■ 原価計算要素の分類基準にはいろいろある!
原価計算の超入門その7は、前回までで、一連の原価計算手続きについて説明を終えたという前提で、初学者がその学習過程で勘違いしやすい原価要素の分類基準に潜む罠につき、転ばぬ先の杖として、次のステップに行く前に解説しておこうという魂胆の回になります。(^^;)
「原価計算基準」では、原価計算する対象となる原価要素について、次のような分類方法があると説明しています。
(1)形態別分類
① 材料費:物品の消費によって生ずる原価
② 労務費:労働用役の消費によって生ずる原価
③ 経 費:材料費と労務費以外の原価
(2)機能別分類
経営上の機能(製造、修理、試験研究、品質管理など)の目的別に分類
上記の形態別分類の補助として使用される
例)
材料費ならば、「主要材料費」「修繕材料費」など
労務費ならば、「作業別直接賃金」「間接作業賃金」など
(3)製品との関連における分類
・直接費:一定単位の製品の生成に関して直接的に認識できる原価(直接材料費など)
・間接費:一定単位の製品の生成に関して、発生額が分からないので、「配賦(はいふ)」と呼ばれる一種の仮説に基づく割り当て計算をして製品にひもづける必要のある原価
(4)操業度との関連における分類
・変動費:操業度の増減に応じて比例的に増減する原価(材料費など)
・固定費:操業度の増減に関わらず変化しない原価(工場の建物減価償却費など)
ここで、「操業度」とは、原価計算基準によると、「生産設備を一定とした場合における利用度」。うーん、分かりにくい。1個2個、1トン、2トンと数えられる製品を作っている場合は、その産出量に比例して、、、と置き換えて考えた方がとっつきやすいでしょう。
(5)原価の管理可能性に基づく分類
・管理可能費:原価発生の多寡を管理者が自分の裁量でコントロールできる原価
・管理不能費(管理不可能費):原価発生の多寡を管理者が自分の裁量でコントロールできない原価
※「原価」の話をしているのに、「●●費」というネーミングは言葉が躍っていますね。でもここは我慢して慣習に従ってください。「原価」の構成要素のそれぞれは、「●●費」と呼ぶ言い習わしになっているのですよ!
ここまでが、原価要素の分類基準。これ以外にも「原価計算基準」には原価そのものを分類している箇所があります。
■ 原価計算の仕方による分類基準もあるよ!
(6)財務諸表上の収益との対応関係による分類
・製品原価:一定単位の製品に集計された原価
・期間原価:一定期間における発生額を、当期の収益に直接対応させて把握した原価
「製品原価」は、製品1個当たり●●円と製品別単価を構成するために、製品に集計された原価をいいます。損益計算書(P/L)上では、「製造原価」「売上原価」と呼ばれています。当然、売れ残り分や、仕掛分(作成中という意味)については、貸借対照表(B/S)の「棚卸資産」として呼ばれます。
「期間原価」は、とある会計期間における財務諸表上の売上高に対応するコストとして、その会計期間に集計される原価(費用)をいいます。損益計算書(P/L)上では、「販管費」または「販売費および一般管理費」と呼ばれています。
※ 上記の「呼ばれています」は、制度会計ルールにおいては、ごくわずかな例外を除いてほぼ正解。初歩から例外に足を踏み入れることは、事の本質に効率的に迫れないので、学習のステップをきちんと踏んでいきましょ!
(7)集計される原価範囲による分類
・全部原価:一定の給付に対して生ずる全部の製造原価又はこれに販売費および一般管理費を加えて集計したもの
・部分原価:各種の計算目的から、一部の原価のみ集計したもの。その中でも、最も重要な部分原価の区分として、「直接原価」がある
直接原価:変動直接費と変動間接費のみを集計したもの
また、「給付」とは小難しい用語ですね。「製品などの経営活動で産出されるもの」とご理解ください。
※ その他、「実際原価」と「標準原価」の違いは、その2で、「個別原価」と「総合原価」の違いは、その3で説明済み。
■ これだから、「直接費」と「直接原価」と「全部原価」の関係はややこしい!
つらつらと、ここまで、「原価計算基準」に従って、「●●原価」「●●費」の分類基準をざっと舐めた理由を分かって頂けたでしょうか。原価計算の入門書的な教科書には、
「全部原価」の対義語として「部分原価」ではなく「直接原価」をいきなり記述している。
「直接費」と「直接原価」のワーディングの違いについての前置きが無い。
ので、筆者が20代の最初に原価計算を学び始めた頃に自分自身が迷い、経理実務とコンサルティング業務に就いた後でも、この辺の違いを明確に意識づけしない資料をよく目にすることが多々ありました。
そして、大抵の原価計算や管理会計の教科書では、「直接原価計算」の様式を説明する際に、しれっと、次のように表記して終わり、という類のものがほとんどです。
売上高 XXX
変動費 XXX
貢献利益 XXX
固定費 XXX
営業利益 XXX
ここには、「直接原価」の文字はなく、「変動費」と「固定費」という、「(4)操業度との関連における分類」における原価要素の分類基準に従ったコスト名がいきなり登場し、「CVP分析」「損益分岐点分析」の計算様式と混同してしまうのが落ちです。厳密には、上記の計算様式は、「直接原価計算」を示してはいません。
(参考)CVP分析、損益分岐点分析については、下記シリーズを参照してください。
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(1)イントロダクション - CVP短期利益計画モデル活用の前提条件について」
売上高 XXX
変動直接製造費 XXX
製造マージン XXX
変動直接販管費 XXX
貢献利益 XXX (または限界利益、変動利益、直接利益など)
製造間接固定費 XXX
固定販管費 XXX
営業利益 XXX
ここまできちんとしたワーディングで「直接原価計算」の計算様式を示してほしいものです。もし、もっと簡約版が欲しいなら、
売上高 XXX
変動直接費 XXX
貢献利益 XXX (または限界利益、変動利益、直接利益など)
間接固定費 XXX
営業利益 XXX
でも構いません。「変動費×直接費」をまず売上高から控除した「貢献利益」を把握するのが「直接原価計算」の目的ですので。でも、「原価計算基準」の定義には、「直接費」には「固定費」を含むとの記述があったのにもかかわらず、上記の計算様式が教科書でも通例となっています。そして、必ずと言っていいほど、「全部原価」計算と、「直接原価」計算の利益を調整する会計技法として、「固定費調整」というものがあります。これは、原価を固変分解することにより発生する、「期間費用」扱いの「固定費」を「製品原価」扱いに戻すための調整方法なのです。両者の混同は、管理会計の大勢なので、筆者もこれ以上、この点には触れずにこの大勢(体制)に従っておきます。(^^;)
■ 「直接原価」計算の構造にもう少し迫ってみましょう!
何ゆえ、「直接原価」計算が必要なのでしょうか。その目的に迫る前に、計算構造について明らかにしていきます。ここでも、
(6)財務諸表上の収益との対応関係による分類
(7)集計される原価範囲による分類
の2つの分類基準が錯綜しているので、初学者の理解を阻むことが多いようです。
まず、営業利益を計算するためのコスト全体を「総原価」といいます。これは、制度会計ルールに従い、「製品原価」として集計される「製造原価」と、「期間原価」として集計される「販管費」に大別されます。それゆえ、制度会計上の財務諸表開示目的として、「全部原価」を算出できるように原価計算が行われます。一方で、管理会計上の、経営者の利益管理・経営管理目的として、「直接原価」を算出できるように、「直接原価計算」が行われます。両者の違いは、上図の青字で表示した2か所の、原価集計方法の違いになります。
では、どうして、制度会計ルールに反してまで、「直接原価」に基づく利益計算を経営者は求めるのでしょうか?
簡単な例で説明します。原価計算期間は1ヵ月とし、4月と5月の損益を見てみます。
<前提条件>
4月に製品を1個、制作します。かかったコストは、直接材料費が100円と、間接固定費(機械の減価償却費)が100円とします。
4月中には売れずに、月末に棚卸製品として、200円がB/Sに計上されます。
4月に制作した製品が5月に、300円で売れました。
5月も製品を1個、制作しますが、これも同月内に売れずに、月末に200円の棚卸製品としてB/Sに計上されます。間接固定費(機械の減価償却費)は変わらずに100円だけ発生しています。
上表をご覧になられて、どちらが適切な月次損益状況を表していると思われますか?
制度会計ルールに従えば、毎月一定額だけ発生する減価償却費も、「製品原価」を構成するため、4月においては、棚卸資産に計上され、損益計算上は無かったことになります。一方、直接原価計算をおこなえば、減価償却費は、「期間原価」に鞍替えすることになりますので、その経費計上のタイミングに応じて、毎月次のコストとして認識されるので、4月度も、100円だけコストとして損益に影響する、という費用発生状態が見えることになります。
制度会計では、売上高のあるなし(厳密には操業度)に関わらず、毎月一定額だけ発生する減価償却費の4月分を棚卸資産として、損益計算から見えなくしています。直接原価計算による損益報告をより好む経営者は、この状態を、「4月の減価償却費を無かったものとして、コスト計上を先に繰り延べているだけで、経営実態を表していない」と考えるのです。
もし仮に、5月に作った製品が永遠に売れ残り、廃棄せざるを得なくなったら、全部原価計算に基づく制度会計では、この5月に発生した減価償却費100円は、コスト回収できず仕舞いになり、将来に禍根を残すことになります。後の祭りにならないように、早め早めに損益状況を見える化しておきたいので、経営者は直接原価計算を好む傾向があります。固定費の回収漏れが起きないように、操業度の調整と、販売価格の調整をいち早くやるには、直接原価に基づく損益表が必要という考え方です。これが、制度会計ルールに反しても、直接原価計算をやりたい理由です。
■ (おまけ)直接費と変動費、間接費と固定費は厳密に区別できるか?
行きがけの駄賃です。「直接費」と「間接費」、「変動費」と「固定費」の錯綜具合をマトリクスにして整理してみましょう。
厳密には、「直間区分」で「直接費」と「間接費」が分けられ、「固変分解」で「変動費」と「固定費」が分けられるので、論理的に、2×2のマトリクスの4つに原価分類されます。
①「直接変動費」
②「直接固定費」
③「間接変動費」
④「間接固定費」
しかし、原価管理の手間、金額的重要性などの視点から、ほぼほぼ
①「直接変動費」
④「間接固定費」
の2つだけで話を進めることが多いです。筆者だって、②と③の具体例を出すのに苦労するほどですし、どうしても一部(直接固定材料費、間接変動労務費)は例すら思いつかないほどです。
それでは、「直接原価計算」や「CVP分析」では、②や③はどう処理するのが適切か?
実務では、②と③は、④「間接固定費」として処理することが多く、実務的(処理が簡便的である、みんなもそうやっているから)であると言えます。ただし、②「直接固定費」は、「間接費」と合算して製品に「配賦」しないように、工夫することがあります。また、③「間接変動費」は、製造BOM(M-BOM)に乗っけて、直接費化したり、えいやっと、固定費に含めてしまうものもあります。
もはや、この領域は、制度会計ルールに縛られることはないので、経営者の原価管理・利益管理目的に応じて、事業や会社の特殊事情に基づき、やり方を工夫する裁量の余地が大きいということです。だからですよ、この領域で筆者がなんとかコンサルタントとして仕事をさせて頂いているのは。。。(^^;)
※ 「変動直接費」か「直接変動費」かはお好みで。だって制度会計ルールに記載がないからネーミングも自由なのです!
コメント
冒頭 (7) の
「直接原価:変動直接費と変動間接費のみを集計したもの」
は、
末尾額付きまとめ部分の
「変動直接製造費」と「変動直接販管費」
と対応しないのですが、どう理解すればいいのでしょう。
「変動直接費」と「固定間接費」という気もしますが違う気もします。初学者ですいません。
ご質問ありがとうございます。
原価科目の分類基準には、
1.変動費 vs 固定費
2.直接費 vs 間接費
3.製造原価 vs 販管費
があり(その他もありますが)、この組み合わせだけで8通りになります。これでは、分かりにくいので、稿中の「直間区分と固変分解」の表にある通り、
①変動直接費 と ②固定間接費 にまとめた方が実務的とします。この①と②を製造原価と販管費に掛け合わせるのですが、凡そ、
・変動直接製造原価
・変動直接販管費
・固定間接販管費
となります。
この凡そが曲者で、固定直接販管費を変動直接販管費に含める過程で「変動間接費」と表記してしまいました。分かりにくくてすみません。
本文は、全体校正見直しの際に修正しておきます。とりあえず、最後のまとめの方を「正」としておいてください。
わざわざご指摘いただきありがとうございます。
今後も、継続的に目を通していただき、ご質問いただくことをお願いします。
小林友昭