■ 携帯電話販売事業の拡大
家電量販店のノジマが、携帯電話販売の中堅ITXをLBO(Leveraged Buy-Out)で買収するとの記事がありました。
「首都圏地盤の家電量販店大手、ノジマは18日、携帯電話販売5位のアイ・ティー・エックス(ITX、東京・港、荻原正也社長)を買収すると正式発表した。ノジマは携帯電話販売で現在の10位前後から3位に浮上する。850億円という年間売り上げの半分弱に相当する投資に踏み切り、自社を上回る規模の企業を手に入れる。スマートフォン(スマホ)など飽和感の強い国内の携帯電話市場で成長していくことができるか」
2014/11/19付 |日本経済新聞|朝刊
(ビジネスTODAY)ノジマ、飽和スマホに賭け 携帯販売のITXを850億円で買収、接客術で開拓
そこで、本稿では、まずノジマの事業戦略の狙いをおさらいして、この買収の損得を考えていきたいと思います。
■ 教科書的には「ニッチャー」の戦略を採用
ノジマは、簡単に言うと、家電量販店市場で切磋琢磨していると考えます(経営者的には、第三者に勝手に自社をある市場のカテゴリに入れられるのは本望ではないことは承知しておりますが)。家電量販店業界では、「リーダー」であるヤマダ電機を、「フォロワー」であるビックカメラ(&コジマ)、エディオイン、ケーズHD、ヨドバシカメラが追っかけている状態。ここで、ノジマは、あえて、駅前や郊外への出店戦略でしのぎを削る量的拡大競争、ヤマダの住宅事業への参入等の多角化競争とは一線を引こうと、「ニッチャー戦略」として、IT機器の専門的なコンサルティング販売事業の強化を選択しました。
但し、この分野は、既に成熟しているため、大きなパイの成長が望めません。あくまで、顧客への対面販売のノウハウの差別化で、携帯電話会社による販売代理店の選別競争に勝とうとする動機のようです。対面販売を欲しているのは、その市場におけるエントリーモデル購入希望者や、お年寄りやはじめてスマホを購入する初心者が対象顧客になる想定です。ちょっと、規模拡大は難しいようです。この成長性の限界に対する見解は、次章の買収損得計算に反映させます。
■ ITX買収の損得計算をやってみる
ここで、筆者が仰々しく、DCF法で企業価値評価をすると考えた読者の皆様、期待を裏切りどうもすみません。
①LBO(買収相手方の企業の資産価値・将来生み出すキャッシュフローを担保にして、資金を調達する方法)を採用していること
②携帯電話販売事業が成長市場とは思えないこと
③ノジマ本体(本業)とのシナジーを別途考慮する必要はないと判断したこと
から、簡単に推計できる「投資回収期間」分析を行うことにします。まあ、ターミナルバリューを出して、複雑な割引率をひねくり出すまでもないというのが筆者の直観だからです。
では、「投資回収期間」分析をする前提条件を整理します。
①買収資金:850億円はメザニン・ファイナンスで、年利6%、期限は6~8年程度で調達
②返済原資は、ITX社のフリーキャッシュフロー:100億円/年(新聞記事による)
③元本返済は、毎期末にFCF(フリーキャッシュフロー)と支払利息の差分を全額充当
④ITX社の従来の借入金返済などのキャッシュフローは従前通り
⑤ノジマ本体のF/Sは今回の分析からは切り離す(経営統合によるシナジー発揮や追加支援費用等は、ITXのOrganic growth と相殺されると考える)
上記の条件から、推計は下記の通り。
残念ながら、8年では、買収資金は回収できず、8期目にはまだ365億円の借入金が残ってしまいました。
そこで、逆に、8期目で買収資金を完済できる条件を探してみると、毎期FCFが10%成長すると仮定して再計算すれば、、、下記のようになります。
つまり、普通のメザニンファイナンスにおいて8年で利率6%の買収資金850億円を返済するには、原資であるFCFが毎期10%づつ成長することが前提条件ということになります。
既に国内の携帯電話(スマホ)販売市場は飽和しており、毎期10%の成長シナリオはよほど自信が無いと描くことはできないと思います。
ノジマ経営陣には、勝算がどこかにあるのでしょう。それは今後、経過観察として見守っていきたいと思います。
■ それにしてもFCF100億円とは
前章では、新聞記事に記述のあった野島社長のインタビューコメントからFCFのベースを100億円/年としていましたが、これが適正な収益性レベルかを、この章ではちょっと考えてみたいと思います。
新聞記事には、携帯電話販売代理店ランキング表が掲載してあり、ITXは販売台数266万台の5位。1位は、560万台販売のティーガイア、2位は、400万台販売の光通信。そこで、両者の直近の有価証券報告書から、連結の損益とキャッシュフローを確認してみます。ITXの数字は、プレスリリースから引用しています(損益のみ)。
実は、比較対象としたかったティーガイアも光通信も、直近2期は、連結範囲の変更や、投資有価証券の積極的な売買損益などがあり、ビジネスが生み出すキャッシュフローの実力値を表した開示データになっていません。
しかし、経営には不測の事態がつきものです。ノジマを含めれば、3社×2期の比較対象を並べてみて、営業利益72億円/年でFCF100億円/年(共に新聞記事より)という目算が適正かどうか、ちょっとこの数字を眺めて、マルチプルな相関関係を感じ取ってみてください。
皆までは言及しません。。。
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