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経営戦略概史(18)ピーターズらが放った反ポジショニング的ヒット作『エクセレント・カンパニー』 -本は売れたけどコンサルは売れなかった!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ 経営戦略(基礎)
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■ マッキンゼーの7Sの誕生

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、ポーターが開祖のポジショニング学派に最初の大反撃がどのように行われた家の顛末をユーモア(皮肉たっぷり!?)と共にお送りします。

海軍、国防総省、ホワイトハウス勤務を経てマッキンゼーのコンサルタントになったトム・ピーターズと、ロバート・ウォーターマンが、6つの財務指標などで43社の欧米企業を超優良企業として選定すると共に、その特性を8つにまとめました。

1) 行動の重視と迅速な意思決定
2) 顧客に密着し、顧客から学ぶ
3) イノベーションのための自主性と起業家精神
4) 人による生産性と品質の向上
5) 価値観に基づく実践
6) 基軸事業から離れない
7) 単純な組織・小さな本社
8) 自律的現場と集権的価値共有
(本書P174・175)

この8つの特性から、導かれた7つの成功要件が「マッキンゼーの7S」でした。

経営戦略(基礎編)_マッキンゼーの7S

● ハードS:経営者が比較的短期間に変更可能でコントロールしやすいもの
① 組織構造 (Structure)
企業がどのように組織化されているか。たとえば、組織階層と上司部下の関係はどうなっているか、次組織が職能別か、事業部制になっているかなど
② システム (System)
管理システムや情報システムなどの仕組み、管理手続きがどうなっているか。たとえば給与制度、インセンティブ制度、業績評価システム、資源配分システム、経営管理システムなど
③ 戦略 (Strategy)
競争優位の源泉は何か、戦略の優先課題は何か、どの分野にどのように経営資源を配分するかなどの戦略
● ソフトS:その会社で働く人々によって決まるものであり、通常、簡単には変更できずコントロールしにくいもの
④ スキル (Skill)
社員や企業が持っている特定の能力。おこなっているビジネスに重要で、しかも競合他社にないスキルがあれば、競争優位を確立することができるもの
⑤ 人材 (Staff)
どのようなリーダーシップがとられているか、採用と人材育成の方法はどのようになっているか、どのような人材が何人いるかなど
⑥ スタイル (Style)
組織の文化や経営スタイル
⑦ 共有価値 (Shared value)
会社のよりどころとなる経営理念や価値観の浸透度

「7S」として、「⑦ 共有価値」が中心に座して、その他の6つの成功要因がその周りに位置します。これら7つの要素は互いに影響しあうものと捉えられています。企業の競争優位の確立には、その企業が置かれているビジネス環境に合わせて、これら7つをバランスよく備えることが重要であるとされます。

 

■ マッキンゼーの7Sはコンサルティングサービスとしては受け入れられなかった

ピーターズがマッキンゼーに入社後、ロナルド・ダニエルが推進した「知の強化」プログラムに投入され、「戦略」面を担ったのがフレッド・グラッグ(経営戦略概史(14)グラッグによるマッキンゼーの逆襲! - 難解なGE・マッキンゼーマトリクスを武器に)で、「組織」面で活躍したのがピーターズでした。そのピーターズが世界中の企業を調査してせっかくまとめた「7S」にマッキンゼー自体は非常に冷淡でした。BCGの経験曲線や成長・シェアマトリクス、持続的成長率(経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率)や、ポーターの5力分析(経営戦略概史(15)マイケル・ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場① - ファイブ・フォース分析はミクロ経済学から誕生した)と違って、「7S」それ自体では何かを分析できるものではなかったからです。

つまり、経営戦略論は「数値的に分析可能」な作業に置き換えられないと、コンサルティングサービスとして、クライアントに売り込むことができない、というコンサル業界の内部事情がその背景にあります。「大テイラー主義」とも呼ぶべき、「分析」「客観的数字」ありきの経営戦略と、経営戦略コンサルティング崇拝の当時の常識を覆すことができなかったということになります。ピーターズがマッキンゼーを退職して1年後、彼とウォーターマン共著の『エクセレント・カンパニー』が出版され500万部の大ヒットとなります。

■ 超優良企業はどうやってつくられるのか? 

ピーターズが提唱した「7S」が残した示唆とは、

1)超優良企業では、必ずしも戦略や組織、賃金・人事制度というハードなものでマネジメントがなされているわけではない
2)価値観の共有とか企業文化とか、ソフトなものでマネジメントが行われている
3)ソフトなものでマネジメントが行われている企業の方が財務面でも優れた業績を残している

ということに尽きます。
ここで戦略コンサルタントは、はた、と気づくのです。どうやってそれをコンサルしようかと。。。

「ソフトなマネジメントが行われているかどうか、どうやって調査・分析するのか?」
「仮に分かったとしても、どんな企業文化や価値だったらこうなる、という因果関係をどうやって導き出すことができるのか?」

ピーターズがもたらせ『エクセレント・カンパニー』の世界的ベストセラーは、次のようなことを気づかせてくれました。

1)企業の統計的調査には限界がある
2)企業の統計的調査+企業ストーリーを組み合わせたビジネス書はヒットする確率が高い

ここからは筆者の意見。
1)についての反証は、三品和広教授の名著が存在します。たしかに、統計的調査からある程度の企業戦略の良し悪しは分かるのかもしれません。しかし、ある企業の成功体験・ベストプラクティスが、別の企業でも有効かどうかの保証は絶対にありません! それは筆者のコンサルティングスタイルの根幹にある(個人的な)絶対的信念です。

2)についての好例は、
ジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ
ゲイリー・ハメル著『コア・コンピタンス経営』シリーズ
ジョン・コッター著『リーダーシップ論』シリーズ
などが挙げられます。

近著では、楠木健教授の『ストーリーとしての競争戦略』でしようか?
まあ、三品教授も楠木教授もそんなに簡単な類型化に自著を落とし込まれると気分を害されるでしょうから、あくまでここは名著(書名)でもってわかりやすくというコンセプトによるものと関係者の皆様、ご容赦ください。m(_ _)m

 

■ その後の超優良企業の最後は?

ピーターズがセレクトした43社の超優良企業は、7Sのコンセプトを盗まれたと主張するリチャード・パスカルによる分析によりますと、次のような顛末であったと言われています。『エクセレント・カンパニー』出版後、15年も経過してからパスカルは自著の中で、「43社中、半分が5年でダメになり、今では5社しか超優良とはいえない」と主張しています。ちなみに、その自著でパスカルが取り上げた超優良企業6社もその後の追跡調査で全滅しましたが。。。

企業の栄枯盛衰は非常に激しいものです。例えば、ジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー①』に日系企業から選ばれたソニーは、その後苦難の道を歩み、本業であったエレクトロニクス事業とその他の事業を切り離して別会社化することを投資ファンドから切り出されと思えば、逆にエレキ事業が好調となり、映画事業で大きな減損を計上したりと、企業業績に波はつきものです。その断面を瞬間瞬間切り取って、優良会社、ダメ会社と断じる方がおかしいと思いますが、如何でしょうか?

ちなみに、米国株式市場における超優良企業と認知されている「ダウ工業株30種」に指数発表以来ずっと入っている(当時は12銘柄)のは、「GE(General Electric)」たった1社だけなのですが。。。(^^;)

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(18)ピーターズらが放った反ポジショニング的ヒット作『エクセレント・カンパニー』 -本は売れたけどコンサルは売れなかった!

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