■ 「ROE」は「目的」ではない。「目標」「規律」だ!
6/23のソニー定時株主総会で、4月に副社長に就いた吉田憲一郎最高財務責任者(CFO)の口から名言!?が飛び出しました。
「ROEは経営の目的ではなく目標であり規律だ。短期的に極端なコストダウンや投資削減は考えていない」
2015/6/24|日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)ソニー株主総会「利益と成長実現」 エレキ再建、株主と溝
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「ソニーとシャープが23日、それぞれ定時株主総会を都内と大阪市内で開いた。エレクトロニクス事業のリストラを先行させてきたソニーの平井一夫社長は「経営の局面が利益の創出に変わる」と強調。巨額赤字に陥ったシャープは批判を浴びながらも増減資などの議案を可決し、債務超過を回避した。復活を期す両社は今後、具体策や成果で応えていく必要がある。」
「ソニーの平井社長は、2015年度に3年ぶりとなる最終損益の黒字予想を掲げ、テレビやスマートフォン(スマホ)の事業構造改革といった「変革」から、今後は「利益創出」に向けて投資していく局面に変わることを株主に熱心に説いた。」
事業構造を変革して、利益体質になります、と至って平板なことを言っているだけですので、普通の事業経営者の目指すべき思考のままの発言と受け取っています。別段おかしなところが無いのですが、こうした「利益」や「ROE」にこだわったメッセージを発せざるを得ない外部環境(資金調達市場)の都合・動きというものがあります。
2015/6/12|日本経済新聞|朝刊 米ISS、ソニーやシャープ社長再任に反対推奨
「株主総会での議決権行使を投資家に助言する米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が、ソニーやシャープの社長再任への反対を推奨していることが明らかになった。ISSは投資家へのリポートで「両社の自己資本利益率(ROE)の低さ」を反対理由にあげている。
ISSは5年平均のROEが5%未満の企業について、経営トップの取締役選任に反対するよう勧めている。直近決算でROEが5%以上の場合は賛成を推奨するが、ソニーは過去5年のうち直近の2015年3月期を含めて4回、連結最終赤字となった。5年平均のROEはマイナスになっており、ISSはこの責任が平井一夫社長にあると説明している。」
つまり、株式市場からは、「ROE」を「5%」以上にしないと、総合電機メーカーのトップとして失格である、と議決権行使助言サービス会社からくぎを刺されたことが大きく影響していると見受けられます。
■ 「中期経営方針」で明らかになった事業ポートフォリオ戦略
2015/2/19|日本経済新聞|朝刊 ソニー、再建へ小さな本社 規模より効率重視 経営指標「ROE」最重要に
ソニーは、中期経営方針(2015/2/18)で、
「選択と集中を明確にするため事業を3つに分類。テレビやスマートフォン(スマホ)などの課題事業は事業リスクの低減を最優先する。一方、デバイスやゲーム、映画・音楽などの成長分野には投資を集中する」
という事業投資へのメリハリをつけ、儲かるところにより投資を、儲からないところには見切りをつける、という姿勢を明らかにしました。
<2015年2月18日 経営方針説明会>
⇒「ソニー株式会社 2015~2017年度中期経営方針(プレスリリース)」
⇒「プレゼンテーション資料」
(本ブログでも過去にこうしたコメントを出しています)
⇒「ソニー、再建へ小さな本社 規模より効率重視 経営指標「ROE」最重要に」
この、事業投資へのメリハリが、メリハリつけられる事業出身のOB株主の逆鱗に触れたため、今回の新聞記事のような反応になった模様です。
「2月に発表した新中期経営計画で指標にした自己資本利益率(ROE)についてソニーOB株主がただした。「ROE重視はアナリスト受けのいい考えではないか」。OBの懸念は長期的な技術開発の視点が薄れることだ。先行投資を怠り、テレビやパソコンなどエレキ事業の弱体化を招いた過去と重なる。」
「エレキ商品は赤字体質から脱し収益を安定させることが最優先。積極投資はそれを実現してからという経営陣の考え方は、エレキ事業に「ソニーらしさ」を期待するOBや株主の目には「エレキを見限った」と映る。」
では、2015/2/19の日経新聞での掲載記事で添付されていたチャートを下記に再掲します。
ここで、「事業変動リスクコントロール」に分類されている事業については、
「2015~2017年度中期経営方針」の中では、
「地域や商品を厳選することにより、投下資本を抑え、安定した利益を確保できる事業構造を構築します。加えて、事業環境の変化に応じ、他社との提携などの選択肢を継続して検討していきます。」
と語り、先行投資を出し渋ります、場合によっては、他社とアライアンス(究極的には事業売却)するとまで踏み込んで言及しています。
さらに、同経営方針の発表の場で公開されたプレゼン資料には、次のようなスライドがあります。
これでは、明らかに、OB株主がいうように、リスク云々事業からはお金(投下資本)を引き揚げる→ソニーらしさが無くなる、という恐れを抱かせてしまう、ということが分かると思います。
ただし、筆者の思いとしては、それは単なる郷愁なのか、ソニースピリットを失わせる一大事なのか、「思い」はそれぞれの個人の「感情」でしょうと。しかし、「事業ポートフォリオ戦略」は「感情」ではなく、「勘定」で事業への投下資金の出し入れをおこなうので、「勘定」で実行するが、それぞれの関係者の「感情」を無視していては、事業運営自体がうまくいきませんよ、ということです。
非情に徹することはないのですが、「勘定」で「ポートフォリオ」は組む必要があります。しかし、資金を引き揚げられる立場の人の「感情」をないがしろにしてはいけません。従業員や関係者のモチベーションが、それぞれの事業の業務品質、ひいては、それが顧客満足をもたらし、結果として、その事業での儲けを生む(財務的な成功)のですから。
平井一夫社長は、さらなる説明と対話をじっくり進めた方が良いでしょう。そのやり口としては、これまでの基本姿勢は間違っていないと思います。
2015/5/2|日本経済新聞|朝刊 ソニー社長、年俸半減 全役員の賞与返上を発表
「ソニーは1日、本社とエレクトロニクス事業にかかわる全役員約40人が賞与を全額返上すると発表した。金額は明らかにしていないが、賞与を返上する結果、平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)の年俸は半減、執行役は40%、業務執行役員は35~40%の削減となる。これほどの規模で役員賞与を返上するのは、1946年の創業以来初めて。」
先ず事を起こす際は、「隗より始めよ」
(この故事は、逆に、凡庸な人材を厚遇することで、さらに優秀な人材を集めるという内容ですが、、、)
経営者としては、立派なただ住まいだと思います。
最後に、「郷愁」か「スピリット」かの二者択一問題。「スピリット」は「製品」という形にどうしてもこだわらないといけないものでしょうか。「スピリット」はその会社の勤めている歴代の従業員の間で培われて、次の世代に引き継がれていくもの。いわゆる「無形文化財」だと思っています。
社会の公器である「企業」は、「ゴーイングコンサーン」として、雇用の維持と社会への高付加価値商品・サービスの提供を目指していけばいいのではないでしょうか。
GEの祖業は照明器具(あのエジソンが絡んでいました)。あっさり、ジャックウェルチは売却してしまいましたが、GEはエクセレントカンパニーのままです。IBMは、肉の計量器からスタートしましたが、いまや「ワトソン」君を携えて、AI領域でその存在をいかんなく発揮しています。
という事実をエビデンスとして、、筆者の気持ち分かってもらえました?
GEもIBMも事業入れ換えは、ROEをナンボにするからこれを入れ換えよう、とは考えていないと思います。投資収益性が悪いものを良いものに、血を入れ換えるという感じで。その結果としてROEが良くなるみたいな。だって事業の入れ替えは、その新しい事業のROSか総資産回転率が改善するものを選んでいくわけでしょう? 財務レバレッジはあくまで資金調達側の問題です。
恐れず果敢に事業構造を見直し、関係者に共感を持って説得する、さすればポートフォリオ経営がうまくいき、結果としてROE向上の果実が得られるのではないでしょうか?
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