■ お菓子の国のヒットメーカー
緻密な市場調査を武器に、伸び悩んでいた看板商品の売上を一気に50億円伸ばした男。隠れたニーズを発掘し、新ジャンルを開拓し続ける。チームを率い、結果を出すヒントがここにある。
毎年100種類を超す新商品が開発され、そのほとんどが一年以内に消えていく過酷なお菓子市場で、チョコレート商品の開発責任者を務め、120種類以上の商品のリニューアルをしながら新商品の開発も手掛けている。月曜の朝は決まってライバル社の新商品をチームの全員で試食する。「競争相手の状況を知らないと。この商品はどういう狙いなんだろうとかね。あるいはこの商品どうやって作っているんだろうとかですね。みんなで食べることでお互いの知の共有をしていこうと」
お菓子の開発は挫折との戦いだ! 心に唱える信念がある。「難しいは新しい」
「やったことがないことをだいたい難しいと言っているので、それを短縮すると『難しいは新しい』になると。できることだけやったって絶対サプライズはできないですよ。失敗を失敗で終わらせたら失敗というだけで、じゃあ次はどうするって考えているうちは失敗じゃないと考えているので」
■ プロフェッショナルのこだわり
デパートやスーパーの女性向け売り場に暇さえあれば通うようにしている。「こういう雑貨を買うお客様とお菓子を買うお客様は同じお客様ですから。女性に満足を与えているという意味では競合していたりする可能性がありますからね」
日々アンテナを張り巡らせながら隠れたニーズを掘り起こすのが小林さんのやり方だ。ヒットを目指す小林さんが常に求めることがある。
「2秒で心をつかむ」
「あっ! 私のあの時にあのシーンでこのお菓子ピッタリかもと、2,3秒間で思わせる、思って頂くことが大事で、自らのシーンに合うなって思わないと絶対にお客様に手を出して頂けないですよ。お客様の共感を得ないと買い物カゴの中に入りませんので。伝わなければ負けだし、伝われば勝ちだし、ということだと」
■ 蛇行して、混沌とし、出し尽くす
入社2年目の新人の部下が高級菓子の提案をしている。そのプレゼンを聞いて、「贅沢とか上質とか優雅という言葉はなんとなくそれだけ使っただけでコンセプトぽくなっちゃうので、逆に新しさが無くなっていくんだよね」部下のプレゼンは2秒でお客様の心に届く『売り』になっていなかった。小林は独特のやり方で議論を進め始めた。部下の説明の細部に渡り、意味を問い質していく。
「もっとミーティングなり打ち合わせの時間を省いて、直線的に物事を進めていくというやり方もあるのかもしれないですけど、私のイメージではその先には小さな成功しかないような気がしていて、大きな成功を生み出すには大きく蛇行しながら混沌としながら、議論を重ねながら全身から全てを出し尽くした先に、「おっ!それいいね」って瞬間が一瞬おりてくると。そこまで議論を進めていくと」
ヒントになるデータを元に、さらに徹底的に商品の狙いを洗い出していく。小林も正解など持ち合わせてなどいない。客の心の何かに響くものが見つかるまでひたすら議論が続く。広い言葉で言えば言う程、認識の変化は起こせない。
「人は弱いので。自分が考えたことに対してすぐに及第点をつけたがるんですけど、それでもまだ他に無いのか、他に無いのかとずっと常に考え続ける。思考のスタミナを持って考え続ける。それが必要なんだということ」
■ かくしてヒットメーカーになった小林さんの転換点とは
部下と共に、斬新なヒット商品を生み出してきた小林さん。その働き方はどう形作られたのか? 元々は営業マン。個人で店舗を回り、売り込みをかける担当だった。「営業として、マーケはもっといい商品を作ってくれなきゃ困る、みたいなことを言っていたと思いますけど、悪く言ってしまえば評論家的なところもいっぱいあったのかもしれません」
入社10年目、突然、商品開発部門への異動を命じられた。売り場で見てきたという自負はある。俺がヒットを飛ばしてやると意気込んだ。調査を重ね、狙いを定めたのは、おつまみ市場。一人、アイデア出しに没頭した。しかし出てくるアイデアは極々平凡なものばかり。毎日100以上企画を書き出したが、会議では箸にも棒にもかからなかった。
「これがまたできないんですよね。全くできなくて、(上司は)もっと違う考え方無いの? もっと違う考え方無いの?って、もっと腹の中にあるものを出せ。もっと出せ、もっと出せで、いやこれ以上出せません、いやもっと出せ。その時が一番つらかったですかね。特に心の方が」
結局、上司の助けを借り、3年かかってようやく売れ筋をひとつ作り出した。だが、その時、込み上げてきたのは底知れぬ不安だった。いくらやっても売れるコツはさっぱりつかめない。俺はこのままやっていけるのか。
当時、チーズ風味のお菓子は売れないといわれていた。しかし、競合商品が無い分、壁を乗り越えれば当たる可能性がある。一年がかりで新商品を世に送り出した。
そこで、心の底でひとつの思いが込み上げてきた。
「ヒットは一人では生み出せない」
共感の渦が力となる。開発は挫折と失敗の繰り返しだが、みんなに熱意を伝え続ければ何かができる、小林さんはそう心から確信している。
■ ひとりの中堅の部下を鍛える場面から小林さんのメッセージ
「新しいことにチャレンジしないと、新しいことは絶対にできないので。関連部署にも難しいことをチャレンジして新しいことをやろうと言っていこう。自分たちがどうしてもこれをやるんだ、ということを先に決めよう。狙った時期に間に合わなくても責任は俺が取る。難しい方へ行け!」それが小林のメッセージだった。
部下が、これまでとは別路線の新商品を是非開発してみたいと言ってきた。それに対して小林は言う。
「素直においしいと思った。ただ、新しさがあるかといったらそうじゃないと思う。そこにどう命を吹き込むか的な話だと思う。お客さんに届かないよ」小林はそう容赦なく突き返す。客の心に届く何かにたどり着くまで、ぶつかり合いは続く。
プロフェッショナルとは?
「上下関係とか立場というものを越えて、共感によって
人を動かすことができる人。その共感を得るためには、
成功へのビジョンを抜群の解像度で指し示す、
それができる人。そう思います。」
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