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(やさしい経済学)日本企業のオープンイノベーション 東京大学教授 元橋一之 日本経済新聞まとめ

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ オープンイノベーションを考える

経営管理会計トピック

「オープンイノベーション」の記事が多数掲載されている中、「やさしい経済学」で東京大学元橋一之教授の全8回の連載がありましたので、まとめ記事を作成しました。アライアンスや、M&Aなど、企業が外部や他の会社との連携の仕方も多様化し、そのひとつに「オープンイノベーション」がMOT(技術経営)の観点から考えられるようになりました。

過去関連投稿記事
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(前編) 知財権のオープン&クローズ戦略の復習。トヨタと日立の事例から
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(後編)ダイキン、ソニー、仏トタル、アマゾン、バンダイナムコの事例を見る!

「オープンイノベーション」とは?

2016/7/9付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)大手、革新はVB頼み、オープンイノベーション白書 三越伊勢丹はAIで商品提案 日産は農業にEV活用

「ベンチャーなど外部と協力して研究開発する手法。自社と違う経営環境や業種の企業と組むことで革新的な製品を生み出す。一部出資をすることもある。リストラを目的にした同業同士の提携や、企業城下町、「ケイレツ」といった仲間内のつながりは入らない。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

従来の特許などのクロスライセンスや、共同開発とはどう違うのか、その本質がこの連載で果たして明らかになるでしょうか?

次章からは、原文を筆者なりに整理させて頂いております。

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(1) モノからソリューションに

1.オープンイノベーションの必要性
①企業内部要因
国際競争の激化に対応するにはイノベーションの効率やスピードを上げることが重要。と同時に、将来の不確実性が大きくなる中で、研究開発の幅を広げることも必要。この「スピード」と「幅」の両立を自前で達成することはますます困難になってきている。そこで、多くの日本企業にとってオープンイノベーションが重要な経営課題となってきた。

②企業環境要因
長期的な視点として、イノベーションの形態が変化してきている。日本企業は従来、品質の高い製品を効率的に生産することで競争力を保ってきた。しかし、近年は韓国や中国の企業の追い上げで経営が悪化する企業が出ている。特に半導体や家電製品などの分野でその傾向が顕著。製品特性のみで競争優位を築くことが難しくなってきている。

2.オープンイノベーションの効果発揮に必要な態勢 -価値提供スタイルの変容
企業の競争優位の確立に必要なのは、製品の性能向上を追求する「モノ」モデルから、顧客価値を最大化する「ソリューション」モデルへの移行。複合的な製品を組み合わせ、顧客ニーズの変化に対して最適なサービスを提供することで、模倣されにくい持続的な競争優位を作り出せる。ここで大事なのは、パーツをすべて自前でそろえるのではなく、最適なものを外から探してくること。例えば、ビッグデータや人工知能(AI)を使って顧客データを収集・解析し、最適なソリューションを提供することも必要になる。

外部連携は1対1の協力だけでなく、複合的サービスのために複数の構成メンバーを集める活動も重要となる。モノがインターネットにつながるIoTで米ゼネラル・エレクトリック(GE)がコンソーシアム(企業連合)を作っているが、これは個々のソリューションの共通部分を集めてプラットフォーム化する典型例といえる。

【結論1】
日本企業の自前主義は「モノ」モデルではうまくいった。しかし「ソリューション」モデルでは、オープンイノベーションを経営の中心に据えて取り組む必要がある!

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(2)「供与」から「取り込み」に重点

1.オープンイノベーションの歴史をひも解くと
日本企業の経営者が「オープンイノベーション」という言葉を使い出したきっかけは、チェスブロウ米カリフォルニア大学教授の著書「オープンイノベーション」(2003年)。同氏の定義は「外部技術の自社取り込み」と「自社技術の外部導出」の両面を含んだもの。

2000年代の前半、日本企業では自社の知的財産をどう生かすかという議論が活発に行われた。当時のオープンイノベーションは自社技術を外部に供与するライセンスアウトに重点があった。しかし、特許がそれ自体で大きな経済的価値を持つことはまれ。その後、リーマン・ショックなどで経営環境が悪化し、新事業や新商品の開発プロセスを効率化する必要性が高まった。その結果、オープンイノベーションの主軸は、外部技術や知識を効果的に導入する活動に移っていった。

2.ライセンスアウトから外部技術の取り込みへ
外部技術の導入には、
①他社の特許やノウハウをライセンスイン
②大学の研究成果のように、商品化からかなり遠い技術について共同研究で技術を磨いた後に事業化
③ベンチャー企業への投資(シリコンバレーでは多くの日本企業がコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立)

CVC投資は、キャピタルゲインに加えて、将来的に有望な技術(ベンチャー企業)を自社事業に取り込む目的で行われるので、オープンイノベーションの一形態といえる。

3.ライセンスアウトの事例もある
大学やハイテクベンチャーは技術の重要な供給元となっており、技術のライセンスアウトも重要な経営課題。トヨタ自動車は15年1月、同社の持つ燃料電池関連の特許を一定期間、無償で公開すると発表した。技術をオープンにすることで同社がトップを走る分野のイノベーションを一気に進める意図によるもの。

【結論2】
オープンイノベーションの手法が多様化する中で、企業にとっては自社の事業戦略に合った方法を選択する能力が重要になっている!

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(3)外部連携、社内に推進組織を

1.日本の大企業におけるオープンイノベーションの取り組みの進展具合
経団連21世紀政策研究所が行ったアンケート調査によると、研究開発をしている上場企業の8割近くが何らかの活動中。ここでのオープンイノベーションの定義は「外部の技術や知識をとり入れた新たな価値創造活動」。ライセンスや共同研究といった1対1の外部連携のほか、クラウドソーシングなど不特定多数のコミュニティーとの関係も含む。

2.外部連携の目的
重要視されている順に、
①「新しい技術シーズの探索」
②「新しい事業機会の創出」
③「研究開発スピードの短縮」
④「既存事業の強化」
多くの企業が研究開発の効率化よりも、技術や事業の幅の拡大を求めている。

ただし、実際に成果を上げているのは、「技術シーズの探索」で3割強、「新事業の創出」で2割強の企業にとどまっている。

3.なぜオープンイノベーションの効果発現が限定的なのか?
オープンイノベーションから経営効果を引き出すための社内の組織体制が不十分なため。大企業は社内にしっかりした研究開発体制を持っているがゆえに、外部からの技術導入は、この自社組織より優れた技術が外にあるということで、自社の研究者にとって耳障りな話になる。社内の組織的な抵抗感を払拭するためには、経営トップのリーダーシップが必要。オープンイノベーションに関する担当役員がいる会社は、「技術シーズの探索」から、より高い確率で成果を上げている。

4.オープンイノベーションに必要な新たなビジネスモデルとは?
オープンイノベーションを使った「新事業の創出」には新しいビジネスモデルが必要。三菱ケミカルホールディングスはグループ内外の企業と、研究開発とビジネス展開の両面で連携する「オープン・シェアード・ビジネス」を展開している。技術を囲い込んで利益を独占するのではなく、技術をシェアして市場を広げることで、パートナー企業も含めた全体としての収益最大化を狙ったもの。そのために、研究開発だけでなく、事業戦略も含め、全社的なリーダーシップの下で推進する体制を採っている。

【結論3】
オープンイノベーションの成果を上げるための社内体制構築が必要!

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(4) 顧客企業から事業化アイデア

1.中小企業にとってのオープンイノベーション
大企業のように自社に大きな経営資源を抱えていない中小企業にとって、オープンイノベーションはより切実な経営課題。日本には技術力のある中小企業が多く、大企業のモノづくり基盤を支えていると言われるが、中小企業が自社技術のみで安定して経営することは難しい。
その中で、外部連携を通じたイノベーションによって着実に業績を伸ばしている企業が存在する。それらの企業は社長のリーダーシップでリスクを取って新たな事業に挑戦している。

<例>
● 半導体製造部品の精密研磨加工や赤外線センサーの応用製品などを手掛けるHME(三重県桑名市)
現社長は、メッキ中心の表面処理事業を営む会社を引き継いだ2代目社長で、外部連携を通じて多くの技術や事業を取り込み、新規事業を集めてHMEとして別会社化。自社開発と産学連携などの外部連携を組み合わせて、常に技術力の向上を図っていることが特徴。また、新事業を創出するために企業間連携も常に行っており、社長は地元の中小企業ネットワークの代表も務めている。

2.オープンイノベーションにおける中小企業の強み
日本のモノづくり系中小企業のほとんどは大企業などの企業を顧客としたB2Bビジネスを営んでおり、大企業の下請け体質が強いとも言われる。しかし、中小企業のイノベーションにおいて顧客企業の声は重要。自社技術をどのように製品に生かすのか、事業化のアイデアが得られるから。事業化プランが定まれば、外部から取り込む技術を具体的に絞り込むことができる。

従って、大学における細分化された技術をピンポイントで拾い上げて事業化する中小企業の産学連携は、大企業より経済的効果が高いと言われる。また、既存顧客との取引から得られる事業化のアイデアをベースに、新事業の構想に膨らませて新規顧客の開拓につなげることができる。

【結論4】
顧客企業との連携を軸に新規事業を開拓するやり方は、日本企業が得意とする「日本型オープンイノベーション」と言える!

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(5)産学連携、企業側の積極関与も

1.産学連携の重要性の高まり
近年の科学技術の発展は目覚ましいものがある。情報通信分野のビッグデータ解析や人工知能(AI)、生命科学分野におけるヒトゲノムの解読、iPS細胞の発見など。大学などの科学的知見の産業への利用は、これまでエレクトロニクスや医薬品などの一部のハイテク産業にとどまっていた。しかし、素材産業でのナノテクノロジーの活用、モノがネットにつながるIoTにおけるデータサイエンスの活用など、幅広い分野で科学的知見がベースとなったイノベーションが生まれている。産業イノベーションのサイエンス化が進行する中で、産学連携の重要性が高まっている。

2.産学連携に積極的になった「学」側の事情
2001年に国の試験研究機関、04年に国立大学が法人化され、それまで教員や研究者の個人的裁量に委ねられてきた産学連携が、大学などが組織として対応すべきものと位置づけられた。その結果、企業としても個々の研究者に個別にあたるのではなく、大学などの研究情報に一度にアクセスすることが可能になった。

大学などの研究者にとっても、企業とのネットワークが広がり、知的財産管理や共同研究契約の法的手続きなどの事務から解放されるというメリットがある。公的資金を中心に運営されている大学と企業の営利活動が相反する性格を持つため様々な課題はあるが、全体としては、ここ10年間で産学連携活動は大きく前進した。

3.大学と企業の関係変化
大学と企業の共同研究は、大学教員のリーダーシップで進めるケースが圧倒的。企業としては研究の方向性について口出ししにくいので、拠出する研究費は少額になりがち。そこで大阪大学は企業が共同研究の内容により積極的に関与できる「共同研究講座制度」を導入した。大学教員だけでなく、企業の研究者も特任教授として講座の運営に関与できるのが特徴。その結果、コマツやダイキン工業などをはじめとする50以上の企業による講座が設置されている。

【結論5】
国の試験研究機関・国立大学が法人化、「共同研究講座制度」導入が産学連携のオープンイノベーションを後押ししている!

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(6)海外展開、現地との連携が重要

1.企業活動の国際化に伴うオープンイノベーションの海外展開
海外での研究開発の目的は、
① 海外の先端技術の探索
② 海外市場へ向けた製品のローカル化
に大別される。

これらの活動における主な技術や知識の流れは、
①は海外(在外研究所)→国内(本社)
②は国内→海外
と逆になる。

2.先端技術の探索
国内と比べて進出先に技術的優位性がある場合に成立する。典型的なのが、米国西海岸のシリコンバレーに研究所を設置するケース。その場合、スタンフォード大学などの現地の有力大学と産学連携を行うための現地拠点としての機能が期待される。この時よく利用されるのが、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)。

3.現地市場に向けたローカル化
日本企業にとって重要な市場である中国の研究開発拠点を例にとると、生活様式や所得水準の違いがあるため、現地市場に受け入れられやすい中国向け製品の設計・開発が必要になる。現地の環境規制や安全規制への対応、現地サプライヤーの活用など様々な現地対応など。その際に重要なのは迅速かつ正確に現地の情報を入手すること。

そのためには、
①現地企業とパートナーシップを組む
②規制環境に対する対応は現地の大学や研究所と組むことが有効なケースがある
→移動体通信、電力送配電システム、省エネ基準など技術規格の策定や標準化は現地の大学などが参画して行われることが多いから。

【結論6】
企業活動の国際化に伴うオープンイノベーションの海外展開の目的は次の2つ。
① 海外の先端技術の探索
② 海外市場へ向けた製品のローカル化

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(7)エコシステム見据えた戦略を

1.オープンイノベーションの目的のひとつがエコシステムの構築
トヨタ自動車は昨年、燃料電池車関係の特許の無料開放に踏み切った。燃料電池車が普及するには、部品材料のほか、水素ステーションなど関連設備の技術開発が必要で、これをすべて自前で行うのではなく、より多くの企業が技術開発に参加し、燃料電池車に関するイノベーションを加速することが狙い。一つのイノベーションに対する相互補完的な企業の集合体をエコシステム(生態系)と呼びますが、トヨタの特許開放はこのエコシステムの形成を目的としたもの。

2.エコシステムを見据えたオープンイノベーションの重要性
理由1)製品技術が複雑化し、専門の部品・材料メーカーと製品・サービスを消費者に提供する企業の分業が進んだから(上記の燃料電池の事例)
理由2)イノベーションにおける科学的知見の重要性が高まったから
再現性が高いサイエンスベースの情報は企業を超えて伝わりやすいので、企業内で抱え込まず、協力企業間で共有しながらビジネスにつなげる方が合理的。企業の利益はエコシステムの大きさとネットワーク内の役割で決まる。

3.エコシステムにおける役割とは
① 中心的な存在の「キーストーン」
多くのニッチプレーヤーを引き付け、エコシステム全体の広がりを持たせる
② 専門的技術を提供する「ニッチプレーヤー」
独自技術でエコシステムの多様性に貢献する

この相互補完的な関係で、エコシステムは成り立つ。

<例>
米アップルはスマホ「iPhone」上にアップストアを設けて、消費者の多様なニーズに応えるサービスを展開している。個々のアプリケーション事業者(ニッチプレーヤー)とアップル(キーストーン)が提供する各種サービスの共通的基盤(プラットフォーム)が組み合わさって、全体としての価値を持つようになる。

【結論7】
様々なエコシステムが生まれ、消滅していく中で、自社の立ち位置を明確化したオープンイノベーション戦略の立案が重要!

 

■ 日本企業のオープンイノベーション(8)トップの統率力が成果左右

1.経営トップのリーダーシップの重要性
経団連21世紀政策研究所のアンケート調査によると、研究開発をしている日本の大企業の大半が何らかの形態のオープンイノベーションに取り組んでいる。しかし、そこから成果を上げている企業は2、3割にとどまっている。これは社内組織に問題があるためと考えられる。

日本企業のモノづくりはどちらかというと現場の競争力に支えられてきた。しかし、自前主義を捨てて、イノベーションのエコシステム(生態系)の中で戦略的な提携を模索する新たな時代には、経営トップの役割が大きくなる。イノベーション活動は企業の競争戦略の根幹であるが故に、他社との協業は大きなリスクを伴うため。

オープンイノベーションから成果を上げられない企業は、リスクを避けようとして思い切った投資ができないか、あるいは活動が中途半端で終わる場合が多いと考えられる。企業内にリスクを避けようとする前例主義や減点主義といった慣行・風土が存在し、それがオープンイノベーションの阻害要因となっているとしたら、それを改革していくのが経営者の役割。

2.CTOの役割
日本企業の現状を見ると、研究開発部門の長であるCTO(最高技術責任者)が新規事業の創出も含めてリーダーシップをとるケースが増えている。正しい方向だが、その成否はどこまで「攻め」の部分に経営資源を投入できるかによる。

【結論8】
全社的な「攻め」と「守り」の配分を変えることで、オープンイノベーションに向けた経営姿勢を全社的に示すことが、経営トップに今求められている役割である!

● 最後のまとめのまとめ
『オープンイノベーションは、モノ単品売りからソリューション売りと複雑になったビジネス環境から重要視されるようになった。そのために、外部技術を内部に効率的に取り込める体制を構築し、事業開発のスピード向上(攻めていく事業の見極め)と、エコシステムでの自社のポジショニングを大胆に意思決定する経営トップの関与が重要である。』

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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