■ ROE改善予想ランキング
2014年に流行ったROEの話題から今年の投稿を始めたいと思います。
2014/12/30|日本経済新聞|朝刊
今年度の予想ROE改善幅、ブラザーやカシオ上位に 自社株買いで押し上げ
「2014年の株式市場で大きなテーマとなったのが自己資本利益率(ROE)だ。海外投資家が重視する経営指標として知られていたが、銘柄の採用基準にROEを取り入れた株価指数「JPX日経インデックス400」の算出開始などでROEを高めようと企業が様々な施策を打ち出した。14年度の予想ROEを試算したところ、ブラザー工業やHOYAなど株主配分に手厚い企業の改善が目立った。」
今期予想によると、下記のランキング表のとおり、この19社の予想ROEの改善度がずらっと並んでおります。
社名 | ROE 改善幅 (?) |
予想 ROE (%) |
ブラザー | 9.6 | 16.5 |
HOYA | 3.9 | 15.5 |
アステラス | 3.4 | 10.8 |
カシオ | 3.1 | 12.3 |
オムロン | 2.3 | 13.9 |
ネクソン | 2.0 | 13.4 |
電化 | 1.9 | 9.3 |
東レ | 1.8 | 9.4 |
コニカミノル | 1.6 | 6.3 |
住友鉱 | 1.5 | 11.1 |
積水化 | 1.4 | 10.8 |
アマダ | 1.2 | 4.3 |
スズキ | 1.2 | 9.9 |
CTC | 1.1 | 9.6 |
サンドラッグ | 1.1 | 15.9 |
花王 | 1.1 | 11.8 |
ヤマトHD | 1.0 | 7.4 |
日電産 | 0.8 | 12.9 |
日通 | 0.8 | 6.0 |
■ ROE改善の理由
新聞記事によると、純利益の増加もさることながら、自社株買いと配当の充実化による株主還元強化による効果が大きいとのことです。
「HOYAは15年3月期の予想ROEが15.5%となる見通しだ。このうち300億円の自社株買いがROEを0.3ポイント押し上げる。カシオ計算機も自社株買いがROEを0.4ポイント高める計算で、同社は16年3月期にROEを17%に高める目標を掲げている。ブラザー工業も自社株買いでROEが0.2ポイント上昇する。
手厚い配当もROEを引き上げる。アステラス製薬は予想ROEが10.8%で、配当による押し上げ効果が0.2ポイントになる。JTは14年12月期の予想ROE(9カ月決算を12カ月に換算)が18.8%となり利益の半分以上を配当に回すことが0.6ポイント押し上げる。」
何度も繰り返しになりますが、ROEは3つの構成要素からなります。
ROE = 当期純利益 ÷ 純資産(自己資本)
= (当期純利益 ÷ 売上高) × (売上高 ÷ 総資産) × (総資産 ÷ 純資産)
= 売上高純利益率(ROS) × 総資産回転率(STN) × 財務レバレッジ(Leverage)
新聞記事によると、自社株買いと配当増額は、ROEの計算式の分母の純資産(自己資本)を小さくする効果があるので、割り算で算出されるROEの値は大きくなります。そして、3つの構成要素のうち、財務レバレッジを高めることと同義になります。
総資産額が不変なら、純資産(自己資本)を減らすということは、その分負債を増やすということです。負債の中身にもよるのですが、「有利子負債=銀行借り入れや社債など」が代表的な負債増額の手段となります。
ランキング表に掲載のある19社の合計総資産は、FY09の15兆円から、FY13の19兆円と、4兆円増えていますが、純資産の方は、FY09:7.9兆円→FY13:10.6兆円と、2.7兆円増えています。純資産比率が、同期間において、52.5%→55.8%と、3.3ポイント増えていますので、過去5年のトレンドが変調し、今期から純資産比率が徐々に小さくなっていく節目の年になるかもしれません。
■ 温故知新!? - 過去5期のROEトレンドを見てみる
では、3つの構成要素にROEを切り刻んで、これまでの過去5期にわたるROE推移を見てみます。
数字の分析がやりやすいように、次のような簡便的な方法でROEを算出しています。
1.有価証券報告書の「主な経営指標等の推移」から5ヶ年の財務数値を取得
2.自己資本の代わりに、純資産を使用(負債以外のものすべて含む)
3.期首期末の平残ではなく、期末残高を使用
19社の数字を眺めているだけでは、傾向が分からないかもしれないので、まずは19社の平均値をグラフ化してみました。
「加重平均」というのは、いったん19社の財務数値を合算してから、各指標を算出しています。簡単に言うと、19社をひとつの会社に見立てて数字を出しています。
「算術平均」というのは、19社それぞれの財務指標を算出してから、指標の方を単純に足してから19で割って算出しています。
「加重平均」は売上や資産規模が大きい会社の傾向に引っ張られますが、全体数字の重みづけがなされるので、全体把握により効果的です。「算術平均」は、各指標自体の傾向が分かりやすくなります。
どっちが正しいか、という不毛な議論はやめましょう。どっちも使い方次第です。株価でも、TOPIXが「加重平均」で、日経平均が「算術平均」の考え方に近い方法で算出されています。「NT倍率」といって、TOPIXと日経平均の比率の変動から、経験則に基づき、株価水準を推し量ることもできます。
ROEに話を戻すと、いずれの平均値の推移を眺めても、得られる結論は同じようです。
1.一貫して、「財務レバレッジ」は減少傾向にあり、「総資産回転率」はほぼ一定であるため、純資産(内部留保ともいう)が積みあがっている状態
2.売上高純利益率(ROS)は増加傾向にあるので、各社の収益力は徐々に強くなっている
「収益力が高まる」ということは、「倒産=債務不履行のリスクが減少する」ということなので、「有利子負債を増やすことができる余裕が発生」します。有利子負債を増やせるということは、その分自己資本を小さくできるということなので、ROEの改善につながります。
■ 平均化のわな
19社の数値をすべてグラフで確認してもいいのですが、ランキング表1位のブラザー工業と、2014年に話題をかっさらったアマダの2社のROE推移を見てみましょう。
「ブラザー工業」の場合、STNが一定幅での推移に対し、ROSとLeverageがともに悪化し、ROEが減少傾向にあります。なかなかマージンが高まらない中、新聞記事にもある通り、Leverageを高める方向でROE減少を歯止めようとしています。その傾向は前期から既に現れていますが。収益力が改善していないのに、Leverageで何とか食い止めようとしています。
「アマダ」の場合、3要素全てが上昇傾向にあります。特にROSの改善が著しく、収益力は完全に巡航速度で企業成長につながっています。2年間限りですが、総還元性向100%というのは伊達ではありません。
ただですね、機械製造という業界平均で見ても、あまりにSTNが低すぎるんですよね。しかも、手元流動性(現金+(投資)有価証券)が、1,576億円もあり、総資産に対して29%、利益剰余金(Net)<自己株式控除後>は、2,018億円にのぼり、総資本に対して37%になっています。ちなみに、株主資本比率は76%です。
したがって、ROEは19社の中で断トツの最下位です。
ここでは、個別の企業についてあれこれ言いたかったのではなく、全体を俯瞰しようとして平均値を見ることの危険性を強く喚起したかったので、「ブラザー工業」と「アマダ」にご登場いただいた次第です。
前章で19社平均としてみたROE推移と、2社それぞれの財務数値の推移は、かなり様子が異なっていたと思います。財務分析はそもそも「比較」することで異常値(上方乖離も下方乖離も同じ)を検知することが大事です。
「比較」する際に、「平均」を見ることになる場合も多いと思いますが、くれぐれも「平均」は「正常」とか「正解」とは思わないでください。「平均」はあくまで「平均」です。
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