価主義会計

固定資産の減損に係る会計基準
 ・設定主体 企業会計審議会
 ・設定時期 平成14年8月

企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準
 ・設定主体 企業会計基準委員会
 ・設定時期 平成18年7月
 ・最終改正 平成20年9月

企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
 ・設定主体 企業会計基準委員会
 ・設定時期 平成11年1月(当時は企業会計審議会)
 ・最終改正 平成20年3月

企業が所有している財産は全て換金可能である、という仮定は無理がありますが、現在、全面的に「時価主義」を適用している「金融商品」や「トレーディング目的の棚卸資産」は換金可能性に裏付けられた評価益と評価損を客観的に測定できることが前提としてあって初めて時価評価できるといえます。

一方で、中途半端に「評価損」の方しか計上が許されていない(見方によっては、評価損の計上だけを会計基準で強制されている)販売目的の棚卸資産と固定資産の方にも、「正味売却価額」という概念が盛り込まれているので、市場で売買され得ることを前提に評価損の計上額が考えられています。ただ「評価益」の方は認識するだけの自信が無い(客観的に評価益の測定額に自信が持てない)、そういう理由で全面時価評価が見送られているのです。

⇒「国際会計基準IFRSが変える(下)のれんや資産の「時価」重視 リスク管理の精度高める

 

■ 固定資産の現在価値を重視するなら減損損失で、費用収益対応を重視するなら定期償却で!

ただし、固定資産については、市場で売買されて時価評価できるか否かの論点以外に、「費用性資産」という側面でも考察しなければなりません。この考え方は、「資産というものは、期間費用化されることを前提に、支出と費用の差額調整のためにB/Sに仮計上されているものである」という資産観に基づくものです。

これは、動態論といって、損益計算書(P/L)で企業業績を評価することが財務諸表の最も大事な作成目的であるという立場に基づくもので、簿記論的には「前払い費用」がB/S計上される意識と同一のものである、といえば、理解しやすいのではないでしょうか。

この会計観では、資産の費用化について、減価償却(定期償却)という会計処理が代表的です。とある企業が5年間使用することを前提に、機械設備を100万円で購入した場合、100万円は「費用収益対応の原則」に則って、5年間の売上獲得に等しく貢献するものであるから、100万円を5分割して、20万円をそれぞれの会計年度に費用として分割計上した方が毎年の損益計算が正常に行われる、という期間損益計算中心の会計処理に基づくものです。

ここまでの説明をいったん整理すると、大抵の固定資産は、
① 中途半端な「時価主義」と「保守主義の原則」によって、評価損だけ「減損損失」として計上しなければならない
② と同時に、費用性資産として、「費用収益対応の原則」によって、一定額を毎期「減価償却費」として、費用化させなければならない

という2面性を持っていることになります。この時価主義における「換金性資産」と、「費用化資産」という2つの性質から、それぞれ「減損損失」と「減価償却費」という2つの費用化(損失計上)が行われ、B/SからP/Lへとその価額が移行していくのです。

 

■ 最後に残った「のれん」をどう考えるべきなのか?

固定資産の費用化の議論の中には、最近当たり前になったM&Aに関連して、最近富に目にする「のれん」の「減損損失」か「定期償却」か、という論点があります。

経営管理トピック_資産の償却・減損パターン

ややこしいことに、「のれん」については、その計上額算定に客観性に欠けることが多いことから、評価益の計上は許されていない以前に「のれん」そのものも「自家創設のれん(自己創設のれん)」として資産計上が禁止されています。唯一、M&A時に対価として支払った現金か自己株式評価額を拠り所に、B/Sに登場する資産となっています。

では、費用化についてはどうか? 日本の会計基準では、「保守主義の原則」「費用収益対応の原則」の観点から、20年以内定額償却が義務付けられていますが、IFRSでは、中途半端な「時価主義」の考え方に基づき、「減損会計」の対象となり、減損損失の形でしか、P/Lに移行(費用化)しません。

筆者は会計学の大家に逆らって、「のれん代」の資産性に疑義を抱いているので、資産計上そのものに反対する立場を取っています。(^^;)

⇒「国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」 - IFRSにみられるように、のれんを定期償却しないのは無謬性のあるグローバル・スダンダードだと思い込んでいる人へ

どうしても資産計上が避けられないとしたら、「保守主義の原則」あるいは「費用収益対応の原則」にしたがい、定期償却すべきであると考えています。これは「のれん」の資産計上に消極的に賛成し(積極的には賛成しないで)、定期償却することによってその罪悪をいくらかでも軽減した方がよいと考えています。

いったんB/Sに計上された「のれん」をそのまま放置しておくことは、自動的に「自家創設のれん(自己創設のれん)」を許すことになり、「のれん」の資産性に関する議論が自己矛盾を起こしているだけでなく、著しく会計制度の客観性や安定性を阻害するものになってしまうからです。

経営管理トピック_のれんの種類

⇒「(経済教室)国際会計基準の展望(下) 「のれん」処理、日本型は妥当 西川郁生 慶応義塾大学教授

資産をB/Sに計上される資格を評価する際に議論される「資産性」について、まずは「換金性」の面から「時価主義」視点で固定資産を見ます。しかし、それは「評価損(減損損失)」だけを強制する中途半端な時価主義的な見方でしかありません。同時に、固定資産(IFRSではのれんを除く)は、「費用性」の面から「定期償却」もされなければなりません。B/SからP/Lに資産価値を移す理屈が同時に2つある固定資産。とくに、その「換金性」に著しく欠ける「のれん」を適当に(本人たちは適正にと思っているはずですが)時価評価してはじかれる「減損損失」が、そもそも客観性にかけて、恣意的に認識基準を操作できるのも、仕方のないことなのです。それゆえ、センセーショナルに何千億円もの減損損失が公表されるのも自然なことなのです。それが制度会計的に、ステークホルダーのための会計情報のディスクロージャーになっているかどうかは置いておいて。。。(^^;)

財務会計(入門編)_減損損失と減価償却費の本質的違いとは? - 固定資産の資産性評価の考え方、時価主義と費用収益対応の原則の違い

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