■ いわゆる上流プロジェクトを例にしてWBSを引いてみます!
前回は、「プロジェクト」で仕事をするとは何か、「プロジェクト」管理に有効な「WBS」とは、そして「WBS」の構成要素についてお話をしました。今回は、筆者が実際にどうやってWBSを作成していくか、筆者の頭の中をトレースしながら、具体的な手順通りにWBSを引いていきたいと思います。
⇒「プロジェクトマネジメントの王道 WBSを作成する(1)WBSで管理すべきプロジェクトが何か分からないとWBSを理解できない!」
まず最初に、お断りしておきますが、今回ご紹介するのは、業務改革プロジェクトや、情報システム導入のための上流工程のプロジェクトに適したWBSの作成方法になります。なるべく普遍的な「つくり」になるように説明しますが、プラント建設やビル建築のWBSとは、集約する対象が少々違ってきます。プラント建設などは、建材や土木など、マテリアルの手配と、構造物を組上げる作業工程の構成をバランスよく取り入れる必要があるのですが、今回の事例は、基本中の基本の説明のため、労働集約的なプロジェクトに特化した形での紹介になります。
まず、あなたに与えられた「お題」を「プロジェクト」にするために、何が必要でしょうか?
■ プロジェクト思考は、徹底して「ゴール」思考なのです!
前回、プロジェクトであるための、3条件をご紹介しました。
(1)個別性:ミッションに基づく明確なゴールがある
(2)有期性:期限(納期)が定められている
(3)不確実性:不確実な事象が潜在している
有期限の中で、ゴール(=到達点、目標)達成することが、プロジェクトであることの必要十分条件です。筆者は、上司やクライアントから仕事を頼まれた際、プロジェクト型の仕事の始末のつけ方だと直感した場合、まずゴールから探します。仕事を始める前に、もっと言うと、WBSを作成して作業計画を立てる前に、上司やクライアントと、頼まれた仕事がどういう形で、どうやったら終わるのかの条件設定の合意形成から着手します。
・何かを、納期までに作り上げる
・解決すべき課題をすべて洗い出す
・与えられた課題の解決策を立案する
・解決すると決めた課題を全て解決する 等。
例えば、筆者の得意分野の経営管理・管理会計領域から具体例を持ってきましょう。
「あるべき予算編成プロセスを決定する」
というプロジェクト課題を頂戴したと仮定します。その場合、筆者ならば、いの一番に、次の2つのことを依頼者と合意します。
①スコープ:予算編成のプロセスの検討範囲→連結なのか単体なのか、事業部なのか?
②終わり方:「決定する」とは、誰がどういう会議体で、何の根拠で提案内容にOKをだすのか?
今回のケースでは、スコープは「連結グループ」、終わり方は、「CFOが意思決定権者である報告会で承認を得る」ことを確認した、ということにします。現在時点は3月中旬、そして報告会は、約半年後の9/28に設定します。これでゴールが明確になりました。
これをWBSに落とす場合は、前回のWBSの構成要素を思い出してください。
①作業
②担当者
③納期
④成果物
の以上、4つでしたね。
①作業 :あるべき予算プロセスを決定する
②担当者:織田さん
③納期 :9/28
④成果物:予算プロセス設計報告書
というふうにWBSの終わり方の絵姿を、4要素についてまず決定するのです。
■ WBSはゴールから逆残して作成していきます。時間を遡行して!
ここまでの手順を、WBSの上にプロットしておきましょう。
①プロジェクトゴールの確認:
「あるべき予算プロセスを設計する」
②プロジェクトゴールの設定:
「あるべき予算プロセス案をステコミ報告会で承認を得る」
さあ、9/28には、CFOがあなたの「予算プロセス設計報告書」をレビューをして、これが当社の連結予算編成プロセスのあるべき姿として相応しいか、ジャッジしてくれることになります。あなたは、約6ヶ月のプロジェクト期間中、全ての努力をこのゴールテープを切るために、全身全霊をささげることになります。
次に、最終工程と最終成果物にたどり着くまでの、途中工程と中間成果物を洗い出す作業に移ります。この時、WBSは一番上の行から書き始めてはいけません!!!!!!!ここがWBS作成が成功するか失敗するかの最初の大きな分岐点になります。ダメなWBSほど、一番上の行、すなわち、一番直近の作業と作成物から書き始めてしまい、納期も帳尻合わせ、前工程と次工程のつながりもぼんやりしてしまい、全体がほんわかしたWBSになりがちになってしまいます。ここは、心を鬼にして、下から行を埋めていきましょう。説明の都合から、先に、作業と成果物を全て書き込んだWBSを先にお見せします。
筆者なら、このWBSをどうやって完成させるのか。筆者の思考回路を2通りご紹介します。まず、ゴールに到達していることをイメージした場合、あなたは、「CFOに決定してもらえるであろう、あるべき予算プロセスを提案」しているはずです。その提案している姿をイメージした時、ひとつ前の作業は何をやっているんでしょうか? また、どんな成果物が揃っていないと、最後の報告書は完成できないのでしょうか?
それは、プロジェクトチーム内で、あるべき予算プロセスに対して、検討会が随時行われて激論が交わされ、複数の視点から素案が鍛え上げられているはずです。そしてその題材は、「予算プロセス設計書」という体を為している必要があります。「体を為している」というのは、何かのドキュメントにまとめられており、客観的にその実在が認められていることを意味します。ダメですよ、「私の頭の中にははっきりと存在している」というのは。文字に、絵に、きちんと落として第三者にも分かる形にして残しておきましょう。
さあ、WBSを下から書いていきましょう。その際、何を辿って、上に上に登っていけばいいのでしょうか?
■ 何事にも「流派」があります! WBSの展開方法にも2つの流派が存在する!
WBSを作る際、下(ゴール)から作る、というやり方はお分かりになったかと思います。では、どうやって上に遡行するのか? 通り道は2つあります。一つ目は、作業をさかのぼる、二つ目は、成果物をさかのぼる、です。
この2つの選択肢のどっちがいいか、その決め手になる理屈も2つあります。
① 自分の得意な方を選択する
② その時のプロジェクトにふさわしい方を選択する
以下は、②の「ふさわしい方」を優しく説明してくれているサイトのページを紹介しておきます。
● IT pro プロジェクトの道しるべ WBSの作り方図2 プロジェクトに応じて成果物ベースかプロセスベースを選ぶ
成果物の種類と量が多く、プロジェクト自体が難しく複雑で、集められたメンバのスキルがあまり高くない場合、「成果物」を展開していくことで、堅実にWBSを作成することができます。
比較的小規模なプロジェクトで、スピード感を持ってWBSを作成する必要がある(小さいプロジェクトを断続的に始めていかなければならない)、スキルの比較的高いメンバで構成されている場合、「作業」を展開していくことで、効率的にWBSを作成することができます。
筆者の場合、どんなプロジェクトでも、「成果物」を展開する方法を採用しています。上記のユー・エスーイーの北野氏が指摘されている、「成果物ベースの場合、レビューなどの会議体が漏れやすい」とのデメリットについては、常にワンセットの作業群を当てることで対処しています。
それは、ひとつの「成果物」について、
①事前調査
②目次(構成案)作成
③目次(構成案)のレビュー
④ドラフト作成
⑤ドラフトレビュー
⑥完成版作成
⑦完成版レビュー
⑧完成版の最終化
⑨完成版の配布
の9つのタスクを常にワンセットで当てるようにしています。プロジェクトの繁忙さ、対象とする成果物の重要性から、この9つのステップから、どれを除くことができるか、また、どれを増やすべきか(レビューを2段階にするなど)、を調整していくのです。
■ ここからは単線ではなく、試行錯誤法でWBSの最終化を図ります!
WBSの縦線、「作業」と「成果物」を組み立てたなら、次は、「スケジュール」と「担当者」を当てはめていきます。この作業ばかりは、単線的に、要は逐次的な作業とするのは困難です。必ず、行きつ戻りつする「試行錯誤法」となっていしまいます。なぜならば、担当者のスキルレベルや専門性が異なれば、所要時間が変わってしまうからです。
理想的には、前工程のアウトプットが次工程のインプットになるように、タスク(作業)を前後に並べていくのですが、プロジェクトは必ず有期限です。理想通りに、タスクを順序よく並べていくと、必ずと言っていいほど、締め切り(納期)をはみ出してしまいます。下から作っていけば、WBSを引いている現在時点より、開始時点が過去になってしまうはずです。それを何とか、プロジェクトスタート予定日から、最終納期までに収まるように、タスクにかかる時間を調整していきます。その調整法は、大別すると2つ。
① 無理のない限り、並行処理で済ませられるものは、タスクを重ねていく
② スキルの高いメンバをアサインし直して、ひとつのタスクの所要時間を縮めていく
最終的に、このプロジェクトについては、次のようなWBSが完成しました。
納期を守るために、このWBSでは、
①「現状調査」を国内と海外とで完全に並行処理としている
②「現状調査」と次の工程の「課題サマリ」の工程を部分的に重ねている
という工夫によって期間短縮を図っています。①は簡単ですね。担当者を2人に増やして、同時作業を可能にしているという、投入リソースを増やすことで納期短縮の解としています。前回お話しした通り、プロジェクトのQCD(品質・コスト・納期)というものは、それぞれトレードオフ関係にあるのです。
②については、どうして前の作業が終わっていないのに、次の工程を始めることができるのか、ちょっとしたTIPS(秘訣)がそこには隠されているのです。さあ、そのTIPSも含めて、次回は、WBSを作成してみようの最終回、WBS作成のTIPSまで、②が可能になる理由の説明はお預けとなります。どうぞ、それまでお待ちくださいませ。m(_ _)m
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