KPI経営入門(11)JR東海、稼ぐ力突出 乗客1キロ運ぶ利益 競合の3倍(後編)- 社会的インパクト評価からアウトプットとアウトカムの違いを知ってJALの決算発表資料を読む

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■ ここまでの、業績評価指標の見方についての議論のまとめ

いつまでJR東海の記事を引っ張っているのか? これで一応、本テーマの連載は終わる予定です。(^^;)
KPI経営について、KPIの設定目的と目的に応じた使い方(分析手法と得られる想定インサイト)については、十二分に理解した上で、論評するべきであるということを主張したいがために、ここまで引っ張って議論してきました。

もう一度、元ネタ記事を紹介しておきます。

2018/6/6付 |日本経済新聞|朝刊 JR東海、稼ぐ力突出 乗客1キロ運ぶ利益 競合の3倍 東海道新幹線 株価支える

「国内の長距離輸送で競合するJR各社と航空2社の収益力を比較したところ、東海道新幹線を擁するJR東海の稼ぐ力が突出していた。安定した収入をリニア中央新幹線など先行投資に使い一段の成長を目指す。対抗する航空2社は格安航空会社(LCC)や国際線に活路を見いだすが、稼ぐ力の差は株価の勢いの差として現れている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「乗客1人を1キロメートル運んで稼ぐ営業利益」を引用)

20180606_乗客1人を1キロメートル運んで稼ぐ営業利益_日本経済新聞朝刊

(下記は同記事添付の「市場の評価はJR東海とJR東が高い」を引用)

20180606_市場の評価はJR東海とJR東が高い_日本経済新聞朝刊

前編では、業績評価指標(KPI)は、企業活動の「原因」「結果」「因果関係」のいずれを指すものか意識した方がよいという結論でした。

中編では、事業活動結果の良否を判定する基準は時代(経済状況)と共に変遷することを説明し、結果指標の見方について論評しました。

後編では、結果指標をさらに、「アウトプット」と「アウトカム」という概念に切り分けて理解を深めよう、という意図で筆を進めたい(キーボードを叩き進めたい)と思います。

 

■ 社会的インパクト評価からロジックモデルを企業経営評価に代用する

行政による公共事業や政策は、明確な営利目的による株式会社に対する収益性評価に対応するようなコスト(公共投資)に対する明確な売上とか利益(ベネフィット)の相対バランスで、その公共事業や政策が経済的にも成功した施策なのかどうかという評価を試みたいとして、様々な手法が編み出され、実際に適用、活用されています。そうした施策評価を総括して「社会的インパクト評価」と呼ぶことがあります。

なぜ、社会的インパクト評価が必要とされるかというと、
・資金の出し手が事業や活動による社会的な価値の「見える化」を求める傾向にある
・社会的課題の解決に取り組む事業や活動における社会的な価値を「見える化」して、民間の資源を呼び込む

こうすることで、その事業や活動が成長できる環境を整える必要性が強く意識されたからです。NPOや社会的企業のようなソーシャルセクターが行った事業が、どの程度の成果を上げたのかという社会的インパクトについて価値判断をしようという考え方が「社会的インパクト評価」。営利企業でも、企業の社会的責任(CSR)が重視されてきたので、このような結果評価の手法を取り入れることは有意義ではないかと考えます。

【社会的インパクト評価の目的】
①学習と改善(Learning&Improvement)
②説明責任(Accountability)

次の公共投資の政策効果をもっと出すために知見を貯め、資金提供者への投資効果に対する説明責任を果たさないと次ぎの出資を誠実に仰ぐことはできないとするものです。これは経営者と投資家の関係にもそのまま当てはめることができます。

【社会的インパクト評価の方法】
①ロジックモデル:事業と成果の関係を確かめる
②セオリー・オブ・チェンジ:最終目標への必要な事業や目標を確かめる

ここでは、①ロジックモデルを用いて概要を説明します。これは、事業が成果にどのように繫がっているのかを可視化するためのもので、成果への因果関係の仮説を立てることもできるので、事業の改善にも役立ちます(学習と改善へ)。

その前に、キーコンセプトである「アウトプット」と「アウトカム」の違いについて。
・アウトプット:出力結果、製品やサービス
・アウトカム:アウトプットによって生まれた成果、変化、便益

アウトプットは活動主体が直接生み出すもので、アウトカムを得るための前提条件となります。

業績管理会計(入門編)ロジックモデル

こうしてみると、これを営利企業、すなわち株式会社にあてはめてみると、アウトプットはその企業が提供するプロダクトやサービスそのものであり商材そのもの。顧客がその提供物に対して価値を認め、対価として支払った「売上金額」は、顧客(受益者)が認知したアウトカムを貨幣価値に置き換えた代理指標であると考えることができるのです。

ここでインパクトは、たとえば健康器具を製造販売している企業ならば、使用者の健康増進と健康寿命の長期化となり、そうした健康寿命を延ばすことがその会社の存在意義(社会的使命、ミッション)ということになります。

 

■ JALの決算発表資料からアウトプットとアウトカムが無いか探してみる!

ここまでJR東海をはじめとする運輸業のデータから結果指標の導かれ方や使い方を見てきました。もう少し財務分析に近い題材で話をしてみましょう。冒頭の記事での採り上げられていたJAL(日本航空)の決算説明会資料(平成30年3月期:2017年度)を下記に抜粋します。

20180616_JAL_決算発表資料_201803

まあ、営業収益(売上高)や営業利益といった会計的指標が上から並ぶ中に、ちょっとした指標が目につきます。

ASK(available seat kilometers):有効座席キロ
総座席数×飛行距離
100席の航空機を1000キロメートル運航すると10万ASKとなる

RPK(revenue passenger kilometers):有償旅客キロ
有償で搭乗した旅客数×飛行距離
100人を1000キロメートル運航すると10万RPKとなる

イールド(こちらは上記に記載なし)
航空会社が1座席を1キロメートル(または1マイル)運航した際に得られる売上高。
100席の航空機を1000キロメートル運航すると10万ASKとなり、同便のイールドはその100席から得られた総売上を10万ASKで割ったもの

座席は売れなかったとしても在庫としてもう一度販売することができない特性を持つため、航空会社が経営効率の改善のために導入したKPIで、ホテルにおける1人の1客室あたりの売上高など、他業界でも使用されるように、固定設備利用型ビジネスモデルに顕著にみられる経営指標のひとつです。

ここから、ユニットコストを差し引けば、有効座席キロ単位の粗利が分かる仕組みになっています。

さてさて、アウトプットとアウトカム、もしくはその関連指標がどこに隠されていたか分かりましたか?

 

■ JALの決算発表資料に見るアウトプットとアウトカム

航空会社のアウトプットは、旅客と荷物を運ぶこと。その活動実績=顧客に提供できたサービスは、ASKとRPKで分かるようになっています。例えばJALの乗客がそのサービスに認めた価値、すなわちアウトカムは航空チケットの購入代金を代理変数として考えれば、それは、「イールド」で表すことができます。

ユニットコストは、インプット→アクティビティ→アウトプットに至るまでの、経済性を見る指標になっています。いかに効率的にサービスを提供したかを示すプロセス効率化指標。社内活動の目標設定にはもってこい、なのです。

これとイールドの差額を使えば、株式会社として、株主の負託に応えるべくどのような利潤を儲けることができたかを示す収益性指標を求めることができます。まあ、それが株式会社の存在理由のひとつだとしたら、むりやりロジックモデルにはめれば、適正な当期純利益を上げたということで、社会的使命のひとつを果たしたと言えないこともないでしょう。

企業が自社内の努力、プロセス改善で何とか自力でできるのは、アウトプットの質量・出来栄えと、アウトプットのために犠牲にされるインプットの節約と、節約をもたらす効率的なオペレーション(アクティビティ)。これは、ユニットコストを見ることによって一義的には評価できそうです。

アウトカムについては、イールドを見るとその一端は分かるでしょう。しかし、移動時間の快適さ、移動のスピード化、生活サイクルをなるべく乱さないフライトタイム、乗り換えができるだけ少なくする航路設定など、貨幣的価値以外にもアウトカムを測定する要素は多々あります。まあ、アウトプットとの関連性やインプットの経済性と結び付けた評価のために、いったん貨幣的価値(売上高)で評価することは、財務分析・経営分析の視点からも、KPI経営として、企業活動の良否を判断する材料としても使用性が高いのではと思いますが如何でしょうか。

乗客1人を1キロメートル運んで稼ぐ営業利益

この指標を複数企業で並べる前に、その数字が算出される前の企業活動の実態と何が結果業績か(アウトプットとアウトカムはそれぞれ何か)を味わってから、最終的なスプレッド(マージン)指標を眺めるクセをつけたいものです。(^^)

何がインプット指標で、アクティビティの効率化指標は、アウトプットやアウトカムを何で測定するか等、世の中で当たり前に用いられているKPIの成り立ちや使い方を、このようなロジックモデルから再検証してみるのも大変興味深いのではないでしょうか?

まあ、BSC(バランスト・スコア・カード)や戦略マップもNGO・NPO評価にも使える、NGO・NPO評価モデルから着想を得た、という話も本当らしいしね。(^^)

(連載)
⇒「KPI経営入門(9)JR東海、稼ぐ力突出 乗客1キロ運ぶ利益 競合の3倍(前編)- 原因と結果と因果関係を示す業績評価指標を探す!
⇒「KPI経営入門(10)JR東海、稼ぐ力突出 乗客1キロ運ぶ利益 競合の3倍(中編)- 生産性、ROI、制約理論と時代の要請で見るべきKPIも変遷する
⇒「KPI経営入門(11)JR東海、稼ぐ力突出 乗客1キロ運ぶ利益 競合の3倍(後編)- 社会的インパクト評価からアウトプットとアウトカムの違いを知ってJALの決算発表資料を読む

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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小林 友昭
小林 友昭
現役の経営コンサルタントです。経営管理の仕組み構築や経営戦略の立案、BIシステムを中心としたIT導入まで手掛けております。
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