■ 原価計算の方法にはいろいろある!
原価計算の超入門その3は、原価の計算方法の種類を説明します。標題にもあるように、大別して、「個別原価計算」と「総合原価計算」という2つの計算方法があります。
前回説明した、「実際原価」と「標準原価」という原価の種類と、製品ひとつひとつの原価の求め方の区別と組み合わせて、
・実際個別原価計算
・実際総合原価計算
・標準個別原価計算
・標準総合原価計算
という2×2の4つの原価の計算方法が想定されます。しかし、4つそれぞれ、バラバラに学習することは賢明ではなく、きちんと「原価種別」と「原価計算方法」の2軸で、原価計算制度を理解できるようにしていただきたいと思います。結論から言うと、「実際原価」は
「個別原価計算」と親和性が高く、「標準原価」は「総合原価計算」で計算されることが実務では多いです。その理由は、これから2つの計算手法の違いと目的を理解すると頭にスッと入ります(入るでしょう、いやきっと入るに違いない、、、)。(^^;)
■ 「ものづくり」と表裏一体の「原価計算方法」
一般的な教科書では、「種類の異なる製品を個別に受注してきて生産する場合は『個別原価計算』を適用する」、「ある販売見込み数量に基づいて同じ種類の製品を反復連続的に生産する場合は『総合原価計算』を適用する」、と両者の説明をすることが多いです。と、筆者がこう記述する時って、こうした通説をひと通り批判して、独自の定義をするんだろうって、このブログ記事を前から読んで頂いている読者には、すでに手の内がバレバレなんでしょうね。
その期待に応えるべく、通説に対する批判から入ります。(^^;)
(1)受注・販売オーダーと生産オーダーの関係から、見込生産か、受注生産かを見極めて、「個別」か「総合」かを決めつけることはできません。見込生産でも、1品1品の原価を投入段階からきちんと識別して原価計算することはあります。逆に、受注生産でも、どんぶり計算で製品単価を求めている工場はざらにあります。
(2)生産対象の製品が同種か異種かで、原価計算方法が決まるものではありません。そもそも、同種か異種って、どこで線引きするんでしょう? 芋羊羹と栗羊羹は異種? エスティマとシエンタは異種? じゃあ、シエンタのHYBRID G、HYBRID X、G、X、X“Vパッケージ”、G/Xは同種か異種か?製品単価計算するグループがひとつだったら同種だし、異なる単価計算のグループにそれぞれ属しているのなら異種でしょう。少なくとも「原価計算」の目線からは。それに、製品種別だけでなくて、原価計算する時の単位って、日、週、月、四半期など、期間の区別もあるわけですよ。
少々脱線しました。では、ここからまじめに、「個別原価計算」と「総合原価計算」の識別方法を解説します。それは、原価計算をおこなう対象製品ごとに、経営資源の投入量をいちいち把握している(記録を取っている)かどうかです。下図をご覧ください。
「ケーキ」のほうは、ひとつのホールケーキを制作・販売するビジネスとしては、ひとつのホールケーキをつくるのに、投入される経営資源(上記例では材料だけですが。シェフの人件費やオーブンの電気代が入っていないのはご愛嬌)のひとつひとつがレシピとして明確で、投入量も明確です。これだと、ホールケーキをひとつ生産販売するのに要する経営資源量(=投入材料)と、それにかかる原価は、製品と1:1で、製品「個別」に原価を把握することができます。これが「個別原価計算」!
一方で、「ようかん」の方は少々話がややこしい。ようかん、ひと棹(さお)作るのに、要する原材料はレシピを見ればわかります。ここまではケーキと同じ。ただし、販売単位はこれを包丁で切った一切れずつ。原価計算は、販売単位となる製品の1個1個の原価(単価)を求めるのが目的なので、この場合、ようかん一切れ分の原価を計算する必要があります。
ひと棹から通常は5切れ、切り分けて販売する予定が、職人が間違って4切れに切り分けたとか、切り分けた後に、床にひとつおとしてしまってダメにしてしまったとか、結局、ようかんひと棹から4切れしか取れなかった。ようかんひと棹にかかった総原価を販売数量(4切れ)で割り返した、@12.5円が、ようかんのひとつあたりの原価。この場合、ようかん一切れあたりに、砂糖やあんこがどれくらい投入・使用されたか、厳密には把握することが不可能。しゃあないから、ようかんひと棹つくるのにかかった原価をすべて集計してきて、販売単位であるようかん一切れの数で割り算して、一切れあたりの原価を求めよう。その際に、一切れあたりに投入された経営資源量(材料)との関係が分からなくてもいいじゃん、とするのが「総合原価計算」!
■ あらためて「ものづくり」との関係を考える
前章は言い方がふざけているかもしれませんが、「個別原価計算」「総合原価計算」の本質をとらえた説明であると、筆者本人がひとり悦に入っている説明方法です。しかし、ものづくりと原価の関係の本質を考えるには十分な題材です。この卑近な例において、ようかんをひと棹単位で販売するようにビジネスモデルが変わったら、それでも「ようかん」の原価は「総合原価計算」で求めなくてはいけないのでしょうか?また、「ようかん」をひと棹つくるところまでは、ひと棹単位の経営資源投入量とそれにかかる原価がひと棹単位の「ようかん」と1:1なので、ここまでの工程だけを取ってみれば、最終的には一切れ単位で販売していたとしても、ひと棹作成までは「個別原価計算」と言えなくもないのではないでしょうか?
懸命な読者の方は既にお気づきのことと思います。「ようかん」の製造販売ビジネスにおいて、ひと棹単位で販売するケースでは、「個別原価計算」だけで、一切れ単位で販売するケースでは、中間工程(ひと棹のようかんを作る工程)までは個別原価計算で、最終工程(販売単位の一切れごとのようかんを切り分け個別包装する工程)以降は、総合原価計算で、製品単価を求めることが自然になります。
そして、念を押しておきますが、ケーキやようかんの制作指示が、販売側の都合による見込だろうが、受注後だろうが、それ自体が原価計算方法を決める最終要因にはならない、ということをここに確認しておきます。
■ 最後に、まじめな図解で「個別」と「総合」の違いを再確認します
生産活動は、①経営資源の投入 → ②生産活動 → ③成果物の産出、という流れで行われます。極めてシンプルに説明しますと、「生産活動」に要する諸経費を集計したものが「原価」です。その原価を正しく把握するために、どこから原価元データを持ってくるか?
「個別原価計算」は、制作したいものの単位で、「製造指図書」を発行し、このドキュメントにこれまで投入した経営資源を記録していきます。「製造指図書」に集計された原価を眺めれば、この生産オーダーで作ろうとしている(作った)製品の原価を知ることができます。
「総合原価計算」は、1日とか、1週間とか、1ヶ月とか、四半期とか、ある一定期間で制作した製品の数をまず数えます。その期間に投入した経営資源をその完成品の数で割れば、製品1個当たりの原価が判明します。
こうした「個別原価計算」「総合原価計算」の違いは、ほんのり理解いただけたかと思います。次に読者が疑念を持つのは、「確か、前々回で「原価計算」には3ステップあると聞いたが、「個別」「総合」の違いはどこのステップの違いか?」というものでしょう。これについては、
① 費目別計算
② 部門別計算
③ 製品別計算
の3ステップの内、最後の「③ 製品別計算」の違いであると述べておきます。製造指図単位の製品原価を把握したり、ある一定期間の生産量で投入原価を割り算して製品単価を算出する、というのは、製品単位の原価を求める活動そものもので、言葉を重ねずとも「③ 製品別計算」であることは自明でしょう。ただし、両者とも、その特徴を生かすために、「① 費目別計算」「② 部門別計算」でやっておいてほしい要請事項、というものは実は異なります。まあ、それは本質をとらえた後、詳細な知識を習得する中で、おいおい説明していきます。
さて、上記の説明には、わざと「期首仕掛品」「期末仕掛品」の説明を省いてあります。まず本質をとらえるために、わかりやすい説明には自ずと順番が生じるものです。「仕掛品」の話は、どうしても次回せざるを得ないでしょう。それまでお楽しみに。
コメント