(やさしい経済学)オープンイノベーションの課題 一橋大学准教授・西野和美 まとめ

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(1)多くの企業「うまくいかない」

経営管理会計トピック

本稿は、日本経済新聞に2018/3/8~3/19まで連載された記事を元に、筆者のつまらないコメントを付して構成しています。全8回分を一回の投稿でまとめたいと思います。

過去関連投稿記事
⇒「(やさしい経済学)日本企業のオープンイノベーション 東京大学教授 元橋一之 日本経済新聞まとめ
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(前編) 知財権のオープン&クローズ戦略の復習。トヨタと日立の事例から
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(後編)ダイキン、ソニー、仏トタル、アマゾン、バンダイナムコの事例を見る!

2018/3/8付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)オープンイノベーションの課題(1)多くの企業「うまくいかない」 一橋大学准教授・西野和美

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

西野和美 – 一橋大学商学部・大学院商学研究科 より
にしの・かずみ 一橋大博士(商学)。専門は経営戦略論、技術経営論

(上掲の写真は同サイトより)

20180320_西野和美

※ 以下、平文は新聞記事の要約、「」は引用、(コメント)は筆者の意見文になります。

ヘンリー・チェスブロウ(カリフォルニア大学バークレー校客員教授が2003年に『Open Innovation』を発表してから今年で15年。チェスブロウによるオープンイノベーションの定義とは、

「企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造すること」

企業が技術革新を続けるためには、企業内部のアイデアと外部のアイデアを用いて、企業内部または外部において発展させ、商品化する必要があるというものです。

(コメント)
従来の社内でクローズした環境と技術と組織ではダメ、ということなのですが、アイデアを外に求めるということは、そもそも企業として組織化し、内発的なイノベーションを自組織が運営するビジネスに活かすという方法に限界が生じたこと、および、組織外とのコラボレーションにおける摩擦が無視できるほどに極小化されたことが証明されないと、企業は積極的にオープン化に舵を切ることはできないでしょう。

教授によれば、オープンイノベーションという概念は日本でも定着したといえるのですが、「いろいろやってみたが、我が社ではどうもうまくいかない」という日本企業も多いそうです。

・経済産業省の2016年の調査:
Q:オープンイノベーションへの取り組みは10年前と比較して活発化しているか?
A1:
「活発化している」:47%
「ほとんど変わらない」:50%
「後退している」:3%
A2:トップの経営層のオープンイノベーションの必要性、目的の理解が十分でない:10.4%

このように、オープンイノベーションがうまく進められないのは、教授によれば、

① オープンイノベーションそのものが抱える課題
② 日本の産業社会と日本企業ならではの課題

があるとのこと。次章以降でこれらが紐解かれています。

 

(2)サプライチェーン補完では成功例

チェスブロウのオープンイノベーションの定義がやや抽象的なこともあり、これまで様々な形態が「オープンイノベーション」とひとくくりに解釈されてきました。そこでオープンイノベーションの形態を企業行動の面から類型化・整理します。

(1)組織間の関係性
     1) サプライチェーンの補完
      2) ビジネスエコシステム(事業生態系)の形成
(2)オープンイノベーションに取り組む姿勢
  1) プッシュ型
  2) プル型
     3) 共創型

(1)組織間の関係性
1) サプライチェーンの補完
「自社商品を新たな価値やより高い価値を持つものにするため、顧客に価値を提供する一連の業務の一部を外部に委託する、もしくは外部から新たに取り入れること」

例)
・「これまで取引がなかったサプライヤーから原材料の供給を受けることで新コンセプトの商品が提供できるようになる」
・「新しい量産技術を外部から受けることでより効率的または高付加価値の商品の生産が可能になる」
・「物流業者と提携し委託することで顧客により好ましいサービスの提供が可能になる」

(コメント)
この形態では、自社が主体でありつづけ、取引先はあくまで自社のイノベーションにとって補完的であり、片務契約的に見えます。取引先のメリットは取引量の増加以外にも見出さないと、中長期的な協力関係を築くのは難しいように思えます。

2) ビジネスエコシステム(事業生態系)の形成
「新規事業創出にあたり、異業種の企業が互いに連携しながら、個々の得意業務を担当すること」

例)
・プラットフォームが提供されて、その上で、各種のアプリケーションや決済システムなどが連携して顧客にサービス提供する

(コメント)
教授は、日本企業はサプライチェーンの補完型の事例が圧倒的に多く、ビジネスエコシステムの形成の事例は、アップルやグーグルに代表される米国企業に典型的にみられ、日本での成功事例は乏しいと断定されています。しかし、ゲームソフトなどを見れば、任天堂やソニーのプラットフォーム(据え置き型、コンソール型のゲーム専用機)の上で、多数のゲームソフト会社が自社ゲームの出来栄えを競い、ユーザを虜にしています。グーグルやフェイスブック等の躍進に目が眩み、それ以外は価値なし・成功事例なしとするのは早計でしょう。

 

(3)成果出しにくい共創型

(2)オープンイノベーションに取り組む姿勢
1) プッシュ型
企業の抱える問題が明確で、その解決のために必要な情報(技術を含む)や機能を積極的に外部から探す。取引する財(情報や機能)のスペックが比較的明確な場合に有効

2) プル型
「企業にとって必要な情報や問題解決に必要な機能が不明確であり、解決方法の提案も含めて外部から広く募集する」

例)
イベントによる収集機会活用
・ハッカソン(短期集中的なソフトウェアの共同開発)
・アクセラレータープログラム(新興企業との協業を目的にした募集)
収集機会の提供
・イノベーションラボ

3) 共創型
「新規市場への参入はしたいが、問題のありかや事業コンセプト、必要となる具体的な情報や機能がはっきりしていない企業が集まり、情報をやり取りする中で問題を明確にして事業コンセプトを設定し、新たな価値をつくり出していく」

(コメント)
教授によれば、日本企業における成功事例は「サプライチェーンの補完」「プル型」に多く、「ビジネスエコシステム(事業生態系)の形成」や「共創型」によるオープンイノベーションの成果が日本で出にくいとのこと。それを、各企業が取ることができるリスクの問題という視点で以下、説明がなされていきます。ここでのリスクは言い換えると、不確実性であり、商取引に着目したものに限定となっています。では内容を見ていきます。

 

(4)「二重のリスク」に対応難しく

● 二重リスク
「新規事業(新商品)創出に関するリスクと、新規取引相手との取引に関するリスクが生じること」
「この二重のリスクに企業が対応しきれないために、協業への参画をためらったり、計画が頓挫したりしている」

例)自動運転
技術的課題として、自動運転に関するセンサーやソフトウェア技術の向上が事前想定通りに実用化のハードルを越えられるかというリスクがまずあります。このリスクを解消できたとしても、道路などの交通インフラ、道交法などの法制度、利用者の心理に関する広い意味で市場全体に存在するリスクも併せて存在します。

(コメント)
教授によると、「こうした新規事業創出に関するリスクは一企業が新規事業を創出する場合にも存在します。しかし、大きく違うのはそのリスクの担い手」とのこと。つまり、事業化に伴う様々なリスクを1社が負う場合は責任の所在は自社で明確なのですが、共創型で複数企業でリスクを負う場合、リスク予測の難易度と、リスクに対する危険負担を納得性あるシェアルール決定の難易度が上がるという指摘。これも、例えば、ブロックチェーンやフィンテックの関係団体を設立して、共通ルールを決めていこうとしている現状からすれば、特筆すべき程、日本企業が不得手な領域とは思えません。

 

(5)新規取引、対応力乏しい一般企業

● 新規取引相手との取引に関するリスク
1)不完備契約
相手企業に関する情報が不十分なため、初取引先企業個体や初取引業種であることから、相手の能力評価をきちんとできない場合や、相手がベンチャー企業で信用力を測る術がないことから、取引開始に慎重にならざるを得ません。

2)関係特殊的投資(特定の相手向けの投資)
各企業が得意な業務を担うとした場合、事が成るまで、手弁当で特定の目的に先行投資を行うことが必要になります。大抵の場合は、この種の投資は他事案に転用できる性質のものではなく、一旦頓挫してしまえば、どぶに捨てざるを得ないお金と時間になる可能性が高い。こうした投資の負担できる能力が企業の財務体力や投資姿勢に左右されてしまうのです。

教授によれば、日本企業の多くは、こうした参加企業のリスク負担量とリスク耐久度の違いがバラバラなことと、上手く収める能力が不足しているため、いきおい、既存事業で形成された価値基準や評価基準を堅牢に持つ企業であればある程、オープンイノベーションを厄介なプロジェクトと見なす可能性が高いということです。それゆえ、ベンチャー企業との連携ではなくM&A(合併・買収)で自社の事業領域を広げたり、予算や関与の程度がより明確な大学との産学連携には積極的になったりする傾向があるわけです。

ただ、こうした事情は海外でも同様のはずなのに、なぜ日本では成果が出にくいのでしょうか。日本の産業発展史を振り返ると、ある組織が上記のリスクを担う主体となっていたように思われます。そのため、一般の企業はそうしたリスク対応の機能を強化する必要性が乏しかったのではないでしょうか。そのある組織とは「商社」です。

 

(6)企業のサプライチェーン、商社が補完

日本の産業発展史を振り返るに、イノベーションが全くなかったら、明治期の殖産興業、戦後の高度経済成長は達成することができませんでした。ということは、二重リスクを回避もしくは軽減する日本独自のイノベーション推進装置が機能しているはず。

それが「商社」の存在です。

商社は、従来、取引仲介による手数料収入や取引時の売買差益による収入を得るため、川下の顧客企業から原材料調達や商品販売先の開拓を委託され、適切なサプライヤーを見つけてくるし、商品の仕入れ先・販売先の選定や信用情報の収集・分析も担ってきました。つまり、企業のサプライチェーンを補完するという重要な役割を商社が果たしてきたわけです。

総合商社は現在、口銭ビジネスから事業投資ビジネスへ舵を切って成功しています。事業を立ち上げ参加企業を取りまとめて事業運営したり、事業に投資して配当を受け取るなど。つまり、総合商社の事業運営・事業投資ビジネスが、オープンイノベーションの重要な要素のひとつであるビジネスエコシステム(事業生態系)形成における中核企業になっているというわけです。

総合商社の果たしている機能として、

① 関連技術同士のお見合い機能(マッチング機能)
② 不完備契約の欠点を補う情報収集・企業評価機能
③ 関係特殊的投資のリスク軽減のための、プロジェクトファイナンス機能

(コメント)
総合商社は、新技術の発見と結合、ビジネスチャンスの探索、ビジネスエコシステムの形成、ファイナンススキームの形成による財務的リスクの軽減など、企業間の共創的なオープンイノベーションを推進する機能を果たしてきたのです。
つまり、日本企業は、「オープンイノベーション」という新語が喧しくなる以前から、総合商社を通じて、リスクと連携の手間を外部化しながら競争と協創を繰り返してきたのです。

 

(7)実績・信頼関係ある相手と協働

ここで、日本企業が総合商社に期待してきた機能をいったん整理します。

① 取引関係の構築機能
② リスクの受容機能
③ 事業企画機能
④ 企業情報の収集・分析機能

上記の機能を外部化し、日本企業は自社本来の強みの部分に特化して事業を進めてきました。

教授によれば、これからも日本企業がこうした共創型オープンイノベーションの推進、ビジネスエコシステム形成に安心して着手するための装置の信頼性確保が大事ということ。

(1)総合商社
(2)企業グループ

この2つは背反的な存在ではなく、
「いくつかの総合商社は特定の企業グループの中核企業として発展しました。企業グループによる影響は昔ほどでないにせよ、グループ内の金融機関や主要企業との関係、さらに海外ネットワークも強いため、問題発生時の対応力や信用力が十分あると認識されていると思われます。」

こうしたセーフティネットがあっても、一部の日本企業は保守的に行動し、オープンイノベーション・ブームに翻弄されることもなく、着実な方法で、積極的に社外の知見を新規ビジネスに活かそうという動きもあります。

「一つの案は、既に何らかの取引実績および信頼関係のある企業(組織)と、新規事業についても協働するというものです。他社との協働では、情報だけでなくモノ(プロトタイプなど)の継続的なやりとりが重要です。それを事業開始前から行う必要がありますが、取引にかかるコストを事前に正確に見積もるのは困難という問題があります。また、相手の技術や強みなどを互いに知っていた方が、やり取りする情報の背景も理解しやすく、より円滑に協働できるでしょう。」

(コメント)
これは、共創関係の中で作り上げる新製品や新事業のネタが、ハードウェアかソフトウェア、サービスであるかは問いません。それらの提供価値の対象が、すり合わせ型のコミュニケーションか、モジュール型のコミュニケーションで出来上がるかに依存します。関係各所の密接なすり合わせ型のコミュニケーションが必要な設計思想や生産技術向上活動ならば、どうしてもクローズドな営みの方がうまくいくからです。言葉に踊らされることなく、これから手掛けるものが、すり合わせ型なのか、モジュール型なのかを見極めることの方が大事だと主張します。

 

(8)リスク取れる仕組みに

最後におまけの章になります。

「取引の相手を市場原理に基づいて適宜選ぶのではなく、ある程度限定されたメンバーとの間で行う形態は、単なるオープンイノベーションではなく、「クローズド・オープンイノベーション」と呼ぶことができます。」

限定されたメンバと聞いて、真っ先に頭に思い浮かぶのは、自動車産業でみられる「ケイレツ」。

教授によれば、
「ケイレツが自動車メーカーを頂点としたある程度固定的な役割のもとでヒエラルキーを形成するのに対して、クローズド・オープンイノベーションの企業間関係は、つくり出そうとする価値やビジネスモデルによって取引相手や取引内容が変わっていく必要がある」

(コメント)
安定的取引関係、緩やかな資本関係の中で築かれた協力体制は、共創関係にあらずとのこと。ちょっと厳しめの意見ですね。それは、前述の「すり合わせ型」「モジュール型」の話に戻ってしまいます。自動車がどんどん「走る半導体」と変わっていく過程において、「モジュール型」の対話の比重もますます上がっていきます。そうすれば、ケイレツは、オープンイノベーション推進の強力な応援団になると筆者は考えています。

とはいえ、教授の最後のメッセージ、
「社内と社外のアイデアを結合させて新たな価値を創造することの重要性は、どの日本企業も強く感じているでしょう。それをどのような戦略によって実現させるのか。グローバル競争が激しくなり、新たなビジネスモデルが競争の軸をもたやすくシフトさせてしまう時代だからこそ、日本企業は他社との協働のあり方と協働に対する姿勢を見直し、新たに構築することを迫られているのです。」

自社完結のイノベーションではやがて競争に行き詰まる。競争から共創(協創)ですか。最後は、ダジャレで済みません。m(_ _)m

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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