(真相深層)ビール「シェア」巡り紛糾 キリン、PB受託分を計上の意向 統一基準での公表に暗雲 - 統計の継続性を重視するか正しい統計開示を重視するか?

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■ 業界団体によるシェアなどの統計量の時系列データ公表の形について

経営管理会計トピック

時系列での統計量の開示は、業績推移やトレンド把握の強力なツールとなり、財務分析やマーケティング分析、生産管理(受発注管理)などに大いに役立つものです。しかし、その数字が各自の思惑で恣意的に動いたり公表がストップするものであるとしたら、とても残念なことです。

2018/7/4付 |日本経済新聞|朝刊 (真相深層)ビール「シェア」巡り紛糾 キリン、PB受託分を計上の意向 統一基準での公表に暗雲

「夏本番を迎え需要が最盛期に入るビール業界が、シェアの算出手法を巡り紛糾している。火種はプライベートブランド(PB)の取り扱い。通常なら11日に上半期(1~6月)のシェアが判明するが、従来通りの形で公表できない可能性が出てきた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「統計開始以降、ビール市場は様変わりした」を引用)

20180704_統計開始以降、ビール市場は様変わりした_日本経済新聞朝刊

記事によりますと、ビール大手でつくる業界団体の6月の会合で、アサヒとサントリーがキリンの公表しようとする出荷数量に製造受託分を入れるのは認められない、としてクレームを入れたとあります。キリンは今年に入り、PBの受託製造を相次ぎ開始しました。

工場から出荷して酒税が課税された時点で算出するのが「課税済み出荷量」。これは業界団体が1992年から公式な市場動向を示す統計として採用され、各社はその出荷量をもとにシェアを算出、公表してきました。そこに、キリンがPB受託製造分を含めて計上することに
ライバル2社が異議を唱えた形になります。

四半世紀続いたこうした算出手法に疑問符が付いたのは、イオンが6月販売分よりPB「バーリアル」の製造委託先を韓国メーカーからキリンに変更したことが直接の引き金になったようです。イオンは国内3000店で「バーリアル」の販売を開始。さらにバーリアルは350ミリリットル入りで1本当たり84円と一般的な第三のビールより4割ほど安いため、バーリアルの年間販売目標は1千万ケースを超え、市場全体の3~4%に達する可能性があることが示唆されています。

「これがキリンのシェアに上乗せされれば、アサヒ39%、キリン32%というシェアは急接近する。ビール離れを背景に13年連続で縮小してきた市場が急にプラスに転じることもあり得る。反対派は「統計の連続性がなくなり市場の実勢を示さない」と指摘する。」

というのです。アサヒ、サントリーにしてみれば、表向きは統計量の算出方法が変わるので、統計量の連続性が断ち切れられ、投資家や消費者その他の関係者の判断を迷わすことを恐れているのでしょうが、そういう理由で逆に、シェア情報が公開されないのも困りものです。

一方で、キリンの方にもきちんとした言い分があります。

「第三のビールでPBは1割相当までに成長した。それを捕捉できない統計は限界があるとする。販売者がメーカーで小売りと連名で売る「ダブルチョップ」はサントリーも手掛け、課税済み出荷量に入れる。キリン幹部は「消費者にはPBと変わらない」と吐き捨てる。」

ダブルチョップは課税済み出荷量に入れるけど、完全なPB向けOEM生産分の出荷量は、これを入れないというのはダブルスタンダードのように思われ、各社のシェア争いの厳しさを窺い知ることができます。

(参考)
⇒「酒の安売り「原価+販管費」下回ると罰則 - コストの基準がPLベースである不幸とダンピング認定について

 

■ 業界団体によるシェアなどの統計量の時系列公表の形について

さまざまな業界やメーカーの思惑によって、連続した統計量の公表が変えられたり停止されたりすることがままあります。

2018/4/5付 |日本経済新聞|電子版 月次販売台数 もはや不要? GM、4月から公表中止 景気把握での影響力低下

「【シリコンバレー=白石武志、ニューヨーク=大塚節雄】米ゼネラル・モーターズ(GM)は3日、数十年にわたって続けてきた月次の新車販売台数の公表を取りやめると発表した。天候などに左右されやすいためとしており、4月からは四半期ごとの公表に切り替える。かつて米国の主要な経済指標とみなされた米新車販売統計だが、近年は景気全体との連動性が薄れ、影響力の低下も指摘されていた。」

記事によると、GMの言い分は、「競争が激しい市場において、実際の販売動向を見分けるのに30日という期間は短すぎで、月次のデータは新車の投入や天候、販促活動などに影響されやすく、四半期ごとの情報の方が事業の実態を把握するのが容易」というものです。

これには、米市場で主要な経済指標の一つに数えられてきた毎月の新車販売台数という情報鮮度が落ちることを憂えるアナリストがいる一方で、月次統計では、商務省が発表する小売売上高で業界全体としての自動車の販売動向が把握できるというエコノミストもいます。こうした統計量を解析する立場により、利害が不一致になるのは避けられないことでしょう。

しかし、それ以上に市場の変容というものにも敏感に反応する必要があるのでしょう。

「GMの動きの背景には自動車産業の変質もある。車メーカーは自動運転技術が進むのと並行してサービス化にカジを切り始め、GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「販売台数を追う従来の面的拡大はやめる」とかねて表明している。1人に1台を売るのではなく、ライドシェアなどサービスを提供する会社へと変わる前兆ととらえることもできる。」

自動車市場も単に売り切りで終わりというビジネスモデルではなくなりつつあり、ライドシェアなど、乗って利用してもらってなんぼの市場に生まれ変わる胎動の最中にある変化のひとつと捉えることもできるでしょう。

また、こういう事例もあります。

2017/4/19付 |日本経済新聞|電子版 東エレクが受注開示を中止 4~6月決算から、投資家困惑

「東京エレクトロンは28日、半導体製造装置と液晶パネル向け製造装置の受注額と受注残高の開示を2017年4~6月期の決算発表から取りやめると発表した。受注の状況をもとに「株価が短期的に大きく動くのを避ける」(堀哲朗専務執行役員)のが目的。投資判断の手掛かりが減るとして、投資家からは困惑の声も聞かれる。」

この東京エレクトロンの開示取りやめの動きを受けて、日本半導体製造装置協会(SEAJ)による日本製半導体製造装置のBBレシオ(3カ月移動平均の受注額を同・販売額で割った値)の開示ができなくなる可能性もあるという報道が出た後、

2017/5/19付 |日本経済新聞|電子版 半導体装置の需給指標 BBレシオの公表中止 販売額のみに

「日本半導体製造装置協会(SEAJ)は19日、日本製の半導体装置の需給を示す「BBレシオ」の公表を中止すると発表した。半導体の増産投資で装置業界が活況に沸く中、半導体メーカーの投資動向を表すとして注目されてきた指標が姿を消すことになる。」

という想定通りの結果になりました。現在、足元では半導体市場は、周期的なシリコンサイクルの悪夢から脱し、スーパーサイクルに入ったとして、不況知らず的な報道が続いていましたが、まだ予断を許さない状況です(というか、好不況の影響を受けない非公益企業はないと思うのですが、、、)。

⇒「トレンド分析(1)BBレシオ - 個別受注型企業の販売モデルを理解する

2018/6/19付 |日本経済新聞|電子版 中国の経済統計に不自然な動き… 「水増し」ひそかに修正?

「【北京=原田逸策】中国の経済統計に異変が相次いでいる。地方の水増しだけでなく、国の統計にも不自然な数値がみられる。経済減速のサインなのだろうか。景気の先行きに目をこらす必要がありそうだ。」

(下記は同記事添付の「地方GDPは以前は10~12月期に水増しされる傾向があった」を引用)

20180619_地方GDPは以前は10~12月期に水増しされる傾向があった_日本経済新聞朝刊

また、国家レベルで統計量をいじられても困りますが。。。(^^;)

 

■ 最終的には企業の外部への情報発信力の問題に帰結する

冒頭のビール各社の問題に話を戻しますと、7/3に開かれた会合では、各社の溝は埋まり切らず、現行基準でのシェア公表がなくなる可能性があるほか、各社が主張するバラバラの基準での開示に踏み切る可能性もまだあるそうです。こうした動きの底流にあるのが、各社の「シェア至上主義」の考え方。

「ビール市場はかつてキリンが過半のシェアを握った。流れが変わったのは1987年。アサヒの「スーパードライ」の登場だ。01年には発泡酒を投入し、キリンから市場全体で首位を奪取した。それ以降、業界ではなりふり構わぬシェア争いが続いている。」

しかし、ビール市場を注視すると、また違った動きも見つけることができます。

2018/6/12付 |日本経済新聞|電子版 日本のクラフトビール普及「米より速い可能性」 米人気メーカー創業者

「消費者の「ビール離れ」が進むなか、存在感をじわりと高めるクラフトビール。国内のビール系飲料の市場に占める割合は現時点では1%に満たず、先進市場の米国とは歴史、規模とも開きがある。だが、米国の人気メーカー、ブルックリン・ブルワリー創業者のスティーブ・ヒンディ氏は日本のクラフト市場には3つの特徴があり、成長の余地が大きいとみる。」

(下記は同記事添付の「米国のビール市場は日本よりクラフトが普及している」を引用)

20180612_米国のビール市場は日本よりクラフトが普及している_日本経済新聞朝刊

2018/6/16付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)「高アル」ビール、節約志向つかめ アサヒ新商品・サントリー増産 縮小市場、反転狙う

「ビール大手がアルコール度数が高めのビール系飲料「高アル」ビールに注力している。新製品の発表や増産が相次ぐ。消費者の節約志向が根強いなか、手軽に酔いたいという需要を取り込む。「高アル」で市場活性化に成功した缶チューハイの“二匹目のどじょう”を狙うが、2本買ってもらえるところが1本で済まされるかもしれないとのジレンマも抱える。」

(下記は同記事添付の「チューハイに流れる需要を取り戻せるか」を引用)

20180616_チューハイに流れる需要を取り戻せるか_日本経済新聞朝刊

多種多様な消費者のニーズを取り込もうとビール各社も様々な工夫を施しているのです。報道は多面的に、複眼的に見ていくことを心がけるべきでしょう。

そして、各社および業界がどのように経営実態を外部の利害関係者、ここでは主に消費者と投資家でしょうか? そうしたステークホルダーへの情報発信力が企業や業界団体には強く求められるのです。

(参考)
⇒「有価証券報告書 トップ自ら発信 金融庁、情報拡充へ指針 優位性やリスク分析 - 情報発信力が問われる企業に求められるものとは?

ちなみに、会計の世界でも毎年の決算発表があるので、公表財務諸表の連続性、異時点間の比較可能性の問題が議論されます。そこでの基本ルールは2つだけ!

① 相対的真実の中でできるだけ同じ会計処理手続きを継続して使用すること
② 妥当な会計処理から妥当な会計処理への変更だけを認めること

→連続性だけを重視して、間違った開示をだらだらと続けることはしません!

⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する

はてさて、ここまで熱くビールを語ってきた筆者ですが、実は全くの「下戸」。(^^;)

残念ながら、ビール各社の創意工夫を自分で楽しむことも、各社の売り上げ拡大に貢献することもできない身なのです。おあとがよろしいようで。。。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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