苦境 地銀決算(4)経費率8割超が30行 採用の抑制、失業率に直結 - 同質的な市場競争は規模の経済での勝負を余儀なくさせる

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■ 企業が置かれた市場環境と会計的施策の関係について

経営管理会計トピック

これは地銀に限った話ではなく、どんな業種の企業でも、直面する市場にどのように対処するかで、採れる会計的施策の幅は決まってくるもので、典型的な「規模の経済」でのコスト競争に地銀のビジネスモデルが陥っていることは、他山の石とすべきものでしょう。

2018/6/6付 |日本経済新聞|朝刊 苦境 地銀決算(4) 経費率8割超が30行 採用の抑制、失業率に直結

「地銀にとって課題だがなかなか達成できない問題が経費の削減だ。金融庁によると2018年3月期の上場地銀80行・グループの経費は3兆528億円で、5年前の3兆1143億円からほぼ横ばいで推移している。メガバンクなどに比べて、地銀では大規模な採用抑制や不採算店舗の削減が地域の失業率を高めることに直結してしまうため、着手しにくい事情もある。悩みは深そうだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「総資産が小さい地銀ほど経費率が高い傾向がある」を引用)

20180606_総資産が小さい地銀ほど経費率が高い傾向がある_日本経済新聞朝刊

コアOHRとは、経費をコア業務粗利益で割ったもので、一定の経費でどの程度の利益を生み出したかを示す収益性指標になります。OHRは、経費率(Over Head Ratio)という意味になります。

一般的に、「コア業務純益」は、銀行の基礎的な収益力を示す指標で銀行本来業務から得られる利益を示したものです。「コアOHR」は、業務粗利益に占める経費の割合で数値が小さいほど収益性・効率性が高いことを示す指標になります。一般の企業では、総原価(売上原価+販管費)を営業利益で割ったような感じの経費率指標という捉え方でいいと思います。

これを縦軸にとり、横軸に総資産をとります。これが、緩やかに右肩下がりの相関にあると読み取れます。

 

■ 規模の経済が働く市場競争環境の特徴とは?

上図が緩やかに右肩下がりということは、資産規模=銀行の営業規模が大きい方が、経費率が小さくなる負の相関関係が認められるということで、固定費の多重利用が要因となる「規模の経済」が働く市場環境に置かれていると言えます。

20180610_収益の状況はどうですか?(親和銀行)

(出典:収益の状況はどうですか?(親和銀行)

このように、合併による規模の経済を効かせることで、コアOHRを改善できることを株主に謳うことしかできないのは、お客(預金者)に対する同質的なサービス競争でしかできないため、魅力ある商品力で高い販売単価を取りに行けないことを暗に示しています。与信でも、ちょっと目利きをもってリスクを取ってよい案件を取る力量が必要とされるのですが、それもそうしたハイレベルの人材を雇用・教育するところから始まります。

また、フィンテックなど、ATMや様々な金融サービスをデジタル化してより利便性を追求するにも、お金(先行投資)がひつようになります。そうすると、どうしても、その原資が必要になり、元から同質的な競争で販売単価と販売数量で他社(他行)を凌げない以上、コスト削減でしか業績競争が実行できないのです。

「PwCコンサルティングの矢吹大介戦略パートナーは「経費率は規模の経済が働きやすく、第二地銀などが高い傾向にあるのは仕方が無い」とする一方で「地銀は人、店舗、IT(情報技術)投資の3点が足かせになっている」と指摘する。」

上述の親和銀行は、第二地銀だった九州銀行と2001年に経営統合し、その直後の事業報告書を転載したものですが、2007年にふくおかフィナンシャルグループ傘下に入りました。その後、2018年4月をめどに、十八銀と親和銀の合併を目指していましたが、独占禁止法に関する公正取引委員会の審査が難航、その後も統合を巡って金融庁と公正取引委員会の対立が続き、合併は先延ばしになっています。

2018/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 金融庁有識者会議「県内シェアで寡占測れず」 地銀再編促す

「地域金融機関のあり方を議論する金融庁の有識者会議は11日、「地域金融の課題と競争のあり方」を示す報告書をまとめた。全国的に県境を越えた貸し出しが増えており、都道府県内のシェアだけで地方銀行の寡占度を測れないと指摘。人口減などで今後、複数の金融機関による競争環境を維持できなくなるとし、再編の必要性を訴えた。」

としながらも、

「長崎県の親和銀行を傘下に置くふくおかフィナンシャルグループ(FG)と同県最大手の十八銀行の経営統合計画は、公正取引委員会が「寡占で競争を維持できなくなる」と待ったをかけている。有識者会議は「経営余力のあるうちに統合を進めるのが望ましい」と反論。「万一、寡占が認められた場合は金融庁の監督によって是正するのが必要だ」と結論づけた。」

というふうに、金融庁と公正取引委員会とのつばぜり合いはまだ決着を見ていません。

 

■ 企業再編にありがちな問題先送りを見抜くには?

企業再編で、規模が拡大すれば、余剰資源や余剰コストを削ぎ落すことで、目先の出金は低く抑えることができるので、上場企業としては、利益を黒字に持っていくことができ、一息つくことができます。これは、絶妙な経営戦略の妙技は不要で、ただ淡々とリストラを続けていけば、そこそこの短期的利益は目の前に積み上げることができます。

問題はその先です。地銀は過疎化・少子高齢化の影響をまともに食らいます。成長性の低い市場で生き残るには、競争優位を他行にない金融商品を世に出すか、よっぽど消費者に利便性の高い金融サービスのインフラを提供するかしないといけないでしょう。

こうした時間軸を考えても、尚、安易な道は残されています。

「地銀に詳しいアナリストの中には、マイナス金利政策が継続する環境下では「コストをかけて再編するよりも、他行が減るまで経費を削減しながら単独で生き延び、残存者利益を狙う方が得策だ」との声もある。」
(冒頭の2018/6/6記事)

積極策に打って出て、
・製品リーダーシップ
・カスタマーインテマシー
などでは勝負することをあきらめ、ひたすら規模の拡大を追求し、体力を維持しつつ、競争者が市場から去るのを待つ、「残存者利益」獲得戦略。

これは、地味で外連味はありませんが、安全性の高い確実な戦略と言えなくもありません。いわゆる勤勉で優秀な地元採用の行員の雇用を温存しつつ、地銀を無くさないための本物の知恵なのかもしれません。それが株主にとって最善かどうかは分かりませんが。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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